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68,【重要】サービス終了のおしらせ


 闇フィールドが砕け散り、すっかり元に戻ったイケメン・キャッスル城門前。


 眠るように気絶したダンダリィ……その頬を、エレジィが引っ掴んでむに~と引き延ばす。


「何か幸せそうな寝顔なの腹立つ~」「ぬぅ~」


 エレジィの頭に戻ったまんまる猫、チシャウォックも同調するように鳴いた。

 本当、必要無い時は喋る気が皆無らしいな。


「しっかし、驚きだぜ。闇属性最強のイケメンがすっかり浄化された面になってやがるとは……」

「まったくもって驚天動地でござる」

「アリスちゃん一体なにしたの? 幼女セラピー?」

「ワシは何もできておらぬよ」


 ダンダリィの過去に一体なにがあったのかを、ワシは知らぬ。

 そんな部外者が何をした所で、あやつを救えはせぬじゃろう。


 しかし、事情を問いただすのも、すべて無視して筋力で捻じ伏せるのも違うと思った。

 結局、手詰まりじゃった。ワシには何もできぬ。

 無力を開き直るのは主義ではないが、無理なモンは無理じゃ。

 できぬものは仕方無い。


 じゃからせめて、ただ寄り添った。

 無力なワシをどうか許せ、と抱き寄せた。


 ダンダリィはワシの行為から何かを感じ取って、自分なりの答えを見つけてくれたのじゃろう。


「さて……とりあえず、イケメン・キャッスルには辿り着けた訳じゃな。残る美美美美美美(ヴィ・シックスメン)はあと一人……いや二人か?」


 三席のリン・シェンヴ、二席のクゼンヴォウ、四席のトビダンジョウ、五席のパンダンドラム、そして一席のダンダリィを無力化した。整理すると一、二、三、四、五は撃破済みと言う事じゃ。

 あとは元々いた六席のイケメンと、謎の七人目か。


「いや、ダンダリィの話だともう全員リタイアしたみたいだぜ」


 ふむ、なるほど。

 ではワシらが把握しておらん一人か二人は……先ほど感じた勇者パワーで勇者が撃破した、と言った所かのう?

 ともあれ、目ぼしい難敵は大方が片付いたと。


「つまりイケメンカイザーまでの障壁として立ちはだかる者は……」

「至高イケメン・マルクトハンサムだけだね」


 うむ、フレアの言う通り。

 このゲームのラスボス……つまり最強のイケメン。美美美美美美(ヴィ・シックスメン)よりも更に強い事は容易に想像できるが……ここまで来たのじゃ、引き返すなどと言う選択肢はあるまい。


「プロメテスを治療次第、城に乗り込むぞ。皆、構わぬな?」

「おけまる!」

「だぜ!」

「うむでござる」

「は~い」「ぬぅ」

「ばぶぅ」


 うむ、皆、良い返事……って、ん?


「……フレア?」

「うん、なに?」

「グリンピース?」

「おう、だぜ?」

「ベジタロウ?」

「ござる?」

「エレジィ? チシャウォック?」

「ママどったの?」「ぬぅ?」

「…………………………」

「なんでしゅか?」


 ……いや、誰?


 いつの間にか……ワシらの中に紛れ込んでおったのは、ふわふわと宙に浮かぶ機械の揺り篭。魔力や筋力の類は感じぬ。どうやら完全に科学的な力でふよふよしておるらしい。すごいな、近未来じゃ。筋肉と魔術が席巻する時代に物申すような存在じゃ。可能性を感じる。


 で、その揺り篭の中には……お気に入りらしいクリーム色の毛布にくるまって、白いおしゃぶりをちゅぱちゅぱしている赤子。金髪碧眼で綺麗なすべすべむにむにお肌……確実に将来は美男か美女になるじゃろうと予想できる、いわゆる可愛いベイビー。ギリギリ首が据わっておるかも怪しいくらいちぃちゃいのう。


「……え、いや、マジで誰じゃ貴様」

「マーくんはマーくんでしゅ」


 マーくんイズ誰。


 ん? 何じゃ、グリンピースもベジタロウもエレジィもすごい顔で固まっておる。

 めっちゃビックリって感じの顔じゃな?

 フレアとチシャウォックはワシと同様に「いや可愛いけど誰」ってきょとんとした反応。


「な、何で、城から出てきていやがるんだぜ……!?」

「グリンピース。貴様、この赤子を知っておるのか?」

「知っているも何も――そいつだぜ」

「何がじゃ?」

「至高イケメン・マルクトハンサムだぜ」


 ……は?


「そうでしゅ。マーくんこそがイケメン・ニルヴァーナの君臨者。無限の未来・可能性を内包せし究極存在。至高イケメン・マルクトハンサム……またの名をスーパーミラクル・ベイビィ☆マーくんでしゅ」


 むおー! と可愛い雄叫びをあげ、マーくんは毛布の中からがらがらと鳴る棍棒型の玩具を取り出した。

 誇らしげに玩具を振り回し、がらがらと騒がしい。


「む、無限の未来・可能性……」


 まぁ、言われてみれば……赤子とはそう言う象徴ではあるな。

 なるほど、究極にして至高のイケメン……それはどんな姿にも成長できる赤子であると。


「ふふふ、魔王アゼルヴァリウスとその仲間たち。よくぞマーくんの六騎士を打ち破ったでしゅ。その功績を讃え、マーくん直々に引導を渡しに来てやったのでしゅよ……と言っても、まぁ、無駄な争いは好まぬでしゅ。とっとと帰ってくれると嬉しいでしゅ」

「ワシとしても争いは好まぬが、このまま帰る訳にはいかぬのじゃ、マルクトハンサムよ」

「マーくんと呼ぶでしゅ。じゃないとぎゃん泣きしましゅよ? 良いんでしゅか? マーくんはそう簡単には泣き止まない事に定評があるのでしゅ。近所の皆さまに児童虐待を疑われること請け合いでしゅよ?」


 すごい邪悪な脅しをかけてくるのうマーくん!!


「……マーくんよ、ワシはイケメンカイザーに用がある。戦意が無いならばちょうど良い。カイザーの元に通してくれぬか?」

「却下でしゅ。イケメン・ニルヴァーナはこのまま滅ぶ。それが定めでしゅ。余計な足掻きは品が無いので許可しないのでしゅ」

「この世界の王でありながら、イケメン・インフェルノを許容しておるのか……?」

「その表現は正確ではないのでしゅ」


 ……なに?


「許容するしか、選択肢が無い……いや、許容せずとも、末路は大して変わらぬのでしゅ。であれば、刹那とは言え、マーくんの臣民であるイケメンたちにイケメン革命と言う夢を見せてくれたイケメンカイザーへの義理立てとして、イケメン・インフェルノを成就させてやるのも悪くないのでしゅ」

「どういう事じゃ……末路は変わらぬじゃと?」

「……まぁ、一般プレイヤーはまだ知らないでしゅよね」


 やれやれ、とマーくんは溜息を吐き、悩まし気に眉をひそめながらガラガラをひと振りだけ鳴らした。


「そもそも、カイザーが現れる前から【イケメン・イクリプス】の日は近かったのでしゅ。カイザーが現れた事で確定的かつ早まる事になったのでしゅが……まぁ、どのみち論。カイザーに恨み事を言っても仕方の無い事でしゅ」


 またイケメンナニガシと言う新用語が出てきた。


「すまぬ、イケメン・イクリプスとは……?」

「簡単に言うと、サ終でしゅ」

「さしゅー?」


 何じゃそれ、査収……?

 何か調査すると言う事か……って、待て。何かワシ以外、全員すごい顔になっておるのじゃが?


「ソーシャル形式の遊戯魔導書結界(ゲームブック)は維持するだけで膨大なコスト、即ちお金が掛かるでしゅ。ゲーム内で課金してもらい、収益でその費用を賄うのでしゅが……結局は商売。常に黒字財政と言う保証は無いでしゅ。費用が収益を上回り、採算が取れなくなる事は往々にしてあるのでしゅ。すると、どうなると思いましゅか?」

「え、えぇと……?」


 ゲーム云々は疎いのじゃが……要するに、ある設備の維持管理のコストが枯渇すると言う事か?

 そうなると、その設備は水準を引き下げるか機能停止させるしかないのでは……って、まさか……!?


「サービス終了、即ちサ終。イケメンカイザーが何をしてもしなくても、近いうちにイケメン・ニルヴァーナは消えてなくなる運命だったのでしゅよ」


「美男空中聖域決戦編 後半戦」読了ありがとうございました!


アリスパパの幕間を挟み、次次回より「虚構美男革命編」となります。



イケメン・イクリプス――サ終告知の衝撃も冷めやらぬ中。

ミルクが切れてしまったマルクト・ハンサムことマーくんが暴走を始める。

マーくんを止める方法は……マルク・ハンスが仕込んでいた最強システム!?

武装でもない、下僕でもない。

いざ、新たな境地(ニルヴァーナ)へ至れ!


響くオッディの声。

フレア、久々のてへぺろ。


そして遂に姿を現すイケメンカイザー。

その正体は、アリスたちが予想すらしていない存在だった!



いよいよイケメン・ニルヴァーナを舞台とする冒険は正真正銘クライマックス!

アリスはイケメンたちを、みんなを救う事ができるのか!?



乞うご期待!

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― 新着の感想 ―
[一言] まさか、これは…… 魔王様が運営買い取って(株式取得)、サービス継続すればいいんじゃね?(笑)
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