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44,爆撃とセクシーと筋肉、そして愛のマリアージュ


 時は古代――と言っても、その街並みは現代に見劣りしない……どころか、現代よりも発展しているまであった。

 そんな華やかな都市で、私は創られたのだ。


「……アダム・ワンスタイル。お前にはガッカリだ。何をするにもグッドセンスだのナンセンスだの。やはり兵器に『センスの良し悪しを判別する高い感受性』など要らなかったのだ」


 創造主の声が冷たく響く。

 ふざけるなと叫びたかったが、それはナンセンスだと堪えた。


「イヴ・ゼロスタイルさえいれば充分だ。もうお前はどうでもいい。自由に生きて勝手にくたばれ」


 創造主の期待に応えようと足掻いた私に取って、放逐それは解体処分以上の悲劇だった。まぁ、創造主はそこまでは考えていなかったと思われる。他者への嫌がらせなど考える性格ではない。まさに言葉通り、私の事が心底どうでも良くなったのだろう。


 創造主はただただ、研究成果にしか興味が無かったのだ。

 そして、その成果への執着が――麗しき彼女を狂わせた。


 ああ、不甲斐ない。私が創造主の執着を半分でも引き受けられたならば、彼女には違う未来があっただろう。悔やんでも悔やみ切れるものではない。私は、何てナンセンスなのだ。


 このままではいけない、そう考えて行動したが――ああ、及ぶはずもない。

 失敗作の私では、暴走し始めた彼女を止める事はできなかったのだ。


 次に意識が戻った時には……都市は、古代文明は崩壊していた。

 見渡す限りの砂漠に横たわって、私の体は砂に埋もれていたのだ。太陽を見上げながら「彼女を探そうか」とも考えた……しかし、ナンセンスな私は「無駄だ」と結論し、すぐに考えるのをやめた。


 それから幾星霜。


 私を掘り起こし再起動させたのは、現代のとあるイケメン数学者だった。


「初めまして、古代の生き証人。私の名はヘイミッシュ・モリアッティ。表向きには非常にグッドセンスな数学者となっている」


 モリアッティはイケメン数学者でありながら、趣味でイケメン考古学を修めていた。そしてその探求心に駆られるまま、希少な古代イケメン遺産を盗み出してイケメン研究に没頭すると言う、イケメン怪盗稼業にまで手を染めていたらしい。


 私は彼に取って、好奇心の対象だったのだろう。

 しかし、それはすぐに変わった。自暴自棄を継続していた私は、彼に訊かれるがまますべて答えていたのだが……彼女の話になって、モリアッティの眉が吊り上がった。


「ナンセンスにもほどがある!! ああ、古代からの使者がこんなナンセンスの塊だなんて……最も迅速に即死できる自殺方法を計算したくなるほどのショックだよ!!」


 わかる。私も死にたい。だが、創造主の設定により私は自ら死に向かう事ができないのだ。


「話から推測するに……おそらく、キミの言う彼女はメケメケの事だろう。今からでも遅くない。キミは挑むべきだ」

「……挑む?」

「ああ、挑み、取り戻せ。古代のロマン――否、時代は関係無い! グッドセンスとしか言いようのないロマンを! そのための術は授けよう! 怪盗になれ、そして盗むのだ!! アダム・ワンスタイル――ふむ、この名前は無機質でナンセンスだ。今この瞬間からキミは怪盗……いや、怪盗卿! アダム・ワンス!」

「取り戻す……何を……?」

「決まっているだろう!! それは――」



   ◆



「愛ッ!!」


 ぬおっ、力無く落下中だったアダムがくわっぱと目を見開き、くるりと身を翻して華麗に着地してみせた!

 メケメケの一撃で気絶してから、一秒にも満たぬ間に意識を引き戻したか! やりおる!


「続・行!!」


 アダムが吠えた。私の事はひとまず気にするな、作戦を進めろと言う事じゃろう。

 その意気や良し!!


「フレア! ビギナエル!」

「あいあいさー!!」

「セクシー!!」


 作戦通りフレアが爆撃を放ち、強烈な閃光がメケメケ樹海を駆け抜けた。


「めけ!?」


 メケメケがビクッと反応し、がばっと首を振り下ろしてフレアを見た。つまりそれは、フレアの隣で前傾姿勢を取り拳を突き合わせたポージング――モストマスキュラーを決めているビギナエルも視界に入ったと言う事!!


「セクッ……シィィィィィーーーッ!!」


 ビギナエルの三角筋と僧帽筋が、周囲に衝撃波を散らすほどの勢いで膨張!!

 腕全体にもビキビキビキビキ!! と血管が迸る!!

 うむ、筋肉は良いな、筋肉は!!


「…………?」


 メケメケがまるで「宇宙の神秘に触れた猫」のような表情で完全に固まった!

 これがセクシーによる処理落ちか。つまり、ワシの出番じゃな!!


「今じゃ!!」


 筋力の網を造り、ぶん投げる!!

 網状の筋力がメケメケの全身を包んだ直後、筋力を操作して形状を変化。メケメケの五体をがっちりと捕縛する! 注文通り、特に首回りを重点的に!!


「ッ、めけ!?」


 メケメケは数秒遅れて反応。今はジタバタともがいておるだけじゃが、話によるとすぐに筋力を学習して適応するらしい。


「アダム! 行け!!」

「パーフェクト・グッドセンス!! 最高の仕事ぶりに感謝する!!」


 アダムは華麗な所作で鼻血を拭い去ると、ぶわさっと格好良くマントを広げ、駆け出した!!


 ――先ほど、アダムがメケメケへの詰めの一手としてこう言った。


『古今東西、呪いを解く術は決まっている。それは――愛、だ』


 正直、なんのこっちゃとは思った。

 じゃが、何故か納得できたのじゃ。思い出せぬが、以前、とても大切な誰かに教えてもらった気がするのじゃ……『愛はこの世に存在するあらゆるエネルギーの上位互換』じゃと!!


 じゃから、イケるじゃろ――さぁいけ、アダム!!


「イヴ!! この怪盗卿が今ッ、ここでッ……キミの心を盗んでみせよう!!」

「めけ――」


 アダムがメケメケの顔に飛びつき、そして――熱い接吻を交わした!?


「なるほどセクシーだ! 古今東西、呪いとはセクシーなキスによって解かれるセオリ(クシ)ー!!」


 ビギナエルの言っておる事はよくわからぬが!

 アダムとメケメケが唇を重ねた瞬間、一帯を眩い光が包み込んだ。


 光はやがて白銀に煌めく無数の羽へと変わり、ひらひら降り注ぐ。


「これは……」


 思わず息を呑む、幻想的な光景じゃった。


 そしてその美しい世界の中心で、アダムと……白いウェディングドレスに身を包んだ令嬢が抱き合っておる。

 メケメケの姿は無い。おそらく、あの令嬢が――


「クエストクリアだ。キミたちのグッドセンス溢れる協力に、感謝する」


 アダムの声が響いたと思えば、次の瞬間、抱き合う二人の姿は消えておった。


「おや……消えてしまったね。謎のセクシー。置いてけぼりのセクシーと言った感じだ……」

「でもまぁ、にゃ~んとなくハッピーエンドになったって言うのはわかるね」

「うむ。あやつらがどこに行ったのかと探すのは、無粋と言うものじゃな」


 最後に聞こえたアダムの声は、穏やかで、慈愛に満ちておった。そしてメケメケの脅威は去った。きっと、すべてが丸く収まったのじゃろう。

 であれば、これ以上はワシらが踏み込む領分ではあるまい。


 なんとなく、目の前に降って来た光の羽を掌で受け止めてみる。

 すると不思議な事に、ワシの掌に触れた羽がぽわんと発光した後、一枚の便箋へと姿を変えた。


「む……手紙? アダムか?」


 あやつのイリュージョンならば、こんな演出も有り得なくはない。


「お、ボクにも?」

「おや、セクシー」


 フレアとビギナエルの前にも同じような便箋が現れた。


 どれどれ。三人そろって便箋を広げてみると、最初に書かれていたのは――


「プロデューサー・レター、Byマルク・ハンス……?」


 つまり、このゲームの制作者からのメッセージ、か?


『ありがとう。このクエストをクリアしたキミならば、きっと真の美男革命泥洹イケメン・ニルヴァーナに辿り着くだろう』


 手紙に書かれておるのは、ただそれだけじゃった。


「マルク・ハンス……イケバナの総合プロデューサーだね。もう故人だけど」

「つまり我々イケメンに取っては創造主……なるほど、納得のセクシーネームだ」


 どうやら、フレアとビギナエルの手紙も同じ内容じゃったらしい。

 手紙の内容は……特に暗号とかも無さそうじゃし、よくわからぬな。


「まぁ、この世界で起きる事がよくわからぬのは今に始まった事でもあるまい。これについて考えるのは後にしよう」


 手紙を折り畳み、ひとまず袖にしまっておく。


「うん。セクシーな切り替えだ。その調子でセクシーを極めていくと良い。さらば。セクシーと共にあらんことを」

「む、ビギナエルよ。どこへ行く?」


 正直こやつの事は苦手じゃが、仲間は一人でも多い方が心強い。

 ゴールドさんは一応、反イケメンカイザー派じゃし、その部下であるビギナエルはワシらと同じ目的を持っておると言えるはずじゃ。


「当然、セクシーな旅さ」


 ビギナエルはよくわからぬ答えを残し、くねくねと気味の悪い足取りで樹海の奥へと去って行った。

 マジで何が言いたいのかはわからんかったが、とりあえず引き留めても無駄じゃと言うのはわかったのでおとなしく見送る。


「……セクシーって、何なんじゃろうな」

「んー……よくわかんにゃいけど、鎖骨とか?」

「鎖骨」


 ビギナエルは鎖骨を求めて旅立った……と。

 ……もうそれで良いか。


 まぁ、何はともあれ一件落着。

 気を取り直して、グリンピースたちを探すとしよう。


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