80,総攻撃だよ! 全員集合!!
――ナイアルラトは興奮している。
どこまでも思い通りにならない現状にとても昂っている。
ついに最後も最後の手段、神パワーまで出す羽目になった。
だが、仕方無い。
ナイアルラトが求めている屈辱は、八百長試合の先には無い。
尽くせる手はすべて尽くした上で、そこから台無しにされるのが最高に気ン持ち良いのだから!!
だから使う、神パワー!
さぁ、どう出る? 千年筋肉。
それともさすがに神パワーの前では手も足も出ないだろうか?
それはそれで良いだろう。蹂躙だ。散々プランを台無しにしてくれた、まったく思い通りにできなかった相手をついに攻略できる……その感覚も気ン持ち良いだろうから!!
つまり! どう転んでも!! お得!!!!
無数に生み出した口で舌なめずりの大合唱!!
ナイアルラトが熱のこもった息でハァハァし始めたその時、千年筋肉――幼女アリスが動いた!
パァン! と両手を叩き合わせて、自身の体内で筋力の高速循環経路を作る構え。
奇しくもその姿は、神に祈らぬ魔王に不相応……敬虔な祈りを捧げる幼い聖女に見えた。
「フィールド展開――筋力特異点【パワー・オブ・マッスルヘイム】!」
「へぇ……フィールド展開かぁ?」
アリスが放ったのは、攻撃ではなかった。
世界を温かく満たす筋力……ここに在るすべての生へ、己の筋力を平等に分け与える優しきフィールド!
アリスの筋力量を考えれば、とても脅威的な効果だ。
しかも、神スペックを解放したナイアルラトは下界生物のフィールド効果など受け付けはしない。つまり、ナイアルラト以外にアリスの筋力を共有できる訳だ。
ナイアルラト対ナイアルラト以外と言う構図である現状、これほど優れた強化も無いだろう。
「でもぉ、たかが知れているよぉ。所詮キミたちの戦力は――」
『セフィラ・ダート、復旧可能。ただちに再起動する』
「えッ」
セフィラ・ダートの音声ガイドを皮切りに、その場にいた全員が一斉に立ち上がった。
その顔色は――元気いっぱい!!
「ば、馬鹿な!? 筋力を分け与えられただけだろぉ!? 何で私の権能の効果が解除されているんだぁ!?」
「知るかでしゅ! 嫌な気分にさせやがって、許さないでしゅよ、絶対に! さぁ、反撃再開でしゅ!!」
マルクトハンサムの咆哮に呼応して、美美美美美美を筆頭に行動再開!
ナイアルラトは余りの事に泡を喰いながら一時後退。下がりつつ影の泥人形を増産し、ひとまず活気を取り戻したイケメンたちへぶつける! 神パワーを帯びているだけあり、名無し貌無しの人形とは思えない強さだが――元々強い上に数も多い、更にアリスから筋力を分け与えられた軍勢が相手では、鎧袖一触!!
景気良く、泥人形たちが粉々になって宙を舞う!
「くッ……ぞろぞろと小賢しい! まずは私の邪眼で一気に数を減らしてやるぞぉ!」
ナイアルラトは泥のような輪郭いっぱいに無数の目玉を浮かび上がらせ、ぎょろぎょろと動かす。照準を定めているのだ。だが――
「させるかっての! セバス!」
「またでございますかメェ……ですが喜んで!!」
勇者ユシアが片足をあげて、勇者カリバーを振りかぶった。そして見事な一本足打法を以て、羊系執事イケメン・セバセルジュの尻をひっ叩く!!
するとセバセルジュの嬌声と共に、ナイアルラトの視界を埋め尽くすほどの羊毛壁が発生!!
勇者パワー……つまり神パワーに近似するパワーを帯びた羊毛の壁だ!
不特定多数を狙う広域拡散型、即ち点の貫通力の低い邪眼攻撃を防ぐなど造作も無い!!
「ウフフフ、相変わらず小癪だよぉユリーシアちゃぁぁん! 確かに勇者パワーは神パワーに対抗できなくはない、だけどそれは瞬間的な話なんだよねぇ!!」
ナイアルラトは眼球を更に増殖! しかも開眼率もアップ!
邪眼の視線に大量の神パワーを注ぎ、力づくで羊毛壁を突破するつもりだ!
だが……それが悪手である事をすぐに思い知る!!
「拙者の術式に取って、恰好の獲物でござるな」
そんな言葉と共に、羊毛壁をひょいと越えて飛んできたのは――タマネギの巨大爆弾。
タマネギの表面にはぎょろりとした大きなお目目がひとつ。
ベジタロウ謹製――術式鬼怨加工、巨大野菜爆弾である。
「え? あ。ちょッ」
タマネギ巨大爆弾と目が合って、ナイアルラトは察したが――もう遅い。
炸裂するタマネギ。飛散するタマネギ汁。
それを受け止めてしまう、ナイアルラトの無数の瞳。
「ぅ、ぎ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!???」
悶絶!! ナイアルラトは「眼がぁ、眼がぁあああ!!」と絶叫しながら無数のお目目をぐしぐしせざるを得ない! つまり眼が痒過ぎて重度のスタンに陥り、無防備状態!! 邪眼攻撃も当然中断!
そんなナイアルラトの周囲に、まるで太陽のような極熱の炎が躍り始めた。
「急に熱ッ!? 私、クトゥガーのせいで熱いのはあんまり好きじゃあないんだけど!?」
「そうか、それは朗報だ」
神秘的なイケボーーその主は、紅い羽衣を纏う、太陽のような山吹髪のイケメン。
――神イケメン、プロメテス!!
アリスのフィールド展開で分け与えられた筋力により、ついに復活した!!
「その声は、私の事をこそこそと嗅ぎまわっていた神イケメンかぁ!? 見えないけどぉ!!」
「イケメンカイザー……いや、ナイアルラト・ホテップ。イケバナに仇名す神よ。イケバナに繁栄をもたらす神である我が、汝に無慈悲の火をくれてやろう」
プロメテスが、ナイアルラトへとかざした掌をぎゅっと握る。
それに合わせて、ナイアルラトの周囲で踊っていた極炎が、ナイアルラトに向けて集束――即ち、神の業火がナイアルラトを包み込んだ!! 丸焼きである!!
「ぐああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!??」
「ナイスだよユッち、ベジっち、プーちん!」「ぬー」
業火が飛散し、黒焦げになったナイアルラトへ、次に牙を剥くのはエレジィ&チシャウォック!
チシャウォックを頭に乗せて華麗に飛翔しながら、エレジィは周囲にある周波数をバラまいた。
それは――ねこねこ☆大集合音波!
エレジィに呼ばれ、大量の黒猫ちゃんたちが戦場を横断していく!!
危なくない!? と心配する事なかれ、特殊な訓練を受けているイケバナの黒猫たちは流れ弾に当たるようなヘマはしないのだ!!
「な、何だ!? にゃーにゃー聞こえる!? まさか猫ぉ!?」
「ぬっぬっぬっぬ。確かおぬしは重度の猫アレルギーだったはずだぬぅ」
「ッ、その笑い方はまさか、エジパト・クランのブバスティーーへくしょいあぁああッ!?」
大量の黒猫たちが足元を通り過ぎていく。
その擦れ違い様にバラまいていったフケが、ナイアルラトの粘膜を攻撃し始めた!!
「わー、すっごいくしゃみ。チーしゃんの言う通り、効果てきめんだね。よくあいつのアレルギーなんて知ってたね?」
「旧縁だぬぅ。ぬっぬっぬ。愚か者の悪行を予期していたのがオッディだけだと思ったら大間違いだぬぅ」
「何の話?」
「こっちの話だぬぅ。それより、ヒット&アウェイだぬぅ。味方の攻撃に巻き込まれたらそれこそ愚の極みだぬぅ」
はいは~い、とエレジィは旋回。黒猫たちを引き連れて、ナイアルラトから距離を取る。
そこへ待っていました辛抱たまらんとでも言わんばかりの勢いで突進してきたのは――水色のレーザービーム!! 否!! 水色の閃光が駆け抜けたと見紛うほどの速度で、アリスのフィールド外、遥か彼方の空より突っ込んできた水色の巨大蛇龍!!
「オホホホホホホホホ!!」
悪龍令嬢、キャパーナ!!
「へくしょぉい! ……って、ちょ、待てキミ一体どこから湧いてべぶるぁああッ!!!?!?」
ナイアルラトが質問し終えるよりも先に、キャパーナの全力タックルがナイアルラトを全力で吹っ飛ばした!!
「オホホ、ゥオホホホホホ!! どこから湧いたか!? 全力で愚問ですわねぇ!! さっきからあれだけ全力で戦っておいて、全力センサーがビンビンになっていしまうに決まっていますでしょう!? ええ、ええ、まだ暴れ足りませんが……わたくし、全力で空気を読めると言う自覚がありますので、ここは一旦、全力でそのまま駆け抜けますわぁ!!」
ステージの中心を譲り渡すように、キャパーナはそのまま天へと駆け上がり、アリスのフィールドを突き抜け更に雲の向こうへと消えていった。
そんなキャパーナに代わるがごとく、ナイアルラト目掛けて吶喊を仕掛ける影――爆炎に乗る陽気な女神、フレア!
「次はボクの番だ! 同じ神として、落とし前を付けるよ!」
「へくしっ、ぶしっ……くっ、次は女神・フーレイアか!?」
「ヴァーン、キミの力を貸してくれ!」
フレアが取り出したのは――アリスと共に入手していたマルク・ハンスの手紙!
それは、互いに最高の絆を結んだプレイヤーとイケメンを至高のカタチへと導くキーアイテム!
即ち、イケメン泥洹の時!
フレアとヴァーンの絆の強さは言うまでもない!
何せ初めて会った時に運の命を感じ合う衝の撃が駆け抜けた関の係だ!!(※諸事情によりフレアに取っては存在しない記憶です)
マルク・ハンスの手紙が輝き、足鎧から噴き出した爆炎がフレアを包む。
爆炎を引き裂いて顕現したのは、紅い焔を全身に纏い、爆炎の獣耳ともふっとした獣尻尾を生やした状態のパワーアップ・フレア! あえて名を付けるならフレアヴァーン!
「アリスちゃんのパワーも借りて……いっくぞぉ! にゃあああああああああ!!」
高らかに吠え、フレアヴァーンが跳ぶ。
「う、ウフへくしょい! どうしてキミたちが満足に動けるのかは謎過ぎるが……私だって神パワーまで使っているんだぁ! このまま無抵抗でやられる道理は無いよねぇ!! ぶぁっくしょい!! 迎撃するよぉ!!」
アレルギー性のくしゃみに苦しめられながらも、ナイアルラトは神パワーを練り上げる。
ナイアルラト自身はクラン内でのちょっとした因縁から炎が苦手だが、神として大地の属性も持っている。神パワーを流し込んだ大地属性攻撃は相当のものだ。大地属性は炎属性に有利を取れる、それでフレアヴァーンを迎え撃とうとした!
だが――フレアヴァーンに狙いを定めようと振り上げた腕は、そのままナイアルラトの意思に反して後頭部へと回された。腋見せポーズ……ではない!
このポージングは間違い無く、やる者によっては非常にセクシーなポーズの代名詞、アブドミナル・アンド・サイだ!!
「ッ!? どうして私は何の脈絡もなくアブドミナル・アンド・サイをしているんだぁ!?」
当然、この状況でこのポーズ……ナイアルラトの意思では無い!
不意に、ナイアルラトは奇妙な気配に気付いた。
イケメン・キャッスルの残骸でできた小高い丘の上で仁王立ちする影がひとつ!
そのポーズはあまりにもセクシーなモストマスキュラー!!
「吐き気を催す邪悪を撃つべく集うセクシーたち。その輝きをセクシーと呼ぶ。さぁ、セクシーが必要とされているのならば、応えよう」
「だ、誰だぁキミはぁ!?」
「ノット・セクシーに名乗るセクシーは無い!!」
そこに立っていたのは、局部だけが蛇の鱗で覆われた変態――みんなのビギナエル!!
しかしただのビギナエルではない……そのセクシーの極致にある肉体には、黄金のオーラを纏っており、厚い胸板の中心にはぎょろりと蠢く巨大な眼、頭頂部には犬の耳を生やし、お尻にはハムスターの控えめ尻尾、背中には虫のような翅が!!
このビギナエルは――ゴールドさん、パニプゥ、キカンゲティ、コプンガッチの四名を取り込み、更にセクシーの高みへと昇りつめたビギナエル!
実は先ほど、イケメンカイザーをボコボコにする催しの気配を感じ取ったゴールドさんがゴールデン・課金合体で黄金怨霊ゴルドーンとして参戦しようとしたのだが……合体の際にビギナエルが所持していたマルク・ハンスの手紙がバグってイケメン泥洹が発生!
ゴールデン課金合体はセクシーああセクシー合体としてビギナエルに乗っ取られた!!
そして至ったこのセクシー神話、あえて名を付けるならばビギニング・セクシーワールド!!
ビギニング・セクシーワールドの胸部邪眼の効果は、見据えた標的にセクシーなポージングを強制、それ以外の行動の一切を放棄させる!!
よって、ナイアルラトは今、セクシーなポーズを取る以外に何もできない!!
「ちょっち気持ち悪いけどありがとうだにゃあ!!」
天高く舞い上がったフレアヴァーンはそう御礼を述べ、ギュルルルルルルルと超爆速回転!
そして落下しながら放つのは、超強烈な回転爆裂踵落とし!!
「ちょぉ、マジで待っ――」
「強烈筋力蹴撃――【超大極・爆墜斧】ッ!!」
アブドミナル・アンド・サイから動けないナイアルラトに、強烈な爆撃と踵が襲いかかる!!
ギルティナーー罪科ある者に裁きを下す刃。
その名を冠する女神の鉄槌が、炸裂した!!