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37,幼女の魔王と女神のお姉さん


 余計な折衝を生まぬためにも、魔王である事はフレアには内緒にしておこう。

 そう思っておったのじゃが……。


「アリスちゃん、魔王なの?」


 ……普通にバレておった。


「………………フレア。もしかして、ちょっと前から意識が戻っておったのか?」


 ああ、こくりと頷いた。

 そうか……つまり、勇者がワシを魔王魔王と呼んでおるのを聞いておったと。


「………………そうじゃな。うむ。その魔王……なんじゃが……」


 落ち着け、ここは一旦、フレアの反応を見よう。

 もしかしたらフレアは「にゃはは~魔族との戦争とか、よくわかんにゃいにゃあ~」とか頭のてっぺんにお花を咲かせてのほほんほんと生きておるタイプの若者でワシが魔王じゃったとしても特に気にしない可能性とかあったり――しないな、この表情。だってもうフレアの眼は今にも決壊しそうなくらい涙で潤んでおるもの。これ魔王ワシを恐がっておるよ絶対。ほらもうぷるぷる震えだしちゃったもん。ダメじゃこれ。


 わかった、土下座しよう。それしかない。


 今ここでフレアと事を構えるのは、色々とキツい。主に精神的な面で。

 だって魔王である事を隠しておったワシが全面的に騙した形じゃからね?

 開き直るのはさすがに無理。


 さぁ地面をかち割ってやろうくらいの意気込みで土下座を――しようとしたのじゃが、できなかった。


 フレアがすごい勢いで、ワシを抱き寄せた。


「ふぎゅむッ!?」


 まさか締め殺される――!?

 かと思ったが、そのつもりはないらしい。


 フレアの腕は確かに強い力が込められておるが、害意は感じない。

 あくまでも強い抱擁、と言った感じじゃ……いや、顔を無理やり胸に埋めさせられて、このままじゃと窒息コースで殺されそうではあるのじゃが……お、おっぱいに殺される……!?


「…………ごめんね」

「……?」


 フレアが震わせて声で紡いだのは、謝罪の言葉じゃった。

 何の謝罪じゃ……? 今の状況、謝るのはワシの方では……?


「ずっと……謝りたくて……それから、御礼、御礼も、言わなきゃって……!」


 フレアは声も肩も震わせて、滂沱の涙を流し始めた。

 ちょっと只事ではないな……?


「ぶ、む……ぷはぁ! 少し落ち着け、フレアよ!」


 どうにかおっぱい窒息ハグから顔をずらし、フレアの目を見ながら声をかける。

 じゃが、またしても頭を押さえつけるように強く抱き直されてしまった。むぎゅう。


「ボクはずっと……キミに会いたかったんだ。アゼルヴァリウスくん。ずっと、ずっと……!」

「うぶ、む、ぐぐぐ……!」


 ちょ、マジで。苦しい。あと「何の話じゃ?」って訊かせてマジで。

 こうなったら魔王筋力で……いや、力づくで引き剥がしてはフレアに怪我をさせてしまうやも知れぬ。

 ヤバいどうしようこれ、ちょっと意識が――


「おいこのアホフレアァ!! マスターが苦しそうにジタバタしているのが見えないんだぜ!?」

「にゃごッ!!?」


 今の声、グリンピースか? それからフレアの短い悲鳴――察するに、どうやらグリンピースも目覚めたらしく、悪意無きハグでワシが死にかけておるのに気付きフレアに拳骨でも食らわせたと言う所じゃろう。


 フレアの腕が剥がれたので距離を取ってみると、フレアは「あたたた……」と頭頂部を押さえて呻いており、その背後にボロボロのグリンピースが青筋を浮かべながら立っておった。


「グッピー痛いよ!? 今はちょっと真面目なシーンだからド突き漫才は後にして欲しいにゃあ!?」

「訳わかんねぇ事を言ってんじゃあねぇんだぜ! 状況はよくわかんねぇが俺もマスターをハグしたいんだぜ!!」


 いや、貴様は貴様で何を言っとるんじゃ?


「まぁ冗談はさておきだぜ。マスターが魔王だの、ずっと会いたかっただの……一体なにがどう言う話になっているんだぜ?」


 どうやらグリンピースも意識自体は少し前から戻っておったらしいな。

 グリンピースの疑問を受け、フレアはハッと気付く。


「そうだ! ボク、アリスちゃ……いや、アゼルヴァリウスくんに何も説明してない!! この状態でごめんとかありがとうとか言われてもサッパリだよね……ごめんねアリスちゃ……じゃなくて、アゼルヴァリウスくん」

「あー……呼び辛いならばアリスちゃんのままで構わぬぞ?」


 ワシも何じゃか、フレアに本名で呼ばれるのは違和感がある。


「うん。じゃあ、アリスちゃん。聞いて欲しいんだ。ボクは実は、フレアじゃないんだ」


 ……真面目な顔で何を言い出しとるんじゃ、こやつは。


「ボクは………………」


 フレアが言葉に詰まり、苦しそうに胸を押さえる……その眼には先ほどワシに向けておった「何かに怯えるような色合い」が戻っておった。

 少しの沈黙の後、フレアは覚悟を決めたようにぎゅっと拳を握りしめる。


「フーレイア。それが、ボクの真の名前なんだ」


 ……つまり、フレアと言うのはあだ名や偽名じゃった……と言う話か?

 そう言えばゲームをあだ名の類でプレイする事は珍しくない、と聞いた事がある。ハンドルネーム、とか言うんじゃったか?

 ただそれだけの事を何を重苦しそうに………………………………待て。


 フーレイア? 確かにそう言ったか、今。


 聞いた事がある名じゃ。

 幼少の頃、母・フライアスからよく聞かされた名じゃ。


 何せその名は、母の名の由来になった――


「美と愛を司り、黄金を生み出す権能を持ち……スカンディナヴァの主神・オーデンと共に死者の魂を出迎え、その生涯を讃える――女神・フーレイア。それが、ボクだ」


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