71,ラスボスの形態変化は御約束。
未だに号泣止まらぬマルクトハンサムを中枢として顕現した巨人型機動兵器、セフィラ・ダート。
その碧色の尾を引いて光る双眸が、自身に向かってくる三人と一匹を捉える。
そして刹那に三人と一匹のデータを照合。
ベジタロウとエレジィについては問題無し。適切な対応を即座に算出。
しかし、グリンフィース・プロメテッドアムブロシアとチシャウォックに対して、エラーが発生した。
照合不可能。近似登録データ該当無し――神の力は、王に取って完全なる埒外であった!
そのエラーが、一瞬の隙になる。
「誘いにしても隙だらけだぜ! 引き付けろとしか言われてないが……別に倒しちまっても構わないんだぜ?」
グリンフィースは神の火で強化した蔦植物を大量召喚!
セフィラ・ダートの機体をこれでもかと言うくらい雁字搦めに縛り上げて拘束する!
「マルクトハンサム! こんな物騒な玩具はとっととぶっ壊して、没収させてもらうんだぜ!」
「うぶあああああああああああああああああ!!」
マルクトハンサムの癇癪に合わせて、セフィラ・ダートの双眸が光を増す。装甲の隙間から碧い光が漏れ出す。馬力を上げ、力任せに蔦植物の拘束を引き千切るつもりだ!! 翡翠の光と碧の光による綱引き!
それを大人しく見守っている道理は無し、とエレジィとベジタロウ!
エレジィは白黒の魔力で編んだ可愛らしいパンダ弾をセフィラ・ダートの右腕へ!!
ベジタロウはタマネギ一〇〇〇個分のタマネギパワーを凝縮したつもりで強めのタマネギ弾をセフィラ・ダートの左腕へ!!
これによりセフィラ・ダートは右腕の肘から下が歪に変形し、掌の砲門が潰れた。左腕も、夥しい数のタマネギの薄皮がまきついて砲門を詰まらせる。
華麗なるチームプレーで、執行のハンサムビームを無力化した!
『ッ……戦況悪化。圧倒的劣勢。セフィラ・ダート、第二形態へ移行』
音声ガイドと共に、セフィラ・ダートを雁字搦めにしていた蔦植物が弾け飛んだ!
セフィラ・ダートは機能のひとつとして、変形中は自身の周囲にあらゆる攻撃や妨害行為を無力化する絶対安全領域を展開できるのだ! 即ち――変身中は攻撃禁止システム!!
『第二形態、セフィラ・ダート:無限光輝』
セフィラ・ダートが科学的超変形を果たした第二形態――それは、巨大な機械亀!!
マルクトハンサムの姿が見えない、おそらく、六角形ののっぺりとした無数の装甲パネルが集合して形成された実に頑強そうな甲羅の内側に格納したのだろう。
「カメさん? って事は防御がすごい系かな?」「ぬぅー安直」
「さすがにマルクトハンサムの情報はそこまで仔細には知らぬでござる……一体、どういった趣向か」
「まぁ安直だろうが何だろうが、あのフォルムから攻撃特化って事は無いんだぜ?」
見事な前振りご苦労、とでも言わんばかり。
セフィラ・ダート亀の甲羅――無数の装甲パネルが一斉に開き、がしょんがしょんがしょんがしょんがしょんがしょんがしょんがしょん!!!! と無数の砲門を露出させた!!
「「「「ちょッーー」」」」
『大執行、ハンサムビーム・破滅的流星光群』
馬鹿なのかな、と言う感想しか出てこない。夥しい量のビームが躍り狂う。
樹海がごりごり更地になっていくだけでなく、イケメン・キャッスルの城壁も、城郭も、城本体までもずがずがと削り取られていく。もうマジで世界を壊しにいっている攻撃だ。これを放ちながら二・三日も練り歩けば、イケメン・ニルヴァーナをすべて焦土に変えられるだろう。
グリンフィースとベジタロウは出せるだけの植物を、エレジィは巨大小娘こと悪魔フルパワー形態になり白黒の魔力障壁を全力展開、チシャウォックは「ぬぅ」と鳴く。
だが、各々の最大級防御でもヤケクソじみたハンサムビームの暴威は完全には受け止め切れず。
すべての防御行動が粉砕され、全員まとめて薙ぎ払われてしまう!!
「だぜッ!?」
「ござる!?」
「みゃッ!?」「ぬー」
幸い直撃弾は無く、全員マヌケな悲鳴と共に地面にずべしっと叩き付けられる程度のダメージで済んだ。
『成果を確認。有効ではあったものの、殲滅ならず。第二形態では不足と判断。このまま最終形態へ移行する』
「まだ変形する気なんだぜ!?」
グリンフィースのツッコミに構わず、セフィラ・ダート亀はまたしても絶対安全領域を展開。
『【不信】【愚鈍】【拒絶】【無情】【残酷】【醜悪】【色欲】【貪欲】【暴走】【背教】【反転】』
セフィラ・ダート亀は再び元の巨人の姿へと変わった。
だが、その装甲は足先から泥にまみれていくように、漆黒に染まっていく。
『最終形態――セフィラ・ダート:完全日蝕』
悪堕ちっぽいブラックカラー!
合わせてか、核となっているマルクトハンサムの装いも何かこう小悪魔の意匠を感じる触覚とか羽の生えたものに変わっていた!
『よろしい、殲滅だ。ミルク無き暗黒世界に終焉を』