28,因縁の再会、幼女と幼女!
「……きなさい……起きなさい!」
「ぅ……?」
なん、じゃ……ワシはどうして寝て……ああ、そうじゃ。
コプンガッチとか言うネズミ耳の大男が放った竜巻のせいで、大空へと吹き飛ばされて……意識が……。
「起きなさいっての!! お願いだからぁ!!」
「む、お、起きたのじゃ……そんなに激しく揺らすのはやめてくれなのじゃ……」
う、ぅう……誰じゃ、ワシの肩を掴んでぐわんぐわんと揺らしておるのは……。
瞼を開けると、まず見えたのは青い空に、それを縁取る黄金の建造物たち。
どうやらゴールデン・ヴィレッジ内部、路地裏道が合流するターミナルのような薄暗い広場のようじゃ。
そして、ワシの肩を揺すっておるのは……白いドレスを着た金髪の幼女じゃな。今のワシと見た目年齢は同じくらいか。首にはこれまたワシと同じ金ぴかの首輪……つまり、同じくゴールドさんに騙されたプレイヤー。
「……ぬ?」
何じゃろう、この小娘……どこかで見た事があるような?
金色の髪、強気に吊り上がった目……声も薄らと、似たものを聞いた覚えがある。
「ったく、やっと起きたわねクソガキ! いきなり空から降ってきてアタシを圧し潰すなんて良い度胸じゃないの、とは思うけど! まぁここは寛大な心で許してあげるわ! 別に独りが心細いとかじゃあないわよ!?」
「え、あ、えぇと、すまぬ。ワシ、貴様を圧し潰してしまったのか……」
こんな幼い小娘を……いやまぁ、ワシも今は似たような姿じゃが。
「そこは許してあげるって言ったでしょ。気にしなくて良いわ。その代わりアタシの側から絶対に離れないでよ!?」
どうやら、かなり心細かったようじゃな。
強気な表情や言動とは裏腹、ワシの袖を掴む小さな指が微かに震えておる。
「あら……あんた、随分と恐い思いをしてきたようね。震えているじゃない」
いや、震えておるのは貴様の方なのじゃが……気付いておらぬようじゃな。
うむ、まぁ、指摘するのは無粋じゃろう。
「でも安心しなさい。アタシ、これでもすごいのよ。だから絶対に見捨てないでお願い」
「うむ、そこは安心して欲しいのじゃ」
「安心するのはあんたの方なんだけど!?」
体を震わせながらも強がりを吐き続ける幼児を見捨てるなど、鬼畜の所業。
魔王にはなってしまったが、鬼畜になった覚えはないのじゃ。
「何よ、その見守るような目は……ちょっとナメてない?」
「ナメてはおらぬぞ。よしよし」
「頭を撫でんなし!!」
金髪幼女はむきーッと騒ぎながら、頭を撫でるワシの手を払う。
「アタシはね、巷じゃちょっと有名なのよ?」
「そうなのか?」
「そうなのよ! 【イケメン奴隷王】って言えばわかるかしら?」
「なんと……貴様が、あの……!?」
一〇〇のイケメン下僕を従えるトップランクのプレイヤーが、この幼女じゃと!?
にわかには信じ難いが……見栄や強がりの類ではなく?
「まぁ……今は奴隷全員どっかいっちゃったけど……」
金髪幼女はがっくり、と肩を落として溜息を吐いた。
この落ち込みっぷりは……どうやら、本当っぽいな。
そして、まぁ、そりゃあそうじゃろうとも納得する。
一〇〇のイケメン下僕を擁する超大勢力、イケメンカイザーが見過ごすはずもない。奴隷王はしばらくログインしておらんかったと聞いておるし、不在の間に手を打たれてしまったのじゃろう。
「あ、いや、でもでも! それだけじゃないから! アタシはそれだけじゃないから!!」
だから見損なうな、見捨てるな。そう訴えるように、金髪幼女がくいくいとワシの袖を引っ張る。
いや、そんな必死にならんでも、見捨てるなんてそんな酷い事はしないと……。
「聞いて驚きなさい。現実世界では【勇者】やってんのよアタシ!! すごいでしょ!? だからアタシと一緒にいた方が良いわよ!? ね? ね!?」
「………………は?」
……今、必死にワシの袖を引っ張りながら、何と言った?
勇者? 勇者と言ったか?
………………ああ、そうじゃ。見覚えがあるはずじゃ。
ワシをこの乙女ゲーに封印したあの勇者の小娘を……こう、むぎゅっと小さく幼くしたら、丁度こんな感じじゃろう。面影しかない。
「ゆ、勇者何某……!? 何故、貴様まで幼女に!?」
「はぁ? 『貴様まで』って、まるであんたも元は幼女じゃないみたいな……って言うか待って、勇者ナニガシって、その呼び方……それに紅い瞳に真っ黒な恰好……」
あ、しまった。
「あんたまさか……魔王!?」