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36,バレちゃった☆


「魔王チョップゥアア!!」

「ンアアアアアアアアアアアア!!」


 天に轟くような喘ぎ声と共に、黄金の街並みを豪快に粉砕しながらキャパーナの巨体が転がっていく。


「はぁッ、はぁッ……よ、ようやく、気絶してくれたか……!」


 キャパーナの巨体がみるみると縮んでいき、やがて昨晩も見た水色ドレスの令嬢に戻る。やはりその顔は気絶顔は満足げじゃった。


 まったく……二割パワーとは言え魔王チョップを五〇発以上も耐えおるとは……。

 フルパワー魔王チョップ換算で一〇発分じゃぞ? 神々の加護持ちの勇者ですらフルパワー魔王チョップは一発で瀕死になっておったと言うのに……怪物過ぎるじゃろ。


 呆れた目でキャパーナを見ておると、ふと、背後から気配が。


「おお、勇者ユシアよ。目が覚めたのか。無事そうで何よりじゃ」


 ダンダリィの乱暴な拘束で気を失っておった勇者がこちらへ向かってくる。怪我や不調は無いようじゃが、相変わらずワシを見て難しい顔をしておるのう……しかめっ面と言うほど嫌悪感は無いが、決して良いニュアンスの表情でもない。何と言うか……「どう接すれば良いのかわからない」と悩んでいるような感じじゃ。


「……魔王」

「うむ。何じゃ?」


 そう言えばプロメテスやダンダリィへの対処で有耶無耶になっておったが、勇者は先ほどからずっとワシに何か言いたげじゃったな。


 しかし……勇者からワシへの言葉か。恨み言以外に想像ができぬな。ワシ側は別に敵意とか無いが、勇者側は「偉大なる神々が与えたもうた重大な御役目、魔王ぶっ殺す」って話じゃもの。

 さて……何を言われる事やら。あんまり酷い事を言われると傷付くから軽めのを期待したい所じゃ。


「……………………」


 勇者は何かを言おうと口を開きかけては閉じるを繰り返す。

 言葉を選んでおるのか、思考の整理をしておるのか……測り兼ねておると、ついに勇者が声を発した。


「……その……ッ……あれよ! あんた魔王のくせに生意気なのよ!!」

「生意気……?」

「勇者パワーが微塵も使えなくてアタシはさんざ苦労してるってのに! 何であんたはあっさり魔王パワーが使えるようになってんのよ!! このインチキ大魔王!!」

「何を子供のような事を……」


 ああ、いや、こやつ今の見た目は幼女じゃし、現実でも普通に小娘じゃったな。

 しかし、何故にひとしきり言い終えた途端「そうじゃないでしょうがアタシの馬鹿ッ……!」と頭を抱えて身悶えしておるのじゃろうか……?


「まぁ、落ち着け勇者よ。おそらく貴様もワシと同じく、何者かから真名封鎖呪縛を受けておるのじゃろう。呪縛される前の名前さえ思い出せれば、勇者パワーも多少は戻るはずじゃ」

「真名封鎖呪縛……? なら、あんたがアタシの名前を教えてくれれば一発って事?」

「……貴様、ワシに名乗っておらぬじゃろう」


 さっき名乗られたユシアと言う名なら知っておるが、それは呪縛された後の名前なのじゃろう?

 であれば知らぬ。


「なッ……魔王なら勇者の情報くらいリサーチしときなさいよ!!」

「あー……その辺は少々、込み入った事情がな」


 一応、昔はさせておったのじゃよ、情報収集。勇者の仔細次第では、実際に筋力の差を見せつけずとも撃退できたりもするかと期待してな。ただその腹積もりを見透かされてか、神々の呪いとしか思えぬアクシデントが頻発して魔族側の諜報活動が上手くいった試しが無く、いつからか「もうやめておこう」ってなったのじゃ。


「そうじゃ、フレアなら知っておるやも知れぬぞ。勇者ならば人間側では当然、有名じゃろ?」

「いや、んな訳ないでしょ。勇者が誰かは公表なんてされていないもの。それでも魔族なら王城にスパイを送るくらいしてると思ったのに……」

「そうなのか? いやしかし、九〇〇年ほど前(まだ諜報活動を諦めとらんかった頃)は名前くらいなら大々的に公表されておったじゃろ?」

「あんたね、それは――」


 ……?

 何じゃ、何故に固まるのじゃ勇者よ。


「…………とにかく、今はそういう個人情報とか色々と配慮される時代なのよ。そのフレアってのが、アタシの国で王城務めでもしてたら知ってるかもだけど。その辺どうなの?」

「どうじゃろうなぁ……」


 フレアの雰囲気からして……うむ、王城で働いておる所は想像できぬな。何と言うか……落ち着いて仕事をしておる所をイメージできぬ。牧場で動物たちと元気に跳ね回っておる姿ならすぐに思い浮かぶが。

 と、そんな事を考えておると……ウワサをすれば何とやらか、視界の端でフレアがむくりと起き上がるのが見えた。


「おお、フレア。目が覚めたか」


 プロメテスにやられたらしい火傷ダメージが大きいのか、フレアは上体を起こしたもののそこから微塵も動かぬ。どれ、筋力で治療してやろうと近寄ってみると――フレアは何やら、信じられないものを見るような顔をしておった。

 大きく見開かれた瞳は、じっとワシの顔を見つめておる。


「……どうしたのじゃ? そんなに傷が深いのか?」


 フレアには余り似合わぬ表情で、少し驚いてしまったが……そうか。フレアの視点からすると現状、ワシがプロメテスを倒して頭から地面にめり込ませたように見えるか。

 そりゃあビックリ仰天もするじゃろう。さて、色々と説明してやらねばな。


 しかし、魔王である事は隠したままでいよう。人間側に取って魔王とは怨敵の親玉と言う認識じゃろうからな。フレアが魔族に対して過激な思考を持っておる派閥とかじゃったらもう悲惨の極みじゃ。勇者とてこの状況で余計な混乱は望むまい、話は合わせてくれるはず。


 欺くのは心が痛むが……余計な折衝を生むよりは――


「アリスちゃん、魔王なの?」


 ――おっふ。


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