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65,ヒステリック・ダンダリィ


「お、アリスちゃん! 見て! グッピーっぽい緑色!」

「うむ、あの色味は間違い無……何か緑色感が増しておらぬか?」


 遂に樹海が拓け、姿を現した白亜の巨城――おそらくはあれがイケメン・キャッスル。

 その全開放された城門の前に立つ全身緑色のイケメンは間違い無くグリンピースじゃが、何か緑色がすごい事になっておる。頭とかもう緑髪と言うより翡翠の炎のような……。


「マスター!! ついに再会できたんだぜ!!」

「お、おう……少し見ぬ間に随分と変わったな、貴様」

「イメチェングッピーだね!」


 ワシの元に駆け寄ってきたグリンピースは心底うれしそうな笑みを浮かべ――連動するように、その頭、翡翠の炎がボッと勢いを増し、ブンブンバタバタと左右に揺れ始めた。犬の尻尾を彷彿としてしまう。身に纏っておる薄緑に透き通った羽衣も、明らかに風ではない意思を持ってせわしなく揺れておるな。


「ざっくり言うと、プロメテスの神の火を吸収して俺も疑似的な神イケメンになったんだぜ!」

「ざっくりじゃなぁ……」


 まぁ、この世界で起きる事は理論立てて説明されても理解できる気がせぬし……深く突っ込むのはやめておくかのう。

 そして、向こうに倒れておるのはそのプロメテスと……ダンダリィもおるな。察するに、神の火を手に入れたグリンピースが打ち破ったのじゃろう。元々黒かったのが更に黒こげになって天を仰いでおる。


 む……?

 その気絶中のダンダリィの鼻の穴にどんぐりを詰めておるあの妙に前髪の長い小娘は一体……って、あ、何か満足したように頷いてすぅ……と消えた。


「へぇ……ママの言う通り、本当にダンダリィに勝ったんだ」「ぬー」

「さすがでござるな、グリフ殿」

「おう、ベジタロウに……エレジィだぜ? 何でおまえがマスターたちと一緒に……って、ママだぜ?」

「うん、これママ」


 そう言ってエレジィががしっとワシの頭を掴んだので、ガシガシと齧りつかれる前にキュウリを召喚して渡す。エレジィはキュウリを受け取ると、くるくると雑な舞いを披露し始めた。


「わーい、ママの味リバイバル~」「ぬ~」

「……さすがマスターだぜ、あのクセの強さならキャパーナにも匹敵すると言われる悪魔令嬢(レディ・ダークネス)を、よくわからん方法で手懐けているんだぜ……!」

「まぁ、これに関してはワシと言うよりキュウリがすごいっぽいけどな」


 詳しくは知らんけど。


「とりあえず、じゃ。再会で盛り上がるのも良いが、プロメテスを治療してやらねばのう」


 ダンダリィに股間を締め上げられて瀕死になってから、割と時間が経っておる。

 そろそろ治療してやらんとマジで死にかねん。


 と言う訳で、倒れ伏しておるプロメテスの元へ――


「……ま、だ……だって、話だ」

「ッ……!?」


 今の掠れた声は――ダンダリィ!?


 さっきまで完全に気絶しておったはずのダンダリィが、バヂィッと言う湿った電気音と共に跳ね起きた!?

 ダンダリィの体に、黒い雷の残滓が帯電しておる……そう言えば、深いダメージで動けなくなった体に電気を流す事で筋肉にショックを与え、無理やりに体を再起動させる……そんな術式があるとか聞いたな。その類か……!


「づ……はぁ、はぁ……まさか、もうご到着とはなって話だぜ、魔王様よぉ……神イケメンとダーゼット卿を手駒にして迎え撃つつもりが、ご破算だって話だ。本当、何もかも上手くいきやがらねぇって話」

「相変わらず、さらりとえげつない事を考えおって……と言うか、大丈夫か貴様」


 グリンピースとの戦いのダメージもあるじゃろうが、先ほどの幽霊のように消えた謎小娘が鼻に詰めていったどんぐりのせいかものすごく苦しそうじゃ。今にも死にそうな雰囲気で………………待て、今、めっちゃ嫌な予感がした。

 過去に死にかけのイケメンと相対してトンデモない事になった気がするのじゃ。


 ……そう、そうじゃ。あれはグリンピースとの戦い。

 イケメン大爆発とフレアの一撃で瀕死になったグリンピースは――


「まぁ……もう、どうでも良いって話だ。やっぱ楽しくねぇわ、つまんねぇわこんなクソゲーって話。もういい。もういいもういいもういいもういい!! 何もかも全部、ぶっ壊れちまえ!!」


 空間が、フィールドが歪む。

 ダンダリィを中心に展開される暗黒空間に、光すらも逃げ切れず、吸い込まれていく。


「まずい、アリスちゃん!」

「マスター!」

「ママ!」「ぬー!」

「あれは、瀕死イケメンにのみ許される即時フィールド展開でござ――」


 ベジタロウの声の途中で、この世のすべての音が消えた。

 違う、ワシの耳が、何も聞こえなくなってしまった。

 眼も、何も見えぬ。鼻もまったく効かぬ。何かに触れる感触も、熱も感じぬ。

 どれだけ筋力を巡らせ、感覚器官を強化してもダメじゃ。何も感じられぬ……!?


 世界が完全に、闇に包まれてしまった。



「                     」



 ッ……「これが……ダンダリィのフィールド展開か!?」と声に出したつもりじゃが、自分の声すらも聞こえぬか!

 自分の手足も見えぬ。感じぬ。

 かろうじて己の筋力の流れと意識が此処に在ると言う事だけがわかる。


 対象を虚無の……いや、闇の世界に幽閉するフィールド展開!


 なるほど、これはえげつない。

 全感覚を遮断された世界など、数分も過ごせば並の者は発狂するじゃろう。


 じゃが、相手が悪かったな。

 フィールド展開はフィールド展開で上書きすれば解除できる。

 個の性質に深く結びつく効果が発現する術式故、ワシのフィールド展開は戦闘向きではないが……フィールドを相殺するだけが目的ならば別に戦闘への向き不向きなぞ関係無し。


 さぁ、筋力を練り上げて……フィールド展開――


「かかったな、って話だ」


 ッ!! 今の声はダンダリィ、そしてこの感覚は……まずい!

 放出した筋力が、急速に奪われておる!?


 計り違えた、これは闇の世界へ幽閉するフィールドなぞではない。

 視力、聴力、筋力……中に入れた者のあらゆるパワーを搾取するフィールドか!!


 急ぎ、筋力の放出を止める。


「充分だって話。さぁ、オレの全霊のイケメンパワーに、テメェの筋力も乗せて……見せてやるよ。ここからがオレの、闇イケメンの真のフィールド展開……何の面白みも無い、ただただ単純作業で敵を壊すだけの作業クソゲーの始まりだって話だァ!!」


 言うなれば、この闇空間は前兆か。

 この闇空間で敵のパワーを吸ってから、本命のフィールドへと誘う……敵を騙してそのパワーを掠め取ってから発動する領域……どこまでも闇属性らしいな!?


「フィールド完全展開――【アバドンゲート・ナラクシラク】」


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