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58,ピュアな魔王は嘘吐き上級者と相性が悪い。


「……む?」


 イケメン・キャッスルを目指して樹海を進んでおると、後方、遠くからよく知る気配を感じた。


 今の感覚は、勇者パワーじゃな。

 ふと立ち止まって振り返ってみると、フレアと目が合った。


「お、アリスちゃんも感じた?」

「うむ。今のは……勇者ユシアの呪縛が解けたのか」


 きっかけはわからぬが……今の勇者パワーは、快く晴れた空のようにからっとしておった。

 何か、吹っ切れた雰囲気を感じたのじゃ。

 勇者のメンタル面が心配じゃったが、もうその必要は無いのかも知れぬな。


「何の話をしているかよくわからぬのでござるが……ユシアとは、確か奴隷王の事でござったな?」


 口を挟んできたのは東洋顔のイケメン、ベジタロウ。

 先ほどまで全裸じゃったが、いつぞやグリンピースに着せたワシ特性キュウリスーツでキュウリの妖精スタイルになっておる。珍奇じゃが、まぁ、全裸よりはマシじゃろう。


「どれいおーって誰?」

「ぬー」


 して、そのベジタロウにおんぶされて足をパタパタする白黒小娘エレジィと、短いあんよでエレジィの頭にしがみつく黒いまんまる猫が鳴く。


 最初はいくら揺すっても起きぬエレジィを「エレジィ殿は戦力としてはキャパーナ殿に負けるとも劣らぬでござる。おぬしをママ認定しているのならば都合も良い」とベジタロウが背負って移動し始めたのじゃが……いつの間にか起きておったらしい。


「エレジィ殿。起きたのならば降りて欲しいでござる」

「やー。ママ探しでたくさん飛んで疲れたからしばらくベジるー」

「ぬあー」


 ベジるとは。


「やれやれ……まぁ、良いでござる」


 良いのか。


 グリンピースへのフレンドリーな対応や、キャパーナへの諦観に近い寛容と言い、こやつ基本的に味方側には甘いな。


「して、話を戻すでござるが……奴隷王はグリフ殿と行動を共にしていたでござる。もし位置がわかったのであれば、そこに向かうのが吉では?」

「いや、さすがに場所の補足まではできんかった」


 おそらく、ユシアもワシと同じで色々と引っ付けられた呪縛のひとつが解けただけじゃたのじゃろう。

 薄らとはどこかで勇者パワーが使われた事が認知できた程度で、場所や方角まではわからぬ。


 このまま予定通り、イケメン・キャッスルを目指して真っ直ぐ……。


「見つけてないよ」


 その時、聞き慣れぬイケボが聞こえた。

 このパターンは――次なる美美美美美美(ヴィ・シックスメン)が来たか!


 イケボの方へ視線を向けると、藪を掻き分けて出てくる者が一人。

 随分と厳つい銃器を背負っておるな……携帯用に改良された大砲か。炎属性の魔力残滓が染み着いておるし、おそらく魔力爆弾を撃ち出すものじゃな。それを両肩に一門ずつ、二門背負ったイケメン。

 枯れ枝のような色合いの髪で細長い三つ編みを無数に作っており、まるで頭から大量の導火線を垂らしておるように見えるな。


「……む?」


 大砲を背負ったイケメンの眼は……何かを訴えるような色合いでこちらを見ていた。

 どこかこう、悲し気な……?


「むむ、敵イケメンと見たよ!」

美美美美美美(ヴィ・シックスメン)でござるか!?」

「違うよ。私は敵イケメンじゃないよ。逃げないで」

「む? そうなのか?」


 何じゃ、ビックリさせおって。

 まぁ、イケメン・インフェルノ計画を知れば、ベジタロウのようにこちらについてくれるイケメンがいてもおかしくは――


「ちょ、アリスちゃん!」

「何じゃ、何を騒――ぬあァーーー!?」


 どかーんて!! 何かすごい爆発したんじゃが!?

 咄嗟に筋力防殻を張っておらんかったら直撃して吹っ飛ばされておったんじゃが!?


「ま、まさか貴様……今その大砲を撃ったのか?」

「撃ってないよ」

「む? そうなのか?」


 眼を見てみれば、そこにはやはりどこか悲し気な色……いや、さっきよりも一段と悲しそうな……?

 どういう感情なのかは読み取れぬが、少なくとも嘘を吐いておる者の眼には見えぬな。つまり誤解か。


「疑ってしまった、ごめんなのじゃ」


 しかし……それでは一体、先の爆発は何――ぬあァーーー!?


 また爆発したぁ!?

 今のは見ておったぞ!

 あのイケメン、普通にワシに向けて大砲を撃ちおった!!


「アリスちゃん、普通に敵だから! さっきから嘘吐いているだけだから! すんなり信じて一旦警戒を解くのやめようか!?」

「ママってバカなの?」

「バカ違うし! ぐぬぅ、不覚……騙されたのじゃ! さては嘘吐き上級者か!」

「騙してないよ」

「現行犯じゃろがい! さすがにもう信じぬぞ!!」

「もう絶対に撃たないよ」

「む、そうか……ではまぁ、今回だけは大目ぬあァーーーーー!?」

「アリスちゃぁぁぁぁぁん!?」


 ぐぬぅ……筋力防殻で防いでおるからダメージは無いが、油断した所にどかんどかんとやられると普通にびっくりする!!


「おそらくあのイケメンはパンダンドラムでござる!」

「知っておるのか、ベジタロウ!」

美美美美美美(ヴィ・シックスメン)が第五席、パンダンドラム! ウワサによれば嘘吐きどころか嘘しか言わぬ詐欺イケメンであると聞いているでござる!」


 詐欺イケメンじゃと?

 なるほど、眼を見ても嘘を吐いておるようには見えんかったのは、息を吐くように嘘を吐けるからか!

 完全に騙され……………………、む?


「やっぱり敵だし美美美美美美(ヴィ・シックスメン)! アリスちゃん、構えて!」

「野菜格闘術にて助太刀するでござる! 今さっき考えしタマネギ殺法!」

「パンちょって確か悪霊令嬢(ホロロっち)の仲良しさんだけど……まぁママの敵って事はわたしの敵だからね。覚悟してよ」「ぬあー」

「待ってくれ。様子がおかしいのじゃ」

「「「?」」」「ぬー?」


 パンダンドラム……あやつ、どうしてあんなに悲しそうな顔をしておる?

 ベジタロウに詐欺イケメンと言われて一層、表情がぐしゃりと歪んだ。何かを憎むように唇を噛み締めて……まるで、泣きたくても泣けない……いや、まさか――泣きたいからこそ、泣けない?


 ――『私は敵イケメンじゃないよ。逃げないで』


「……そうか。そう言う事か」


 すべて合点がいった。


「パンダンドラム、貴様……嘘を吐きたくて吐いておる訳ではないな? 察するにそう言う病や呪縛か?」

「……そうじゃないよ」

「そして、それが影響しておるのは言葉だけではないな。行動と、涙腺もか。表情筋だけは何とか思い通りにできておる……と言った所か?」

「全然、違うよ」


 やはりそうか……おかしいと思ったのじゃ。

 すべての発言が嘘だとすれば――こやつが最初に放った言葉、「逃げないで」は「逃げろ」と言う意味じゃった事になる。


 こやつは出会い頭、ワシらに警告しようとした。

 自分は敵だ、逃げてくれ。と。


 何故、そんな事を?

 決まっておる。


 こやつは、ワシらと戦う意思が無い。じゃが、こやつはおそらく厄介な性質を抱えておる。

 意思とは逆の言葉を吐き、意思とは逆の行動を取ってしまう。

 じゃから、こやつがワシらと戦いたくないと思えば、こやつの体はワシらを攻撃する。それを伝えようとした。それが最初のあの発言じゃった……と。


「貴様は、ワシらの敵ではないのじゃな」

「違うよ」

「問うた訳ではない。答えなくて良いぞ」


 嘘を重ねる度、パンダンドラムの表情は曇っていく。

 こやつは本来、嘘を吐く事に耐え難い苦痛を覚えるほど、誠実なイケメンじゃと言う事じゃろう。


「私は敵じゃないよ! 全然、逃げなくて良いよ!!」


 悲鳴のような声で叫んで、パンダンドラムが大砲を連射した。

 すべて正確に、ワシらを狙っておる。つまり、撃ちたくない、当てたくないと言う意思の裏返し。


 筋力の防壁を広げ、すべて弾く。


「あの苦しみ方は尋常じゃないね。本当に、ボクたちと戦いたくないんだ」

「みたいだねー」「ぬー」

「……で、どうするつもりでござる? どうせおぬしの事。相手が望まぬ戦いを押し付けられていると知った以上、正攻法で捻じ伏せるのは断固として嫌、でござろう?」

「うむ。あやつの症状の原因を探り、解決する方向で行くぞ」


 あんな病気は聞き覚えが無い。

 おそらくは呪縛の類じゃが……ワシ、今は筋力しかないからなぁ。解呪なぞ不可能じゃ。


「フレア、女神パワーで解呪とかできぬか?」

「オッディの呪縛が結構強烈だからに……難しいや、ごめん」

「いや、仕方の無い事じゃ。謝る事は無い。ベジタロウとエレジィは?」

「そう言った心得は無いでござるな」

「わたしもー。魔術は攻撃系しか無理」「ぬー」

「そうか……」


 エレジィは魔女の上位互換らしいから少し期待したが……まぁ無理ならば仕方無し。


 パンダンドラムの爆撃は強烈かつ凄い連射速度じゃが、まぁワシの筋力防壁の方が上手。破られる事はあるまい。今の内にじっくり手を考えよう。さて……どうするか。


 呪縛は魔術による解呪以外に、特定の条件を満たせば解呪する事もできる。

 真名呪縛が真名を思い出す事で解除できるのと同じじゃ。


 パンダンドラムの呪縛は察するに『素直になれない呪い』と言った所じゃろう。

 であれば、何らかの手段で無理矢理にでも素直にさせれば、呪縛を破壊できるはずじゃ。例えば、精神干渉系の魔術で赤裸々に本音を語らせるとか。しかし、そんな精神干渉術式は……精神干渉、そうじゃ!


「ビギナエルがおったと言う事は、ゴールドさんたちもここに吸い上げられておるはず!」


 ゴールドさんの配下、パニプゥ!

 精神に干渉する魔術に特化したイケメン!

 あやつなら、対象を赤裸々な告白をさせる魔術とか使えるやも……!


 そうと決まれば、一時離脱してパニプゥを――


「私を呼んだか」


 茂みから謎の声! まさか都合良くパニプゥが!?

 ワシが期待の視線を送る中、茂みからぬるっと飛び出してきたのは――


「セクシィィィィィィィィィ!!」


 呼んでない方(ビギナエル)ッッッ!!

 筋骨隆々のセクシーボディ、その局所だけをヘビの鱗で隠しただけの変態!


 何故じゃ、何故にキャパーナと言い、呼んでない奴が来るのじゃ!?

 鱗……? 鱗か!? ヘビっぽい奴は呼んでなくても来るのか!?


「うわ! また出た!?」

「誰でござるか!? この不審者は!!」

「きもい」「ぬ」

「ノット・不審者。断じてノット・きもい。イエス・セクシー伝導師……さて。存外、早い再会セクシーになったね。事情はよくわからないがセクシーを求められているのならば応えよう! セクシー望む者あればセクシーを届ける……それは世界セクシー協定および全宇宙セクシー憲法に定められている事だ。法令順守セクシー!!」


 うむ、前にもそんな事を言っておったな!

 じゃがごめん、大前提として貴様は呼んでおらぬ!!


「今、私はお呼び出ないと思ったね?」


 こ、心を読まれた!?


「本音とはセクシーさに滲み出るものだ。それはさておき……そこの景気セクシー良く大砲を乱射セクシーしている彼を、赤裸々(セクララ)にしてしまえば良い……そう言う話なんだろう?」

「セクララとは……?」

「セクシーだ」


 なるほどわからぬ。

 こやつの言うセクシーは含意が無限大過ぎる。


「とりあえず、誰かの心を丸裸セクシーにしたい……それなら私以上の適任セクシーはいないよ。セクシーな話だ。まぁ、セクシーチャンスと言う事だね」


 相変わらず訳のわからぬ事を宣いながら、ビギナエルが右半身を見せつけるようなサイドリラックスポーズ。


「セクシーに任せたまえ。この世界セクシーを私なりのセクシーで満たす」


 ビギナエルはそう言って、サイドリラックスポーズから体を正面へと向け、両腕を肩と水平になるように持ち上げると、肘を上向きに曲げた。見事なフロントダブルバイセプス……って、ちょっと待て。何じゃか、筋力とも魔力とも違う謎のエネルギーがすごい勢いで……まさか、これがセクシー……!?


「――フィールド展開セクシー


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