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73,融合、覚醒、おやすみ。


 イケメン……泥洹ないおん


 疑問に思った直後、手紙の発光が激化し、ワシの視界を埋め尽くした。

 明転の中で、何かこう……森の香りと、炎の香りが――


 光が過ぎ去ると、グリンピースの姿が消えておった。


「ぬ!? グリンピースはどこじゃ!?」

『だぜ!? マスターはどこだぜ!?』


 ……!?

 今、天の声やオッディの声と似た感覚で、脳内にグリンピースの声が……!?


「ほんとだ、グッピーが消え……って、アリスちゃん!? 何か全体的に緑になってる!?」

「はぁ? 何を言って……のじゃ!?」


 マジじゃ、フレアの言う通り。ワシが着ておった漆黒のドレスは形状そのまま翡翠に染め上げられており、髪も真っ黒じゃったはずが緑色の宝石を線状に加工したような……なんじゃこれ!?


 待て、髪と服が変色する……どこかで見た現象じゃぞ。

 確か……そうじゃ、クゼンヴォウとトビダンジョウ!

 トビダンジョウがクゼンヴォウを取り込んだ時、トビダンジョウの髪と服の色がクゼンヴォウ色に染まっておった。


 何であの現象が……って、おおう!?

 ワシの右腕が、ワシの意思を無視して何かバタバタし始めたぞ!?


『マスター、もしかしてなんだぜ。これ……』


 脳内に響くグリンピースの声、緑に染まった髪と服、そしてワシでは無い何かによって動かされておるワシの腕……まさか、


「ワシとグリンピースが……融合しておるのか!?」


 イケメンとの融合……まさかこれが、下僕でも武装でも無い新たなイケメンとの関係性――イケメン泥洹とやらか!?


「つまり、今ワシのお手々を操っておるのはグリンピースか!?」

『そうみたいだぜ!』


 うむ、グリンピースの声に合わせ、右手が指輪っかを作って肯定しておる。

 なるほど、ワシの形にグリンピースの色をした容姿の体を、どちらに主導権があると言う訳でもなく、互いに操作する事ができる……武装としての装備でも、下僕としての隷属でも無い、究極の協力!


 しかも、凄まじいパワーじゃ……単純にワシとグリンピースの力が合わさった以上の出力を感じる!

 具体的に言うとこれ現実のワシの五割くらいのパワーがあるぞ!


「えっと……要するに、アリスちゃんとグッピーが融合してトッテモ・パワーアップしたって事……?」

「うむ、そのようじゃ。マルク・ハンスとやらは、随分と粋な事を考える奴らしいな」


 武装にするより、下僕にするより、共に手を取り合って戦う方がずっと強くなれる。

 最高のコンセプトじゃと感動する! 絶賛したい!


『うぉおおおお! 俺は今、マスターの中にいるんだぜぇぇぇ!! 何か変に興奮してきたんだぜぇぇぇぇぇぇぇ!!』

「気色の悪い事をぬかすな! 叩き出すぞ貴様!」


 感動が台無しじゃ!


『ハンサム閃いた! ビームで地面ごと抉れば野菜など恐れるに足らないのだと!』


 ぬ、気付きおったかセフィラ・ダート!

 じゃが、攻撃面の問題はたった今、解決したぞ!


「グリンピース。セフィラ・ダートを無力化するぞ。合わせてくれるな?」

『当然! 合点承知だぜ、マスター!!』


 頼もしい返事じゃ。

 足にワシの筋力とグリンピースの翡翠の炎を纏わせて、飛ぶ。

 普段からペガサスで空を駆け慣れておるグリンピースが混ざっておるからじゃろう。

 そこそこの高度を滑空しておるのに、ちょっと背筋がぞわつく程度で活動に支障無し。

 致命的な高所恐怖症すら劇的に緩和する……すごいのう、イケメン泥洹!


 しかも、体を動かすのにまったく違和感が無い。

 ワシとグリンピース、二人分の意思でひとつの体を操っておると言うのに。

 いくら何でも素でここまで息が合うとは思えぬ。

 イケメン泥洹の効果で、思考もかなり高い水準で同調しておるのじゃろう。


 そのまま駆け抜けつつ、ヴィジター・ファムートに筋力と炎を纏わせる。


『ここはピーマンと行こうだぜ!』

「うむ、異論無しじゃ!」


 野菜畑を地面ごと抉り飛ばそうと構えたセフィラ・ダートの足元を指定し、筋力と翡翠の炎で強化したピーマン畑を生やす。ピーマンをたっぷり生した蔦が、セフィラ・ダートの巨体を縛り上げる。


『ハンサムおぎゃあああああああピーマンがへばりついてきたァァァァァ!!?!!?』

「今じゃ!」『応だぜ!』


 あの悶絶ぶり、セフィラ・ダートの反撃を警戒する必要はあるまい!

 全力を傾け、手刀を作る。筋力操作、細分化、そして翡翠の炎でパッケージ。


筋力神炎加工プロメテッド・パッケージ――魔王チョップ・四重爪カルティア!!」


 一撃の手刀にて、四分割した翡翠に燃える筋力刃を放つ四連チョップ。

 狙うは、ピーマン拒絶反応に悶えるセフィラ・ダートの四肢!!


 ハンサム装甲がどれだけ堅かろうが、それを上回るパワーでチョップすればどうと言う事はない!


 セフィラ・ダートの四肢が、勢いよく粉砕、もげ飛んだ!


『は、ハンサムだとぉぉぉぉおおおおおおおおお!?』


 脚部を失い崩れ落ちるセフィラ・ダートの頭を掴み、仰向けに倒す。

 背面にもビームの発射口があるのは知っておるからな、うつ伏せでは倒れさせぬぞ。


 四肢を潰し、背面の発射口も地面で塞いだ。

 これにて無力化――かと思いきや。


「ミルク無いのやあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」


 マルクトハンサムの癇癪に応えるように――セフィラ・ダートの四肢が再生し始めた!?


『ミルク無き世界! 幼き者が悲しみに涙を流す世界! 存続の価値無し! 継続の余地無し! 滅する! 滅する! 滅する! このセフィラ・ダートがすべてを、すべてをォォォォォォオオオ!!』


 信念を燃やすような鋼の咆哮……!


 ……なるほど。

 セフィラ・ダートは機械じゃが、貴様もまた生物イケメンか!

 マーくんが、貴様に取って守らねばならぬ者が悲しみに涙を流し続ける限り、物理も何もかも無視して無限に再生してみせると! であれば――


「グリンピース、合わせてくれ!」

『言われずともだぜ!』


 グリンピースの合意の元、ワシは目的を変更する。

 セフィラ・ダートの無力化ではなく、その核――揺り篭に収まっておるマーくんへと手を伸ばす。


 揺り篭を包むように展開しておった透明の科学パワーバリアを筋力でこじ開け、泣きじゃくりジタバタと暴れるマーくんをそっと抱き上げる。


「うぶあああああああああ!! ミルク! ミルクぅぅぅぅううう!!」

「すまぬ……今は、ミルクを用意してやれぬのじゃ。本当にすまぬ」

「ミルク無いのやぁああああああああああああああぅああううぅう……」


 腹が空いたと泣き喚く赤子には、すぐに然るべき御飯をあげるべきじゃ。

 しかしそれは現状、難しい……であれば、そのお腹の悲しみを少しでも取り除く術は……これしかない!


「よしよし……お腹が空いて、不安じゃろう……すまぬ。少しだけ、ねんねしておくれ。目を覚ましたら、たらふくミルクを飲ませてやるからのう」


 立て抱きにして頬を寄せ、少し低めの声で囁きながら、優しく軽く、背をとんとんと叩く。呼吸に合わせてゆらりゆらりと波のように体を揺らし……トドメに母上直伝のまぞくこもりうたも聞かせてやろう。


「ふぎゅ……ぅ……む……」


 魔族は古くからの風習でな、産まれたばかりの子を魔王に抱かせ、一度、寝かしつけをしてもらうと言う習わしがあるのじゃ。

 そしてワシは在位期間歴代最高、千年筋肉。

 抱いて寝かせた赤子は数知れず。 

 百戦錬磨なんてものではないのじゃぞ。


 じゃから、安心しておくれ。決して、悪いようにはせぬ。

 お腹の悲しみを一時だけ忘れ、どうか良い夢をみておくれ。


「ぅ……にゅ………………すやぁ……」

『……悲しみの停止を確認。プレイヤーよ、協力に感謝する』


 それだけ言い残すと、フシュンと言う音を立ててセフィラ・ダートの双眸から光が消えた。四肢の再生も停止する。


 ……ラスボス、か。

 そりゃあ、まともにやり合えばこの上なく手ごわいじゃろうな。


 どういう経緯か知らぬが、セフィラ・ダートはマーくんを我が子のように愛しておるのじゃろう。

 泣く我が子を救うためなら、マジで手段を選ばぬ。

 親とは、そう言う存在じゃとワシもよく知っておる。


 すやすやと寝息を立てるマーくんの背を優しく打ちながら、思わず苦笑と溜息がこぼれてしまう。

 一〇〇〇年前のワシも、母上や父上に抱かれて、こうして眠っておったのじゃろうな。


 当時は幼子じゃったから当然じゃが……記憶が曖昧なのが、惜しいな。


 そんな些細な感傷も、幼子の安らかな寝顔の前では薄れゆく。

 ああ、納得じゃろうさ。この顔を護るためならば、機械だって吠えるじゃろう。


「……ゆっくり眠れ。幼子が健やかに眠れる世界を、誰もが望んでおるのじゃから」



☆★イケメン豆知識★☆


◆イケメン泥洹ないおん

イケメン・ニルヴァーナが「イケメンたちと共にやんちゃな悪役令嬢たちをこらしめる冒険アドベンチャーファンタジー!」だった頃にマルク・ハンスが考案し仕込んだものの残滓。

怪盗クエスト、即ち報酬も無いのにアダム・ワンスのために尽力してくれた心優しきプレイヤーのみキーアイテムとなる【マルク・ハンスの手紙】が入手でき、それを所持した状態でイケメンとの信頼度を極限まで上げると発動する。

発動後は、精神的【攻め】が姿形、精神的【受け】が色味に反映されて融合する。

別にアリスは攻めではないのだが、グリンフィースの受けが強過ぎたためアリスピースは緑色のアリスと言う形に成った。

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