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第一話

 この一人語りは、俺の癖であり、心を安定させる術でもある。


 俺は大臣付き秘書官であるという立場として、軽々しく仕事の愚痴など、例え同僚だったとしても話すことは出来ない。


 だがしかし、流石にこれは、愚痴りたい。


「クラウト様! 勇者様方がどうやら中庭で口論から実力行使へと発展した結果、中庭が半壊いたしました! つきましては、保全部から修繕費用の請求書及び、事情説明を求められております」


「……リステ君、どうしてそうなったのか、君は知っているかい?」


 そして異世界の勇者達、取り敢えずお前達は今の所、俺の仕事を増やすことしかしてないのだが?


 この物語は、俺が大臣付き秘書官として、異世界から召喚した勇者達の尻拭いを綴った心の日誌である。


 ことの発端は、一年前に遡る必要がある。精神の逃避行、もとい心の整理としてその頃の心の日誌を読み返すことにしよう。




「オーザッパ様、今何と仰いましたか?」


「なんだ、クラウト。聞き返すなど、お前にしては珍しいではないか。来年、神殿の雪解けをもって、異世界から勇者を召喚すると言ったのだ」


 見事に禿げ散らかしている頭と、昔は武技も扱えたという自慢話など聞くに耐えない状態の腹をしながも、眼光だけは今も鋭い俺の上司であるオーザッパ国防大臣が、俺に同じ台詞を聞かせてきたが、そんな事は俺だって聞こえている。


 とにかく落ち着くんだ、俺。


 私の名前は、クラウト。火竜の如き燃えるような髪色で、忙し過ぎてろくに髪も切れずに後ろで束ねており、目の色は母親譲りで空の色。背は低くは無いが高くもなく、秘書官として大臣を護衛する役割としてあるため、騎士ほどではないが鍛えており、そこそこの体躯をもっている。


 よし、しっかり自分を客観視出来ている。間違いなく、コレは夢ではないということだ。


「私がお聞きしたいのは、今回の異世界からの勇者召喚は、我が国の担当では無いはずということです」


「確かに、今世の魔王に対抗するべく女神が我らに与えし秘術を行使するのは、ツシン帝国だったのだが……秘術を行使するような状態ではなくなってしまったのだ」


「彼の国は、魔石、資金、術士の数も豊富であり、そんな力のある国家が女神の秘術を行使するという名誉を捨てるということは……まさか、内乱でも起きたのでしょうか?」


「まぁ、そうだな。内乱というか……武王自らが、魔王討伐隊を率いて返り討ちにあった挙句に、後継者が将軍の一人に暗殺された事をきっかけに国が分裂したのだ。それが、今回の〝七星会議〟で発覚してな。もう、会議は酷いありさまだったぞ」


 なんだそりゃぁあああ!!! どれだけ脳筋王なんだ! 突貫して討ち死にするとか、本気で民の事を考えてるとは思えないぞ! 巫山戯ているのにも程が……いや、本気でおかしいな。


「そうだな、お前の考えている通りに、流石に武力自慢の武王だとしても、行動が短絡的すぎる上に、国が分裂して戦乱へと進む早さが異常だろう」


「魔王配下についた魔族の仕業でしょうか」


「そうであると、七星会議では結論付いた。命懸けで七星会議に参加してきた武王の五男が、それらしい物証と証言を行なっておったからな」


「彼の証言であれば、信憑性が高いですね」


「あぁ、彼は兄弟の中でも特に聡明で賢明にして、慎重派だからな。だが、その慎重さが今回は仇となり、確たる証拠を揃えている最中に、武王が出陣してしまったということだ。勇者召喚国になる予定だった国がこのような状況であり、その原因が魔王ということであれば、勇者召喚を遅らせる訳にはいかないだろう。ということは、あとの流れはお前なら分かるだろう」


「我らが王のことです。自ら勇者召喚を行うことを、提案されたのでしょう」


 武王にも弾きを取らぬ勇ましさ、そしてあり過ぎると言っておかしくない責任感は、間違いなく大国であればあるほど敬遠する勇者召喚を引き受けようとするだろう。


「そのとおりだ」


「しかし、勇者召喚を行う国は七つの大国で順番が決まっていたはずであり、我が国は少なくとも、あと数百年は先の話だったはずです」


 我が国がその役目を担当するまでには、あと二つの国が役割を終えてからのはずだ。それに、その二つの国とて一応は女神から与えられた役目を、理由なしに手放したとあっては、面目が立たないはずだが……あ、その二つの国の場所が問題なのか。


「なるほど、我が国の前に召喚国の役目を担う二つの国は、両国ともに帝国の隣国でしたか」


「そうなのだ。両国ともに、帝国の今後の事を考えると、正直に言えば世界の命運より自国を隣国の戦乱から護ることを優先せねばなるまい。しかし、これは女神からの与えられし役割であり、己の国の為にその役目を放棄することは出来ん」


「そのことを察した上で、我らが王が名乗りを上げたという事ですか」


「役目を放棄したのではなく、移譲したということであれば、女神への不義理とはならないという判断だった。その場合、委譲を願い出た王が、世界を救うという強き意思を、女神に対して示さねければ、その身に神罰が降るのだが……我らが王は、女神に対し臆する事なく強き意思を祈りにて捧げ、その場で祝福を得たのだ」


 流石は、我らが王ということなのだが……責任感が強すぎるのも考えものなんだけどなぁ。腹ぽん大臣も、そんな英雄的行動に惚れ惚れしてるようだけども、結構危機的な感じだったからね? 女神に認められずに神罰くらっていたら、こっちの国も大混乱だわ全く。


「ということで、今世の召喚国は我が国ということで決定した。ついては、この国もといこの世界の防衛に関わるということで、この一件についての責任者は防衛大臣である私となった」


「承知いたしました。それでは、私の方でこれから専任の担当官候補を省内から選んでまいりますので、最終決定は大臣のほうで決め……」


「防衛大臣付き秘書官クラウト、貴殿を本日付けで異世界召喚勇者による魔王討伐作戦統轄官兼任大臣付き秘書官に任命する。世界の為に、全身全霊を持って務め上げよ!」


 あ……意識が……薄れ……るかぁああああ!!! 腹タプオヤジがぁああああ!!! 何となくそうだと思ってたけど! 思ってたけど! いやぁあああああああああ!!!!


「か……かしこまり……ました」


「うむ、そこまで目から血を流さんばかりに歯を食いしばりながらも、しかと仕事を請け負うところが、お前の良いところだな」


 食いしばり過ぎて、口の中は血の味がするんだよ?


「しかし、流石にここまで大規模な作戦の統轄を一人にさせるという訳には行かなくてな。わしは、お前一人でも良いと言ったのだが」


 お前は、俺を殺す気か。


「ということで、お目付け役兼補助役として、騎士団から一人押し付けられた」


 一人かい! もっと人手が欲しいのだけれどもね!


「入ってきなさい」


 大臣の声と共に、部屋の扉が開いた所までは、しっかりと記憶しているのだが、その直後からは記憶が曖昧になってしまっている。


「失礼致します!」


 だって、俺に愛想を尽かし、遂には俺に離婚届を叩きつけた元嫁が入ってくるのだもの……そりゃ、気も失いますって。


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