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54,大ピンチ!? 瀕死のグッピー!!


 アリスたちがイケメン・キャッスルへ向かって歩み出した、その頃。

 グリンフィースはプロメテスを肩に担ぎ上げ、膝抱き状態で丸くなって動かないユシアを小脇に抱えて、フラフラと樹海を彷徨っていた。


「ったく……俺だってどっかの神様に焼かれたせいで、そこそこ重傷なんだぜ?」

「………………」

「………………」


 グリンフィースの愚痴に、プロメテスもユシアも反応無し。


 プロメテスは股間に深刻なダメージを負ったせいで元々瀕死、今は昏睡状態。イケメン致命傷だから仕方無い。


 ユシアはと言うと完全にメンタルクラッシュ。自分の中に引き籠ってしまっている。こちらもまぁ……諸々の事情的に仕方無い。


 と言う訳でグリンフィースは頑張っているのである。


「ベジタロウはキャパーナに引っかけられてどっか行っちまうし、ペガサスは呼べども来ないし……マジでキッツいんだぜ」


 愛馬のペガサスはゴールデン・ヴィレッジの馬房に繋いだまま。今頃は呑気に干し草でも食みながら「ニンジンも食いたいでやんすなぁ……」とか独り言でもつぶやいているだろう。


「とりあえずマスターの事だから、俺を信頼して真っ直ぐにイケメン・キャッスルを目指すはずだぜ。なら俺もそうするんだぜ……だが、この状況でメケメケや野生イケメン、美美美美美美(ヴィ・シックスメン)なんかに出くわした日にゃあ最悪なんだぜ……!」

「おやおやおや、かのダーゼット卿ともあろうものが。口は災いの元、噂をすれば影と言った言葉を御存知でない?」

「!!」


 響くのは小さな笑いを含んだイケボ!!

 つまり、イケメンの登場である。


「あはは、そう身構えないでください。僕は別に、貴方に危害を加えるつもりはありませんよ。今の所は」


 木の陰からゆったりとした歩みで姿を見せたイケメン――紳士的な装いでバッチリ決めた正統派の茶髪イケメンだ。ティーカップを片手に木漏れ日差すコテージでくつろいでいて欲しい風格!!


「おまえは確か……美美美美美美(ヴィ・シックスメン)の六席、ジャンジャックだぜ?」

「ええ、はい。いかにも。ジャンジャックです。こうして直接お話しをするのは初めてですね」


 グリンフィースは南西都市の統治を任されている貴族だ。時折イケメン・キャッスルで行われるイケメン社交界に参加する程度の地位はあり、美美美美美美(ヴィ・シックスメン)の美顔くらいは把握している。

 ジャンジャックも同様、グリンフィースの存在は認識していたらしい。


「さて、ダーゼット卿。状況が状況ですし、世間話は省いて早速本題といきましょう。僕は先ほど『危害を加えるつもりは無い』と言いましたが、同時に『今の所は』と付け加えました。この意味がわかりますか?」

「……条件付きで見逃してやるとか、そう言う話だぜ?」

「その通り。悪くない話でしょう? 貴方は今、余計な戦闘は避けたいはずだ」


 確かに、グリンフィースは満身創痍でまともに戦える状態ではないし、アリスと一刻も早く合流したい。

 戦いを避けられるならば、それが最善ではあるが……。


「胡散臭いんだぜ」

「よく言われます。何ででしょうね?」


 雰囲気の問題だろう。余りにも普遍的イケメンであり、そして物腰が柔らかすぎるのだ、このジャンジャックと言うイケメンは。ステレオタイプ過ぎて、演技臭く、裏を感じる。


「と言うか、おまえらにひとつ訊きたいんだぜ。イケメンカイザーが何をしようとしているか、知った上でそっち側についているんだぜ?」

「イケメン・インフェルノの事ですか?」


 当然のように、ジャンジャックはそれを口にした。


「リンさんやクゼンさん、トッビィくん辺りは知らないと思いますよ。彼らは知っていたら貴方たちに加担するタイプでしょうから、教えなかったんでしょうね。僕やパンくん、そしてダンダリィさんは別に、そう言うのは無いので」

「後半の三人はどうしようもねぇ下衆野郎って事だぜ?」

「ずばり言ってくれますね」


 あははと胡散臭い笑いを浮かべながら、ジャンジャックはポリポリと頬を掻いた。


「まぁ、ひとくくりにしましたがダンダリィさんは闇属性だから悪性を歓迎する性格で、パンくんは呪縛のせい。僕の場合は――ただ興味が無いだけ。と、理由は異なりますよ」

「興味が無い……だぜ?」

「ええ。どうでも良いんです。世界が滅びようが、僕が僕で無くなろうが」


 ジャンジャックの言葉は軽い。本当に、心底どうでも良いと言わんばかりに。


「元々、僕は僕自身にそこまで存在価値を感じていない。世界に対しても同様。だって、壊そうとして壊せるのなら、それはどうせいつか壊れるものです。執着しても苦しむだけですよ。どうでも良い、と考えるくらいがちょうど良い、何事も」

「……退廃的にもほどがあるんだぜ」

「そうですね。特に反論はありません。まぁ、とにかくそう言う訳なので、カイザーの野望が果たされても良いし、果たされなくても良い。貴方の邪魔をしなくても良いし、しても良いんです。僕としては」

「なるほどな、だぜ」


 ジャンジャックの胡散臭さの由来が、見えた気がする。

 このイケメンは、己を含めすべての命を軽んじている。生きる事への執着が無く、他者が生に執着する事に理解を示す事ができないのだろう。だから、この男と接していてもイマイチ、生者と触れ合っている気がしない。どこか、存在にリアリティが無い。当然だ、当人に生の自覚が無いのだから。

 ありきたりなイメージの塊、どこかにいるかも知れないありふれた誰かを自分の表面に張り付けたカカシでも相手にしているような気分にさせられる。


 生者を演じるカカシなど、胡散臭いに決まっているだろう。


「大体わかっていただけたと思いますが……そんな虚ろな僕でもひとつだけ。そう、たったひとつだけ執着できる事があるんです」


 ジャンジャックが指差したのは――グリンフィースが小脇に抱える幼女、ユシア。


「その幼女、イケメン奴隷王なんですよね? 僕にくださいよ、それ」


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