ここはBL小説の世界です。(2)
王宮の誰もが「陛下の忠実な従者の少年」と認識しているローランド。普段から隙無く服を着こなし、決して肌を見せないようにしているのは相応の理由がある。
衣服の下に隠した肉体は、少女のものなのだ。
BLワールドにおける男装美少女。
そして、攻略対象と公式が認めている存在。
つまり、何かのきっかけでヒーローのアーサーに身も心も攻略されてしまう恐れがある。
それは未知のルートであるが、それだけに慎重にならざるを得ない。
(後醍醐櫻子先生の生粋のファンは「男でも女でも」と鷹揚に構えていたけれど、一部のファンには「もし女だとしたらナンセンス」的に絶不評だったから……。ここで私がアーサー王に落ちたら、現実世界にどういう影響があるかはわからないけれど、「光と闇のカデンツァ」のファンが許さないかもしれない……! 怒れるファンはめっちゃ恐ろしい……!!)
自分は創作物を愛しながらも一定の距離感を持つファン(SNSで感想呟いて作者に反応されただけで大変おののくタイプ)だったが、ファン活動をしていただけに「一部過激派」の感情の起伏はまざまざと想像がつく。
「ローランドくん。変な汗かいているよ? 大丈夫? 具合悪いんじゃないのかな?」
心配げに見上げてくるリリアンちゃんに向かって、私は顔を強張らせながらも微笑んでみせた。
「大丈夫大丈夫。今日も元気だよ。お仕事行ってくるね」
明るく言って、王宮廊下での立ち話を終える。
目指すはヒーロー・アーサーの私室。朝の挨拶を終えてから、一日の予定を確認して必要とあらばともに行動をするのがローランドの役割。
前世の記憶が無い間のローランドは、アーサーの忠実なしもべとして仕事に励んでおり、色恋にはあまり関心を持たず、アーサーから誰に「→」が出ているかを気にしたことなどなかったように思う。今となっては(ちょっと、仕事ばかっかりしてないでもっと周りを気にしようよ、いまの私)と文句のひとつも言いたくなるが仕方ない。
今からでも、アーサーの現在の攻略対象が誰か見極めて、その相手と結ばれるように全力で応援せねば。
(希望としては、なんとなくでもエンドまでの手順のわかる宰相ゴドウィン……。肌色展開も穏やかみたいだし、そばで見ていても落ち着けるはず。それか、リリアンちゃん……。リリアンちゃん、夜に強いアーサー王にどんなえげつないことをされちゃうかわからないけど、ヒロインだから大丈夫なはず。ちょっとだけ心苦しいけど、リリアンちゃんもアーサー様を好きかもしれないし、そのときは応援しよう)
心に決めて拳を握りしめ、歩き出す。
そのとき、ふっと少しだけ心に隙間風が吹いたが、気づかなかったふりをしてやり過ごそうとした。
ローランドの記憶をたどれば、ずいぶん長いことアーサーの姿を目で追いかけていたようなのだが、気の所為だと。
少女であることを隠して王宮勤めをしているローランドが、まさか主であるアーサーに恋をするだなんて。
まさかそんなこと、あるはずが。