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77,Garagara Jacta Est 発令、イケメン大招集!


 ――制限時間は残り七分も無い。

 そんな最悪の事実が判明したのと同時、フレアは意を決したように天へ向かって叫んだ。


「オッディ、ボクの呪縛を解いて! 女神パワーが必要だにゃあ! こうなったら天界での罰則とか気にしている場合じゃないよ! いっそまた手が滑った事にして誤魔化そう!!」

『悪くないアイデアだが……最初に謝っておこう。ごめん。キミは後先考えず力づくで呪縛をぶち抜く可能性が高いから、そうならないようにガッチガチのガチに呪縛したんだ。何が言いたいかと言うと……解呪に一〇分はかかる』

「ボクの日頃の行い!!」


 実際、後先考えずに権能使ったしのう……。


「何か策とか無いの!? オッディは智慧とかも司ってるでしょ!?」

『ありはする』


 あるのか、すごいな。


『だが、それはナイアルラトをどうにかする策だ。まずあのイケメン・インフェルノとやらからナイアルラトを引きずり出す必要がある。それに関してはさすがに具体案は思い付かない。と言うか小手先小細工でどうにかできる規模の相手ではないな。正面戦闘しか無いだろう』

「正面戦闘って……キツくにゃい?」


 見上げるイケメン・インフェルノβの巨体。

 うーんもう貌が霞んで見えるほど山。


『私が見るに、キツくはあるが無理と言うほど彼我の戦力差は無い。所詮、あれは量が多いだけで原材料自体はこのゲーム内のもの。つまり下界の理の中で完成している存在だ。ナイアルラトも天界バレを危惧して天界製の物質やパワーは使えなかったのだろう』


 つまり、途方も無く強大な存在ではあるが、理不尽な存在ではない。戦って勝てぬ相手ではないと。


『ただやはり……時間制限がネックだ。時間か戦力、そのどちらかを補充できれば目はあると思うのだが……』

「ぬぅ……戦力か時間か……」


 今の戦力で地道に削れる時間的猶予。

 または七分程度でイケメン・インフェルノβをどうにかできる追加戦力。

 そのどちらかがあればどうにかできなくはない、と言っても、どちらもアテは無いぞ……!


「ママたち、さっきから何の話してんの?」


 ああ、エレジィとベジタロウとチシャウォックと勇者たちにはオッディの声が聞こえておらぬのか。


「まぁ、ざっくり言うと神の声が聞こえるのじゃ」

「ママが壊れた……幼女にわたしの育児は負担が大きすぎたんだ……」

「過酷な環境に耐えかねた幼女の末路でござるか……これが母子家庭の闇……」

「ぬー」

「壊れとらぬわ!」


 あとママでも幼女でも母子家庭でもない!


「ともかく! ナイアルラトをどうにかできる奴の声が聞こえるのじゃが、まずイケメン・インフェルノβをどうにかせねばならぬと言う話なのじゃ。そしてイケメン・インフェルノβをどうにかするには、時間的猶予か追加の戦力、そのどちらかが必要なのじゃ」

「それは朗報でしゅ」

「!」


 幼き声と共に、きゅぽんっ、とまるで哺乳瓶から口を放すような音が響いた。


「マーくん……もうおっきしたのか!?」

「とても良い寝心地だったでしゅが、こうも騒がれてはおちおち不意打ち夜泣きムーヴもできないでしゅよ」


 ぷはぁ~……けぷっ、としっかり自力でげっぷも出しつつ、機械の揺り篭に収まった金髪碧眼の赤子――マルクトハンサムことマーくんがやれやれとつぶやいた。


 空になった哺乳瓶を大事そうに布団の後ろにしまい、代わりに取り出したのは、ガラガラ鳴る玩具。


「イケメンカイザー、義理立ても良しと考えていたのでしゅが……マーくんからミルクを奪うと言う裏切りは余りにもあんまりでしゅ。もはや、きしゃまはマーくんの敵……即ち、マーくんが統べる全イケメンを敵に回したのでしゅよ」

「ウフフフ……マルクトハンサムかぁ……赤子らしくぎゃんぎゃん吠えるじゃあないか。でもねぇ、私に取ってはイケメンもプレイヤーも等しくおもちゃ! 何故なら私はガチの神だからぁ!! 吠えたら吠えた分だけ後で惨めになるだけだよぉ!?」

「黙れ。既にガラガラは振られたのでしゅ」


 そう言って、マーくんはガラガラを高くかかげ、その先端――切先で、イケメン・インフェルノβの貌を指す。


「きしゃまは『赤子からミルクを取り上げる』と言うこの世で最も重い罪を犯したのでしゅ。その罪科を思い知るが良いのでしゅ」

「ウフフフ……それが下界ではどれくらいの重罪なのか知らないけどぉ……神に贖罪をさせようだなんて生意気な赤ちゃんだぁ……これはオシオキだよぉ!!」


 ッ、イケメン・インフェルノβの触手の先端が鋭く尖り、強烈に回転し始めた!?

 貫通力を上げ、ピンポイントで羊毛ガードを貫通させるつもりか!

 まずい、マーくんを守護まもらねば――


「アゼルヴァリウス、必要無いのでしゅ。それよりも、きしゃまはイケメンカイザー本体をどうにかする策とやらの準備を進めるのでしゅ」


 マーくんは余裕綽々、揺り篭の中でふてぶてしく頬杖をつき、不敵に笑った。


「イケメン・インフェルノβの破壊は、マーくんたちに任せるのでしゅ」

「マーくん……たち?」


 ワシがハッとした瞬間――その【技】が大地を揺らした。


(チャオ)(ダゥ)(シン)(キャク)!!」


 響き渡るイケボ、そして、思わず足に力を入れて踏ん張ってしまう地の揺れ。


 この技は――!


「うおっ!? なんだぁ!?」


 規模が大きくなろうと、触手と言う脚で体幹を支えておるのは変わらぬ。

 イケメン・インフェルノβも踏ん張り硬直、即ち今の揺れで行動キャンセルと短期的なスタンが発生した。


 イケメン・インフェルノβが体勢を立て直し、貫通特化触手を構え直そうとした瞬間――


「随分と大きなネズミですね。いやぁ、駆除し甲斐がありそうだ」


 またしても響いたイケボと共に、貫通特化触手へ小さな刃物の雨が降り注ぐ!

 あれは……手術用、いや、解剖用のメスか!? しかもメスには強烈なイケメン毒か何かが塗りたくられておったらしい。刺さった途端に、イケメン・インフェルノβの貫通特化触手が操り人形の糸を切ったようにびたーんと垂れ落ちた。


「な、何だぁ攻撃はぁ……!? どこの誰が――へぶぅ!?」


 次は、砲撃。大砲で撃ち出されたらしい魔力爆弾が何発も、イケメン・インフェルノβの顔面を強襲する。


「もう呪いになんか縛られない……自分の意思で引き金を引くなんて、何時ぶりだろうね。セクシーな気分だよ」


 響くイケボ。砲撃は止まるどころか激しさを増していく。


「がははははははは! ボスの命令だぁ!! 全力を超えた全力が出るってモンだよなぁ!!」

「まったくでござるニンなぁ!!」


 それぞれイケボの唸りをあげながら、イケメン・インフェルノβへ吶喊した二筋の流星。ひとつは青白くとても全力で、もうひとつは赤く少し小ぶり。

 先の連撃でイケメン・インフェルノβが体勢を崩しておったのも相まって、二筋の流星はイケメン・インフェルノβの超巨体を薙ぎ倒し、見事にひっくり返した。


「ぐえーッ!? ま、まさかキミたちは――」


 起き上がろうとしたイケメン・インフェルノβの周囲、地面を食い破って、無数の黒く細長いものが噴き出した。それは、漆黒の雷を帯びた黒鉄の鎖。


「よう、魔王さま」


 そのイケボは、ワシのすぐ背後から。


「おかげで良い夢が見れたって話だ。礼を言う。オレはもう、立ち止まらねぇ」


 漆黒の雷を帯びた黒鉄の鎖が、一斉にイケメン・インフェルノβの巨体へと食らいつく。

 サイズ差はあっても、数が数! イケメン・インフェルノβの装甲を少しずつじゃが確実に削っておる!


「ッ、そうか、やはりマルクトハンサムの特権【イケメン大招集】かぁ!!」


 さすがに堪らんかったか、随分と余裕の無い必死の挙動で黒い鎖から逃れるように、イケメン・インフェルノβが巨体を跳ねさせた。


「マルクトハンサムが騎士として任命したイケメンたちを、万全の状態で召喚する決戦術式……! それを使ったんだねぇ!?」

「その通りでしゅ」


 肯定したマーくんの周囲に、七つの影が集う。


 黒い長髪と額の第三の目が特徴的な闇属性イケメン、ダンダリィ。


 水色の髪を雑にオールバックにし、全力の気配を纏う巨漢系イケメン、クゼンヴォウ。


 剃り上げた頭に炎の入れ墨を彫り、チャイパオ衣装に身を包んだクンフゥの達人系イケメン、リン・シェンヴ。


 赤いニンジャー装束に身を包み、何やら指で印を組んで「ニンニン!」と騒いでおる小柄ニンジャー系イケメン、トビダンジョウ。


 二門の魔導大砲を持ち、長細い三つ編みがまるで無数の導火線に見える系イケメン、パンダンドラム。

 ……と、その肩に貼り付いておる悪霊っぽいメカクレ令嬢。


 体の一部が霧のようにもやもやしておる、何かこうどこにでもいそうな無難なイケメン……ワシは知らん奴じゃなこやつは。確か最初に連中が自己紹介した時、ジャンジャックとか名乗っておる奴がおったし、そやつかのう。


 うむ、パンダンドラムの肩の者と最後の者については確証に欠けるが……この面々はおそらく間違い無い。


美美美美美美(ヴィ・シックスメン)か!」


 マーくんが選抜した、イケメン・ニルヴァーナ屈指のイケメン六騎士!


『【王冠ケテル】【知恵コクマー】【理解ビナー】【慈悲ケセド】【峻厳ゲブラー】【美麗ティファレト】【勝利ネザク】【栄光ホッド】【基礎イェスド】【王国マルクト】【正義ハンサム】――セフィラ・ダート、起動』

「追加の戦力があればどうにかなる……そう言う話でしゅよね?」


 マーくんがガラガラを振ったのを合図に、機械の揺り篭――セフィラ・ダートが再起動。

 マーくんを中枢に据えた機械巨人が再度顕現する。その碧く光る双眸が、イケメン・インフェルノβを真っ直ぐに捉えた。


美美美美美美(ヴィ・シックスメン)、そしてマーくん。イケバナ最強のメンバーでしゅ。これで役者不足とは言わせないでしゅよ?」

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