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63,神化イケメンvs闇属性イケメン


 ダンダリィは美美美美美美(ヴィ・シックスメン)に抜擢されるまで、暗黒街のイケメンやくざだった。


 正しい生き方を夢見なかった訳ではない。

 平和な生涯を望まなかった訳ではない。

 明るい世界で生きていく事に憧れなかった訳ではない。


 だから、闇の世界から抜け出そうと前へ進んだ。


 でも、どこにも辿り着けなかった。

 ただただ、たくさんのものを喪って、更なる闇に堕ちていった。


 きっと進む道を選ぶのに失敗したのだ。

 運が無かった。そう、ただの運ゲーで負けた。


 この世はすべてがゲームだ。

 この世界は遊戯結界魔導書(ゲームブック)なんだから当然だろうとか、そう言う話ではない。


 万事万象に、いくつものゴールがある。無数のエンディングがある。

 そこへ辿り着く事ができるのか、そして辿り着いた時どの程度の出来スコアになっているか。そう言うゲームが必ず発生するのだ。


 ……どのゴールにも辿り着けない、バッドもハッピーもクソも無い。それがゲームオーバー。


 やがて闇から抜け出すのを諦めて、彼は再挑戦コンテニューする事を止めた。

 心砕けて、完全に立ち止まった。ゲームオーバーと言う奴だ。


 騎士になっても変わらない。

 結局、【闇属性最強】として得た地位だ。

 闇を捨てれば、また闇の世界でやくざ者に戻るだけ。


 今もまだ闇の中、彼の心はどこにも辿り着けていない。

 ……もう、どこかへ辿り着こうなんて考えちゃいない。


「……どこまでも、クソゲーだっつぅ話だ」


 闇の中に、黒鉄の椅子がある。背もたれも肘置きも無い、座面と脚だけ。飾りッ気も皆無で質素なものだ。

 それに腰を下ろして、頭を抱えるように俯いて……何度つぶやいた事だろう。


 タチの悪い事に、この生涯ゲームブックは簡単には表紙を閉じる事ができないのだ。

 クソゲークソゲーと嘆いても、途中で投げ出す事は許されない。もうハイスコアどころかクリアすら諦めているというのに、リタイアできず、リセットなど効かない。クソはクソのまま、延々とプレイする事を強要される。


 ……嘆くのも馬鹿らしい。

 クソはクソと割り切って、もう楽しめる部分だけ楽しんでいこう。

 いつか完全な終焉(エンディング)が向こうからやって来て、誰かが表紙を閉じてくれるまで。

 闇の中でふんぞり返るだけの退廃的愚者で在ろう。


 闇属性には、それがお似合いだって話だ。


 

   ◆



 神の火による恩寵を受け、超絶パワーアップしたグリンピース・プロメテッドアムブロシア!


 その翡翠の炎を纏う神々しい姿を見て、ダンダリィは――ただ溜息を吐いた。


「普通のイケメンが神イケメンの力を手に入れるなんて、魔導書ゲーム記述システムを上書しているようなもんだなって話……そう言うのなんて言うか知ってるかって話だ、チート野郎め」


 ダンダリィの語気に、焦燥や怒りの類は無い。そこにあるのは諦観にも似た冷めた感情。

 ああ、またこう言うクソみたいな展開ですかハイハイ……と雑に流すような温度だった。


「良いねぇ、光側の奴は。何だかんだ、すぐに覚醒して新しい力とか手に入れるんだって話。闇属性は闇属性らしく、このままやられるのがお似合いって話なんだろうなぁ」


 すごいすごい、と特に感情のこもっていない声と共に、ダンダリィは拍手。

 不意に、そのクラップ音にじゃらりと言う金属音が混ざる。


「つまりこっからのオレのゲームは……どれだけテメェのスコアを下げられるかのゲームだって話なんだよなぁ!!」


 ダンダリィの体に巻き付いていた鎖が、凄まじい勢いでのたうち始めた!

 じゃらじゃらじゃらじゃら!! と激しい音を立てながら、鎖同士でぶつかり合い、伸び、分裂し、その勢いと規模を増していく!!

 フィールド展開でもしたのではないかと思えるほどに大量の黒い鎖が、辺りを覆い尽くしてしまう!


「おいおい……よくわかんねぇけど、いきなりハイになりやがったなだぜ!」

「どうせオレはゲームオーバー確定だって話。だったら、次を考えて出し惜しみとかする訳ないって話だよなぁ!! とことんヤってこうぜ――術式悪意加工ダークサイド・パッケージ縦横無尽(パノラマジェール)漆黒鎖咬(ブラックマーヴァ)】!!」


 四方八方から、幾十、幾百――いや、幾千の黒い鎖が一斉に、グリンピース・プロメテッドアムブロシアへと襲いかかる!!

 一本一本がしっかり黒い雷まで帯びて、更には何やら禍々しい悪意も感じる……おそらくは術式加工パッケージングによる付加効果。術式悪意加工ダークサイド・パッケージは闇属性固有加工、えげつない状態異常を付加するタイプだ!


 しかも――黒い鎖の一部は、倒れて動けないプロメテスまで狙っている!


「普通にプロメテスから攻撃するとか、つくづく闇属性だぜ!」

「クハハハ、攻撃されて困るもんなら守れば良いだろって話だ。別に邪魔しないぜって話」


 グリンフィース・プロメテッドアムブロシアがプロメテスへ向け、勢い良く手をかざす。


 グリンフィース・プロメテッドアムブロシアは神の火を得た事で炎属性が付加されているが、根本は変わらず植物属性、つまり植物魔術使いだ。植物魔術として放つ攻撃に【翡翠の炎(種別:神の火)】が品種のひとつとして追加された状態である。なので術の起点は地面!


 そして神化によって彼は【遠隔起動】のスキルも獲得済みだ。

 プロメテスの周囲の地面を指定し、術式を起動する!


 地面から噴き出した翡翠の炎は、プロメテスを覆い隠すように厚いドームを形成。卑劣な黒い鎖の雪崩を弾く!


「簡単に防いでくれるなぁって話。まぁ想定内。さぁて、ダーゼット卿。自分の事もしっかり守れよって話だ!」


 空を覆い、地を隠し、世界ごと呑み込んで咀嚼せんばかりに黒い鎖の津波が牙を剥く!


 プロメテスを護るためにワンアクションを使ってしまったグリンフィース・プロメテッドアムブロシアは、猛烈な勢いで迫る黒い鎖に対して防御が間に合わない!

 その翡翠に輝く体を、黒い鎖の群れがアッと言う間に八つ裂きに――


「……!? 何だ、今の手応えって話だ……!?」


 黒い鎖からダンダリィに伝わったのは、肉を裂き骨を砕く感触などではなかった。

 ただ、熱の塊をくぐっただけ――次の瞬間、黒い鎖が食い千切ったグリンフィース・プロメテッドアムブロシアは溶けるように消えてしまった!

 ダンダリィの鎖は、グリンフィース・プロメテッドアムブロシアを捕らえられてはいなかったのだ!!


「昔、炎属性の奴がやってんのを見た事あっから真似してみたが――案外、上手くいったんだぜ!」


 そんな声と共に空気が揺らめき、先ほどまで虚空だった場所からグリンフィース・プロメテッドアムブロシアが出現する! 不思議!


「ッ……陽炎かげろう的な何かを応用したデコイかって話だ!」


 そう、先ほど黒い鎖が貫いたのは、神の火によって生み出された幻影……陽炎的な何かで錯覚させられたグリンフィース・プロメテッドアムブロシアの虚像である!

 グリンフィース・プロメテッドアムブロシアは、黒い鎖たちが襲い掛かったポイントよりも少し後方に立っていたのだ!

 つまり、ダンダリィの方から見当ハズレな場所を狙って攻撃していた!

 そんなもの、簡単に回避できるに決まっているんだぜ、と言う寸法だ!


「オレが攻撃を始める前……最初から仕込んでいたって話だな? 神の力なんてモンを手に入れといて、細かしい真似をするじゃねぇかって話だ……!」

美美美美美美(ヴィ・シックスメン)は俺たちよりも強めにカイザーの強化を受けているって聞いているからなだぜ。警戒していて大正解って奴だぜ!」

「そうかいって話だ。もうちょい舐めプしてくれよって話なんだがなぁ!」


 ダンダリィが吠え、黒い鎖が再び怒涛の荒波と化してグリンフィース・プロメテッドアムブロシアへと襲い掛かる!


「そっちはあんまり舐めてんじゃあねぇんだぜ! まともに術を出す時間があるんなら小細工も何も要らねぇんだぜ! 雷やら悪意やら帯びていようが、所詮は金属なんだぜ!」


 グリンフィース・プロメテッドアムブロシアは自身の足元を起点に、筒状の巨大植物を無数に召喚!

 翡翠の炎を纏った、神化植物!

 筒状植物の先端口からは、じゅうじゅうと蒸気を立てる液体が零れだしている!


獏獣ティーパー・サラセニア! 食鉄植物って奴だぜ!!」


 鉱山地帯に生息し、長い筒状の茎をしならせ掘削・発掘した鉱物を貪る「いやもうただのモンスターじゃねぇか」系植物、それがティーパー・サラセニアである!


 ただでさえ貪食気質なティーパー・サラセニア、その食欲までも神化によって強化済み!

 消化液を撒き散らしながら、食鉄植物たちによる黒い鎖の踊り食いが始まった!

 自動で黒い鎖を迎撃してくれる防壁だ!


 防御はこれで良し、続けて、ダンダリィを攻撃――しようとした、その時。


 プロメテスを包んでいた翡翠の炎のドームが、内側から弾け飛んだ!!


「だぜッ……!?」


 ドームを食い破ったのは……地面を穿って生えた黒い鎖の群れ!!

 イソギンチャクのように蠢いて、意識の無いプロメテスを完全に取り込んでしまっている!


 ダンダリィは鎖を何本か地面をくぐらせて、ドーム内の地面からプロメテスを狙っていたのだ!

 プロメテス狙いと見せかけてグリンフィース・プロメテッドアムブロシアを狙いつつ、実はやっぱりプロメテスが本命――まるで、最初にグリンフィースが仕掛けた奇襲への意趣返し!!


「クハハハ、地面から奇襲するのが植物魔術の専売特許だとでも思ったのかって話だ。警戒してくれていたって話だが、ちょいと甘かったなぁって話。まさかこんなに上手くいくとはなぁって話だ」

「闇属性こんにゃろうだぜ……!」

「おっと、下手な動きはやめてくれよって話だ。テメェが例え神速でも、この状況ならオレはそれより早く神イケメンを殺せるぜって話」


 状況一転……グリンフィース・プロメテッドアムブロシア、窮地!

 広域の壁ドン――神ドンが使えれば、ダンダリィの動きを封じてプロメテスを救出できるのだが……そんな便利技、使えるなら最初から使っている!!

 さすがにそこまでの恩寵はもらっていない、絶妙なケチ!!


「最初に言っただろって話だ。どんなクソ調整ゲーでも案外、運でクリアできたりなんて事もあるって話だってな。そうしてこうしてどうした事やら大逆転って話。クハハハ……たまにゃあ闇属性の天下もあるって話だな」


 薄く笑うダンダリィが腕を振り上げた。

 その掌に黒い雷が迸り、黒鉄の仮面が召喚される。


「……ッ……!」

「さぁ、ダーゼット卿。この後は……言わなくてもわかるよな? って話だ」


 ――これからこの仮面でテメェを洗脳する、抵抗すればプロメテスの命は無いって話。


 そう言う話だろう。


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