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82,ログアウト、最後まで解けない誤解。


 筋力粒子が陽光を受け、煌めきながら天へと昇っていく。

 まるで、ナイアルラトの魂を天界へと運んでいくように。


『――先に説明したが。神が下界に降臨するのはキミたちがゲームブックにログインするのと同じようなもの。つまり今、キミが砕いたのはナイアルラトの仮身体アヴァターラだ。キミは、ナイアルラトの命を奪った訳ではないよ』

「わかっておる」


 ワシが魔王チョップを振り下ろす事を躊躇わぬよう、ナイアルラトへ飛び掛かる前にオッディが教えてくれた。もしこの事を知らずとも、ワシはチョップを放ったじゃろうが……おかげで、気は少しだけ楽じゃな。


『あとの【けじめ】は我々で着ける。キミは安心して――例の計画を進めたまえ』


 ……以降、オッディの声は聞こえなくなった。

 天界の方での準備もあるじゃろう。余韻に浸る暇などないか。


 さて、計画を進めるとなると……まず、必要なのは勇者への協力要請じゃな。

 前もって説明せねば、勇者に要らぬ負担をかける事になってしまう。


「む?」

「おっと、だぜ」


 ひゅぽんっ、と言う間抜けな効果音と共に、ワシの体から何か大きなものが抜けていく感触。

 同時に、ワシの傍らにグリンピースが出現した。


 ふむ、完全に戦闘が終わり、イケメン泥洹が解除されたか。

 ワシは元通り、黒い幼女――いや、元はジジィじゃ。

 危ない、何かもうこの幼女ボディが本来の姿みたいな感覚になってきとる。

 マジで危ない気がするこれ。


「チッ、御褒美タイム終了だぜ……」

「心底から惜しそうに言うな」


 まごうことなきイケメンじゃのに、貴様は時々気色悪いな。まったく……。


「しっかし、マスター……オッディからの話は聞いていたが、マジでやるのかだぜ? 確かに全部が全部、丸く収まるかもだが……きっと、泣いちまうほど辛いと思うんだぜ?」

「……わかっておる。それでもワシは、皆が笑い合える未来が欲しい」

「欲しい、か……そうかよ、だぜ」


 それだけ言って、グリンピースはワシの頭をそっと撫でた。


「誰かのせいでそうなるんじゃあない、誰かのためにそうしたい……そう言う事なんだぜ?」

「うむ」

「マスター。こいつは俺の持論だが、犠牲になるのと、献身を捧げるのはまったく違う事なんだぜ。マスターのそれは、立派な献身だと思うんだぜ」

「独り善がりでなければ、良いがのう……」

「大丈夫だぜ。例え世界中の誰も彼もが敵に回ったって、俺だけは、マスターは間違って無いって叫び続けるんだぜ。なにせ俺は、マスターのイケメンだからな、だぜ」

「……ありがとうなのじゃ、グリンピース」


 これからワシは、孤独な戦いに赴く事になる。

 そんなワシに取って、この言葉は大きな支えとなるじゃろう。やり遂げるパワーを、きっと与えてくれる。


 優しく微笑むグリンピースを見て、改めてイケメンじゃと思う。


「おいおい、マスター。愛称も良いけど、ここはちゃんとした名前で呼んでくれた方がぐっとくる場面だぜ?」

「……? ちゃんとした名前?」


 何の話を……って、むお!? 何じゃ!?

 突然、ワシの周囲に光の環が……!?


「これは……ログアウト反応だぜ!?」

「なに!?」


 ログアウト――即ちゲームブックの外に出されるのか!?

 ワシはログアウトなぞ指示しておらぬぞ!?


「多分、運営からの強制ログアウトだよ!」


 そう言うフレアの周囲にも、ワシと同じように光の環が。

 勇者ユシアとチシャウォックの周囲にも――ってチシャウォックもプレイヤーじゃったのか!?


 いや、今はそれよりも、どういう事じゃ!?


「ボクが知る限り、イケバナがイケメンカイザーの手に堕ちてからもう三日は経っている……外の運営だって、さすがに異変に気付いてても不思議じゃない、と言うか気付いてなきゃおかしい!」


 なるほど。もしイケバナの異変に気付けば、具体的に何が起きているかを問わず安全第一として運営は即座にプレイヤー、つまり客の救助を試みるじゃろう。それが強制的なログアウト。

 今まではナイアルラトに阻まれておったじゃろうそれが――ナイアルラトが退去した事で、実行されつつあるのか!


 ちょっと待て、まずい!

 ログアウトできるのは良いが、色々と皆に説明せねば――まずはマーくんたち!


「イケメンたちよ! 良いか!? ワシらには策があるのじゃ! 必ずやイケメン・ニルヴァーナのサービス終了は回避する! じゃから自棄になるなよ!!」

「……ふむ、わかったでしゅ。期待して、良いのでしゅね?」


 マーくんの問いかけに、ワシは筋力を込めて全力で頷いた。


 次は勇者じゃが――くッ、ダメじゃ。もうほとんど、幼女ボディの感覚が無い!

 発せられるとしてもあと二言か三言! それだけでこれからの事をすべて説明して協力を仰ぐとか無理じゃ!!


 ここは――


「フレア!」

「にゃ?」

「すまぬが現実に戻ったら、勇者に説明を頼む!」


 現実世界でワシと勇者が接触できる可能性は極めて低い……と言うか、今後の計画を考えると、下手に接触して打ち合わせなどして、それを誰かに見聞きされてしまってはマズい。すべてがパァになる危険性もある!

 ここは女神であるフレアを頼ろう。天啓とか色々、方法はあるじゃろう!


 ワシの意図が伝わったらしく、フレアは「うん! おけまる!」と親指をぐっと立てた。


 頼んだぞ!


 そう叫ぶ前に、ワシの視界は白い光で塗り潰された。

 ゲームブックにログインした時と同じじゃ。


「……さぁ、始めるぞ」


 現実世界へと、意識が引き戻されていく感覚――不思議な浮遊感を覚えながら、決意を込めて拳を握る。


「魔王として、最()の仕事じゃ」





「虚構美男革命編」読了いただき、ありがとうございました!


アリスパパとマルク・ハンスのコンビが太い棒でナイアルラトの御尻をめちゃくちゃにする幕間を挟み、次次回より遂に最終章となります。



現実世界へと戻ったアリスは、イケメン・ニルヴァーナを救うべく行動を開始する。

それは同時に、世界に刻まれた負の歴史を払拭するための――献身でもあった。


そう、これは献身だ。

仕方無く犠牲になるのではない。誰かのせいで消費されるのではない。

この世に在るすべての誰かのために、アリスは自らの意思で拳を堅め――戦う。



今こそ、【真の魔王】と成り、

この世のすべてに、筋肉的宣戦布告を叩き付けるのだ!!



世界は筋肉によって激動し、

そして未来への頌歌アンセムを奏でる!!



千年筋肉の物語、

第一部【虚構美男革命イケメン・ニルヴァーナ】――最終章!


筋肉奏曲(マッスル)世界への頌歌(フォー・アンセム)


乞うご期待!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 最初読んでた時はギャグ小説かと思ってましたが、まさかここまで涙腺を刺激してくる作品とは露にも思ってませんでした。 ここまでギャグとシリアスのバランスが良い作品は商業誌であっても少ないと確信…
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