かくれんぼの天才
私はかくれんぼの天才だ。
鬼に捕まったことなどない。
今日も友達同士でかくれんぼ。
最後に残るのは私。
いつもは鬼が困りはて仕方がなく『ここでした~』と飛び出して終わり。
今日は隠れている最中に眠ってしまった。外は日が落ち真っ暗になっていた。
「山ちゃん。何処?」
今日のかくれんぼも場所はいつもの廃病院。日中は外の日が入り多少明るいが夜は完全に暗闇だ。
鬼役の山本君を探すため声を上げたが自分の声が建物内に響き逆に怖い。怖すぎて元いた隠れ家に身を潜める。
「ガン。ドン。ガン」
身を潜めて数時間たった頃だろうか、周囲が騒がしくなる。隠れ家の隙間より外の様子を伺う。
2、3個の光が部屋に浮き出ている。どうやら懐中電灯のようだ。誰か来たらしい。一緒に連れて帰って貰おうと隠れ家を出ようとする。
「うぉ。あの辺。あの辺。写真。写真」
「どこ、どこよ」
「パッシャ。パッシャ」
声の持ち主は懐中電灯を持つ人達だった。男女4人がスマホを片手に周囲の写真を撮りまくる。彼らの行動に嫌気がさし助けを求めるのを止めた。私は隠れ家に閉じ籠る。
「見ろ見ろ。オーブ。オーブ」
1人の男が興奮気味に仲間達にスマホを見せていた。
「本当だ。ヤバイ」
「な!ここホンマもんなんだって」
「あはは。こわーい」
男二人に女二人。廃病院を心霊スポットとして探索に来ているようだ。怖がっている者もいれば楽しんでいる者もいる。なんて罰当たりな。
オーブってあんな目の錯覚。何処にでもあるだろう。あんまり関わりたくない人達ではあったが、私に害が有るような人達では無さそうだったので隠れ家から出て保護を求めることにする。
「う、うゎ。く、来る!に、逃げろ」
私が出て行こうとすると事態が一辺する。若者達は何かに怯え逃げ出す。また、出るタイミングを逃す。仕方なくまた隠れ家に戻り見物する。
「ヤメロ。ヤメロ」
「キャーイャャャーーー」
抵抗する声と叫び声が廃病院内に響き渡る。来訪者達は天を仰ぎ怯えている。私もそちらの方を見る。あ!ヤバイ。私も身を潜める。
「キャーキャーグワッ」
暫くすると叫び声が聞こえなくなる。ここからだど来訪者がどうなったかはワカラナイ。この建物内から出れたかも怪しい。
周りに誰もいなくなった。来訪者の誰かが懐中電灯を落としていった。私は隠れ家から出て懐中電灯を拾う。灯りを確保することが出来た。多少怖いが家に帰れそうだ。
足元を照らしながら廃病院の出口へと向かう。真っ直ぐ出て右曲がれば直ぐ出口だ。覚えていた道順通り進む。出口へ着くはずが自分の隠れ家に着いてしまった。意味が解らない。道順を間違えたと思い、今度は真っ直ぐ出て左に曲がってみた。結果は同じ。隠れ家に到着した。
どうも私を逃がさないようにしたらしい。先ほどの来訪者は無事に病院を抜けただろうか?心配になる。私自身はこの隠れ家なら見つからない自信があったので朝まで待つ決意をする。後、数時間もすれば日は昇る。
「どうしよう。どうしよう」
また声が聞こえて来た。覗き見ると先ほどの来訪者だ。彼らも脱出出来ないらしい。良く見ると男が1人減っていた。
「アレは事故だ気にするな」
「でも私達ここから出れないんだよ」
「だから止めようって言ったのに」
「最終的には折れたじゃないか。人のせいにすんな!」
男1人に女2人が言い争っている。険悪なムードだ。冷静さがない。今、私が助けを求めて、外に出ると彼らがパニックになるだろう。助けを求めることは出来ない。高みの見物を決め込む。
来訪者達は言い争いが続く。不毛な争いだ。そんな事をしていると......来た。
「桜は何処だ」
彼らの後ろにもう1人、仲間だった男がやって来た。
「宮野!無事だったの」
女が喜び男に駆け寄った。その時男は拳を振り上げ女の頭を殴り突ける。女からはおびただしい量の血が頭より流れる。彼女はその場に倒れこんだ。男の手には廃病院の崩れたレンガが持たれていた。
「桜は何処だ」
「真司、何をするんだ!」
「美紀が死んじゃうよ」
「桜は何処だー!」
レンガ男は逆上し、もう1人の男を襲う。さっきの女とは違い、男は襲われる前に腕を抑えしっかりと自分の身を守った。
「青葉逃げろ」
それでも女を守り切れないと判断したようで女に逃げるように促していた。
「え。でも」
「逃げろ!」
「はい」
青葉と呼ばれた女は慌ててその場を後にする。ここから男を同士の戦いが有るかと思い気や。
「上手く行ったか?」
「あぁ。上出来」
「私はあまりに乗り気ではなかったんだけどね」
バトル予定の男二人が呑気な会話をし笑い始める。殴り倒された女も何事もなかったように立ち上がり会話に加わる。
どうやら青葉と呼ばれた女にドッキリを仕掛けたらしい。コイツらの悪巧みに自信正直ムカつく。三人で女1人にドッキリだと。許せない。
私は隠れ家から出て彼らの前に姿を現す。
「お兄さん達私のこと探していたよね?私は桜。ここに隠れていました」
「キャーーーー」
お兄さん達の叫び声が上がる。慌てて逃げ出すが逃がしはしない。
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『今日のニュースの時間です。ますば事故のニュースです。昨夜3時頃男女3人の乗った乗用車がガードレールをはみ出し谷へ転落しました。病院に運ばれましたが3名の死亡が確認されました。場所は急カーブの続く山道でブレーキ跡などはなかった模様です。警察では自己の詳しい状況を調べています』
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かくれんぼが終了する。今日も私の逃げ切り勝ちだ。私は山ちゃんの前に姿を現す。
「やーまちゃん。私はココでした」
「また負けた。桜ちゃんはかくれんぼの天才だね」
「山ちゃんの引力も相変わらず凄いよ。でもその子は帰して上げてね」
山ちゃんの側で1人の女が倒れていた。ドッキリにあった可哀想な女だ。
「暫くすれば勝手に起きるさ」
山ちゃんの言葉を聞き安心する。心配事も無くなったので山ちゃんに向け大きく手を振る。
「じゃあ。また明日」
「また、明日な」
私も山ちゃんも家路に着く。女の人も無事に帰れるでしょう。