41,一方その頃、グリンピースと勇者とその他もろもろ
――イケメン・エンシェント遺跡群。
イケメン・スカイサンクチュアリ外周を囲うイケメン・メケメケ樹海の中に、突如として現れる超古代遺跡群。超古代イケメン文明の名残であり、四角錐系のイケメン・ピラミッドが中心にそびえる。
そのイケメン・ピラミッドの麓に緑色のイケメン、グリンフィース・ダーゼットは転がっていた。
「ぐッ……さすがに、神イケメンに食らったダメージの上に乱気流に振り回されたのはキツかったんだぜ……完全に酔ったんだぜ……!」
全身を神イケメンのイケメン・ファイヤーで炙られ、まともな治療も受けずに超高高度で乱気流にシェイクされる――並のイケメンならまず立ち上がれないだろうが、グリンフィースはふらつきつつも立ち上がった。
ボスイケメンだからと言うのもあるが、最大の理由は――
「マスターとハグれちまうなんざ、不覚過ぎるんだぜ……!」
探さなければ! 愛しのマスターを! あのふてぶてしい黒系のじゃロリを!!
まぁ、幼女に見えるだけで、現実世界では魔王をやっている大物らしいが。
しかしもはや、グリンフィースに取ってそこは些事!!
むしろ現実では魔王とか厳ついポジションでありながらあれだけ幼女姿が似合う事には……新たな興奮を覚える!!
愛は盲目……一度ホレてしまえば、見てくれの真偽だの股間の形状だのは割とどうでも良いと言う事だ!!
「ん? あいつは……」
ふとグリンフィースは気付いた。
向こうに、膝を抱えて座り込んだ金髪の幼女がいる。確か、いつの間にやらアリスと共に行動していて、ゴールドさんに「イケメン奴隷王・ユシア」と呼ばれていた幼女だ。アリスには「勇者」とも呼ばれていた。
つまり、現実では勇者をやっている、イケメン奴隷王……とんでもない幼女だ。
しかし、妙だぜ……とグリンフィースは眉を顰める。
イケメン奴隷王は「一〇〇体のイケメンを撃破し下僕にしていた豪傑プレイヤー」と聞いていたが……とてもそんな風には見えない。勇者云々についても同様。グリンフィースが知る勇者のイメージに、あのコンパクトに丸まった幼女はそぐわない。
何にせよ、今のグリンフィースには関係無い生き物だ。
今は愛しのアリスを探すのが最優先で……………………。
「ちっ……おいだぜ、奴隷王! そんな所に丸まってんじゃあねぇんだぜ!」
ここはイケメン・スカイサンクチュアリ。そこらの草むらから飛び出してくる野生イケメンですらレベル四桁台後半がザラ。あんなコンパクト幼女を放っていく事は、イケメンの本能が許さない。
「……うるさい。放っといてよ」
「はぁ? いや、状況がわかっていないんだぜ?」
「放っといてってば」
「おいおい……この状況で何をいじけ腐ってやがるんだぜ……?」
「……ゲームのキャラクターなんかに、わかる訳ないでしょ!」
「!」
がばっと立ち上がり振り向いたユシアは――ぼろぼろと涙を流しながら、唇を噛んでいた。
「勇者も魔王も神々の玩具だったなんて……そんなの……あんまり過ぎるでしょ!? もしも魔王がアホみたいに強くなかったら……アタシは……お金のために、あいつを……殺……ッ」
不意に、ユシアは口と腹を押さえて膝をおった。
精神的負荷による嘔吐――まぁ、ゲーム世界では吐き出すものは無いが。
「イケメンを奴隷扱いしてやがると聞いていたが……割と神経の細い奴だったんだぜ?」
「ッ……あんた、ふざけないでよ! 現実の生き物と、イケメンを同列に――」
言いかけて、ユシアは目を大きく開いて硬直。瞳が動揺に揺れている。
「……イケメンたちだって、生きて……る……?」
「ん? ああ……なるほどなだぜ」
グリンフィースはてっきり、ユシアは既にアリスから話を聞いて、イケメンの真実を知っているのかと思っていたが……反応を見るに、どうやら「イケメンが生きている」事は聞いていたが、冗談か何かだと思っていたらしい。
「ア、タシは……どこまで……」
ユシアは頭を押さえて、その場で完全に崩れ落ちてしまった。
その姿を見て、グリンフィースはフレアの話を思い出す。
人間や魔族を「よくできた玩具だ」としか認識していなかった神々が、アリスの生き様を見てその認識の間違いに気付き、変わっていったと言う話。
ユシアを含むイケバナのプレイヤーたちも、同じと言う事だろう。
「グリフ殿はつくづく、情に絆され易いようでござるな」
「……ベジタロウか、だぜ」
森から現れたのは、東洋顔の全裸イケメン。ベジタロウだ。どうやら昨晩の戦いで服を剥ぎ取られてから服を入手する機会が無いまま現在に至るらしい。
ベジタロウは、満足気に気絶中のキャパーナに肩を貸しながらグリンフィースに――いや、グリンフィースを挟んで向こうにいるユシアの方へ向かって歩を進める。
「おいベジタロウ、おまえ、まさかだぜ?」
「例の奴隷王が隙だらけでヘタレ込んでいる現状を、看過する道理は無いでござるな」
「……正気で言ってやがるのかだぜ? 無抵抗の幼女に危害を加えるなんざ、イケメン道に反する鬼畜行為なんだぜ」
「プレイヤーはプレイヤーでござる」
「ったく、これだからブシドーって奴はだぜ……!」
前へ進め、進めぬのなら死ねい。ハラキリ。不屈、不退、一意専心、一路盲目。本懐成就のためならば心臓が止まろうと剣を振るい続けるのが当たり前。見据えたゴールに向かうためなら、見境が無い!
要するに、東洋のサムライは融通が効かない!!
「チッ……厄介な状況だぜ」
本来の実力ならば、グリンフィースがベジタロウに負ける道理は無い。ランクの差は勿論、ベジタロウは全裸つまり丸腰ベジタロウなのだから。
しかし、グリンフィースは先ほど神イケメン・プロメテスの火でこんがり焼かれたダメージがまったく癒えていない……イケメンパワーを肉体の修復に回してようやく今、どうにか立ち上がれている現状――丸腰ベジタロウとは言えまともにやり合えばどうなるか!? さすがに勝てないかも知れない!
「って、おまえはおまえで少し具合が悪そうなんだぜ?」
「……興奮したキャパーナ殿に凄まじい勢いで揺さぶられ続けて、間も無い故」
……ギリ、勝てるかも知れない!
「グリフ殿、退いていただけぬならば――」
「ねぇ」
と、ここで上空からあどけない少女の声が。
グリンフィースとベジタロウが揃って視線を上に上げると、パンダかな? と言いたくなるような白黒カラーの御令嬢が一人。長い髪は真ん中の分け目から右側が黒髪、左側が白髪。彼女を滞空させている六対の翼も右が黒翼、左が白翼。右目左目も同様のオッドアイ。ドレスまで白黒と言う徹底ぶりである。
「おまえは……【悪魔令嬢】のエレジィだぜ?」
そう言えば、イケメン・スカイサンクチュアリに吸い上げられる前にもいた気がする。
今の通常少女サイズとは違う巨人状態――悪魔としての力を解放した状態で、アリスが召喚しただろう植物に絡めとられていた。おそらくグリンフィースが気絶している間に現れ、アリスと戦い敗北したものと思われる。
「わたしのママ、見なかった?」
「あぁ? いや、おまえのママって……おっと」
グリンフィースは彼女の過去を知っている。
そして、彼女の「厄介な特性」も。
「やれやれ……どこの誰がママ認定されちまったか知らないが、御愁傷様だぜ。とりあえず、俺はおまえのママなんて知らないんだぜ」
「拙者も知らぬでござる」
「そ。邪魔したね。ありがと」
素っ気なく会釈して、エレジィはすい~っとどこかへ飛び去ってしまった。
「……エレジィ殿に目を付けられるとは、運の無い誰かもいたものでござるな」
「ああ、あいつは異常性で言えばキャパーナより上なんだぜ」
「で、思わぬ邪魔が入ってしまったでござるが、気を取り直して」
グリンフィースとベジタロウは頷き合って、静かに睨み合う。
「グリフ殿、退いていただけぬならば――」
「待ってくれ」
「「………………」」
二度目の待った!!
グリンフィースとベジタロウが揃って視線を横に向ける。
そこにいたのは――
「なッ、おまえは神イケメン・プロメテスだぜ!」
「神イケメン……でござるか?」
エレジィに続いて待ったをかけたのは、紅い羽衣を纏った太陽イケメン・プロメテス!!
何やら非常にボロボロだが。
「おまえもおまえでかなりボロボロなんだぜ……?」
「……アゼルヴァリウスに強烈な遠距離チョップをもらった後、ダンダリィの鎖でしばらく股間を縛り上げられ、最後はそこで夢見心地のキャパーナに尻尾でしばかれて頭から地面に刺さったりしたのでな……自分で言うのもなんだが……虫の息と言った所だ」
そう言って力無く笑うのと同時、プロメテスはごっふんと吐血した。
「ちょ、おま!?」
「誰かよくわからぬが大丈夫でござるか!?」
「……鎖で股間を縛り上げられた後遺症がデカ過ぎる……」
「「あー……」」
男ならば、大体わかる、そのエグさ。
「そんな事より……ベジタロウ。我は神として色々見ていたからキミのスタンスも理解しているが……ここは少し、我の話を聞いて欲しい。このままでは、キミの悲願は絶対に叶わないのだ」
「……なんと?」
プロメテスは吐血が止まらない口とダメージ源である股間を押さえながら、息絶え絶えに話し始める。
「今こそ語ろう……イケメンカイザーがこの世界で創ろうとしている【イケメン・インフェルノ】と言う地獄……そして、イケメンカイザーの野望を打ち砕いたとしても、その先に待っているだろう【イケメン・イクリプス】と言う虚無について……そして、その両方をどうにかできるかも知れない、希望について」