43rdキネシス:開花する大輪あるいは殻を割るヒヨコ
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姉坂透愛が大変な状況になっているので、影文理人は暫しの間アンダーテイカー業を休むつもりだった。
透愛の置かれている境遇は、自分のそれより我慢ならん。
その対処をどうしたものか、と考えている最中にフと気づいたのだが、自分は何とも身軽な立場だなぁと。
家族はいないし貯金はある。アンダーテイカーとして世界中どこででも生きていけるし、なんなら超能力を使えば大抵の事は出来るだろう。
しかし透愛は違う。
理人にとっては、はじめての友達と言えるかもしれない存在。友人ひとり目から全校トップクラスの美少女とかハイレベル過ぎたが。
しかも折り悪く、姉坂透愛は少し前にとんでもない物を食べてしまい、現在は経過を観察中という神経質な時期。
こっちの方も大問題だと言うのに完璧なタイミングで喧嘩吹っ掛けてきやがって。
そんな恨み節を抱えながらも、外せない仕事で北米某所の巨大都市にいた陰キャアンダーテイカーであったが、
『理人くん、なんか透愛ちゃんの配信が変なことになってない?』
というショートメッセージを学校の先輩から受け取り、大急ぎで仕事を片付け日本に戻ったのが12時間後。
問題のゲーム配信はすでに終わっており、その時には透愛と連絡が取れなくなっていた。
「デッドチェイストワイライトの視聴者参加配信だったんだけどね、なんか一瞬……画面に引き込まれるような気がして…………。
例の学校の地下で感じた感覚に近かったから、すごく気になって。
ちなみに配信はなんか知らないけどメチャクチャ盛り上がってたわ」
こう言うのは、理人の家に来ていたメガネ美少女先輩、姫岸燐火である。
『デッドチェイストワイライト』というのは、追跡側一名と逃走側四名のプレイヤーによる、非対称型対戦アクションゲームだ。プレイ配信界隈では定番のタイトルとなっている。
今回の姉坂透愛、Vtuber『愛坂クリア』のゲーム配信タイトルが、これであった。
他の個人勢や企業勢Vtuberも同じタイトルで同様のプレイ配信をしているので、そこまでは問題ない。
だが燐火に曰く、先日の透愛の配信は、何かがおかしかったとか。
むろん、理人には思い当たる節があった。
最悪のタイミングで爆弾が破裂したのだろう。
あるいは、誰かが意図的に起爆させたか。
「で、そのあと何度か電話したんだけど、透愛ちゃん出ないんだよね……。既読も付かないし。どうしたんだろ……?」
「あんまり透愛さんの部屋に忍び込むとかしたくないんだけど、様子を見に行くには仕方ないか…………。
燐火さんには、話しておかなきゃならない事もあるなぁ……」
「な……なに? 深刻な話??」
連絡が取れないので、必然的に直接様子を見に行こうという話になる。なんせ理人は超能力者なので、瞬間移動一発だ。
同い年の女子の部屋に不法侵入という心理的ハードルはあるが。
またそれとは別に、さらなる巨大な問題も潜んでいるので、その件を燐火に伝えておく事にする。
裏世界を発生させる第一級オーパーツといわれる『エッグ』を、透愛が卵かけごはんにして食べてしまったと。
「……は? え? それ、要するに卵なの? え? 食べたってなんで? そもそも食べられるモノ? 何か途中の経緯が抜けてなかった??」
「残念なことに起こった出来事そのままを説明すると、こうなる…………」
そもそもどうしてそんな事になったのか。そんなの理人の方が聞きたい。
裏世界、アンダー東京で先生にかっさらわれた黒い卵が、どうして自宅の冷蔵庫に入っていたのか。
その辺の経緯も放っておけないのだが、とにかく喫緊の問題となるのが、透愛にどういう影響があるか、であった。
実況配信中に何かが起こったとすれば、その卵が原因である可能性は非常に高いだろう。
◇
いつも通り遠隔視でジャンプ先を確認し、瞬間移動で自分とメガネの先輩をそこに送り込む。
透愛の部屋には、何度かお邪魔したことがあった。最初に訪れた時の緊張と罪悪感は、おそらく一生忘れることはできないだろう。
何なら今も女子特有の部屋のニオイで大分心臓がヤバい。
透愛の部屋は、白とピンクの寝具や、かわいいキャラクター付きの雑貨が置かれていた。
汚れてはいないという程度に生活感があり、布団や小物の乱れ具合に持ち主の性格を窺い知ることができる。
漫画本、ぬいぐるみ、本棚の上のフィギュア、通販の段ボールなど趣味のモノらしき物品が見て取れるが、特に目を引くのはデスク周りのパソコンと周辺機器が集まっている部分だろう。
普通に生活している分にはノートパソコンかタブレットPCひとつで事足りるだろうが、そこの機材は平均よりハイスペックな上に、あまり一般向けではない特殊なデバイスも多かった。
理人も一緒に買いに行った、インターネット配信用の機械類である。
姉坂透愛は、影文家以外では自分の部屋で配信していた。
VTuberは透愛の夢だった。どういう配信をしたいか、夏休み中にも楽しそうに語っていたのを思い出す。
その夢を、クラスのイジメ加害者連中は踏み躙った。
今思い返してもハラワタ煮えくり返る陰キャ爆弾である。
「なんだろこれ?」
理人が透愛の気持ちを慮っていたところ、フと燐火が何事か呟いていた。
そちらに目を向けると、デスクと椅子の下に何やら細かいモノが散乱しているのに気が付く。
一瞬それが何かわからなかった理人だが、すぐに正体に気が付き、思わず痛恨の呻きを上げていた。
「理人くん?」
「これ……透愛さんに渡しておいた、お守りとか、そういうの……」
金属チェーンの破片、小さなシャフトを取り巻くような螺旋の意匠のアクセサリ、裂けた布切れ、割れた室内灯風インテリア。
それらは、ニューオリンズの専門店で購入してきた、ファージやアンダーワールドの力を抑える効果のあるアイテム類。その残骸である。
どれも普通ではない壊れ方をしており、何が起こったのかもおおよそ想像できてしまった。
「透愛ちゃん……どうなっちゃったの?」
メガネの先輩に問われるも、自分の推測を自分で認めたくない、というのが正直なところの理人。
黙ったまま、落ちているアメジスト色のアクセサリを手に取る。
それから思念視で残存思念を読み取ると、強烈な焦燥や悲哀、絶望を感じる事になった。
ついでに、姉坂透愛が今どこにいるかも分かった。
「パソコン……? てか、ゲームの、中??」
「理人くん?」
思念視は過去ではなく、残された思念を視る。つまり、どうしても思念元の人間の主観が入るのだ。
故に、何かの間違いではないかと、自分が視たモノを疑う理人だったが、
パソコンのディスプレイが光を放ったのは、その時だ。
◇
三貝一太、松枝勝助、乃内銅仙の三人は、いずれも姉坂透愛と面識が無いし、どのような人物かも大して知らない少年たちだった。
『愛坂クリア』というVtuberを執拗に中傷したのは、声と力が大きな知人に「そうしろ」と言われたからに過ぎない。
彼らもまた縛られ支配される種の人間だったが、それでも自ら好み楽しんで誹謗中傷を繰り返していたのだから、被害者面をする資格は持ち得ないだろう。
肥満気味の小男、三貝一太は小さな町の中を走り続けていた。
一定の広さに区切られた、見せかけの街並み。
住民のように見えるのは、ルーチンプログラムで動くNPCだ。
デッドチェイスワイライト。
殺人鬼役一名と、警官、技術者、医師、高校生、それぞれの役割をプレイする四名による対戦アクションゲーム。
殺人鬼側はその他のプレイヤー四人を殺傷するのは無論の事、町とNPCにどれだけ被害を広げるかも勝敗要素に関わってくる。
警官、技術者、医師、高校生側は、生き残るのは無論の事、町とNPCの被害をどれだけ抑止できるかが勝敗要素に関わってくる。
小太りの大学生は、そのステージ内を自分の足で逃げ回っていたのだ。
かと思えば、ズドガンッ! と。
「ギャブッ――――!?」
肉袋から空気を絞り出すような音を立て、三貝一太が白いセダンにひかれて宙を舞う。
そのまま放物線を描き、背中から墜落。
灰色のスウェットを着た肉の塊が、地べたに這いつくばり、緩慢に手を動かしていた。
「ぅぐえぇええ……………」
通常、殺人鬼以外のプレイヤーは攻撃を加えられ体力ゼロとなった時点で処刑可能な状態となり、そこで殺人鬼に捕まり処刑ムーブを受けると死亡、ゲームオーバーとなる。
よって、一発二発攻撃を受けても追い打ちを受けないよう逃げ続けるのが肝要となるが、三貝一太は激痛に身悶え立ち上がる事すらできなかった。
人間はゲームのキャラクターとは違うのである。
とはいえ、殺人鬼側のプレイヤーとしてもまた、対戦側のプレイヤーが本気で抵抗してくれないと、興覚めであった。
「んねぇー、も一回ひいちゃうぞー? やる気ないなぁ……。コメ欄じゃ元気いっぱいだったじゃーん」
そんな殺人鬼側プレイヤー、桃色の髪の美少女がクルマのウィンドウから顔を出して間延びした声をかける。
白のセダン、黒のSUV、赤いピックアップトラック、紫のワンボックス、これらのクルマもステージ内で利用できるオブジェクトだ。
殺人鬼は生存者をひき殺す為、生存者は殺人鬼から逃げる為に。
轢かれても現実の交通事故のように一撃で致命傷となったりはしないが、それでもとんでもない衝撃が身体に加わる。
「フッく……ちくしょう……ちくしょう……ふざけんなよ…………!!」
フロントバンパーに尻を小突かれ、三貝一太はヨタヨタと立ち上がり、再び走り出さざるを得なかった。
どれほど疲労していても、呼吸を乱しながらも、悪態は自然と口からこぼれ出る。
自分が何をしたというのだ。
友達ヅラしたクズに命令されて個人勢Vtuberを叩いただけではないか。
自分は悪くない、あくまでも被害者なのだ。
たったそれだけの事をしていたら、いつの間にかゲームの舞台のような場所に迷い込んでいて、件のVtuberの恰好をしたサイコパス女に追い回されて殺される。
もう何度、処刑された事か。
ゲームのクセに死に等しい苦痛を与えられ、観戦カメラで他のプレイヤーが全滅するのを見せられ、そして次のラウンドのプレイをまた強要されるのだ。
「んだよホントのこと言っただけじゃねーかよ整形女がその上からバ美肉しているってよぉ!
ホントの事言われてキレてんじゃねーよダリーんだよ!!」
「だーかーらー整形じゃありませーんイメチェンでーす。まぁどうでもいいかー。
それより、どうせあたしに粘着するなら一緒に遊んであげるよ!
愛坂クリアのリスナー参加型ゲーム配信にようこそー!!!!」
愛坂クリア。姉坂透愛のVtuber名。
ピンクのストレートヘア、伝統的スタイルのヘソ出しセーラー服、傍らには殺人鬼のひとりが使う巨大な釘が転がっている。
しかしその姿は、インターネット上における仮初のモノでしかなかったはずだ。
最強個人勢Vtuber『愛坂クリア』は、そのままの姿でそこに生きていた。
「ヒャアがまんできねぇキルだぁ!」
「ぶへぁ――――!?」
そして、混じりっ気無し天真爛漫な笑みでアクセルを踏み込み、後ろからグレースウェットの小デブを跳ね飛ばした。
ゴロゴロと転がった末、へたくそな水泳のように路上で悶える三貝一太。
愛坂クリアは足取り軽く白のセダンから下りると、自分の腕ほどにも太い錆びたクギを、躊躇なく相手の後頭部に振り下ろす。
絶叫はゲームのSEではなく、犠牲者が自前の喉から発したモノだった。
「ハイ勝ちー。次の対戦までに何が悪かったのか考えてみてくださーい。あたしったらちょっと強過ぎないかな!!」
血だまりの前で無邪気に勝ち名乗りを上げる美少女Vtuber。
ゲームか、現実か、本人か、アバターか、この行動は異常なのか通常営業なのか、何もかもが不確定的である。
ただ、物陰から一部始終を見ていた別の少年は、 ゲームの流れに則り殺人鬼がすぐ次の獲物を探しに行くのが分かっていた。
乃内銅志、高校三年生。小柄で痩せているが、目付きはキツく、ギラギラと光を返している。
獣のように息は荒く、細いアゴからは汗が滴っていた。
乃内銅志も、整形というデマや個人情報の拡散でコメント欄を荒らしいてたひとりである。
その内容は極めて偏見に満ち、高圧的、陰湿、執拗、醜悪と、ネットの品位に照らしても特に下劣な部類であった。
それに本人の性格としても、非常に反抗的で傲慢でもあった。
このような異常事態に落ちた当初こそ恐怖から逃げ惑っていたが、今はそれがひっくり返り、激しい怒りと憎しみに満ちている。
とはいえ、直接的な暴力が得意ではないからこそ、安全なネットからの誹謗中傷に労力を全振りしているのだが。
「悪口言われたからチートで反撃だぁ……!? ざっけんな! ザマァなんてぜってーさせねぇ……!!」
とにかく負けるのは我慢ならなかった。
やり返されている、という自覚があるからこそ意地になった。
乃内銅志はデッドチェイストワイライトというゲームを知っていた。
生存者側が勝つには、殺人鬼を殺すか、出口を見つけるか、ステージ毎の特定条件を満たすほかない。
このステージ『ベッドタウン』における生存者側の特定条件は、住人NPC15人中8人以上への避難指示だ。
殺人鬼側は戦闘能力が高く設定されており、正面から戦うのは不利。生身ではなおさらだろう。
だから、堂々とゲームのルールで勝利してやる。
ゲーマーとしての格の違いを思い知らせてやる。
などと執念を燃やしながらも、既に何十連敗としているのだが。
(チート使って負けたら最高に無様だろうが! ザーコ! リザルトで発狂ほど煽ってやる!!)
ただ相手を悔しがらせてやりたい。そのひねくれた一念が、ネットの誹謗中傷ばかりに熱心でろくに運動しない痩せた男子に疲労を忘れさせる。
NPC住民の位置はすべて把握していた。最短ルートも分かる。チート整形女はピザデブを殺している最中で、自分の方が動き出しは早い。
あるいは、ゲームで勝てばこの狂った状況から逃げられるかもしれない。加えて、負け犬相手にも思いっきりマウント取れるかもしれない。
乃内銅志はこういう時にしか発揮されない集中力を限界まで高め、道順をハッキリと頭の中に思い描き、ガレージ、スーパーマーケット、血まみれの庭がある個人宅の中を、立て続けに駆け抜けた。
その最後のポイントとなる高校の屋上に、ピンクの殺人鬼、Vtuber愛坂クリアは待ち構えていたのだが。
「……はぁ!? クッソ――――!!」
即、入って来た屋上入り口に飛び込む、痩せ犬のようなプレイヤー。
しかし、ただでさえ生存者側が殺人鬼から逃げ切れるかは五分五分というゲームバランス。
痩せ犬の男子は完全に油断しており、状況を認識して逃げるまでモタついた事もあり、簡単に追い付かれてしまう。
「ぅハハハハぁ! もらったー!!」
「フウゥ! フウゥウウウ! がぁあああああ!!」
「おおっとぉ!?」
だが、階段出口で勢いよく振り返る、痩せ男子。その手には赤い防災斧。
狭い空間で追い詰められていたかと思いきや、一転して攻勢に転ずる。
デッドチェイストワイライトの経験者として、斧の場所も、その位置が確実に相手の動きを制限できることも、知っていたのだ。
とはいえ、生存者側に比べて殺人鬼側は耐久力が多く設定されている。
4人全員で協力して攻撃できればどうにか倒せるというゲームバランスなので、決定打とはいかないのだが。
乃内銅志も、ただ何回も苦杯をなめていたワケではない。
プレイヤーは生存者、殺人鬼双方がプレイを繰り替えす中でポイントを取得し、それを消費しPark(特権)を得ることができる。
痩せ犬の男子も、『窮鼠の一撃』、殺人鬼との1対1の状況で攻撃を加えると15秒間動きを止められるParkを取得していた。
なお、一回使用すると1分のクールタイムが入る為、これのみで殺人鬼をハメ殺すことは不可能である。
それでも、この咄嗟の判断の速さは、熟練プレイヤーの面目躍如か。
「死ねや整形女がぁ!!」
「ちーがーいーまーすぅー! ていうかアバターで整形も何もないでしょ。
ていうか、もしかしてそれは『姉坂透愛』の事であたしとは関係なくない?
ここは愛坂クリアのゲーム配信だしー! ここでできるのはあたしと遊ぶことだけだよー」
「ざけんなてめえの有利な勝負ふっかけてイキってんじゃねえよダッセェチーターのクズがよぉ!」
安全なネットの向こうから一方的に悪意を叩きつけておいてどの口が、という立場の痩せ男子だが、こういう身勝手な性格だからこそヒトを傷つけられるのだろう。
激情に任せて振り回される、血に濡れたような手斧。
しかし、ピンク髪の殺人鬼は狭い通路を天井スレスレにまで飛び上がると、かわせないはずの一撃を回避する
こうなれば、痩せ犬少年は完全に無防備だった。
がら空きの背後、その後頭部めがけて、血濡れの大釘が突き込まれる。
「――――っとぉ!!」
「がべぇ!!?」
寸前、ふたりの僅かな隙間に滑り込む、黒いフード付きジャケット。
リヒターはピンク髪の少女の釘を跳ね上げ、男子の方は安全距離まで突き飛ばした。
少々勢い余って頭から壁に激突していたが。
「おっとっと!? いきなりだなぁリヒターは! しかしその思い切りやよし!」
軽やかに飛び退くピンク少女は、更に後方宙返り。
リヒターも相手から間合いを取るが、
「透愛……え? 待った、コレは……どうなってる!?」
いざ正面から相手を見たなら、硬直してしまう。
一瞬誰かと思ったが、見た目は完全に姉坂透愛のVtuberキャラ、愛坂クリア。
しかし相手から感じる思念は、アンダープラハで遭遇したドミナスに近いモノだった。
(なんだこれ!? ファージ!? ドミナス!? 透愛さん!!?)
「ん? 透愛ちゃん、コスプレ??」
ワケがわからずパニくる陰キャの、後方。階段の踊り場から現場を覗き込むのは、メガネの先輩、姫岸燐火である。
透愛のリアルアバターを目の当たりにし、目を白黒させていた。
透愛の部屋でパソコンの画面が光り、なぜかゲームの舞台のようなアンダーワールドに入ってしまったところから、理人と燐火はふたりして右往左往し、至るこの状況。
その極めつけが、これ。
何を想像しても、最悪の状況である。
「えーと……………………と、透愛さん?」
「ん~? どうかなー、どうでしょう? リヒターはどっちだと思う? アタシは透愛かな? それとも……みんなのアイドルVtuber愛坂クリア?
どっちがリヒターの好みかなぁ~ん??」
「い、いや好みとかそういう問題ではなくて」
いかんさっぱりわからん、と色々な意味で追い詰められる陰キャ。相手のキャラクターにも押され気味。
これは愛坂クリアの皮を被っただけのファージなのか、それとも『エッグ』のせいで変になった透愛本人なのか。
理人の勘は、目の前にいるピンク髪Vtuberは姉坂透愛だと言っていた。
根拠が勘しかない上に、それはそれで大問題なので認めなくない可能性ではあるが。
エッグを吐かせてどうにかなるかな。食べたのは大分前だからもう無理か。
「『エッグ』はドミナスの卵……ってことか。
透愛さんが食べたのは、偶然じゃないな!?」
「ホントはリヒターとくっ付くつもりだったけど、それだとリヒターを近くで見る事にはならない、と思ったの、かな? 多分……。
だから、リヒターの一番近くにいた人間にしたんだよねー。もうひとりの方でもよかったんだけど」
自分の事を、他人の事のように言うピンクドミナス(暫定)。
だが、内容の方は半ば理人の予測を肯定しており、陰キャの焦りを掻き立てる事となった。
「……オレになんか用なの? それなら透愛さん解放してくれないかな。オレに用があるなら付き合うから」
「理人くん透愛ちゃんと付き合っちゃうのぉ!?」
「り、理人くん付き合ってくれるの?」
「はッ!? 違う違うそういう『付き合う』じゃない!!!!!」
なんにしても透愛は助けなくてはならず、目的が自分だというなら、ある意味好都合。
そう思い注意を引こうと考える理人だが、セリフを変な取られ方して慌てる事になった。
というか今一瞬透愛に戻っていなかっただろうか。
そして燐火からも悲鳴をいただき、リヒター、何故か3対1の圧倒的不利な状況である。
「ハッキリしないのよくない! あたしたちの気持ちしってるクセにー!」
「すいません」
もうなんも言えない。
なぜ自分はこんな局面で説教されているのだろう。
でも陰キャ童貞にはハードル高過ぎるねん
「でもまあそれなら……とりあえず付き合ってもらっちゃおうかなー。
罰ゲーム付き耐久ゲーム配信にな!」
「――――は? え!? ち、ちょっと待って!!」
ドミナスではなく恋の難問が立ち塞がったがこんなの超能力では対処できねーよ。
内心でそんな悲鳴を上げていたならば、その間にも有能配信者は話を先に進めていたりする。
世界が目まぐるしく場面転換していた。
キャラクターセレクトとプレイヤーマッチング画面は一瞬で通り過ぎた。
目の前には、非常灯のみが点いた、ある建物内。
デッドチェイストワイライト履修済みの理人は、よく知っている光景だ。
ショッピングモールステージである。




