06,強襲男子ベジタロウ
「ふむ、これがステータス……」
ベッドに腰かけて、フレアに習った通り「ステータス見せて」と念じつつ虚空を撫ぜると、薄く透ける板が表示された。
板にはワシの名前と、さまざまな数値が羅列されておる。
「プレイヤーレベルとやらは一か。その他の数字も一や〇ばかりじゃな」
「ゲームを始めたてだしね」
МP――察するにマッスル・パワー……つまり筋力も一か。
この項目は何としても最優先で上げなければ、ろくに技も使えん。
「この体に合わせた筋トレメニューは後々考えるとして……」
魔王イケメンカイザーを打倒し、この結界からフレアを連れて脱出する。
そのために、まずは情報収集よな。
「フレア、イケメンには弱点などあるか?」
フレアの足鎧、ヴァーン何某はイケメン武装……即ちイケメンを倒して得た武器なのじゃろう。
であれば、対イケメンに関して何か有益な情報を持っておるはず。
「股間に大ダメージを与えるか、顔を少しでも傷を付けるとイケメン大爆発が起きて瀕死になるよ!」
「こ、股間……」
つまり、プレイヤーはこぞってイケメンどもの股間を狙っていくゲームなのか……。
どんな地獄じゃここは……ああ、乙女ゲーとか言うんじゃったか。
乙女のためのゲーム……なんじゃろうが。
いくらなんでも男に容赦が無さ過ぎると思うのじゃ。
「……ちなみに、その足鎧になっているヴァーンとやらは」
「自慢の足技でヴァーンのキンタマを蹴り潰したよ!」
「可愛い顔してなんて事を」
「アリスちゃんの方が可愛いよ!」
「ごめんワシそれ褒め言葉として呑み込めない」
「照れ屋さんだね! ちなみにヴァーンを倒したのはイケメンカイザーが現れる前だけど……カイザーが現れた後でもゲリラの仲間がそれで何体か撃破したから、この弱点は変わっていないよ」
それは朗報じゃな。明確な弱点が存在すると言う事は勿論。強化イケメンであっても、条件さえ揃えば打倒できた前例が複数あると。
「でも、強化で顔も股間もすごく堅くなってるから……言うほど簡単ではないね」
「そこはケチを付けてもどうにもなるまい。ともかく方針は決まった。顔を狙っていこう」
股間は狙わん。と言うか狙えん。その痛みは察するに余りあり過ぎる。
今のワシにはついとらんけど。
「あ、顔を狙って接近戦に持ち込むのは良いけど、壁には気を付けないと駄目だよ? イケメンに壁ドンされたら確定でスタン入るから。相手によっては詰んじゃう」
よくわからんが……壁際に追い詰められたら一巻の終わりと言う事か?
まぁ、それもそうか。接近戦において行動範囲が一方塞がっているなど、不利でしかないじゃろうからな。
「さて、ひとまず今後の方針としては――イケメンを襲い、顔を傷付けて倒し、イケメン武装をゲットして戦力を強化。より強力なイケメンとの戦いに備える……と言った所じゃな」
それを繰り返して、最終的にはイケメンカイザーを討つ。
……じゃが、今のワシって筋力も魔力も無し、武器も無いからのう……。
「そうじゃ、ここは反イケメン・ゲリラのアジトじゃと言ったな? 武器庫はあるのか?」
「あるよ! でも……」
◆
地下牢のような医務室から武器庫へ移動した、は良いが……。
「寂しい武器庫じゃな……」
ほぼほぼ空じゃ……床に短剣やら踏み折られた矢が数本散乱しておるくらいか。
まぁ、反イケメン・ゲリラは総力戦の末に壊滅したと聞いた。総力戦と言うほどじゃ。出し惜しみはするまい。在庫切れも止む無しか。
とりあえず、短剣を拾い上げて革の鞘から抜いてみる。小ぶりで鍔は無い。まぁ「小ぶり」と言っても、ワシの今の手では満足に扱えぬが。かなり軽めに作られておるし……投げるだけならどうにかなるか。
とりあえず短剣自体は問題無く使えそうじゃ。
……ただ、相手はイケメン。野ウサギや山イヌではない。これでどうこうできるとは思えぬ。
「武器は新規で調達する必要がある……できれば強力なものを……」
となれば、イケメンを倒すしかない。
イケメンを倒す武器が欲しいのに、イケメンを倒さねばそれが手に入らんとは……ままならぬ。
フレアが装備している足鎧型のイケメン武装はあるが、こやつも参加しておった反イケメン・ゲリラが壊滅していると言う現状を鑑みるに……無双の逸品と言う訳ではないのじゃろう。
「ちなみにフレアよ。貴様の足鎧……ヴァーン何某は爆撃以外に何ができるのじゃ?」
「装着していると体がぽかぽかしてずっと元気になるよ!! さよなら冷え性!!」
「元気で結構……して、攻撃手段は?」
「爆撃だけ。それなりに威力はあるけど今の強化されたイケメン相手にはほとんど効かないね。直撃させても傷一つ付かないのさ!! もう笑っちゃうよね! にゃはははは!!」
うむ、ほんと元気はよろしい!
よぉ~し、ワシももう笑っちゃおっかな!!
「……ほう、この期におよんで活きの良いゲリラ残党どもでござるな。誠におもしろい女子らよ」
「そりゃあもう元気しか残されとらんじゃろこの状況……って、ッ!?」
いつの間に……!?
武器庫の入り口に人影が!
「にゃ!? 敵!? 見つかっちゃった!?」
「然り。体制に逆らう者は地下を好むと考えて大正解。拙者は知恵者でござる」
驚くワシらとは対照的、イケメンは実に涼し気な顔……と言うより、無表情。
長い黒髪を後方で束ねており、服装は――資料で見た事があるな。確か【和装】と言う奴じゃ。濃い緑色の和装。オリエント大陸系に属する東洋諸島連合国の民族衣装じゃったか。東洋諸島連合国の戦士【サムライ】はポントーなる片刃の剣を使うと聞いておったが……和装のイケメンが背負っておるのは、鍬、じゃな? 武器で良いのか、それ。
「このイケメンは……ベジタロウ・タヴァタ!」
「知っておるのか? フレア」
「うん。東洋諸島連合国出身って設定のエキゾチック・イケメンで、南西都市ダーゼットの中ボス……!」
中ボス……グリンピースほど強敵ではないが、決して有象無象でもないと言う事か……!
「知っているようだが、一応名乗っておこう。拙者はベジタロウ・田畑。ゲリラ残党狩りに勤しむ一士でござる」
ベジタロウと名乗ったイケメンは無表情のまま、背負っていた鍬を抜いた。
こちらを見据える視線には確かに敵意が込められておるが……熱が感じられぬ。しかし、生半可な敵対と言う印象は受けぬ。実に冷静沈着……まるで冷たく鋭い刃物のような敵意じゃ。
――感情任せには動かない。堅実な手段を用いて獲物を追い詰め、確実に仕留める。
冷徹なほどに落ち着き払った、狩人の目。
これが……東洋のサムライ……!
「さて……幼女か美女か、どちらから耕してしまおうか」