61,闇イケメンの企み
――イケメン・スカイサンクチュアリ、中心部。
樹木の海を割いてそびえ立つ白亜の巨大城塞、イケメン・キャッスル。
イケメン・ニルヴァーナのラスボスである至高イケメン・マルクトハンサムの居城である。
その城門は常に開放状態。城壁に迎撃武装の類は皆無。
イケメン・キャッスルは、あらゆる者の侵入を拒まない。
この世界の王が住まう城でありながら、何故か?
簡単な話だ。
城主として君臨するマルクトハンサムが圧倒的に強過ぎる上に、本来ならばその配下である最強の六騎士まで護りを固めている。
落とせるものならば落としてみろ、そう言わんばかりの挑発的城門風景!!
そんな城門から、勢い良く吹き飛ばされる巨大な影がひとつ。
その姿はまるでステレオタイプの死神。ゆったりとした黒衣に髑髏の仮面を被った巨人だった。
それは悪役令嬢シリーズに名を連ねる一人、【悪霊令嬢】ことホロロ・ロホホイの戦闘形態である。今の禍々しい姿からは想像できないが、普段はぶかぶか黒ローブ姿に髑髏の髪留めがチャーミングな前髪長い系女子である。
「手間を取らせるんじゃあねぇって話だ」
ホロロを吹っ飛ばしたのは、無数の黒い鎖を束ねて造られた巨大な拳。その拳を従えているのは、黒いタイトな衣装に見を包んだ三つ目のダークエルフ――美美美美美美第一席、闇イケメンのダンダリィだ!
無傷のダンダリィに対し、ホロロはダメージが蓄積しているらしい。黒衣から白骨装甲に覆われた巨腕を出して、それを支えにしてふらつきながら起き上がる。
「くッ……フフッ……さすがに……正体がバレると……どうしようも……ないか……」
「悪霊令嬢、テメェは確かパンダンドラムと仲が良かったよなって話だ。せめてもの抵抗って話か」
やれやれ、とダンダリィは溜息。
同僚の裏切りに近い行為が判明した訳だが、怒りや不快の色合いは無い。ただただ気怠け。
まぁ、ダンダリィは闇属性と言うだけで、常識や良識の類は弁えている。イケメン・インフェルノの真実を知ればカイザーに反旗を翻すイケメンがいるのは当たり前。つまりパンダンドラムに離反意思があり、仲良しのホロロがそれを手伝うのは当然の事だと理解している。ただ共感する気が無いだけだ。
「まぁ、ミニゲームとしちゃあ上出来だったぜって話だ」
「よく言う……さっきまでうちが城内中で起こしてたラップ音やポルターガイストに……死ぬほどビビり倒してたくせに……」
その指摘に、ダンダリィは「ぐぬ……」と眉をぴくつかせた。
怪奇現象が恐いのはまぁ、誰だってそうだし、別に恥ずかしい事ではないのだが……闇属性であるダンダリィとしては、ちょっと思う所があるのだ。
「フフッ……闇属性でもぉ……おばけ、こわいんでちゅかぁ?」
ホロロは笑いを交えながら「ばぶばぶぅ」と付け足し、ダンダリィを物凄い勢いで煽る!
実力では敵わないから、力の限り煽る! ホロロ流の一矢である!!
「うっせぇって話だ!!」
ダンダリィが黒い鎖の巨拳でホロロに追撃しようとしたが――ホロロの巨体はすぅ……と消えてしまった。
「くそ……ゴースト属性の特性か、って話だ」
ゴースト属性のイケメンや悪役令嬢は、一定時間『攻撃する事ができなくなる代わりに他からの攻撃も一切受け付けない』と言う効果を持つ【完全霊体状態】になる事ができる。そうなると霊感スキルが無い者では視認も不可能。
「おそらく完全に撤退したって話だな。まぁ、正体がバレた上に、作戦そのものが裏目に出てるとなりゃあ奴がここで粘る理由も無ぇかって話だ……ん?」
ふと、ダンダリィは気付く。
何か、降ってく――
「んごッ」
気付いた時にはもう遅かった。
すごい勢いで降って来たそれは、ダンダリィの脳天に直撃。
「い、一体、なにが……って、話……だ……!?」
脳が揺れる、頭の周りで星とひよこがキラキラぴよぴよする感覚。
後ずさりつつたんこぶを押さえながら、ダンダリィは降って来たそれの正体を確認する。
「って、こいつは……」
ダンダリィに直撃した飛来物――それは山吹色の髪に紅色の衣を纏った神イケメン、プロメテスだ!!
すごいボロボロで、白眼を剥いている!!
どうやら脳天同士でごっつんこしたらしく、プロメテスの頭にも大きなたんこぶができていた!
「な、何でこいつが空から降ってくるんだって話……」
「プロメテス!! やっと追いついたんだぜ!」
「ん? テメェは……ダーゼット卿?」
息を切らし、ちゃんと地面から城門へ走ってきたのは緑髪のイケメン、グリンフィースだ。
どうやら、何らかの事情で吹っ飛ばされたプロメテスを追いかけてきた……と言う感じらしい。
「おまえは、闇イケメンのダンダリィ……って、うお!? いつの間にかイケメン・キャッスルに着いちまったんだぜ!? どんだけ吹っ飛ばされてんだぜプロメテス!!」
グリンフィースもそこそこボロボロだが、瀕死と言う雰囲気ではない。
かなり長距離を全力疾走してきたらしく、息はすごい切れているが。
「まぁ、丁度良いって話だ。どうもオレ以外の美美美美美美は全員やられちまったみたいなんでなって話」
薄く笑って、ダンダリィは――黒鉄の仮面を二つ、取り出した。
「欠員補充に使わせてもらうぜって話だ」