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04,爆発する陽気なお姉さんと反イケメン・ゲリラのアジト


 ああ、うむ。ワシは今クソザコ幼女。


「どうしたんだぜ? その振りかざした可愛らしいお手々から何か出すんじゃあなかったんだぜ?」

「……う、うっさいのじゃい!」


 温かな笑顔を向けるな!

 ワシはこれでも一〇〇〇歳越え、ミレニアムジジィじゃぞ!?

 今は外見が全方位幼女じゃが!


「まぁ、おままごとは後でたっぷり付き合ってやるんだぜ」

「ぐにに……!」


 児戯ままごと扱い……!

 本来のワシならば、ちょいと手を振っただけで「隕石でも落ちたかな?」ってなるような破壊痕を作れるのに……!


「まずは手足を串刺しにしてから、ペガサスに乗ってもらうとするんだぜ」


 まずい、悔しさで涙目になっておる場合ではない。


 また地面が揺れ始めた……緑の杭がくる!

 奴の宣言通りならば、ワシのこの今となっては可愛らしくちんまい手と足を貫かんと!

 幼女相手に何と言う……いやまぁワシ、幼女ではないんじゃけども!


 ともかく、冗談ではないのじゃ!

 こんな柔い体でそんなダメージ、下手すれば即死!


 あ、仮想現実ゲーム内じゃし死にはしないのか?

 じゃが、触覚はしっかりあるから絶対に痛い! 魔王でも痛いの嫌!


 どうにかしなければ……じゃが、どうすれば!?


「お嬢ちゃん、ふせて!」


 うぬ? 何ぞ?


 いきなり聞こえた女性の声。

 声がした方を見ると、かなり離れた所に人影がひとつあった。シルエットしかわからんが……ボールでも蹴ってよこすつもりか、足を後方高くに振り上げておるようじゃ。

 足元にボールらしきものは見えぬが……。


強烈蹴撃ヴィーザル・ショットォ――【爆炎砲フランマ】!!」


 何か急にまぶしッ、あと熱――



   ◆



「……………………」


 ……何が起きたかはわからん。

 じゃが推測はできる。


 おそらくワシは、爆発に巻き込まれた。

 どかーんと。そらもうずどーんと爆撃された。

 意識がとぎれる直前、白に近い朱色の閃光を見て、そして鼓膜を殴られるような音を聞いたのじゃ。


「けふっ」


 ほれ見ろ、今、咳とともに口から黒い息が出たぞ。すすまみれの息じゃ。

 こんなん爆発に巻き込まれた奴しか出さんやつじゃ。


 ……と言うか、どこじゃここは?

 意識が途切れる前にいた街道とはまるで違う景色じゃ。薄暗い……石造りの部屋ときた。


 体を起こして周囲をよく観察してみる。


 窓は無く、壁にかけられた台に乗った頼りないロウソクのみが光源。今まで寝ておったベッドは、台の上に薄布を敷いただけの陳腐なもの。まるで地下牢じゃな。


「一体、何がどうなっとるんじゃ……?」


 色々と急展開で訳がわからん……そう頭を抱えた丁度その時。

 どったーん! と元気良くドアが開いた。


「幼女が起きた気配がしたぞう!」


 陽気な声と共に入って来たのは、赤毛が特徴的な小娘――ああ、まぁ今の幼女ワシからすると「お姉さん」になるか?

 やじり耳や獣耳ではないし、角も無し。おそらくただの人間。

 じゃとすると、歳は見た目通りで二〇手前くらいかのう?

 動き易さ重視か、袖の無い白シャツに短パン姿。洒落っ気があるのは首に巻いた縞々柄(ストライプ)のストールくらいか。


 軽装……なのじゃが。

 膝から爪先まで、紅鋼の鎧で覆っておるのが妙にアンバランスじゃのう?


「……誰じゃ、貴様は」

「ボクかい? ボクの名前はフレア!」


 フレアと名乗った小娘お姉さんはニコニコと笑いながらワシの方へ近寄って来た。

 一歩一歩、がしゃがしゃと紅鋼の足鎧が鳴る。


「プレイヤーレベルは丁度二〇。ぶっちゃけまだまだ初心者ビギナーだよ!」


 明るい声と満面の笑みが快活な印象を与えてくるのう。陽気な奴じゃ。


 プレイヤー……とは確か、ゲームを遊ぶ者を指す言葉じゃったな。

 つまり、ワシと同じくゲーム世界にやってきた現実の生者か。


「……ワシは、アリスじゃ。プレイヤーレベルとやらは知らん」


 名乗りはするが、ひとまず魔王である事は伏せておこう。いくら同名でも、こんな幼気な女児から千年筋肉と呼ばれるような魔族の首魁を連想する者はおるまい。


「アリスちゃん……カワイイ名前だ! よろしくね!」


 差し出されたこの手は、握手を求められておるのか……?

 陽気で好印象とは言え、この状況で知らん奴と接触するのはちと不安じゃな……妙な呪縛をかけられても困る。


 ワシが握手に応えるのをためらっておると、フレアが不思議そうに首を傾げた。


「にゃ~んか……ボク、警戒されてる?」

「……無礼は承知じゃが、初対面じゃしな」

「ぅえ~? そりゃあないよ~」


 フレアは不満げに口をとがらせると、手をパタパタと振り回して抗議してきた。

 いちいち陽気じゃな、この小娘お姉さん。


「ボクは命懸けでアリスちゃんを助けたんだよぅ?」

「ワシを助けた……グリンピースを倒したのか?」

「グリンピース……ああ、あのだぜ系イケメン?」

「うむ。あのだぜだぜうっさいイケメンじゃ」

「おうともさ! ……って言いたい所だけどに~……さすがに単独であれには勝てないよ」


 フレアは笑顔をキープしたまま首を横に振った。


「爆撃で目くらましをして、その間にアリスちゃんをかっさらって逃げてきましたん☆ 足技には自信があるんだ! そう、逃げ足ッ!」


 元気じゃな。


「爆撃……そうか、あれは貴様が……ん? 目くらまし?」


 ワシ、直撃した気がするんじゃが?


「にゃはは。ちょっと加減を間違えて~……アリスちゃんも吹っ飛ばしちゃった! てへっ☆」


 ウインクと共に可愛らしく舌をぺろっと出しおってこやつめ。


 誤魔化されんぞ貴様。


「いやぁ、本当ごめ~んに☆」


 ……まぁ、話しておる感じ、性格が豪快なだけで悪い奴ではなさそうじゃのう。


 ワシは人間の敵じゃが……まぁ良い。ワシが望んで敵対した訳でも無し。今は自ら魔王宣言せん限り、魔王どころか魔族とも認識されんじゃろう……いや、下手したら宣言しても信じてもらえんじゃろうが。


「そうか……では、握手に応じるとしよう」

「わは! ぷにぷにのお手々だぁ~! ようじょようじょ!」

「やめれ」


 すごい勢いでにぎにぎしてくるこやつ。


「肌の色も相まってチョコ餅みたいで良き~。アリスちゃんは食べたい系幼女だね! ちょっと小指とか耳たぶとかはむって食べちゃって良いのかな!? 合法かな!?」

「良くない。違法じゃ。食べるな」


 人間って共食いするのか……知らんかった。

 魔王でも引くわ。気を付けよう。


 まぁ、それはともかく。


「フレアとやら、遅まきになったが礼を言う。助かった、ありがとう」

「えへへ、どうも~。次からイケメンに近付く時は気を付けないと駄目だよ?」

「イケメンをなんじゃと思っとるんじゃ」


 まるでイケメンを獰猛な獣か何かのように。


「えーと……アリスちゃん?」


 何じゃ? 何故にフレアはきょとんとした顔をしておるのじゃ?


「もしかしてこのゲームの事、詳しく知らない?」

「ん? ああ、まぁ」


 このゲーム……どころか、ゲーム全般に関してほとんど知識が無いと言っても良いじゃろう。


「簡単に言うと事故でな。自発的に始めた訳ではないのじゃ」

「事故でゲームを始めるって、何だかおもしろい経緯だね? アリスちゃんはあれだ、世間一般で言う『おもしれー女』、だね!」

「ワシとしては、まったくおもしろくないがな」


 それもこれもあの勇者のせいじゃ。

 ヤケクソのイチバチ勝負に出るとしても、もうちょい他のあったじゃろうに……いや、自爆技とか使われて目の前で無意味に爆裂四散されるよりかは良かったかも知れんが。


「とりあえず、ボクよりもさらに初心者さんなんだ」

「うむ、違いない」

「よぉーし、それじゃあここは先輩お姉さんとして色々と教えてあげよう!」


 ほう。それは助かるな。

 このゲームから脱出するために、ちょうど情報が欲しかったところじゃ。

 早速ログアウトの方法を……訊く前に。


「では、まず訊きたいのじゃが……ここはどこぞ? 何か地下牢っぽいのじゃが、こんな場所で腰を据えて話をするのは、ちと……」


 教えを乞う身で図々しいが、もう少し話をするのに適した場所は無いものか?


「地下牢じゃないよ? 医務室だよ?」


 ……ここまで傷病人への配慮を感じない医務室が存在するものなのか?


「まぁ、元々あった建物を無理やりアジトに改造したって話だから、元は地下牢だったかもだけど」

「アジト?」

「うん。ここは【反イケメン・ゲリラ】のアジト。ダーゼット街道支部だよ」

「……………………反……なんて?」

「反イケメン・ゲリラ」


 ……駄目じゃ。

 聞き直しても正気を疑ってしまう固有名詞が……。


「んーとね。わかりやすく言うと……」


 フレアは唇に指を当てて悩まし気に首をひねり、少しして、


「ソーシャル乙女ゲームブック【イケメン・ニルヴァーナ】、略してイケバナを正常化するために立ち上がった者たちの集い……かな?」

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