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53,ついに語られる野望……魔神イケメン・インフェルノ計画!!


 未だ気絶中のリン・シェンヴの横に並べて、白眼ガン剥きのキャパーナとクゼンヴォウ、トビダンジョウを木に吊るす。


「何だかんだ美美美美美美(ヴィ・シックスメン)も半分撃破だね。アリスちゃん、大丈夫?」

「うむ、まぁ……肉体的には」


 精神的にはこう……取り返しの付かぬ悪事に手を染めてしまった感すらある。

 すべてが片付いたら、あんな酷い倒し方をしてしまった事を全力で謝ろう。


「ぬー」


 ワシの足元でデブ猫が「罪悪感を噛み締める……反省と言う名のその苦味が、子供を大人にすんのさ」と鳴く。……で、そのデブ猫を枕にして、エレジィがスヤァと心地好さげに寝入っておるのは何でじゃ。キュウリを食べ終わった途端「ママ堪能。満足」と言ってこうなったぞ。自由過ぎるじゃろこやつ。

 イケメンに負けず劣らず、悪役令嬢(レディ・ヴィランズ)もクセが強い奴らばかりじゃのう。


「……一応、礼を言っておくでござる」


 無愛想な言葉を投げかけてきたのは、全裸ベジタロウ。そこらの草葉を使い、キャパーナの胃液を拭う作業中じゃ。


「ああ、どういたしまして。貴様も大変じゃな……」


 思えばこやつ、悲惨な目に遭いまくりじゃな。

 それはさておき。


「ベジタロウ。貴様のスタンスは承知しておるが……今は極力、争いたくない。貴様とて疲労困憊も良い所じゃろう。ここはお互い見なかった事にして、見逃してはくれぬか?」


 ベジタロウはどうあってもプレイヤーと敵対すると意思表明しておった。

 どんな状況でも、ワシらに協力してくれる事はあるまい。しかし、ここは敵地のド真ん中で、全力兄妹のせいでワシもさすがに疲れてきた……元々争いは好まぬが、なおさら不要な争いは回避したいのが現状じゃ。


「何を言っているのでござるか。いくら拙者でも、今この状況で反カイザー勢力と敵対するはずがないでござろう」

「へ?」


 予想外の返答にワシが間抜けな声を上げると、ベジタロウが訝しむように首を傾げた。


「……もしや、プロメテス殿の話を聞いていないのでござるか?」

「プロメテス……って、あの神イケメンかにゃ?」

「ああ、フレアは気絶しておったから把握しておらぬじゃろう。プロメテスはイケメンカイザーの目的を知っておってな。何やらワシならば希望がどうのと言っておったのじゃが……」


 ダンダリィやキャパーナの乱入、果てはイケメン・スカイサンクチュアリの急襲もあり、すっかり聞きそびれておったな。


「察するに、プロメテスの話を聞いて、貴様は心変わりしたと言うのか?」

「サムライを侮辱するなでござる。心変わりなどしていない。拙者の理想は変わらないでござる。しかし、イケメンカイザーの目指す場所に、拙者の理想とする世界は無かった。むしろ真逆。イケメンカイザーは、イケメンが討たねばならぬ存在でござる」


 なるほど、それでベジタロウは反イケメンカイザー派との休戦を決断した、と。

 敵の敵と戦う利は薄いと言う話じゃな。


「しかし、イケメンが討たねばならぬ存在、か……イケメンカイザーは、一体なにを企んでおるのじゃ?」

「それ気になるよね! ボクたちプレイヤーからすると、イケメンカイザーは完全にイケメンの味方だのに」

「簡単な話でござる。イケメンカイザーは、イケメン・ニルヴァーナを滅ぼすつもりなのでござるよ」

「なんじゃと……!?」

「『結果的に滅びる』と言う表現が正確やも知れないでござる。カイザーに取ってこの世界は、【素材】でしかないのでござる。奴が理想とする【魔神】を創るための」

「マジン……?」


 聞き慣れぬ単語に疑問を覚えておると、ベジタロウがワシを指差した。


「『千年筋肉こと魔王アゼルヴァリウスを超える超・魔動兵器』――その名を【魔神イケメン・インフェルノ】。イケメンカイザーはこの世界を構築している魔力と、この世界に封じられているプレイヤーたちの魂を素材、エネルギーソースにして、現実世界にてそんな怪物を創り出そうとしているのでござる」

「魔神イケメン・インフェルノ……じゃと……!?」


 その命名センスはひとまずノータッチで……そうか、この世界――ソーシャル形式の遊戯結界魔導書は言うなれば膨大な魔力の塊。そこに、無数の魂が詰め込まれておる状態。おぞましい発想じゃが、これらを丸ごと純粋なエネルギーに変換できたなら……その出力は途方も無い。ワシの全力全霊すら上回る事も有り得るじゃろう!

 しかも、名指しで「魔王を越える兵器」と言う事は……もしやワシを倒すためにそんなものを創ろうとしておるのか!?


「じゃあ、イケメンカイザーの正体は過激層の反魔族派って事? 人間が一〇〇〇年間まったく手も足も出ないアリスちゃんを倒すために、こんな事を……!?」

「いや、おそらくそれは違うという話でござる」


 ワシもフレアと同じ推測をしておったのじゃが、それはベジタロウによって即座に否定された。


「プロメテス殿から聞いたでござる。カイザーの命を受けて動いていたダンダリィは、魔王おぬしをそこまで特別視していなかったと」


 確かに……ゴールデン・ヴィレッジでダンダリィと相対した時、いわくイケメンカイザーはワシに執着するどころかむしろ「捕まえられないなら放っておけ」と言う指示を出しておったらしい。魔王憎しでここまでの事をしでかしておるのなら、それは絶対におかしい。ワシがこのゲーム内に封印されている事を知った時点で、ワシの捕獲や抹殺に総力を注ぐはずじゃ。

 しかし、実際は真逆の様子……。


「つまり、イケメン・インフェルノとやらがワシを越える兵器とされておるのは……ただ単に、ワシを物差しとして引き合いに出しておるだけか」

「そう言う事でござろうな」


 やれやれ、物騒なものの代名詞として名前を使われるとか大変遺憾なんじゃが……まぁ、そこは愚痴っても仕方あるまい。


「そんな超兵器を創り、現実で何をしでかすつもりなのか……プロメテス殿もさすがにそこまでは掴めていなかったようでござる。ここまでの情報も、世界の裏側からイケメンカイザーに幾億回とこっそり的アクセス干渉してようやく得られた情報だそうでござる」


 そこまで言って、ベジタロウは小さく息を吐いた。

 表情の動きは少ないが……その額には、隠し切れぬ青筋が浮かんでおる。


「もしこのイケメン・インフェルノ計画が遂行されれば、イケメン・ニルヴァーナはただのエネルギーに変換され、消滅――我々イケメンも、ログアウトを封じられたプレイヤーも、すべて形を失いインフェルノの一部と成り果てる……と言う話でござる」


 ベジタロウがカイザーを「イケメンが討たねばならぬ存在」と形容したのも頷けるな。

 じゃが……。


「待ってくれ。その話を疑う訳ではないが……そうじゃとすると違和感がある。それならば、イケメンカイザーがイケメンたちの革命を促したのは何故じゃ?」


 この世界をイケメンやプレイヤーたちごとエネルギー資源にする事だけが目的ならば、わざわざシステムを変えてイケメンを解放する意味がどこにある?

 確かに、プレイヤー狩りをするか否かをイケメンたちに託していたようじゃし、カイザーの野望成就にプレイヤー狩りは必須ではないと言う予想はしておった。しかし今の話じゃと、余りにも無関係な行為に思える。世界もろともエネルギー化するのならば、わざわざプレイヤーを一か所に集める必要も無いじゃろうしな。


 ワシの質問に対しベジタロウは「忌々しい」と言外に示すように、強く拳を握りしめた。


「プロメテス殿の話によれば、イケメンたちにプレイヤー狩りをさせたのは――ただの暇潰し。つまり遊興ゲームでござる」

「なッ……!?」

「この世界のすべてをエネルギー変換する儀式の準備期間中に、なんとなくで始めた余興であると……どこまでも、ふざけた輩でござる……!! 信じたくはなかったでござるが……あのドブ川のような声の主ならば有り得る事……!!」


 ……なんじゃ、それは。悪魔の発想と言う表現すら生温い……邪悪の権化!

 邪神どものやり口と互角の所業じゃ!

 一体、イケメンカイザーとは……どこの外道か!


「元々何を企んでいても、こんな事はやめさせなきゃと思っていたけど……絶対に止めなくちゃだね」

「うむ!」


 カイザーの思い通りに進めばどれだけの命が散るか……!

 なんとしてでも、止めなければ!!


「ところでさ、アリスちゃんが希望云々って話はどの辺にかかってくるの?」

「む……確かに。単純にカイザー打倒の戦力的な話かのう?」


 何やらそう言うニュアンスでは無かった気がするのじゃが……。


「その辺りは……残念ながら、聞けなかったでござる。拙者とキャパーナ殿、そしてグリフ殿と奴隷王は揃ってプロメテス殿から話を聞いていたのでござるが……丁度その話に差し掛かった所で、キャパーナ殿が」


 なるほど。その辺りでワシらの前にクゼンヴォウが現れ、共鳴したキャパーナが暴走開始。ベジタロウはキャパーナの移動に巻き込まれ、現在に至ると……。


「であれば、続きはプロメテスと合流してからじゃな」


 ひとまず、目標は変わらぬ。

 話によればプロメテス、そして勇者ユシアもグリンピースと行動を共にしておるのじゃろう。

 であれば、グリンピースがワシの行動を読み、イケメンキャッスルで合流できる事をあてにする。


「ベジタロウ、事情は大体把握できた。情報提供に感謝する。そして、共にカイザーと戦ってくれるな?」

「当然でござる。だが、勘違いはするな。拙者はイケメンに取っての理想郷を諦めた訳ではござらん。プレイヤーがその邪魔になるのなら、カイザーの次はおぬしたちでござる」

「うむ。今はそれで良い」


 ワシとて、イケメンに良き未来が訪れる事は望む所じゃ。

 今は具体的にどうするとは言えぬが……カイザーを倒した後にイケメンとプレイヤーが争う事になどならぬよう、ワシなりに全力を尽くそう。


「うんうん。何はともあれ、力を合わせられるのは良い事だに!!」


 思えば、ワシがこの世界に来て出会った二人目の敵対者ベジタロウ……フレアの言う通り、今はワシらと貴様の道が交わった事を喜ぼう。


「目指すはイケメンキャッスル! ワシらの手で、イケメンカイザーの野望を打ち砕くのじゃ!!」



「美男空中聖域決戦編 前半戦」読了ありがとうございました!


勇者の過去編的幕間を挟み、次次回より「美男空中聖域決戦編 後半戦」となります。



肉体的にボロボロなプロメテスと精神的にボロボロな勇者を抱え、グリンフィースが樹海を進む。そんな彼の前に現れたのは、美美美美美美(ヴィ・シックスメン)の一人にしてサイコキラー系イケメンのジャンジャックだった!

グリンフィースは窮地に追い込まれてもなお、イケメン矜持として、憎きプレイヤーである勇者ですらも守ろうとする。

そんな戦場に突如として乱入したのは、もこもこした影。

――そして、勇者は白銀の剣を取る!!



一方、イケメン・キャッスルを目指すアリスたちの前に立ちはだかったのもまた美美美美美美(ヴィ・シックスメン)の一人。その名はパンダンドラム。いわく【嘘吐き上級者】として有名らしいパンダンドラムの言葉に、見た目と精神年齢が幼女なアリスは何度も騙されてしまう!!

しかしアリスは気付く……パンダンドラムが放つ違和感に!

そして唐突だが世界はセクシーに包まれる!!

牙を剥く巨大セクシー処刑人に、アリスはどう立ち向かう!?



あとダンダリィは闇イケメンのくせにおばけが苦手で、神の火はめっちゃ恩寵。

闇を祓うべく光臨するんだぜ、神化イケメン!



いよいよ、アリスの冒険は正真正銘クライマックス……の一歩手前くらいかな!?

あと割とどうでも良いけどベジタロウ、服を着ていた期間より全裸でいる期間の方が長くなってるね!!



乞うご期待!

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