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42,めけぽん。


 創造主の声が残響する。


 ―― め げるな。前を向 け 。


「め……け……」


 ――決して認 め るな、お前は負 け てなどいない。


「……め、け」


 創造主の声が残響する。


 ――本当の敗北は心が ポ キッと折れてしまった時だ。お前はまだが ん ばれる。


「ぽ……ぽん……めけ、ぽん……」


 創造主の声が、いつまでも、響き続ける。


 醜く変わり果てた白く長い肢体を動かして、【それ】は樹海を這う。


「めけ、めけぽん、めけ、めけ、ぽん」


 壊す。倒す。殺す。潰す。死なす。負かす。勝つ。進む。食べる。育つ。生きる。強くなる、強くなる強くなる強くなる強くなる。めげない、前を向けば、世界が広がっているのだ。蹂躙すべき世界が。頂点に君臨すべき世界が。


「めけぽん!!」


 吠える【それ】は、天災……否。

 であれば、人災……それもまた否。

 そう、【それ】はイケメンが創り出したとされる厄災である。


 言うなれば……美災メケメケなのだ。



   ◆



「アリスちゃん、気を付けてね! ここは多分イケメン・メケメケ樹海……イケバナで最も危険な場所だよ!!」


 はぐれてしまったグリンピースたちを探して道なき道を行く中。

 すっかり全快したフレアが元気に言う。最も危険、と言う割には陽気じゃな。


「素朴な疑問なんじゃが……メケメケ樹海とは、珍妙な名じゃな?」

「メケメケはこの樹海を徘徊している悪役令嬢レディ・ヴィランズの名前だよ」

「キャパーナの同胞か」


 エレジィとやらは操られておったからどうかわからぬが……キャパーナのせいで悪役令嬢レディ・ヴィランズ=やべぇ奴らの代名詞と言うイメージが強いのう。


「で、この樹海は何がそんなに危険なのじゃ?」

「古代からずっと暴走しているメケメケが無差別攻撃を仕掛けてくるんだ」


 ああ、やべぇ奴じゃったか。


「と言うか、古代?」

「うん。メケメケはね、古代イケメンのフリャンケン・ミュタインってイケメン錬金術師が生み出した古代兵器――って言う設定なのさ。【悪災令嬢レディ・デストロイヤー】メケメケ。人造、いや、イケメン造生物兵器だね」


 古代兵器なんて概念まであるのか、この世界は……。


「しかもこのメケメケはすごく厄介な【特性】もあるからね。いくら二割の筋力を取り戻したアリスちゃんでも相手するのはしんどいはずだから、遭遇しないように進もう!」


 ふむ、神としてワシの戦いを見てきたじゃろうフレアをしてこの評とは。


「是が非でも遭遇は避けたい所じゃな」

「まぁ、にゃ~んて脅すような事を言ったけど。実はメケメケとのエンカウント率はすっごく低いらしいよ」

「何じゃ、そうなのか」

「そもそもが課金アイテムの販促用で実装されたキャラだし、通常のエンカウント率はものすごく低めに設定されているレアエネミーなんだって。だから遭遇しちゃうとしたらかなりの不運バッドラックだね。つまり女神ボクがついているアリスちゃんに限ってそんな不運は有り得ないよ!! もし遭遇したら鼻でアルデンテしても良いよ!!」

「……フレアよ。何やらその言い回しは嫌な予感がするぞ」


 杞憂であれば良――


「めけぽん」


 めきめきぼきゃあと快音を立てて、横合いの木々が薙ぎ倒された。

 視線を送ってみれば――そこには見上げるほどに巨大な小娘が。


 ぎょろりとした琥珀の瞳が、ワシらを見下ろしておる。銀色の髪は造りもののような美しさ。肌の白さはもはや血が通っていないのではないかと思える。白紙に似た病的な白さじゃ。そして木々を薙ぎ倒した巨大な腕は、異様に長い。肘が四つくらいある。ここからではよく見えぬが、足も同じくらい長いようじゃ。


「めけ、めけ」

「……フレアよ」

「うん。メケメケだねこれ」


 そうか。口は災いの元じゃな。


「めけ、ぽん!!」


 メケメケとやらが吠え、その異様に長い腕を振り上げた。木々に引っかかる事など気にしておらぬ。軌道上にあるものをすべて破壊しながら振りかぶられた腕が、鞭のようにしなりながら降ってくる!


 ここは筋力障壁を展開して防御を――


「あ、ストップ・ザ・アリスちゃん!」

「はぁ? って、ぬおッ」


 フレアは制止の言葉と同時にワシを抱きかかえ、足鎧ヴァーンの爆炎を活用した高速跳躍で後方へ回避。

 いきなりでびっくりしたが、おかげでメケメケの強烈なアームハンマーは回避できた。


 アームハンマーの着弾地点の地面が派手に弾け飛び、土埃がもうもうと上がる。まるで隕石でも落ちたかのようじゃな……確かに強烈じゃ。

 しかし、ワシの筋力障壁でも充分に防げた気はするが……?


「礼を言うぞ、フレア。しかし、避ける事は無かったのでは?」

「いや、ごめんに。まさか本当に遭遇するとは思ってなかったから説明を省いていたけど……メケメケの【特性】は、【瞬間学習】と【超速適応変態】なんだ」


 そう言えば、厄介な特性があるとは言っておったな。

 瞬間学習と、超速適応変態……?


「メケメケの正式名称は【自己学習自己進化兵器・圧倒的無垢乙女零号(イヴ・ゼロスタイル)】……一度でも接触した技や能力を瞬時に学習して、即座にそれと同性質の技に対する耐性を獲得するんだ」

「……つまり、奴がワシの筋力技に触れたら、奴には二度とワシの筋力が通用しなくなると言う事か!?」

「そゆ事!!」


 危なッ……あのまま筋力障壁で受けておったら、ワシは二度とあやつの攻撃を筋力で防げなくなっておったと!


「マジで感謝する!」

「どいたま!」

「めけぽん……めけ、めけめけめけ! めけぇッ!! ぽぉぉぉん!!」


 メケメケは目をぎょろつかせながら、長い両腕を荒々しく振り回して咆哮……どうやら、攻撃を避けられた事に癇癪を起しておるっぽいな。うむ、あれは絶対に、話が通じる相手違う。


「さて、とりあえずアレじゃな。厄介極まり無い上に、戦う必要も無ければ、話も通じなさそう……とくれば、逃げるのが最善じゃな!!」

「大賛成だにゃあ! でも多分むずかしいよ!」


 言いながらも、フレアはワシを抱えたまま小さな爆撃を連発。その衝撃を利用して高速移動開始。

 それに気付いたメケメケは目を剥いて「めけァ!!」とひと吠えして――


「めっちゃ速いなあやつ!? あと移動方法がその……小娘にこう言うのは可哀想じゃが、不気味で恐いな!?」


 関節が多い長い手足をしゃかしゃか素早く動かして高速で迫ってくる巨体――うむ、普通に恐い!!

 しかもパワフル! 樹海を構成する木々の合間はそう広くはないのに、巨木じゃろうとまるで気にもかけず薙ぎ倒しながら突き進んで来る!!


「メケメケはね、強い速い厄介キモいの四拍子完備なんだ!!」

「まぁわからんでもないが、さすがにキモいはもうちょい他に表現を探してやれ!」

「まったく以て同意見だ!!」

「「!?」」


 不意に響いたよく通るイケメン・ボイス!

 まさか、ただでさえメケメケに襲われている現状で敵イケメンまで――!?


「センスのある事を言う幼女、おもしろい!! そしてキミが今、何を考えているか当ててみせよう、おもしろい幼女よ! 私は敵のイケメンではないので安心したまえ!」


 その声と共に、一人のイケメンがフレアの隣に並走――いや、空を飛んでおるから並走とは違うか?

 とにかく、軽やかに風を切りながら空を滑るイケメンが現れた。


 黒いシルクハットを被り、黒いタキシードに黒いマント。黒縁の片眼鏡に黒々した髭を蓄えた紳士風イケメン。その手には黒いステッキを優雅にくるくると回しておる。


「……誰じゃ?」

「ボクも知らないイケメンだ!」

「では名乗ろう! 私は通称【怪盗卿】、名をアダム・ワンス!」


 どこかで聞いた名じゃな……?

 ああ、そう言えば、ゴールドさんがそんな名を口にしておったような。


「怪盗……つまりは盗人か?」

「ナンセンス!」


 うおッ……アダムとやらが突然、歯を食いしばって黒いステッキを力任せにへし折った。

 情緒不安定かこやつ……!?


「ある意味おもしろい言い様だが! 私は怪盗! 盗人などと言うチープな表現はやめてもらおう!」

「お、おう……表現に拘りがあるのじゃな。無神経じゃった。ごめんなのじゃ」

「素直でよろしい! 素直な子にはセンスがある! すべて許そう!」


 そう言ってアダムがへし折れたステッキを繋ぎ合わせ、繋ぎ目を指でなぞる。するとまるで手品のように、ステッキが元通りになった。


「おお、まるで手品じゃな!」

「ナンセンス!!」


 また折った!?


「これはイリュージョン!! 手品とは違う! チープな表現はナンセンスゥ!!」

「か、重ね重ねごめんなのじゃ!」

「すべて許そう!」


 下手な事は言わんどこう!


「本題に入ろうか、アリス嬢とフレア嬢!」

「にゃ? ボクらの名前を知っているの?」

「ああ。何故なら私はゴールデン・ヴィレッジに潜伏して色々と探っていたからだ!」


 つまり、ワシらとゴールドさんらの衝突やその他もろもろは見ておった、と。


「私は探していた、私が盗むべきものを盗むために必要なピース! その可能性を探すために世界各地を怪盗っぽく旅していた! そして偶然あの黄金村でキミたちを見つけた! この出会いにはセンスがある!!」

「そうか、色々と話すべき事があるのじゃろうが――すまぬ、単刀直入に頼む!」

「めけめけめけめけめけめけめけめけめけ!!」


 メケメケがもう割と近い所まで迫ってきとる!!


「ふむ、確かに。センスのある提案だ」


 アダムはメケメケを一瞥して……ん? 何じゃ、今の目は。

 アダムが今、何か悲し気な表情を浮かべておったような……?


「では単刀直入に言おう。協力を願う」


 そう言って、アダムはステッキを手品……ではなくイリュージョンで修復し、その先端でメケメケを指した。


「私が彼女を攻略する、その協力を」


 メケメケを攻略したいのか?

 確かに、このままではメケメケとの戦闘を避けられそうにないワシらとアダムの利害は一致する。

 どうやら本当に敵のイケメンではないようじゃな。


「しかし何故、貴様はメケメケを攻略したいのじゃ?」

「決まっている。私は怪盗卿。つまり私の行動は常に怪盗的! その答えはずばり『盗むため』!!」

「盗む? 一体なにを?」

「彼女の心を、だ!!」

「……そうか! とりあえず協力しよう!」

「グッドセンス!! 恩に着る!」


 正直よくわからぬが、下手な事を言ってまた「ナンセンス!」と怒鳴られても嫌じゃから黙っとこう。

 フレアも同じ考えらしく、「にゃあ……?」と小首を傾げつつも曖昧に頷いておった。


「それでは――スペシャルな怪盗クエストを始めよう!!」


☆★イケメン豆知識★☆


◆怪盗クエスト◆

イケメン・ニルヴァーナでランダム発生するゲリラクエストの一種。

イケバナ各地に神出鬼没する怪盗卿アダム・ワンスにまつわるイベントとして発生する。サブエピソードであり、本編には一切関係しない。難度は高いが、クエストをクリアしても特に報酬とかは無い。なので【怪盗チャリティー】などと揶揄され、発生しても早々にクエストリタイアするプレイヤーが大半である。


クエストはナンバー0001~1189まであるとされているが……実はイケバナの総合プロデュースを手掛けたハンス・マルク氏が没する間際に残したプロデューサーレターに「怪盗クエストには、制作陣でもマルク氏しか知らない隠しクエストとして【ナンバー0000】が存在する」事を仄めかす一文があり、半ば都市伝説になっているとか。

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