第十一話
私、ベストラは日課として活動記録を記している。そしてそれは、誰にも見られないように、あくまで心の中に記しているのである。
「騎士団が討伐に手間取っているという情報を入手してな! それならばと、軍の先鋭部隊を私が率いて、討伐して来たのだ!」
なぁ、凄いだろ! ねぇ、凄いよね? 凄いって褒めて? 私って、貴方に褒められないと、すぐに気持ちが沈んでしまうんだ!
「地竜ガンクツタツは、騎士団預かりの対象だった筈よ。それを軍が横取りしたとなれば、越権行為と見做されても、文句は言えないわよ」
あぁ、本当に鬱陶しい。元嫁の分際で、五月蝿いというのだ!
「ラフラ、さっきお前が騎士団から事務局扱いになったと言っていただろう。当然、事務局案件になった時点で、騎士団部隊長としてのラフラが、参謀本部所属ベストラ大佐に対し、この件に対する抗議は筋違いというものだ」
流石、私のクラウトだ。あんな目線のみで仕留められそうな怒気のこもったラフラの瞳を、見事に受け流してみせているじゃないか!
いや、まて……受け流していない? 真っ向から、この部屋が震えるほどのラフラの怒気を、全て真っ正面から受け止めた上に、そこに全く臆する気配がない! この胆力は、ますます惚れてしまうぞ!
「そう……なら、事務局員の立場としてでは、これはどうなるの?」
「その場合は、越権までは行かないまでも、こちらに筋は通すべきだっただろうな」
なになになになに? 私、クラウトに褒めてもらえないの? 折角、騎士団から事務局案件に切り替わった事を盗聴して、すぐに将軍をぶちのめし、実力行使で狩ってきただぞ?
狩ってキタノダゾ? ホメテクレナイノ?
ねぇ? 私の瞳を見て、クラウト。私のした事は、駄目なことダッタ?
「……だがしかし、結果論で言えば事務局で対応する場合は、戦闘職ではない俺が訓練する必要があった訳で、その手間を省けたということは」
「トイウコトハ?」
「……今回のベストラさんの対応に、事務局長として感謝の念しかありませんね」
「クラウト殿! 世界の平和を護るために、当然のことをしたまで! また騎士団が動かない場合は、すぐさまに私が動くから、朝から晩から夜中まで何時でもクラウト殿からの連絡を待っているからな!」
私に感謝している! 言い換えれば、これは〝貴方を愛している〟って事で良いよね!
「えぇ、その際はよろしくお願いいたします」
「では、用も済んだようですし、職場へと戻ったらどう?」
「ラフラ殿も部隊の鍛錬に向かわれては、如何か? 古代種と言えど、比較的大人しい部類である地竜を仕留められぬとは、流石に、なぁ?」
「あぁ?」
元嫁は、ただの部外者と同じ! 私とお前は、今や同じ場所に立っているんだ! それなのに、私が国外に任務で出払っている時に、将軍の親父に取り入り、騎士団のみが事務局いりしやがってぇええええ!!!!!
「その様子では、事務局の仕事と騎士団の両立は難しいのではないか? やはり軍からも人を派遣するべきだな!」
「それは無理でしょうね。いち早く私が働きかけることで、騎士団と軍が収まるとこに収まったのですから。一旦それで収集がついた話を、またひっくり返すことをすれば、双方の迷惑になるばかりか、事務局長であるクラウトをも困らせることになるのでは?」
クラウト殿、もしくはクラウト様だろうがぁあああぁあああああ! 馴れ馴れしく呼ぶんじゃぁねぇえええええ!!!
なんだその勝ち誇った目はぁあああ!!!!
「ベストラさん? ラフラ? 何故に、魔力を解放しているんだよ。ここで暴れるのだけは、やめてもらえるかな」
そうですか、そうなんですね。この元嫁は、名前を呼び捨てで、私は敬称を付けてくるのですね。
「ベストラさん、そろそろ仕事に戻ったらどう? ベストラさん♪」
「……ラフラ殿、これから軽く汗を流そう。それとも椅子に座りすぎて、肉が椅子に挟まって、抜けないだろうか」
見てわかるぞ。貴様、実際少し太っただろう? 此処に入り浸ることで、クラウトとの時間を堪能している代償として、身体が弛んできたのだろう?
この私を見てみろ。文句のつけようのない、完璧な身体を。貴様のだらけきった尻とは、違うのだよ。
思いっきり見下しながら微笑んでやったら、その意図を忠実に理解したのだろう。これまでで一番の怒気、いやむしろ殺気を私に向けてきたな。
ここで私が自分の尻を摩りながら、こいつの尻を見ながら笑ってやったら……
「良いでしょう。そんな目を出来ないように、しっかり潰してやりましょう」
「その贅肉を、しっかり削り取ってやろう」
「君ら、そのまま魔王討伐して来ちゃいなよ」
貴方と一緒なら、魔王すら倒して見せましょう! 貴方と二人でイケルナラ。
さて、その為に先ずは元嫁が座るその椅子を、力づくで開けてもらうことにする!
事務局室を二人で退出したその足で、訓練場へと向かい、二人で向かい合った訳だが。
「さて」
「うむ」
「「死にさらせぇええええ!!!!!!!!」」
お互いに本音が漏れすぎた!