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銀髪の宰相ゴドウィン(2)

 たしかに、変なところには触られなかった。

 物理では。


(体は無闇に触られていないけど、ハートを握りしめられたくらいのショックというか、圧迫感があった……。「ル○ンはたしかに盗みました。あなたの心をです」みたいな。ローランドくんに私の意識が宿ってなかったら、イチコロだったんじゃないかってくらい、滴る色気……。ゴドウィンさん、完全にお色気お兄さんだった。肌色展開があるとか無いとかそういう問題じゃなくて、ゴドウィンさんこそ、男でも女でも余裕で手玉に取る感じ。あのアーサーでも、手のひらの上で転がされちゃうんじゃないかな。恋は落ちた方、追いかける側が常に負けなのよ……)


 恋なんて、よくわからないけれど。


 ところは王宮の一室。

 なんと恐れ多くもゴドウィンの私室に連れ込まれ、天蓋付きベッドに押し込まれてしまった現在。「いや、やめてください。じぶんで」と動揺しすぎて甘えるような声でイヤイヤしていたローランドに対し、「だめだよ。君の面倒を見るって陛下に言った手前、私には責任がある。ほら、力を抜いて。痛いことなんてしないから、私に身を任せなさい」と、ギリギリ感のあるセリフで責め立てられながら、ベッドに置かれた。

 跪いて靴を脱がされた。

 ローランドくんは恥ずかしさでうっすら涙ぐみながら「そんなこと、しないでください」とゴドウィンさんを見つめた。「うん、そうだね……」とゴドウィンさんは悩ましげな吐息をもらしながらローランドくんの肩に手をかけてきて、ベッドに押し倒した。


 艶やかに微笑みながら「まずは寝ていなさい。私の気が変わらないうちに」と囁いて手を離す。「気が変わるって、なんですか」とローランドくんがあどけない声を尋ねると、深い溜息。瞼を伏せ、大きな手で額をおさえ、銀の髪を軽くかきあげて言った。


 ――君の側から離れがたくなる。今日はここで寝ているわけにはいかないんだ。残念ながら。だけど、今日以外なら……。君が来てくれるなら、部屋の鍵は開けておくよ。


 ちらり、と手でおさえた銀髪の間から、アイスブルーの瞳を向けられる。いけない色気がダダ漏れていて、ローランドくんも私も息をのんで言葉を詰まらせた。

 ふふ、と笑ってから、ゴドウィンさんは手を差し伸べてきて、触れる寸前で止めた。


 ――ジャケットを脱がせて、ボタンを外して襟をゆるめてあげようと思ったけど……。自分でできるね? そんなことをしたら、私は手を止められなくなりそうだ。いつも肌を見せない君が、その服の下に隠している秘密を、暴かずにはいられないかもしれない。


(このひと……! もしかして、ローランドくんが女の子だって気づいている……!?)


 緊張して、細い指でクラバットを握りしめたローランドくんの反応を、ゴドウィンさんは目に焼き付けようとするかのように見つめていた。

 やがて、柔和に微笑むと「それじゃ、またね」と言って部屋を出ていったのだった。


 花のような、甘い残り香。


 いつまでも去らないそれが、あの腕に抱きしめられたまま運ばれたせいで、自分の体に染み付いてしまったのだと、遅れて気づく。

 さらにはきっと、この寝台にも同じ香りが……。

 もうゴドウィンさんは側にいないのに、いまだに腕や触れ合った胸板の感触が香りとともにそこかしこにまとわりついている。


(ああ……私が骨の髄までBL妄想に長けた腐女子だったら……、今頃供給過多で喘いでいたわ。ゴド×ローでギッドギドのラブシーンを思い描いて(たぎ)ることだってできたのに。ローランドくんが、実は女の子だって知ってるからなぁ。濡れ場になだれこんでも普通に細マッチョと華奢ヒロインの体格差ラブにしかならないの。BLに疎くても、これが原作ファンの皆様はいまいち萌えないどころか、許しがたい展開だっていうのはわかる。よくわかる)


 うんうん、と頷く私の脳内で「ねえ、何言ってんの? 何言ってんの、さっきから」と、ローランドくんに疑問を呈される。「こっちの話よ」と追い払う。

 

(ゴドウィンさん、なんだかローランドくんの秘密に気づいてるっぽかったし、押され気味にもなったけど、押されてる場合じゃない……! ヒーローのアーサーだけじゃなくて、原作の攻略対象の男性キャラと、男装女子のローランドくんをこれ以上接近させるわけには)


 乙女ゲームやハーレム的世界観で、主人公に選ばれなかった攻略対象キャラは、その後どういう恋愛をするのだろう。

 わからないけれど、ここはBLの世界。アーサーだけでなく、他の攻略対象にもうかつに近寄らない方が良いことはよくわかった。

 ベッドの上でゴロゴロしながら、次なる作戦に思いを馳せていた、そのとき。


「ローランドくん。具合悪いって聞いたよ? 朝から変な汗かいていたの、やっぱり気の所為じゃなかったんだね。開けるよ」


 部屋の外から可憐な声が響いて、ドアが開けられる。 

 現れたのは、清楚系黒髪侍女のリリアンちゃんだった。



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