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第十六話

 勇者召喚当日の朝を迎えた俺だが、ここ数日の忙しさに比べて、通常業務である大臣秘書としての仕事を、比較的穏やかに行えている。


「世界と国の命運が決まるかもしれないと言うのに、気の抜けた顔をしすぎじゃないかしら?」


 座っているのにも関わらず、ラフラからの超絶見下し目線を朝からいただけるとは、今日は何て良い日なんだ。この幸せをしみじみと噛みしめる俺、もしかしなくても世界で一番幸運なのでは?


「召喚術の儀式はすでに始まっているが、術自体が発動するのは、日が落ちる頃なのだから。今はゆっくりしてて良いんだよ。実際、異なる世界から召喚すると言うのに、女神から力を授かっていようとも、容易い事ではない。だから、今の俺たちに何か出来ることはないな」


 それくらい、君も分かっているだろう? 的な顔をすれば……


「へぇ……貴方、よっぽど今日は機嫌が良いようね。そんなあからさまに、私に喧嘩を売ってくるなんて」


 はい、即完売しました! 流石の反射神経だね、惚れるよ。その怒気を十分に映す瞳に、俺の興奮を完璧なまでに隠した冷静な顔が写っているのが、また良い!!!


「よせ、少し俺も大人気なかった。今日は、異世界人を召喚するなんてことをする日だ。少しずつ気持ちが高揚してきたのだろう」


 君のその痛いまでに鋭い視線には、興奮が一気に限界突破してしまうから、本当に困ったものだよ。


「くれぐれも喧嘩を売る相手だけは、間違えないことね」


 あぁ、君以外に売る意味がないからね!


「俺はこのままこの部屋で待機しているが、君はこれから騎士団の詰め所へと行くのだろう?」


「そうね。召喚者達が、いきなり暴れ出したら鎮圧しないといけないもの」


「おそらくは大丈夫だろうが、十分に注意してくれ。個人的には、念入りに準備した時ほど、予想外のことが起きるものだ」


 ラフラの誕生日に、入念に準備して祝ったら、何故か離婚を切り出されたからな。流石にアレは、予想外だったな。


「何かしらの、その目は。そんな経験がある上に、私に何か物申したさそうな目をしているけども?」


 何で君は、そんな風に煽ってくるかなぁ……最高だよチクショウ!!! 間違いなく分かっててやってるだろその態度は! 君からしてみれば、ちょっと俺を小馬鹿にして、俺が悔しがるか怒るのを期待しているのだろうけど、残念だったな!


 大いにその態度は、俺にとってはご褒美ぃいいですぅううう!!!!!


 だがしかし、だがしかしだ! そんな態度を表に出したら、君の中の俺の印象がガラリと変わってしまうのも、百も承知している! だからこそぉおお!!!!


「今朝が数少ないゆったりとした時間だといても、君からの喧嘩を買うほど、俺は若くもないし、愚かでも、ましてや暇でもないさ」


 故に喧嘩を買う!


「へぇ、まるで私が見た目通りにガキで、バカで、暇人だから、貴方にちょっかいをかけているみたいな言い方してくれたけども、それで合ってる?」


 ビキビキっと音が聞こえて来そうなほどに、額に血管が浮き出ており、完全に喧嘩の商談が成立したことを意味しているが、ここからの塩梅が難しい。


 本気でキレさせずに、イラつかせることで得られる殺気を含んだ怒りの目線は、まるで俺を自分に逆らわないように調教するかのように威圧してくる。


 それが、また良いのだ!


「暇人だと思っているわけないだろう。ほら、俺からのちょっかいなんて相手してないで、騎士団の詰め所にいくんだな」


「これは、私にちょっかいをかけていたのね? そう……喧嘩ではなくて、ちょっかいをかけて来ていたのなら、話は別ね」


「そろそろ詰め所に向かうために、席を立ったのだろう? 何故、また座る」


「愛玩動物がご主人様にかまってほしくて、可愛いちょっかいをかけてきたと言うのならば、相手をしないと可哀想でしょう?」


 おいおいおいおいおいおいおいおいおいおいぃいいい! 何何なに!? 何その〝イジワルしちゃうぞ〟みたいな嗜虐的な目はぁあああああ!!!! 全くもってその通りなのだけれどもぉおおお!!! 


 待て待て待て、おおおおお落ち着け俺ぇえ! 何かきっかけだったのか知らないが、このラフラはまずいぞ! 俺的には大満足なのだけれど、耐えられる気がしない! 俺の鉄面皮がさぁああ!!!


「誰が誰の愛玩動物だ」


「貴方が」


「ん?」


「私の」


「は?」


「愛玩動物だと言っているのよ」


 はぃいいいいいいいいい!!! そうですぅうううう!!! いやいやいやいや! 待て待て待て! この挑発が俺にとってはご褒美だとバレてしまうのは、ヨリを戻すという目標から遠ざかってしまう!


 歯を食いしばれぇええええ!!! 拳を握りしめろぉおおおお!!! 耐えろぉおおおおおおおおお!!!!


「良い加減にしろ。何が悲しくて、俺がお前のそんなものにならなきゃならんのだ」


 とっても興奮するので、すっごくなりたいですぅううう!!!


「そんなことはどうでも良いから、さっさと騎士団の詰め所に行って、仕事を進めろ」


 じゃないと……もう限界ぃいいい!!!


「そうね、少し貴方で遊びすぎたようだから、しっかり仕事してくるわ」


 勝ち誇った顔でこの部屋を後にするラウラ……控えめに言って、最高ですうううう!!!


「はぁ、はぁ、はぁ……ふぅ……よし、快感に浸るのは今日を乗り越えた後にとっておこう」


 朝からヤル気充填完了したので、今日は何が起きても大丈夫!!!




 と、思っていた時期もありました……


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