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60,そして輝くセクシーハート


 パンダンドラムは臆病者だ。

 臆病風に吹かれて、本当は命に代えてでも守りたかった大切な存在を取りこぼした。


 だから彼はその大切な存在の成れの果て――【悪霊令嬢(レディ・アンデッド)】に頼んで、呪縛をかけてもらったのだ。臆病風に吹かれれば吹かれるほど、前に出られるように。逃げたいと思えば思うほど、前へ進めるように。


 弱虫な自分を踏み潰せる、偽りの自分を手に入れた。


 でも、それが間違いだったのだ。


 イケメン・インフェルノ計画――ああ、恐ろしい計画だ。賛同してはいけない。これを遂行させてはいけない。そう思ってしまった彼は、イケメン・インフェルノ計画を成就させるために猪突猛進するイケメンカイザーの駒になり果ててしまった。イケメンカイザーも、それを見越してパンダンドラムに計画を教えたのだろう。


 パンダンドラムは急ぎ、悪霊令嬢(レディ・アンデッド)に呪縛を解除してもらおうとした。

 まぁ、「解呪してもらおう」としてしまったため、解呪されないように動いてしまうのだが。


 色々と察して解呪に来てしまった彼女から、パンダンドラムは全力で逃走するようになってしまう。


「……あんた、ちょ……逃げんな……解呪できないでしょうが……!」


 そう言われても、パンダンドラムは止まれない。


 このままでは、イケメン・インフェルノ計画を止めてくれる反イケメン・ゲリラたちを攻撃してしまう……そんなの、嫌だ。

 そう思えば思うほど、そう言う風に動いてしまう。


「仕方無い……うちが……少しだけ……混乱を起こして……時間を……稼ぐから」


 解呪の難度が高過ぎてすぐには無理だこれと判断した悪霊令嬢(レディ・アンデッド)は【七人目の美美美美美美(ヴィ・シックスメン)】と言う怪奇現象を起こす事で、イケメン・キャッスルでの最終決戦を遅らせようとしてくれた。


 だが、それも裏目に出る。

 イケメン・キャッスルを飛び出した美美美美美美(ヴィ・シックスメン)たちが、反イケメン・ゲリラと戦闘を開始してしまった。


 反イケメン・ゲリラの人たちを助けないと――あ。


 そう思ってしまった。気付いても、もう遅い。


 逃げて。私は敵だ。キミたちを傷付けたくない。だから逃げてくれ。


 ……誰でも良い、どんな手段でも良い――私を、止めてくれ。



   ◆



『はぁぁ……セクシーセクシーセクシーセクシセクシセクシセクセクセクセクセク!!』

「ぬ、ぅぅう……!!」


 巨大化したセクシー処刑人のパンチラッシュを、全力展開した八重筋力防殻で受ける。

 じゃが……これはキツ――


「セクセクセクセセセセセセセセ――クシィア!!」

「ぬあああああああああああああああああああ!?」


 ぐぅッ、防殻をすべて砕かれてしまった……!

 どうにか防ぎ切れはしたが……消耗が、激しい!

 さすがに、短時間で筋力を使い過ぎたか……乳酸の足音が聞こえるのじゃ……!


『セクシーな粘りだ! まるでナットゥー……理想の血圧値もまたセクシー。それくらいのセクシーを感じるぞ、おもしろい幼女!!』

「魔族相手に、御米以外の食べ物で例えられてもな……!」


 膝を突きかけてしまうが、ダメじゃ。ここでワシが倒れる訳にはいかぬ。

 ベジタロウもエレジィも既に敗れ、フレアはヴァーンを没収された状態で、駄々っ子のように暴れるパンダンドラムに手を焼いておる……ここで、ワシが負ければ……パンダンドラムは確実に、このセクシー処刑人によって殺される……!


「セクシー……おお、セクシー! その小さな体のどこからそれだけのセクシーを引き出すのか……魅惑の幼女だなぁキミは!!」

「ビギナエル! いい加減にするのじゃ……こんな事に、何の意味がある!?」

「すべてがセクシーになる」


 マジで話が通じぬ……!


 せめて、ワシもフィールド展開して上書きする暇さえあれば……フィールドに付属しておる使い魔じゃろうセクシー処刑人も引っ込ませる事ができると言うのに!


『よろしい……キミのセクシーに免じて、このセクシー劇場・第二幕への出演を許可するぞ!!』

「第二幕じゃと……?」


 瞬間、横合いからドッと湧き上がる歓声――ッ、いつの間にか、客席に無数のセクシー処刑人が!?

 まずい、巨大セクシー処刑人一人ですらまともに戦えておらぬと言うのに、通常サイズとは言えこんな数のセクシー処刑人は……!


安心セクシーしたまえ。客席の彼らはビジュアルこそ同じ(セクシー)だが、ただのセクシー観客。セクシー処刑人とは所属部署セクシーションが異なる。戦闘セクシー能力は皆無に等しい」

「あんなものを召喚して、一体、何をするつもりじゃ……!?」

『第二幕をセクシーに始めると言った!!』


 突如、巨大セクシー処刑人が客席へ向けてモストマスキュラーのポーズを取った!

 すると、劇場内を奔走しておった照明が一斉に巨大セクシー処刑人に集中! その筋肉の輝きに、客席がどかっと湧いた!!


『セクシー評価値を計測――五三万セクシー!! ふふふ、何気に世界新記録(セクシー)、だ!!』

「な、何をしておるのじゃ……?」


 いや、マジで。


「セクシー劇場の第二幕はセクシー選手権大会!! 長所セクシーをアピールして、観客に見せつけ、観客の興奮セクシーをセクシー評価値として算出――負けた方は死ぬ!」

「ふざけるな貴様ァァァァァ!!」


 命を何じゃと思っておる!?

 貴様、マジで許さんぞ!?


 ただの尻叩きでは絶対に済まさぬ!

 尻臀しりこぶたを四つに割ってやるからな!!


「だがこれは好機セクシーだろ? もしキミがセクシー処刑人以上のセクシーを見せつける事ができれば……セクシー処刑人は死ぬ。キミの勝ちだ」

「それは………………」


 確かにその通りじゃ。

 しかし、それにはひとつの懸念がある。


「自信が無いのか? それはノット・セク……」

「違うよ」


 ビギナエルの言葉を遮ったのは、フレアじゃった。

 抵抗をやめないパンダンドラムを力強い裸絞め(スリーパー・ホールド)で強制的におとなしくさせながら、フレアはビギナエルを真っ直ぐに見据えて言う。


「アリスちゃんは、そのセクシー処刑人が『もしかしたら魔族や人間、イケメンと同様、自我を持つ生き物なのではないか?』って考えて、躊躇っているんだよ。そうだよね、アリスちゃん」

「そうじゃが……よくわかったな」

「えへへ、ボクはアリスちゃんを推してる女神だからね! 推しの事は大体わかりみだよ!!」

『それはつまり……我々のような訳のわからないトンチキ存在にすら、慈悲を向けている……と?」


 訳のわからない存在と言う自覚があったのか……!?

 って、何じゃかセクシー観客たちがものすごくざわめいておる?


『ッな、なんだこれは……セクシー評価値ではない、別の何かしらのポイントがすごい勢いで……測定器の故障? いや違う……これは、【優しさ(アッタケェ)評価値】だ!!』

「なんて?」


 こっちはセクシー評価値とやらですらピンと来ておらんのに何か新しいの出てきた。


『そ、測定不能、測定不能――ぐあああああああああああ!?』

「ちょ、セクシー処刑人!?」


 ボンッ、と言う謎の音を立てて、巨大セクシー処刑人の覆面の下で何かが弾けた。

 巨大セクシー処刑人はそのままよろけて、再び舞台板の大穴へと落下していく。


「ふッ……なるほど。セクシーとは別ベクトルでありつつ、同等以上のポイントを獲得して測定器を破壊する事で、第二幕のデスゲームを無効試合にした……セクシーな知略と言わざるを得ないセクシー!! ……つまり、完敗だ」


 ……よくわからぬが、ビギナエルのフィールドが解除され、周囲の景色が元の樹海に戻った。


「……色々と訳がわからぬが、セクシー処刑人はどうなったのじゃ?」

「安心したまえ、今のは無効試合。セクシー処刑人の命に別状は無い。今頃、私の精神世界の底でアッタケェ……心がアッタケェよぉ……とつぶやきながら心臓発作を起こしているだろう」

「そうか。それは良か……それ大丈夫なのか!?」

「セクシーだ。問題無い」


 そ、そうか。それなら良いが……。


 ひとまず無事に、パンダンドラムが処刑される危機を回避できた……と言う事で良いんじゃよな?

 じゃが、フリダシじゃな。結局パンダンドラムの呪縛を解く方法は得られておらぬ。


 で、そのパンダンドラムは……フレアに締め落とされて静かになっておるな。安らかな寝顔じゃ。何はともあれ止めてくれてありがとう、と言う感じじゃな。


「さて……騒がせてしまったお詫びも兼ねて、そこのノット・セクシーは私に任せてくれ。キミたちは向かうべき場所セクシーがあるんだろう?」

「……あの妙なフィールドに連れ込まぬと約束できるなら、任せても良いが」

「勿論。一度失敗した手段に固執するのはノット・セクシー。他にセクシーな考えがある」

「考え?」


 ろくでもない事じゃったら承知できぬぞ……。


「我々、課金三獣士と課金限定イケメンは互いに互いの居場所を検知できる特殊セクシー知覚がある。つまり私はパニプゥがどこにいるかわかる。パニプゥの力を借りて、彼の呪縛をセクシーに解こう」

「おお、それは――って、じゃったら最初からそうしろォ!!」


 たまらず、ワシはビギナエルの尻に渾身の魔王チョップを叩き込んだ。


「セクシー大ダメージ(ダイナマイト)!!」

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― 新着の感想 ―
[一言] ラストのセリフはどうしても『超兄貴』を思い出してしまう……(笑)。
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