屋根裏部屋の悪霊令嬢
「第4回小説家になろうラジオ大賞」参加作品です。
今日もまた、彼は屋根裏部屋にやって来た。
「やあリア」
「何度来ても無駄よルカ。ここを離れる気はないわ。この無念を晴らすまでは……!」
怨嗟の念に応え、家具がカタカタと揺れる。
悪霊と呼ばれる私の力。
でもそれだけだ。
私を陥れた婚約者とその恋人に腹痛を起こさせることすらできない。
せいぜい皆を気味悪がらせる程度の力しかないのだ。
私の父は、伯爵にして英雄と呼ばれる大将軍。
第二位の王位継承権を持つ公爵家を牽制したい国王の命により、私は王太子の婚約者になった。
幼馴染への恋心に蓋をして。
以来、厳しい妃教育に全てを捧げてきた。
伯爵令嬢風情と陰で蔑まれても、婚約者に無視されても。
それが国のためと信じて。
けれどあの日、プツリと糸が切れてしまったのだ。
冤罪をかけられ、婚約を破棄されて、貴人用の牢であるこの屋根裏部屋に囚われた。
慰めにと砂糖菓子が差し入れられたとき。
私はそれを毒と知りながら口に含んだ。
そうして悪霊となった私を祓いにきたのは、出家して聖職者となっていた公爵家の次男。
私の幼馴染だった。
「そのことだけど」
昔と変わらない柔和な笑みが私に向けられる。
「君の家と僕の家が手を結んでね、君の冤罪は晴らしたよ。王太子は王位継承権を剥奪の上、辺境の地で生涯幽閉。恋人にもご同行頂いた」
さらに国王は近日中に退位し、王弟である、ルカの父が次の王になるのだという。
僅か十日の間の出来事だ。
「だからね、もうリアがここに囚われる理由なんてないんだ」
急展開に呆然とする私の前に、ルカの手が差し出される。
「行こう、僕と」
私の初恋の人。
彼の手で浄化されるなら、きっと救われる。
思い残すことなく旅立てる――。
震える手は彼の掌に、触れることなく虚しく宙をかいた。
その瞬間、想いが弾けた。
「私もっと生きたかった! 貴方と……!」
薄れゆく私の手を、ルカの両手が包み込む。
「必ずまた会える。待ってるから」
「……待ってて」
必ず生まれ変わって会いに行くから。
ルカが頷くのを見たのを最後に
悪霊と呼ばれた私は
この世から
消えた。
「リア……!」
毒を飲み、屋根裏部屋の生霊となってしまったリア。
仮死状態は保って十日と言われていた。
リアを救うため、彼女に仇なす者は全て排斥した。
それでももしリア自身に生きる意志が戻らなければ――。
「ルカ……? 私、生きてるの……?」
目頭が熱くなり、愛しい人の顔がぼやける。
もう二度と離さない。
握ったその手に額を押し当て僕は誓った。
〈おまけ〉
ルカも元々リアのことが好きで、リアが王太子の婚約者になってしまったことがきっかけで、出家して聖職者になりました。
リアを助け出すにあたり、還俗しています。結婚も問題なくできます。
お読み頂きありがとうございました!