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勘違いはしない。誓って。  作者: 紙飛行機
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scene1


 僕、橋本(はしもと) 基通(もとみち)の通っている高校はいわゆる自称進学校で、クソみたいな教師がつまらない授業をしている。今は現文の授業である。自分が最も苦手な教科だ。

「え〜、今日は5月21日だから…」

 この教師は今日の日付と出席番号を照らし合わせて問題を当ててくる面倒な奴だ。しかし今日当たるかどうか予想しやすい点は感謝している。宿題の問題を黒板に板書しなければならない方式だ。今日は当たらないはず…

「5と21を足して…27番、問4の(1)を」

 なんてこった。『おい、計算間違ってるぞ!!』と言いたいのだが僕にそんな意気地はないので素直に板書をすることにした。

「あ…この問題解いてなかった、ヤッベ」

 やって来てない問題に限って的確に当ててくる教師って居るよね!畜生!

 しばらく黒板の前で考えていると、


「ん…?もしかして担当の問題わからなかったの?しょうがない、優しい私が見せてあげよう!」

 聞き馴染みのある声…というか、最近意識しなくても聞こえてくる人の声が聞こえた。

姫路(ひめじ)さん…。もしよかったらそうさせて欲しい」

「いいってことよ!」


 姫路ひめじ(まい)さんとは高2から同じクラスになった子だ。性格はとても明るく女子グループの中でも目立っている。その上見た目もかなり良い。うちの高校は服装や髪色などの自由が少ない高校なので目立つ格好はできないが、もしもそういう校則がなければ姫路さんはギャルになっているのだろう。自分とは住む世界が違う。なので、少し優しくされたからってすぐ好きになってはいけないのだ。



「好き…」

「ハッシー、キモいぞ」

「知ってる。」

「即答かよ。自己評価低すぎじゃない?まぁ妥当な評価だけど。」

「ひどい!」


 僕のすぐ後ろの席に座っているこいつは日生(ひなせ)海里(かいり)。1年からの友達で、趣味が同じでかつ陰キャ同士なので波長が合うのだ。


「どうせさっき姫路に少し優しくされたくらいで好きになったんだろう?姫路さんってめちゃくちゃかわいいし。もう告白しちゃえば?そしてフラれてこい」

「そうですよ、どうせフラれる。失敗するとわかっている事に挑戦する意味がないだろ。それに好きじゃないし。」

「あれ?さっき好きって言ってたような…」


 授業中なのであまり長々と会話は出来ないので授業に集中することにした。


「じゃあ次、問4。担当のヤツは誰だ?どうしてこれを選んだか説明してくれ。」

 やっべ理由考えてなかった。まあ適当に言っときゃいいだろ。


「えっと、まずこの傍線を引いているところなんですけど、えー…」

 ふと机の上に紙切れがあるのが見えた。不意に開けてみるとこの問題の解説が書かれた紙だった。誰か知らんが有り難い。この紙の文のまま言って説明を終えた。


「素晴らしい。そんな完璧な答えできるのに…」

『のに…』って。僕の成績のことを言いかけたな、こいつ。

 周りを見渡してみると、左前に居る姫路さんと目があった。『完璧だったでしょ?』と、笑顔を浮かべながら小さな声で言ってきた。そうか、姫路さんがカンペをくれたのか。『ありがとう』とクチパクで答えた。姫路さんはすぐ前を向いて授業に集中していた。真面目だなぁ。




 昼休み。うちの学校は廊下が広く取られ、そこに大きい机とコロコロのついた椅子があるのだ。なにやら、生徒や先生との交流の場にする、とか学校のパンフレットに書いてた。海里と僕はそこで昼飯の弁当を食べる。

「コロコロの付いた椅子があると遊びたくなるよな」

「それで廊下の壁を破損した奴が居るらしいよ」

「よし、この壁を全力で蹴ってどこまで遠くまで行けるか勝負しようぜ」

 僕の忠告を聞いてなかったのか?中学生かよ。まあ、1年生はほぼ中学生のようなものだろう。なんて上から目線で考えている自分をふと客観視してしまうと格好悪いなぁと感じる。


 弁当を食べ終えて教室に帰ってきた。自分の席付近で姫路さんの居るグループが占領している。しかも僕の席には姫路さんが座っていると言う…。席においている鞄に弁当を放り込もうとして近づいて、そういえばさっきの感謝をきちんとしていないと気付いた。礼をすべきだがクチパクでやったし会話の邪魔をするのはと思い、弁当を鞄に放り投げた。さあ、授業までどこに逃げようかと思おうとした矢先に姫路さんがすぐ振り返った。


「お、橋本くんじゃないか!国語の時間、教えたとこ、完璧だったでしょ!でも今度からはちゃんと宿題やってくるんだよ!国語が苦手だからってやらないのは怠慢だよ?」


 話しかけてくるとは思わなかった。

「あ、姫路さん。さっきはありがとう。ホント助かったよ。」

「ところでこの席って橋本くんの席だよね、よけようか?」


 どうせ退ける気は無い癖に…とは思ったが定型文で返した。

「いや、ゆっくりしていいよ」

「え、そうなの…?ホントに、邪魔だったらすぐどっか行くから言ってね…?」


 僕の行く場所が無いのを知っているかのような言い草な気がする。胸が痛い。

「わかった」と言い、教室を後にした。

 姫路さんグループの方から『舞って橋本に異常にやさしくない?もしかして…好きなの?』とか言ってる。そんな会話聞きたくない。どうせ何とも思ってないさ。なんか気分が落ち込んでしまった。

『え!?な……』

 あー、聞きたくない。はやくどっか行こう。こういう時は図書館が良い。静かで落ち着くし、雑誌があるので雑誌を読めば時間はすぐ過ぎる。


 そうこうしているうちに予鈴がなったので教室に戻ると、僕の席に姫路さんは居なくなっていた。座ると座面がまだ温かかった。



 次の時間の数学の教科書を机から取り出すと表紙に付箋があった。きれいな字で「ごめんね」と書かれていた。姫路さんからだろう。そのとき、姫路さんからの視線を感じたが、おそらく他の方向を見ているのだろう、姫路さんを見ないようにした。


 数学の授業中、ふと姫路さんと目線が合った。かわいい、優しい笑顔だった。こんなの好きになるじゃん。ならないけど。好きになってもどうしようもないから。



 HRもすぐに終わり、放課後。駅までの道を海里と歩く。ふと今日の姫路さんとの会話を思い出した。そういえば、どうして僕が国語ができないことを知ってるんだろうか?

「どうした?顔赤くね?」

「正面を見てみろ。夕日があるだろ?」

「バカボンの世界かよ、太陽は真後ろだ。」

 姫路さんは僕のことが好きなんじゃ…?とか一瞬でも頭をかすめてしまった。危ない。

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