66,出動☆幼女と猫の探検隊!
闇の空間を喰い裂いたのは、更に漆黒の闇。
「神の火ライトアップだぜ!!」
そんな中、少し離れた場所から翡翠の光が辺りを照らし始めた。
グリンピースが翡翠に発光する菊の花を大量に咲かせ、多少ではあるが闇を祓ってくれたようじゃ。光る菊畑の中心に立つグリンピースの周囲に、フレア、ベジタロウ、エレジィにまんまる猫、それにプロメテスも固まっておった。
「あ、アリスちゃんいた!」
「マスター、無事だぜ!?」
「うむ……じゃが済まぬ! 早合点してしまったせいで、ダンダリィにかなり筋力を持っていかれた!」
ワシの失態で、かなり強力なフィールドを展開されてしまった。
これはそう簡単には上書きできぬぞ……こうなっては、ダンダリィ本体を叩くしか……ッ。
蠢く巨大な気配を感じ、闇の向こうを睨み付ける。
――来る。
ワシの筋力を帯びた、黒い鎖の群れが!
黒い鎖だけではないな、忌々しい黒鉄の仮面に……あれは黒鉄のブックカバーを被せた辞書!?
あんなものの角が脳天に当たったら即死ものじゃぞ!? えげつな!?
しかもダンダリィ本体は気配すら感じぬ。
闇の奥底に潜み、一方的に攻撃を仕掛けてきたか!
徹底してやり口が闇属性じゃな!
「防壁を張っても量で圧し潰されるか……! 迎え撃つ、力を貸してくれ!」
「おけまるちーず!」
「当然承知だぜ!!」
まず応えてくれたのは、フレアとグリンピース。
ワシが先陣を切って放った遠隔・魔王チョップに続けて、豪快な爆炎と翡翠の炎を纏った樹木の槍が飛ぶ。
「鍬無しで術を使うのは初めてでござるが……やってやれぬ事は無いでござろう!」
「ママのお願いだし、ダンダリィ嫌いだからがんばるよ~」「ぬー」
更に続くのは、ベジタロウが放ったらしいタマネギの砲弾。いつぞやのタマネギだるまよろしくぎょろりとした目玉が見えた。エレジィが放った白黒模様の魔力弾は、可愛らしい猫の形をしておる。
ワシらの総攻撃で、ダンダリィが闇から放った攻撃はすべて撃ち落とす事ができた。
「一難は去ったが……一時的な事じゃな。迎撃だけではジリ貧じゃ」
この暗闇の中……ダンダリィの黒い攻撃がどこから来るか、ギリギリまで察知は難しい。後手後手でしか対処できぬ……これは大きな枷じゃ。しかもここはダンダリィのフィールド内。基本的にあらゆる事象があやつの有利に働くようにできておるじゃろう。防戦は得策ではない。
じゃがしかし攻勢に出るには、こちらの視界が無きに等しくどこから攻撃が飛んできてもおかしくない闇の中を進まねばならぬ……自殺行為に等しいな。
守るも地獄、攻めるも地獄……マジで闇の中じゃな!
「それなら、こう言うのはどうだぜ!?」
グリンピースの声と共に、ワシの足元を突き抜けて、真っ直ぐどこまでも翡翠に輝く菊畑の道が伸びてゆく。光源の確保か、なるほど……と言いたい所じゃが、相手も相手で闇属性の上級者か。グリンピースの翡翠に輝く菊畑の道を以てしても、行く先はどっぷりとした闇に満たされた夜道のようじゃ。気持ち分、多少は明るくなったが……充分な視界を確保できたとは言い難い。
「ぐぬぬだぜ……さすがに神の火でも、マスターの筋力が加算されたトップランク闇属性イケメンのフィールド展開には勝てないかだぜ……! さすがはマスターの筋力なんだぜ!」
すまぬ、ワシが筋力を取られたばかりに……って、む? 何やら足元がもふっとぬくい?
「ぬー」
「なッ、貴様、何をしておるのじゃ!?」
さっきまでエレジィの頭にしがみついておったまんまる黒猫が、いつの間にやらワシの足に擦り付いておるカワイイやったー!! じゃなくて!!
こんな前に出てきたら危ないじゃろう!
さっさとフレアたちの元に帰そう、とまんまる黒猫を抱き上げた、その時。
視界が、翡翠の光に満たされて明るくなった……?
「……は?」
グリンピースが光量を増してくれたのか……?
いや、菊畑の道から感じるエネルギー量は変化しておらぬ。
この変化は一体……。
「ぬぅー。猫の手ならぬ猫の眼を貸してやるのだぬー」
「…………………………」
え? 嘘、ちょっと待って。
今、このまんまる黒猫……普通のお姉さんっぽい声色で喋らんかったか!?
「「「「喋ったーーーー!?」」」」
あ、聞き間違いじゃないようじゃ。
フレア・グリンピース・ベジタロウ・エレジィら全員が一斉に目を剥いて驚愕の声をあげた。
「貴様、喋れるのか……?」
「喋る――つまり言語を操る能力など、わざわざ取り沙汰すほどのものではないのだぬぅ。言葉にした所で、伝わらぬ事はごまんとあるのだからぬぅ」
この猫なんか達観したこと言っておる!!
「ひとまず自己紹介。吾輩の名はチシャウォック・ヴァスティ。基本的に子供のやる事なす事にちょっかいをかけたがる面倒見の良いお姉さん属性的なものを持つ猫だぬぅ」
「……ワシ、実はジジィなのじゃが」
「一〇〇〇歳程度ならまだ乳臭さも抜けてないのだぬぅ」
どういう境地の猫なのじゃろうか。
猫妖精か東洋のネコマータの類かのう……言動的にワシよりも目上か。
ウワサと古い文献でしか知らぬが、ここまで流暢に喋るとは驚いたのじゃ。
「まぁとにかくそう言う訳だぬぅ。ただ色々と都合やタイミングと言うものがあってぬぅ……力を貸せる時と場合は限られているのだぬぅ。そして今がその時だぬぅ。だから猫の眼を貸してやるのだぬぅ。感謝すると良いのだぬぅ、アゼルヴァリウス」
「お、おう……その、よくわからぬがとりあえずアレじゃな。助けてくれるのじゃな。有り難い」
感謝と同時に、疑問が解決した。
先ほど、このチシャウォックとやらは「猫の眼を貸す」と言ったのじゃ。
急に周囲が明るく感じるようになったのは、猫の眼が持つ輝板――僅かな光でもものをよく見る事ができる目の構造、即ち夜目がすごい視界を何らかの手段で共有してくれておるらしい。
チシャウォックを頭に乗せ、ダンダリィが待ち受けておるじゃろう奥地へと視線を向ける。
うむ、かなり明るい。これならば、ダンダリィが攻撃を飛ばしてきてもかなり早い段階で察知・対処できるな。
「フレア、グリンピース、ベジタロウ、エレジィ! すまぬが、その場から可能な範囲で援護を頼むのじゃ!」
皆はワシと違って闇に囲まれた狭い視界のままじゃろう。
であれば、下手に動かず、自衛を最優先に手を回せそうなタイミングのみ援護してくれると有り難い。
「ワシはチシャウォックと共に進み、ダンダリィを止める!」
「ぬぅー」