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34,黒い鎖が神の股間を締め上げる。


「聞いてくれ、魔王アゼルヴァリウスよ。イケメンカイザーは――」

「そこまでって話だ」


 突如として響いた謎の声。

 次の瞬間、無数の黒い鎖が降り注ぎ、プロメテスを絡め取った!


「なに……!?」

「プロメテス!? 何じゃその鎖は――」

「きゃあ!?」

「なッ、勇者にまで!?」


 プロメテスとユシアだけではない、目をやれば気絶中のフレアやグリンピース、ゴールドさんたちまでも黒い鎖が……ッ、ワシにもか!


 とてつもない勢い、そして魔力を帯びた鎖じゃった。

 半端では防げぬと直感し、咄嗟に全筋力集中の防壁で弾く!


「ッ、待て!」


 鎖を弾いた後、すぐに全方位へ筋力を伸ばしたが――寸でで間に合わなかった。

 黒い鎖がじゃらじゃらと音を立ててプロメテスを始め皆の体を巻き取り、横合いの建物の屋上へと引き上げていく。


「ご注文の神イケメンとその他もろもろ、確保って話。まぁ、一人は防がれちまったがって話だが……」


 皆が引き寄せられた建物の屋上、そこには一人のイケメンが立っておった。

 黒くさらさらと長い髪と額に開眼した第三の眼が特徴的な、顔の良い男――イケメンか! ぴっちりとした黒衣に程よい筋肉が浮かび、体中に黒い鎖を巻き付けおる。やじりのような耳の形状からして、エルフ系……またはそれに近似する人種じゃな。


 今日は何じゃか、よくわからん唐突な乱入が多い気がするのう……。


「よう、そこの黒くてイカすおもしれー幼女。礼を言うって話だ。この神イケメン様はずっとシステムの裏側に引き籠りっ放しで、中々捕まえられなくて困っていたって話。こういうの、漁夫の利って言うんだったか? って話」

「何者じゃ、貴様は……!」

「オレはダンダリィ。至高イケメン・マルクトハンサムに仕え、イケメン・キャッスルを守護する六騎士――通称【美美美美美美(ヴィ・シックスメン)】の一人って話だ。まぁ、要するにラスボス一歩手前の大幹部系ボスって話だな」


 つまり、魔王軍で言う四天王のような存在か。


 美美美美美美(ヴィ・シックスメン)のダンダリィ……確かに、それなりの威風は感じる。

 いや、感じ過ぎるくらいじゃ。ラスボスより強いと言われておったキャパーナと同程度には強そうな気配がするぞ。おそらく、イケメンカイザーによる強化をひときわ強く受けておるのじゃろう。


 ダンダリィの鎖に囚われたプロメテスは苦悶の表情を浮かべて身じろぎひとつ無し、ろくな抵抗もできぬ様子……あの鎖、強烈な呪具の類か!


「ぐぅ……鎖が股間のえぐい所に食い込んで……これは神でもまともに動けないッ……!」


 下手な呪具よりえぐい事されとる……!

 勇者は絡め取られた時の衝撃で気を失ってしまったようじゃな。フレアやグリンピースたちも気絶したまま身動きは無い。


「貴様、そやつらをどうする気じゃ! と言うか鎖で股間はさすがにやめてやれ!」

「さぁなぁ、って話。カイザーにここにいる奴らを全員捕まえて来いって言われたから、捕まえに来ただけだって話。どうするおつもりかは知らんって話だ。興味も無し。あとイケメンを無力化するんならこれが一番カンタンだからやめねぇって話だ」


 差し詰め、己の目的を知るプロメテスの口を塞ぐため、プロメテスを回収……ついでに己へ歯向かう連中も一掃してしまおうと言う魂胆か。そうはさせぬぞ!


「ダンダリィとやら。皆を解放せよ。でなければ、手荒な真似も止むを得ぬぞ」


 ワシは戦いを望まぬ。じゃが、必要とあればこの筋力を振るう事を躊躇わぬ。


「おお、恐い恐いって話だ。カイザーから聞いているって話だぜ。あんた幼女のくせして、実は現実世界の魔王なんだろ? 絶対に戦いたくない相手だって話」

「なに……!?」

「あんたに関しちゃあ『捕まえ損ねたらそれはそれで良い』とも言われているぜって話だ」


 イケメンカイザーは、ワシの正体を知っておるのか……!?

 ワシが驚愕しておると、ダンダリィが右手を天に掲げた。


「捕まえる必要無し……と、言われちゃあいる訳だが、まぁ【ゲーム】ってのは必要性じゃあねぇって話。あんたもゲットして全クリを目指すぜって話」


 ダンダリィの手に絡まっておった無数の黒い鎖が、意思を持ったように動き出す。

 伸び、増え、空に巨大な鎖玉を形成――そして、鎖玉の内から黒い閃光が弾けた!


「鎖をゲート代わりにした召喚術式か……!?」

「おお、さすが魔王って話。見ただけで術式を看破されるとはやるねぇ、って話だ」


 薄く笑うダンダリィの頭上に現れたのは、黒い鉄仮面を被った巨人。長い髪は丁度真ん中から右が黒髪、左は白と特徴的。合わせたように、背の右側には六枚の黒い翼と、左側に六枚の白い翼。フリル満載の豪奢な白黒ドレスを身に纏っておる。

 巨大な白黒令嬢……と言った所か。


「こいつは悪役令嬢レディ・ヴィランズシリーズの一体」


 ダンダリィの紹介に呼応するように、黒仮面の令嬢が一二の翼を大きく広げ、白黒の羽を撒き散らす。


「【悪魔令嬢レディ・ダークネス】、エレジィ・ルチファッテ。元々は人間だったくせに、悪魔を捕食して闇堕ちしたクレイジー女だって話」

「あ……ああああ……あぁあああああ……!」


 ……何じゃ?

 あのエレジィなる巨大小娘……苦しみもがくような声と共に、手を鉄仮面に……。


「おっと、まだ自我がありやがったかって話」


 それを見たダンダリィが、パチンと指を鳴らした。

 瞬間、エレジィとやらの鉄仮面を中心に黒い雷撃が迸る!!


「ああああああぁあああああああああッ!!」

「なッ……!?」


 響き渡る少女の悲鳴――雷撃が襲ったのは、エレジィの巨体!

 その全身を突き刺すように、雷撃が跳ね回っていく……!?


「貴様、何をしておる!?」

「このデカ女は非協力的だったって話でな。オレの【黒鉄ブラックアイテム】のひとつである鉄仮面で無理矢理に言う事を聞かせているって話だが……さすがは規格外の代名詞、悪役令嬢レディ・ヴィランズ。まだ自我が残ってて油断するとすぐに仮面を外そうとしやがるって話。だからまぁ、お仕置きって話だ」


 エレジィが悶え苦しむ様を見据えても、特に何も感じていない――そんな淡々とした様子でダンダリィは軽く言う。


 そのふざけた態度に、思わず、己の額に青筋が浮かんだのが分かった。


「下衆がッ……!」

「そりゃあオレは闇属性のイケメンなんでねって話。それに、イケメンカイザーが言ってたぜって話。お優しい魔王様にはこういうのが一番キくって話をな」


 こういうの?

 ッ、まさか……!


「嫌々無理矢理で戦場に引きずり出された哀れな乙女を、あんたはブン殴れるのかい? って話だ」


 ――ふざけるな。


 怒りに駆られ、ダンダリィに向けて魔王チョップを放とうとしたが――止めざるを得なかった。

 エレジィの巨体が降下し、ワシとダンダリィの間で壁となったのじゃ。今、遠距離チョップを撃てば、エレジィに当たってしまう……卑劣な手を!!


「貴様はッ……どこまで卑劣かッ!!」

「多分だが、あんたが想定し得る最大級を越えるくらいじゃあねぇの? って話。知らんけど」

「あ――ああああああああああああああああ!!」


 エレジィの悲痛な咆哮を聞きながら、ダンダリィはふと何かを思いついたように「お、そうだ」とつぶやいた。


「魔王様よ。せっかくだし、ちょっとしたゲームをしようぜって話だ」

「ゲームじゃと……?」


 ダンダリィが頷き、薄い笑みを浮かべながら指を一本だけ立てる。


「一分だ。このデカ女が戦闘開始してから一分経過で、オレは潔くあんたを諦めて撤退――つまり、ここにいる連中を全員連れてイケメン・キャッスルに帰るとするぜって話」

「させると思ってか!」

「そうだ、勿論あんたはそれを許す訳にはいかないだろ? って話。だからこそのゲーム。避けられない衝突は遊びとして楽しむモンだって話」


 こやつ……本気で言っておるのか?


「オレが撤退するまでにあんたがこのデカ女をどうにかして、お仲間さんたちを取り戻せるかって話のシンプルなゲーム。参加賞として……そうだな、結果を問わずそこのデカ女はあんたにくれてやるよ。回収するの面倒臭いし」


 ダンダリィの声色も口調も、悪意を強調するような要素は無い。しかし淡々としておる訳でもない……どこまでも何気無い、普通の調子で普通に喋っておるだけ。まるで日常会話じゃ。


 じゃからこそ余計に、理解できない。

 こんな軽い調子であんな事を言えるこの男が、どこまでも度し難い。


「……よかろう」


 さすがのワシにも、堪忍袋の緒とやらには限界がある。


「そこの巨大小娘も、皆も、誰一人として貴様には預けておけぬ! 力づくでも全員、引き渡してもらうぞ!!」

「クハハ、いいねぇ。案外テンション高いじゃん魔王様って話。ゲームはそうやって楽しむモンだよなぁって話だ」


 皆を助けるついでじゃ。

 ダンダリィ……貴様の狂った性根も、この手で叩き直してやろうぞ!!



   ◆



 エレジィが咆哮を上げ、幼女魔王へと襲い掛かる。

 神イケメン・プロメテスは股間に食い込む鎖の脅威を感じながら、その無益な争いを傍観するしかない己に歯噛みした。


「おいおい神イケメン様が酷い面だなぁ、って話」


 ダンダリィの言葉に合わせて、プロメテスを拘束する鎖が更に締まった。

 面倒だから僅かな抵抗も許しはしない、と言う意志表示だろう。


「ぐぅ……やめろ、ダンダリィ……!」


 プロメテスは呻くような声を振り絞り、ダンダリィに抗議する。


「彼女……いや、彼は希望だ、この世界の……! こんな事はやめるのだ……!」

「へぇ、って話。そりゃあ素敵な事だなぁって話」

「真面目に聞け! このまま行けば、イケメンカイザーはこの世界で――」

「【イケメン・インフェルノ】、【イケメン・イクリプス】」

「――ッ」


 ダンダリィはあっさりと【それ】らを口にした。

 プロメテスは開いた眼と口が塞がらない。【その名】を知っているという事は、つまり――


「キミは……すべてを知った上で、イケメンカイザーの下についているのか……!?」


 ダンダリィは頷き、小さく笑う。

 少しだけ目を細めて――まるで、日常の中で少しだけ面白い事を発見した程度の笑み。


「どんな結末エンディングだろうと人生ゲームは楽しむモンだろ? それが例え最低最悪の地獄絵図バッドエンドだとしてもって話だ」


 ……この男は、狂っている。


 闇のイケメン――ああ、実に相応しい。

 命を、生を……ゲームを愉しむための費用コイン程度にしか認識していない。

 しかも、その狂気に酔っている素振りが無い。この男は常に、極めて平静だ。


「まぁ、そんな先の楽しみにばっか気をやってちゃあ鬼イケメンが笑っちまうって話。今は目の前のゲームを楽しもうって話だ」


 常人と変わらぬ様子で、この男は狂気を口にできる。根底からしてどうしようもなく歪んでいる。


「さて、お優しい魔王様は見事――下衆な闇イケメンから囚われの仲間を解放する事ができるのかって話をさ」


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