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優男系魔術師団長マーカス(2)

(マーカスにも男装が疑われているなんて……! このシナリオ上のローランドくんは、そこまで隙だらけだったのかな……)


 転生前の記憶が戻った「私」は、この世界で生きてきた十六年分のローランドくんの生活を思い出そうとする。

 走馬灯のように駆け巡るシーンの数々。

 国王付きの従僕になるだけあって、身分は高く侯爵家の生まれ。しかしこの世界では女性の相続権が認められていない。上に三人の姉がいて、四番目の子として生まれたローランドくんには、後がなかった。男子がいなければ父親が死んだ後、母や姉が路頭に迷う恐れがあり、生まれる前から「もし女子が生まれても、性別を偽って育てる」と決まっていたのだ。

 そして男装。女性だという事実は、墓まで持っていかなければならないという緊張感で、日々の生活をしていたはず。


(なのだけど……、思い起こせば今生のローランドくんには、ところどころで勘付かれそうなイベントがあった、そういえば。極めつけは、アーサーに対する「→」よねぇ……。あれは、少し勘の良いひとなら気づく。というか、アーサーに対して関心を持ちやすい攻略対象キャラであれば、アーサーに近いローランドくんのことも当然よく見ているから、疑っても仕方ないと思う)


 私の中ではわりと簡単に結論が出てしまった。

 ゴドウィンさんが気づいていると匂わせていたのと同じように、マーカスもローランドくんの性別について疑う機会は何度もあったのだと思う。

 ここで一番の問題、それは。

 マーカスが、ローランドくんを「恋敵(ライバル)」とみなしているか否か。


(マーカスからアーサーへ恋心があるとして、男性である自分より「女性」であるローランドの方がアーサーに対して優位であると考えているなら、これは恋の鞘当て的な質問のはず。だけどここはBLの世界。もしアーサーの好みが「男性」であると確信しているなら、ローランドくんが女性だとすると「勝った!!」と安心するはずなのよね……。問題は、ローランドくんが自分を女性だと認めてアーサーに対して恋心も無いと認めたときに、マーカスが首尾よくアーサーとくっついてくれるか……)


 ずきん、と胸に痛み。

 ここにきて、マーカスにアーサーを取られてしまうことに対して、ローランドくんが抵抗したがっている。ローランドくんは、どうあってもアーサーのことが好きなのだ。

 私は仕方ないので、ひとまず質問に対する答えをはぐらかすことにした。


「マーカスさんは、どうして僕が女性ではないかと思ったんですか?」


 にこりと笑ったマーカスは、そのままリリアンちゃんに視線を滑らせてから、余裕のある口調で答えた。


「説明しようと思ったけど、途中で時間切れになるかもしれない。移動しようか」

「急にローランドくんがいなくなったら、リリアンちゃんの魔法がとけたときに騒ぎになりませんか」


 そのときの私は、素で、そう返事をしていた。

 マーカスはおもしろそうに目を輝かせ、指を一本立てて唇に押し当てると、考えるような仕草をしながら言う。


「果たして、ローランドくんは自分のことを『ローランドくん』と言うだろうか。中に人がいるとしか思えない発言なんだけど」


 ハッと私は自分の失言に気づく。

 その反応がすべてを物語ってしまい、マーカスにはにこにこと微笑まれてしまった。


「リリアンちゃんにはこのまま寝てしまう魔法をかけよう。ただ、術が聞きにくいなどの理由で、意識が戻ってしまい、話を聞かれると()としてもまずい。()()()()()研究室に移動しよう。遮音効果があるから、他に話を聞かれる恐れもない。まずは眠りの魔法を」


 手際良く言いながら、マーカスはベッドまで歩み寄り、リリアンちゃんに手をかざす。

 倒れかかった体を一度腕で抱きとめて、そっとそのままベッドに横たえた。

 それから、ローランドくんに金の瞳を向けてきた。


「転移する。俺につかまって」


(なんだろう。私が公式をよく知らないせいかもしれないけど、このマーカスには少し違和感がある……? ヒントはあったような気がするのに)


 すぐには答えにたどりつかなかった私に代わって、ローランドくんが胸の中で鋭く言った。


 ――マーカスさんにも「中の人」がいるんだよ! だって自分で「マーカスの研究室に」って言った!


(そっか……!! さっきからオタク特有の言葉遣いがはしばしにあるような気がしたけど、そういうこと!? 待って、試してみる)


 私は咳払いをして、マーカスと向き合い、言ってみた。


「久しぶりー、5億年ぶりだね!!」


 オタク特有の数字が極端な挨拶。

 にこっと口の端を吊り上げ、魅惑的に微笑んだマーカスが言った。


「五千兆円ほしい」


(確定。このマーカス、私と同じく「中の人」がいる……!!)


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