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ヒーローに攻略されるわけにはいかないんです!  作者: 有沢真尋@12.8「僕にとって唯一の令嬢」アンソロ


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優男系魔術師団長マーカス(4)

(マーカス……ッ!! やられた……!!)


 体が熱い。さっき飲んだお茶に一服盛られていたに違いない。実地で経験は無いので断言はできないが、創作物の中ではこの症状に数限りなく接してきたから知っている。

 これは、媚薬。


 くっ殺(※「くっ……殺せ!」等、主に女騎士系キャラが敵に敗北して陵辱される間際に、啖呵を切って口にするセリフの短縮系)という目で悶えながら睨みつける私に対し、マーカスは実に爽やかな笑顔で言った。


「若い頃の俺はね、BLに官能表現、平たく言うとエロは必須だと思っていた。だけどBLを摂取し続けたある日ふと気づいたんだ。『エロがなくても十分に楽しめる……。むしろ作者が行間や余韻のあるラストに仄かに匂わせるエロこそBL の真髄なのでは』と。でも、そんな浄化された感想を言える期間は長く続かなかった。エロは必要なんだ、絶対に。絶対にだ。ドギツければなお良い。BLはね……幻想物語(ファンタジー)なんだよ……」


 言い終えると目を瞑る。長い睫毛、艶めく目元。満たされたような甘美な吐息。

 その悩ましいまでに官能的な姿を見つめながら、私は掠れ声で言った。


「いま現在の私にとってここはニ次元ではなく限りなく現実であり、ファンタジーではなくBLでもありませんが……!?」


 マーカスは不意に視線を鋭いものにし、拳を握りしめて形の良い唇を開く。


「俺にはもう、BLかどうかは些細な問題なんだ。俺はこの最推しのカデンツァの世界で、ヒーローであるアーサーとローランドのエロが見たい……ッ。どうしても見たいッ。ただそれだけなんだッ」

「堂々と言えば良いってものじゃないですよッ」 

「見たいものは見たい。もう、そこに至るまでの重厚長大で骨太なストーリーラインとか繊細な心理描写とかどうでも良い。その辺はもう他のキャラルートで把握している。あと足りないのはアーサーとローランドが結ばれてイチャラブするシーンのみ。即ち、エロだ」


(口を開けばエロエロって、エロしか言わないなこの美形魔術師……! めちゃくちゃ美形でイケボなのにエロ妄想だけで生きているってどんだけニッチな……!)


 私はマーカスのエロへの情熱に押されながらも、己を奮い立たせて歯向かった。


「自分がどれだけ邪悪なことを言っているか、わかっているんですか。こうなったら、私もオタクのはしくれ。次の新刊はエイブラハム×マーカスでギットギトにエロい二次創作書いて、解釈違いの辛さをわからせてやりますよ……!」


(これでどうだ、悶え苦しめ……!)


 いびつな目論見を持って妄想を語った私に対し、マーカスは完璧な笑みをくれた。


「むしろご褒美だな。多めに刷ってくれ。売り子をしても良い。小銭の用意は任せろ」


(地雷の無いオタクはもはや無敵か……!!)


 ローランドくんは、おそらく即効性で強い媚薬に体を支配されている。いよいよ椅子に座っていられなくて崩れ落ち、床に膝をつく。その位置から、熱っぽく潤み始めた目でマーカスを見上げた。

 余裕たっぷりかつ慈愛に満ち溢れた顔で、マーカスはローランドくんを見下ろしてきた。


「今すぐ転移でアーサーのベッドに運んであげるよ。存分に乱れ乱されてくれ」


 ローランドくんは震える自分の体を片腕で抱きしめながら、荒い息をこぼしつつ必死にマーカスを睨みつける。


「こんな形で結ばれることは、望んでいません……!」

「それじゃ、どんな形が良いの? アーサーとエロいことしたくないの? もっと段階踏みたいの? 段階踏んだらエロいことして見せてくるの?」

「見せませんっ」

「そもそも、する気はあるの? そばにいるけど、何もしないでただ見つめ合うだけで良いの? それは結ばれたことになるの?」


(マーカス、容赦ないな……。この辺は、原作の強気マーカスともイメージ被るかも)


 追い詰められたローランドくんは、俯いて考え込む。

 やがて、絞り出すように言った。


「したいかしたくないかと言えば、したいです……。でも、いざその時になったら、どうすれば良いかわからないので、アーサー様に導いてもらえたらと思いますが……。その……できるだけ優しく」

「よし。よく言った」


 一歩近づいてきたマーカスが、ローランドくんの肩にばしっと手を置く。それが媚薬で火照った体には強すぎる刺激となって、ローランドくんは「ひゃうっ」と小さな悲鳴を上げた。「あはは」とマーカスが涼やかに声を立てて笑う。

 流れのまま、指を一本顔の前に立てて、片目を瞑ってきた。


「その反応は可愛いけど、俺に感じてる場合じゃないよ。君の反応のすべては、アーサーのものだから」


(こういうところは……、きっと原作を大事にしているんだろうな、マーカスの中の人。エロ大魔神なのに、良いひとみたいに見えて、なんだかずるい)


 アーサー×ローランドのルートにあって自分は、黒子でしかないと、わきまえているようでもある。


(カデンツァが荒れないのも、ファンのこういう在り方が大きいんだろうな……。愛される作品を生み出す後醍醐先生もすごいし、時にファンの限界に挑むかのような展開もあるのに、荒れない界隈。先生とファンとの信頼、絆。BLをあまり嗜むことのない私にも、ずっと憧れだった。共有される、夢の世界。作品が魅力的なだけじゃなくて、カデンツァのコンテンツ全体に流れる空気が、好きだったんだ……)


 マーカスは、「よいしょ」と掛け声とともに、細腕でローランドくんを軽々と抱きかかえてくれた。

 媚薬の効きのせいでうまく反応できないローランドくんを見下ろして、甘く微笑んでくる。


「ということで目指すはアーサーのベッド。一直線で運んであげる。いっぱい蕩かされて、愛されてきてね」


 そばで

 見ている

 から


 唇の動きだけのその言葉は、ローランドくんではなく私に向けられているように感じた。


(ですよねー!! 透明化持ちだもんねー!!)



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