39,急襲、イケメン・スカイサンクチュアリ!!
ワシの一〇〇〇年余りの苦悩……それを見続けておった神々に変化が起き、勇者と魔王を殺し合わせる狂気の遊興は終焉を迎えた。フレアはそれをワシに伝えるため、オッディとやらの力を借り人間クラスに存在をランクダウンさせて降りてきた……まとめると、そう言う事か。
……正直、言葉が思い浮かばない。
神々のゲームが終わった。もう、ワシが魔王として振る舞う必要は無い。
きっと、このゲームのために歪められたのじゃろう人間と魔族の争いの歴史も修正される。
世界はきっと、平和になる。ワシが幼い頃から夢見ていたように、誰も悲しまずに生きていける世界になる。
喜ばしい、嬉しいのじゃが……うむ、その……余りにも一気に事が進展し過ぎて、頭と感情がついていっておらぬ。
とりあえず、アレか?
次の魔王が選ばれる前にこのゲームから脱出せねば……と言う焦りはもう覚えんでいい、と言う事じゃろうか?
「ん? そう言えば……フレアよ。何故に貴様、ワシに会いに来たはずじゃのにワシより先にこのゲームの世界におったのじゃ?」
「ああ、確かにそうだぜ」
空気を読んで静かに話を聞いておったグリンピースも頷く。
「おまえはマスターが現れる前から、随分と派手にイケバナで暴れ回っていたじゃあねぇかだぜ」
「その辺には事情があってねー」
フレアは困ったようにポリポリと頬を掻く。
「うちのクランにはノルルンちゃんって言う大雑把な予知の権能を持った女神がいるんだけど……その子が『今回のゲーム、勇者が魔王を乙女ゲーに封印して勝利するみたいなのん』って。それで、ゲームの世界なら現実世界で会いに行くより他の神々に補足される可能性も低いし……」
なるほどな、大体の事情は理解できた。
いくら人間クラスにランクダウンしようと、女神が下界に降りて、しかも天界の情報を漏洩するなど許される事ではないのじゃろう。故にフレアは秘密裏にワシに接触する必要があった。ゲーム……即ち結界内と言うのはそれに都合が良く、ワシが封印されるのに先んじて潜伏しておった、と。
「それに、せっかく神々のゲームから解放されたアリスちゃんがゲームの世界に封印されちゃうってのも可哀想だなぁと思ったから……こっそり封印を解除する方法も探っちゃおうって魂胆だったんだけど……その」
「予想外な事に、イケメンカイザーが出現してしまって現在に至る、か」
「うぅ……イケメン革命の勃発は予想外過ぎたにゃあ」
結局の所、当面のワシらがやるべき事は変わらぬと言う訳か。
イケメンカイザーを打倒し、イケバナをイケメンとプレイヤー双方に取って良い世界にして、現実に戻る。
変わるのは、現実に戻った後の事。うむ、では諸々の進展については後でゆっくり喜びを噛み締めるとして。
今はひとまず、ワシの筋力で皆の治療をしよう。
プロメテスからイケメンカイザーの目的も訊きたいしのう。
……そうじゃ。
皆、と言えば……急ぎ、振り返ると――ああ、しまった。迂闊じゃった。
勇者ユシアが、ワシの予想を超える酷い顔で固まっておった。
……勇者は、自分が神々に弄ばれておった事など知らぬ。
世のため人のためと、自分は神々に選ばれた勇者じゃと信じて戦っておった小娘じゃ。
いきなり真実を知らされたら、ショックを受けてしまうに決まっておる。
「勇者と魔王の戦いが……神々の暇潰しだった……? じゃあ、アタシは……神々に無理やり悪役をさせられていた魔王を、お金のために殺そうとしてたって事……?」
金のためじゃったかー……そうかー……うむ、まぁ、奴隷王の正体じゃったり言動の節々から嫌な予感はしておったが……そうかぁ……何じゃろうな、この残念な気持ち。
いやまぁ、そこはともかく……大きなショックを受けておる事は変わらぬようじゃ。
至急フォローを入れねば――って、おう?
何じゃ? 急に辺りが暗くなった?
雨雲でも通りがかったのか? と天を見上げて、絶句した。
「…………何じゃ、あれ……」
視界に収まらぬほどの、岩、いや、土の塊か?
まるで……大陸が、空を飛んでおるような光景じゃ!
「空飛ぶ大陸……まさか、イケメン・スカイサンクチュアリだぜ!?」
「イケメン・スカイサンクチュアリ!? 何じゃそれ!?」
「端的に言うと、イケバナにおけるラストダンジョンだぜ!! ラスボス野郎こと至高イケメン・マルクトハンサムの居城イケメン・キャッスルを中心とする空中要塞都市だぜ!!」
ダンダリィが撤退すると言っていた場所か!
……空飛ぶ大陸て!! イケメンって冠するものは本当に何でもアリじゃな!?
「だけどおかしくにゃい? イケメン・スカイサンクチュアリはイケバナの中心にあるイケメン・バミューダペンタゴンって海洋の上に浮遊している空中要塞都市のはず……何でこんな西の端っこに!?」
「おそらくじゃが……」
イケメンカイザーの命令でプロメテスを捕えようと現れたダンダリィ……が任務に失敗し撤退した直後、ダンダリィの撤退先じゃろう拠点が丸ごと姿を現した――と言う事は、
「イケメンカイザーが攻勢をかけてきたと言う事じゃろうな……!」
ゴールドさんとの戦いが始まってから、休まる暇が全く無いな!!
勇者をフォローしたり、プロメテスの話を聞いたり、ゴールドさんが捕えておると言うイケメン・ゲリラの生き残りを解放したり、エレジィとやらやベジタロウたちの治療したり、やるべき事が地味に山積しておると言うのに……!
ええい、もうこの際じゃ!
ケチを付けたって引き下がってはくれぬじゃろう!
さっさと撃退する!
と言う訳で、上空の大陸から何が降下してくるか……と身構えておると。
「……ん?」
何じゃろう。
すごく、嫌な感じがする。
具体的に言うと、こう……浮遊感。
待て、待て待て待て待てまさかそんな貴様おいコラちょッ――
「うおおおお!? 何だこれだぜ!? 俺たち、イケメン・スカイサンクチュアリに――よくわからない力で吸い上げられているんだぜ!?」
「アブダクション!? 敵が降ってくるんじゃなくてボクたちが向こうに連れて行かれるんだね!? ちょっと予想外だにゃあって言うかアリスちゃん高いとこ大丈――も、もうほとんど白眼を剥いてる……!」
こうしてワシらは、イケメン・スカイサンクチュアリに乗り込む事になったのじゃった。
「ゴールデン・ヴィレッジ騒乱編」読了ありがとうございました!
幕間を挟み、次次回より「美男空中聖域決戦編 前半戦」となります。
怒涛の乱入者ラッシュから息吐く間も無くイケメン・スカイサンクチュアリに吸い上げられたアリスたち!
牙を剥くはかつてない強敵、美美美美美美……かと思いきや!
悪災令嬢こと【メケメケ】を巡るサブイベント【怪盗クエスト】に巻き込まれてしまう!
とんでもないパワーとチート特性でアリスたちを追い詰めるメケメケ!!
そこに突如として現れた怪盗卿アダム・ワンスの目的とは……!?
そしてメケメケの試練を乗り越えればついに美美美美美美との全面対決!!
大天華帝国の殺人武術を修めし武侠イケメン、リン・シェンヴ!!
どこか既視感のある全力全力うるさい水色の大型イケメン、クゼンヴォウ!!
語尾がイカれたニンジャー系イケメン、トビダンジョウ!!
やべぇ奴らの猛攻は基本的に止まらない!
アリスの冒険はいよいよ佳境へ片足を突っ込む感じに!
乞うご期待!