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30,反撃、フレア&グリンピース


「アリスちゃんが倒れた……!?」

「マスターに何をしたんだぜ!?」

「今、パニプゥさんが発動したのは【本性モロバレの呪い】……ずばりその名の通り、理性無き本性を剥き出しにしてしまう精神弱体術式なのです! あなたたちの洗脳を阻む精神的支えであるアリス様に、今ここで! 幻滅必至の醜態を晒していただくのですねぇ!!」


 ゴールドさんが意気揚々と指差した先。

 そこに転がるアリスは、パニプゥの禍々しい眼光を受けて倒れたきり動かない。


「あんた何あっさり相手の術中に落ちてんのよ!?」


 傍らのユシアが泣きそうな声で、必死にアリスの袖を引っ張る。


「いつの間にやらアリス様と仲良くなられていたですねぇ、ユシア様。お似合いのオトモダチですねぇ」

「うっさい黙れ守銭奴ゼニゲバうじ虫中年!」

「……洗脳完了したら自爆特攻の先鋒にしてやりますです」


 そんな事よりも、とゴールドさんは楽し気に目を細めた。


「アリス様が起きますですよぉ。見ものですねぇ。その本性が如何なるものか!」


 ゴールドさんはアリスの本性を晒させる事で、グリンフィースやフレアの洗脳を妨げている精神的支柱をへし折ろう、と言う腹積もりらしい。


「この世に本性の綺麗な人間などいるはず無しですねぇ! そしてアリス様は幼いとは言え、話している印象は随分と理性的で大人びた御方! その本性は大人同様にえげつないはずなのですねぇ!!」


 あひゃひゃひゃひゃ、と下衆な笑いが響き渡る中……むくり、とアリスが起き上がった。


「さぁ、注目の第一声ですねぇ。本性剥き出しで、醜い醜い、心の底に抱える願望を晒して――」

「……帰りたい」


 か細いつぶやきと共に、アリスの目からぽつぽつと水滴が落ちていく。


「お父さんとお母さんの所に……おうちに、帰りたい……もう、戦うのやだ……ぅあ、あぁぁ……」


 アリスがその場に伏して、啜り泣く。

 それ以上、何を騒ぐでも無く、何を叫ぶでも無く……ただ小刻みに震えて、微かな嗚咽を漏らすだけ。


「……ッ……」


 その思わぬ姿に、傍らのユシアは絶句する。

 ゴールドさんも一瞬だけ面を喰らったようだが、すぐにニヤリと笑みを浮かべた。


「まぁ、これはこれで幻滅ものでしょう! 御覧なさい。アリス様のあの情けない姿を。大人びた普段の態度は仮初! 彼女の本性は見た目相応、ただ泣きじゃくってうずくまるだけの幼女と言う事です! あんなガキに忠誠を誓っても先は無いですねぇ。理解なさいです、イケメンカイザーを打倒したいのならば――あれ?」


 ふと気付けば、紅い毛玉と緑の毛玉が消えていた。

 代わりにそこに立っていたのは――


「何で、ふんわり化のデバフが解けて……」


 人型に戻ったフレアが足を、グリンフィースが拳を振りかぶる。


「子供が泣いているのに」「何がそんなに可笑しいんだぜ!?」

「え、ちょ、へぶあッ!?」


 フレアの蹴りがゴールドさんの小さな顔に、グリンフィースの拳がゴールドさんの小さな体に直撃ッ!!

 ひとたまりもねぇ、と言わんばかり!! とんでもない勢いでゴールドさんが吹き飛び、頭から建物の外壁に突き刺さった!!


「な……な、なななな……!?」


 訳がわからない、と驚愕するパニプゥの目の前で、フレアとグリンフィースが黄金の首輪ごと繋がれた鎖を引き千切った。その首輪を足元に放り捨て、踏みにじる!

 所作のひとつひとつに、強い憤りを感じられる!!


 パニプゥはそこから、ある答えを導き出した。


「ま、まさか【激情状態】……!」


 激情状態――主に怒りなどの強い感情により精神が暴走、思考に論理的破綻が出やすくなる代わりに全ステータス向上と精神的強化・弱体化の一切を受け付けなくなるステータス異常である!! あのキャパーナ・アクレイジの狂気じみた耐久力と強さ、その一端を担っていた要素!!


 攻撃ふんわり化は「攻撃か否か」の判定が対象の認識依存であるため、精神的弱体化に分類される。

 つまり、激情状態の相手には無効!!


「ねぇ、グッピー。ボクは自分が情けないよ」

「ああ、奇遇だな、俺もだぜ」


 二人揃って、ゴキゴキと拳を鳴らす。顔中にメキメキと青筋を浮かべる。

 完全に瞳孔が開き、憤怒の炎を帯びた視線を、あのふざけたクソ妖精へと向けた。

 件のクソ妖精ことゴールドさんはまだ息があったらしく、今まさに壁から頭を引き抜いた所だった。


「アリスちゃんは、小さいのにボクなんかよりずっと強い子だなぁ、すごいなぁって、思ってた」

「マスターならどんな窮地だろうが、その鋼の精神で必ず最後はどうにかしてくれる……俺なんかよりずっと強ぇ心の持ち主だって思っていたんだぜ」

「違うよね」

「ああ、違ったんだぜ」


 戦うのが嫌だと、親元へ帰りたいと訴える小さな声。

 恐怖にうずくまって震え、咽び泣く小さな背中。

 それが、アリスの本性だと言うのなら――


「ボクたち大人が、アリスちゃんよりずっと強くなきゃダメじゃあないか!!」

「ああ、まったくだぜ!! 情けねぇ……情けねぇ限りだぜ!!」

「あんな小さな子を強がらせて、大人ぶらせて、それに甘えて頼り切っていた!!」

「さっきまでのクソみてぇな俺たちをブチ殺したくて、仕方無ぇんだぜ!!」


 咆哮!! 同時に噴き出す、膨大な爆炎と無数の樹木!!


「くッ……課金三獣士ッ!!」

「うッス……キカンゲティ、参上ッス」

「はっはァ!! コプンガッチが出たぜェ!!」

「セクシーの噴出!!」


 ゴールドさんの叫びを合図に伏兵・課金三獣士が三方から一斉にフレアとグリンフィースに襲いかかった!!


 犬耳無気力男子・キカンゲティは機関銃を乱射!

 ネズミ耳の大男・コプンガッチは竜巻を纏った鋼鉄車輪でぶん殴りかかる!!

 変態・ビギナエルはキレッキレのモストマスキュラーを見せつける!!

 ついでにパニプゥも弱体魔術てんこ盛りアタックを仕掛け――


「邪魔ッ!!」

「だぜッ!!」


 フレアがその場で、一度だけ全力の足踏み。

 全方位へ、強烈な爆炎の津波が発生する。その一発だけで、三獣士とパニプゥの放ったすべての攻撃が薙ぎ払われた。


 続けて、グリンフィースが軽く手を振るう。

 無数の樹木が拳へと変形し、ラッシュになって三獣士とパニプゥに襲いかかる。


「わおんッス!?」

「ぐああああ!?」

「セク死ッ」

「パップ!?」


 三獣士+パニプゥは強烈な樹木の殴打の直撃を受け、綺麗に横並びで吹っ飛んだ!!

 そして四人同時に頭から建物の外壁に突き刺さる! 動かない! 戦闘不能リタイア!!


「は、ぁ……?」


 配下を一掃され、ゴールドさんは愕然。半ば放心しかけていたが……その意識を無理矢理ひきずり戻すように、ガシャンッ! と大きな音を立ててフレアが踏み出した。


「……アリスちゃんならきっと、キミみたいな奴が相手でも命を奪ったりはしないだろうね。ボクたちも、そうしよう」

「ああ、そうだなだぜ。だが、その代わり――」



「「命以外はどうなっても知らない」んだぜ」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 早速の伏線回収お見事です。大変気持ちよい。
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