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78,あらゆる悪をハンサ無へと還す虹の暴力、ハンサム・ノヴァ!


 クツルフ・クランの神々は特異である。

 その神話では、元々この星に存在していた【旧き神々】と、宇宙の果てにあるゲートの向こう――即ち異なる世界からやってきた【異形の神々】の邂逅、闘争、共生、人間や魔族への介入などが描かれる。

 神話は天界での歴史を脚色して下界に下ろしたものであり、大筋は同じだ。


 ナイアルラトは、異形側の神々に属する。

 ひとくちに異形側と言っても、一枚岩ではない。この星にやってきた理由は様々だ。


 ナイアルラトの場合、娯楽に飢えていたから。

 宇宙の果てで、ナイアルラトはぬぐい切れない倦怠感に包まれていたのだ。


 ナイアルラトに取って、この星は到達点などではない。

 暇潰しの旅の途中で、なんとなく腰を下ろした切り株のひとつ……と言った所だ。

 異形の神に取って、遊星などその程度のものなのだ。

 異形の神は銀河規模で生きているのだ。


 ひとつの星どころか大陸から出るのにも四苦八苦する下界の生き物など、玩具にする以外にどんな価値が見出せる?

 だがそんな他愛無い玩具のひとつに、ナイアルラトは一杯食わされる事になる。


 ある猫好きの人間がいた。若い男だった。

 男は不思議な力を持っており、様々な冒険をしていた。

 時には人間の身でありながら神の領域に足を踏み入れる事もあった。


 偶然にその男の存在を知ったナイアルラトは、なんとなくでちょっかいをかける事にしたのだ。

 理想郷を求めて神の領域に踏み込んだ男に、様々な災難を与えた。


 だが、それらはことごとく乗り越えられてしまった。

 男は今までに助けてきた猫や、偶然に気に入られた神の手を借り、ナイアルラトの用意した筋書きをすべて台無しにしていったのだ。


 屈辱と同時に、覚えたのは恍惚。


 楽しい。愉しい。気持ちい。

 ああ、ああ、知るはずもなかった、こんな快感。

 だってナイアルラトは神だもの。そのパワーに不可能など存在しないはずだった。あらゆる事を望むままにできた。


 だからこその倦怠感だったのだと気付いた。


 思い通りにならないからこそ、おもしれーのだと思い知った!

 怒り、恨み、悶える事はスパイスだ! 生きてるって感じがするぅ!!


 決して思い通りにならない一人の人間が、ナイアルラトに取り返しのつかない性癖を刻み込んだ!!


 そして次に現れたのが千年筋肉だ。


 ああ、腹立たしい。

 イライラする。

 恨めしい。

 もどかしい。

 むずむずしちゃう。


 だからこそ、好い!!


 大好きで仕方なくなってしまう!!


 もっとだ。

 もっと、自分好みにカスタマイズして、もっともっと上質なだいしゅき体験を、おもしれー体験をしたぁい!!


「――ああ、そしてこれもまたスパイスだねぇ!!」


 追憶に浸っていたナイアルラトの意識が、現在に引き戻る。


 超・巨大機械巨人こと魔神イケメン・インフェルノβと一体化したナイアルラト。

 その無数の紅い瞳に、強烈なイケメンたちの姿が映る。


 たかがイケメン如きが、思い通りにならない抵抗をみせている。

 それも、きっかけは千年筋肉だ。千年筋肉の抵抗から誘発していく形で、今の状況がある。


 即ちこれもスパイス。

 大好きでたまらない千年筋肉による抵抗!!


 上質なおもしれー体験!!


「ウフフフ……ウハハハハハハハハハ!!」


 イケメン・インフェルノβの触手たちにパワーを滾らせ、臨戦態勢。

 足元のちんけなイケメンどもに狙いを定める。


「イケバナに取って破滅的怨敵。許す道理など完全的皆無」


 坊主頭のクンフゥ・イケメン、リン・シェンヴがコォォォ……と静かに息を吐いた。


 マルクトハンサムが発令したイケメン大招集は、招集対象へ瞬時に招集理由を共有し招集に応じるかの否かを問う。つまり、リン・シェンヴはすべての事情を既に把握している。

 世界を滅ぼすなど、よほど退廃思想を拗らせていない限りはブチギレて当然!

 そして、リン・シェンヴの額に浮かんだ青筋の理由はそれだけではない!


「だが何より……あの最高的魔王(おもしれーようじょ)に害を為した事が腹立たしい!!」


 そう吠えて、リン・シェンヴが大きく一歩、力強く踏み出した。


 たった一歩で大地の核を穿ち、相手の行動キャンセルと短期的スタンを確定発生させる拘束的技巧【(チャオ)大震脚(ダゥシンキャク)】。相手のサイズなど関係無い、地面に脚をついているのならば、この技は有効である!!


 よって、イケメン・インフェルノβが狙いを定めて準備していた触手攻撃もすべてキャンセル!!


「この怒りは最大的憤怒! 故にこれより先の一切、お前の思い通りになる事などひとつも無いと思え!! 一方的イケメン蹂躙だ!!」

「ウフフフ! 神を前に大口を叩くじゃあないか! 思い通りにならないのは望む所ではあるけどねぇ……残念ながら、ちまちました小技をいくら放ったって私をどうこうできるはずが無いんだなぁ!! わからないかなぁ、イケメンごときじゃあさぁ!!」

「あはは、騎士が相手だからって、一騎打ちをしてもらえるとでも思ってます?」


 その声は、イケメン・インフェルノβのすぐ耳元。

 無数の紅い瞳で声の出所を見てみれば、そこには霧の塊――霧化状態のジャンジャックが。そしてイケメン・インフェルノβの無数の瞳がすべて自分に向いたのを待っていましたと言わんばかり、ニコッと微笑んだジャンジャックは、その霧の体の内から大量のメスを露出、そして射出した!!

 メスの雨は真っ直ぐ――イケメン・インフェルノβの無数の瞳をひとつひとつずぶしゃずぶしゃと刺し穿っていく!! めちゃくちゃ痛そう!!


「さすがにぐあああああああああ!? 痛ッ!? 普通に痛いなぁこれはぁ!? しかもこれ何か辛い系のソースまで塗っているね!? えげつな過ぎるんじゃあないかなぁぁぁああああああ!?」

「あははははははは!! いやぁ、急所がいっぱいある敵を攻撃するのは楽しいなぁ!! イケバナが滅ぼうが続こうがどうでも良いけど、うん、この獲物を嬲るのはとても良い!!」

「がはははは! 相変わらずみてぇだなぁ!!」「まぁ、それでこそジャンジャック殿でござるニン!!」


 眼をやられてのたうつイケメン・インフェルノβの足元から、急速飛翔する水色の光!

 それはトビダンジョウとクゼンヴォウの全力合体した姿、クゼンジョウ!!


 クゼンジョウは両拳の鋭い鱗を逆立て、斬撃属性を付与。イケメン・インフェルノβの巨体に添って飛び回りながら、毎秒何百発に及ぶかもわからないパンチ・ラッシュで装甲をごりごりと砕いて剥がしていく!!


「ウフ、フ、フ……さすがに鬱陶しいかなぁ!!」


 ナイアルラトが吠え、イケメン・インフェルノβの触手を振るう!

 震脚による攻撃キャンセルを避けるため、溜めほとんど無しの速攻(クイック)

 リン・シェンヴ、ジャンジャック、クゼンジョウそれぞれに巨大な触手が襲いかかる!

 溜め無し、特にギミックも無しとは言えこの超質量の撲撃は普通に脅威的――だが、


「万物に秘孔在り……絶対的弱点、俺のクンフゥは触手も砕くぞ!!」


 リン・シェンヴが強い踏み込みと共に放った貫き手一発で、巨大な触手の一本が針で突かれた風船のように弾け飛んだ。


「霧なので効きませ~ん」


 超絶おちょくり倒す口調と共にジャンジャックは余裕の腰振りダンス!

 その霧の体は触手に当たるとまさしく霧散――触手が通り過ぎると、また元通り元気に腰を振るジャンジャックが再形成!


「全力全力全力ゥ!!」「ござござござござござ――ござらァ!!」


 クゼンジョウは拳の回転率を上げ、向かってきた触手を掘り抜き、そのまま貫通してしまった!


「なッ……!? べぶお!?」


 さすがに強過ぎないかぁい!? と驚きの声をあげようとした矢先、イケメン・インフェルノβの顔面に砲撃が着弾する! 一発ではない、何発も何発も!! ドカンドカンドカカカカンとリズミカルですらある!!


「ぐッ……穴だらけの瞳に爆煙がすごくしみる……!! ガードをぉ……あれぇ!?」


 ナイアルラトは触手で顔を護ろうとしたが……ぴきぃっと全身が強張って動かない! 声まで出なくなる!


(これは、金縛り……!?)


 途端、首筋にぞわぞわと寒気が走った。

 イケメン・インフェルノβの首筋に、髑髏の面に黒いローブ姿――実にステレオタイプな姿の巨大死神が纏わりつく! 悪霊令嬢(レディ・アンデッド)、ホロロの悪霊形態! この姿で直接接触してから発動する金縛り拘束の拘束力は、上位イケメンでもそう簡単には抜け出せない!


「……フフッ……あんたの敵が……イケメンだけだと思った……?」


 ホロロは髑髏の仮面の隙間から紫色の肉厚な舌を出し、イケメン・インフェルノβの顔面をべろりんちょと舐めずった。強烈な腐食効果を持つホロロの唾液が、眼球の傷からイケメン・インフェルノβの顔面内部へと大量に流れ込む。


「――――――――」


 例え金縛りでなくても、その悲鳴は声にならなかっただろう。

 そんなイケメン・インフェルノβに、更に砲撃が襲いかかる。


 先ほどからドカンドカンと砲撃の大盤振る舞いをしているのは、パンダンドラム!

 ビギナエルのセクシーな導きによりパニプゥと出会い、無事に解呪された今の彼は、己の意思で魔導大砲の引き金を引ける!


「私はもう何も偽らない! セクシーに戦うんだ!!」

「……なんか……変なのの影響を……受けちゃったっぽいなぁ……」


 それもセクシーである。


 それはさておき。


「オレも忘れてもらっちゃあ困るぜって話だ!」


 じゃらじゃらじゃらじゃらと唸りをあげて、黒い鎖が巨大な津波のようにイケメン・インフェルノβへと押し寄せる! 黒い稲妻まで帯びたオマケ付きだ!

 鎖の津波はまさに波状攻撃で何度も襲い掛かり、イケメン・インフェルノβの触手を一本一本、大地からかっさらってひっくり返す!! 黒い波に溺れてしまえば最後、四方八方から雷電を纏う黒鉄の咬撃が降りかかる!!


 黒い鎖を使役しているのは、闇属性最強のイケメン・ダンダリィ。

 黒鉄のサーフボードを華麗に操って、黒い波の上を滑る!


「オレは闇の中でも立ち止まらねぇ――つまり、やみに抗い、そしてやみを乗りこなしてどこまでも突き進むサーファーになりゃあ良いって話だぜ!!」

「痛ッ、いだだだだだ……その理屈はまったく以て理解できないが痛ッ、さ、さすが、だッ、イケバナ最強の騎士たちだ、づッ、賞賛しようじゃ、ないだだだだだだだってマジでさっきから普通に痛いんだよなぁ!?」


 黒い波に咬み散らかされている間もおかまいなし。

 ジャンジャックは執拗に眼球を狙ってメスを撃ってくるし、クゼンジョウも黒い波を躱しながらイケメン・インフェルノβに貼り付いて体中の装甲を削ぎ続けているし、パンダンドラムの砲撃も止まない。

 遠距離技を持っていないリン・シェンヴだけは無害……かと思いきや、宙をふよふよしていたホロロの頭を経由して、イケメン・インフェルノβの胸元へスタッと着地した。


「ふむ、さすがに本体の致命的秘孔は体の深奥的最奥に在って届かんな。だが、クゼンたちが装甲を削ってくれたおかげで表層にいくつかの点が露出している」

「げぇ!?」

「当然的発想、活用しない手は無い――チャオ大震脚ダゥシンキャク!!」

「ちょっと待ってそれ地面に当てる技じゃぶへぇ!?」


 イケメン・インフェルノβの体の上で地震を発生させる強烈踏み込み!

 イケメン・インフェルノβの巨体全域に強烈な振動が駆け抜け、腕や触手がびたんびたんと景気良く波打つ!!


「ぎ、ぐは……ま、まさか……ここまで一方的にやられる……とはねぇ……!! だが、最初に言ったよぉ! イケメン・インフェルノβはセフィラ・ダートを参考にしているとぉ!!」

「「「「「「「!!!!!!!」」」」」」」


 直後、イケメン・インフェルノβを中心に謎のエネルギー・フィールドが展開!

 美美美美美美(ヴィ・シックスメン)の面々とホロロ、それらの攻撃が吹き飛ばされてしまう!


「ウフフフハハハハ!! セフィラ・ダートが変形時に展開する絶対安全領域だぁ!! イケメン・インフェルノβはこれを常に展開できる仕様なんだよぉ!! インチキ過ぎてゲームにならないから使うのを控えていたけど――さすがにキミたちボコり過ぎだろぉ!? 触手だけにタコ殴りって事かい!? 逆にゲームになってないよぉ!!」


 仕切り直すための措置として、絶対安全領域を起動した。さぁ、イケメン・インフェルノβを立ち上がらせて体勢を整えよう……そんなナイアルラトの視界に、黒い輝きを纏った機体が割り込んできた。


 その漆黒の機動兵器は、セフィラ・ダートの最終形態、セフィラ・ダート:完全日蝕(アポト・イクリプス)。今しがた変形したばかりらしく、その周囲には絶対安全領域が展開されている。つまり――イケメン・インフェルノβの絶対安全領域と衝突し、相殺ッ!!


 絶対安全領域の安全性を無視して、イケメン・インフェルノβとのクロスレンジへと突入する!!


「なぁぁぁぁぁぁぁんでぇぇぇぇぇえええ!?」

「無様な叫びでしゅね、イケメンカイザー!」

美美美美美美(ヴィ・シックスメン)の戦闘中に敵機のデータは収集済。セフィラ・ダート同型機と判定。コックピットブロックの割り出しも終了。確定している。結論:いつでも殺せる』

「オムツの取り換えと敵の排除は早めに限るでしゅ。やっちまえでしゅ!」

「ま、待てぇ! 私は黒幕なんだぞぉ!? こんな、何の見せ場もなく退場させられるなんて有り得ないよねぇ!?」

「知るかでしゅ」


 無慈悲な赤子ボイスが響き、セフィラ・ダートの背中から一二本のトゲが露出する。

 それは神々しい光を帯びた木の枝のようにも見える形状だった。


『生命の樹よ、ハンサムを讃えよ』

「ハンサムの威光を以て、下衆野郎を汚れたオムツのようにさよならナイナイしてやるのでしゅ!」


 一二のトゲの中心で、空間が歪むほどの科学的パワーが収束されていく。

 合わせて、セフィラ・ダートの機体カラーが黒から虹色へと変わった。


 そして放たれるのは、セフィラ・ダートとマルクトハンサム両名の合意の元でのみ発動できる超究極ハンサム。すべてをハンサ無へと還す、超次元ハンサム・エネルギー波!!


『今、救世の――ハンサム・ノヴァ!!』

「こ、こんな馬鹿なーーと言うか何だこの攻撃ぃ!? よくわからない虹色の波動がイケメン・インフェルノβに流れ込んで、ぎ、ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!!??」


 ――その瞬間。

 虹色の大爆発が、イケメン・ニルヴァーナ全域の空を覆ったと言う。


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