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47,筋肉展開、アリスとフレアの合体奥義!!


 大天華帝国出身イケメン、リン・シェンヴは己の技を誇る。


 別に殺しを愉しむ趣味は無いが、結果として命を奪う事に抵抗は無い。

 リン・シェンヴが求めているのはただ一つの到達点【唯一無敵】。武侠として生を受けたのだから、ただその道を極めたいだけ。シンプルなイケメン生だ。


 平和主義者は「殺人拳だ」と唾棄するクンフゥだが、彼は「それがなんだ」と笑い飛ばす。


 クンフゥが恐ろしいというのなら、対抗してみせろ。

 歓迎する。武の研鑽は、好敵手が在ってこそ。クンフゥを恐れ、対抗せんとする者が増える事は喜びですらある。


 そして、目の前の幼女は不敵に言った。

 クンフゥを打ち破ると。


 昂らずにいられるか。

 クンフゥを破らんと編み出された術を、クンフゥで打ち破った時。

 クンフゥはより極まった武術に昇華される!!


 眼を血走らせ、唇を舐めずるリン・シェンヴの視線の先で、幼女が手を合わせた。まるで、神に世界平和を祈る敬虔な聖女のように。


 そして、静かに告げる。


「フィールド展開――筋力特異点【パワー・オブ・マッスルヘイム】」


 それは、死とは真逆の匂いがした。


 辺りを満たす、ふわふわとした暖色の光。眩しくはない。むしろ眼精疲労が取れていく感覚さえある。目にも優しい。

 縦横無尽にカーペットを広げるように、世界が温かな色合いの筋力で満たされていく。


「何だ、この感覚は……?」


 違和感。リン・シェンヴの全身に、力がみなぎる。


 これは――筋力が、流れ込んでくる?


「ワシのフィールドの効果はシンプルじゃよ。そこに在るすべての生物の筋力が平等になるよう、ワシの筋力を分け与える。ただそれだけの世界じゃ」

「……何だ、それは」


 理解できない。それは、今、この場で――いや、戦闘中に発動するべき技ではない。

 あの幼女は千年筋肉。多少の封印を受けようが、この世の誰より筋肉強者だ。そんな技を使えば、自らが弱体化し、自分以外が強くなるだけで終わるのは目に見えているはずだのに!


 つまりこれは――何かの前準備!!


「こんなもので、どうやって我がクンフゥを打ち破ると? ワクワクさせてくれるじゃあないか!!」


 一体、この技の先に何があるのか!!

 期待に胸を躍らせながら、リン・シェンヴは脚を振り上げた。


 クンフゥの基本技、震脚。それを発展させた彼の大震脚ダゥシンキャクは、大地に無数に点在している秘孔を適度に穿つ事で一帯にそこそこ強い地震を引き起こす。「足場が揺らぐと生物は本能的に踏ん張る」と言う反射性質を利用する拘束的クンフゥだ。


 だが、リン・シェンヴはすぐに違和感に気付いた。


 脚を、振り上げ過ぎたのだ。


「――は?」


 バランスが、崩れる。何故、武を極めてきた彼がこんな、生粋の運動音痴でもそうはしないような失敗を――


「そう言う事かッッッ!!」


 リン・シェンヴは即座に察した。

 武を極めたからこそ、肉体を扱う事に慣れたからこその、弱点に。


 本来、筋力とは急激に上下するものではない。

 日々の鍛錬によって少しずつ向上し、日々の堕落によって減衰するものだ。


 生物として、有り得ないのだ。突然、膨大な筋力を得るなど。

 リン・シェンヴは当然、長きに渡る武侠生活で己の筋力を完全に把握していた。

 己の筋力を正確に把握、操る事で、高度な技巧を体現。一手一殺のクンフゥを極めた。


 それを無理やり、急激に、乱された!!

 幼女――いや、魔王のフィールド展開による、筋力注入によって!!


 リン・シェンヴに取って未知数なパワーが、今、彼の中を駆け巡っている!!

 いつもの調子で足を振り上げれば、そりゃあバランスも崩す!!


「今じゃ、フレア!! 真っ直ぐにぶっ放せ!!」

「おけまる!! 感じるよ、アリスちゃんのパワー……術式筋力加工マッスル・パッケージ!」


 幼女の隣にいた紅髪のお姉さんが、慎重に脚を振りかぶった。ややフラつきつつも、制御ができている。幼女のフィールド効果を知っていたのもあるだろうが……それにしても筋力の急変化に余り翻弄されていない! まるで、人間離れした強大な力を振るい慣れているかのようだ!!


 紅髪のお姉さんは爆炎を放つ足鎧に、幼女から分け与えられた筋力を集中!

 大技が、出る!! バランスを崩し、それを立て直そうにも、慣れぬ膨大な筋力のせいで上手く体を操れないリン・シェンヴに向けて!!


「か――カカカカ!! なるほど! これはやられた!!」


 ああ、これほど痛快な話があるか!!

 まさしく! 技が! 技巧が!! 筋力によって、完全に無効化された!!


強烈筋力蹴撃ヴィーザル・パワード・ショット――【超大極ストランテッド爆炎砲フランマ】ッ!!」


 膨大な筋力を帯びた爆炎の砲撃が、リン・シェンヴを呑み込む。


「カカカカ、カカカカカカカぁああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」


 絶大な火力! だが、耐えられなくは無い!!

 イケメン大爆発だけは起こさぬように、顔へイケメンパワーと筋力を集中させて複層防殻を形成!!


 まだ慣れぬ筋力量……確かに精密な操作は効かないが、大雑把な防御ならば可能!!


「あ、が……くッ強烈的、だが……ッ!!」


 これを耐え抜き、現在の筋力量で体を動かすコツを全集中で掴めば!!

 形成は逆転――むしろさっきまでより強力なクンフゥ攻撃を放つ事ができる!!


「ぐ、ぐぐ……ぬ……!?」


 爆炎の渦中にて耐え続ける中、リン・シェンヴは不思議な光景を見た。


 見覚えの無い仄暗い森――その中心にそびえたつ、巨大な城塞。

 魔族が跋扈するその城の中に、一人の少年がいた。


 あの魔王幼女にそっくりだが、どことなく男子っぽい。


 察するに、幼少期の魔王。


「こ、れは……魔王の、記憶……!?」




 そう、リン・シェンヴがこれから垣間見るのは、彼に流れ込んだ筋力に紐づけられし記憶。その一幕である。

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