29,幼女に迫る黄金の魔手！
まさか勇者何某とこんな所で……と言うか、何故にこやつまで幼女になっておるのじゃ！？
「まさか魔王とこんな所で……ってか、何であんたまで幼女になってんの！？」
感想かぶった。
「ワシにもよく分からぬが……とりあえず落ち着け、勇者何某」
「アタシの名前はユ■■……ッ、ユシアよ。ナニガシ言うな！」
だって貴様、名乗らなかったじゃん。
「色々と言いたい事や思う事はあるけど……まぁ、ぶっちゃけ助かったわ。あんたの魔王チョップでこのクソ金ぴか村の連中を蹴散らしなさいよ」
「すまぬが無理じゃ……今のワシ、魔力も筋力も見た目通り幼女級じゃもの」
普通に戦ったらセミにすら勝てるか怪しいのじゃ。
「何よそれ！？ それじゃあ、あんた何の役にも立たないじゃん！」
「本当にすまぬ……」
そこはワシも気にしておるのじゃ……。
「はぁー、つっかえな……」
こら、ペッと唾を吐き捨てるな。行儀の悪い……こやつ、本当にあの勇者と同一人物なのか……？
しかも勇者のインパクトで流しかけたが……。
「と言うか、本当に貴様がイケメン奴隷王なのか……？」
「そうよ。でも最悪！ さっきも言ったけど全員いなくなった！ アタシの奴隷みんな一匹残らず、イケメンカイザーとか言う奴が逃がしちゃってたのよ！！」
当然のように「奴隷」とか「匹」とか言いおったなこやつ……。
「ん？ 何であんた、頭抱えてんのよ？ 頭痛？」
「貴様はイケメンをなんじゃと……」
「何って……ああ、あんたもしかしてゲームキャラに感情移入しちゃう系？ 馬鹿じゃないの、魔王のくせに。寝る時はお気に入りのヌイグルミちゃんとか抱いちゃうタイプ？」
……なるほど。どうやら、最初のワシやフレアと同じく、何も知らぬと。
あと何故ワシの睡眠習慣を知っておるのじゃ？
「よく聞け勇者ユシア……イケメンたちだって、生きておるのじゃぞ」
「……あんた、落ちてきた時にやばい所でも打ったんじゃないの？」
「いや、真面目に話を――」
「見つけましたですねぇ！」
「「ッ！！」」
この声は――ゴールドさんとパニプゥ！
「おや、これはこれは……三獣士が取り逃してしまったイケメン奴隷王・ユシア様までいらっしゃるではありませんですか」
その三獣士がおらぬな。
分かれてワシらを探しておるのか、それともどこかに忍ばせておるのか…………ん？ と言うか、パニプゥが持っておる二又の鎖に繋がれておるアレは何じゃ……？
大きな紅い毛玉と、緑の毛玉……？
「アリスちゃん！？」
「マスター！？ 無事だったんだぜ！？」
紅い毛玉からフレアの声、緑の毛玉からグリンピースの声が……二つの毛玉がもさもさ揺れながら喋っておる。あれ、フレアとグリンピースなのか……？
「えぇ……何がどうしてそんな事に……」
「マスターが吹っ飛ばされたあと、結局三獣士から逃げ切れずに戦闘になっちまったんだぜ……！」
「うぅ～……どうにか攻撃できないか色々と試したんだけど、ダメだったにゃあ……！」
どうやら、グリンピースの拳が毛玉になったのと同じ現象が起きまくり、ついには全身が無力な毛玉そのものに成り果て捕獲されてしまったと……やはり厄介じゃな、ふんわり化！
「……あの毛玉二つ、あんたの仲間なの？」
「うむ、そのようじゃ……変わり果ててしまっておるが……」
「ええ、まったく。こんな姿になるまで粘るとは」
やれやれ、と小馬鹿にするような笑みを浮かべたゴールドさんが首を振る。
「しかもこの御二方、この期に及んでパニプゥさんの洗脳が効かないと来たのです。何故か？ それはおそらくあなたが原因ですよ、アリス様」
「ワシが……？」
「どうやらダーゼット卿はあなたへの忠誠心が強過ぎるようですねぇ。フレア様に通用しないのも似たような理由と考えられますですねぇ」
なるほど。二人とも、洗脳を弾くほどに強くワシを慕ってくれておるのか。
元々そのつもりじゃったが、何としても助け出さねばならぬな。
具体策は思い付かぬが、とにかくスコップを引き抜いて、構える。
「そこで私め、考えましたですねぇ……パニプゥさん」
「承知！！」
「ぬ……！？」
パニプゥの目隠しに刺繍された目が光って――ワシの意識は、暗転した。
