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27,課金三獣士を連れて来たよ


「くッ……魔術が毛玉になるってんなら、拳で抵抗するだけなんだぜ!!」


 そう言ってグリンピースが拳を構えた瞬間。

 その両手首から先がもふっとした緑色の毛玉に変わった。


「だぜぇぇぇッ!? 俺の手が大変な事になったんだぜぇーッ!?」

「魔術に限らず、我が【ふんわり化の術式】は【あらゆる攻撃】が対象。殴ろうとすれば拳がふんわりするのも道理」

「ぬ……なんと厄介な……!」


 下手に攻撃を試みれば、肉体の一部までもふんわりさせられてしまうとは……!


「アリスちゃん、グッピー! ここは逃げだよ!」


 うむ、フレアの言う通りじゃな!

 ここは逃げに徹し、ふんわり術式の効果が切れるのを待つのが最善じゃろう!


「そんな事を許すとでも思っているのです?」


 ゴールドさんが指をパチンと鳴らした。それを合図に、ワシらが逃げようとした方向に三つの影が舞い降りた。

 くッ、伏兵を仕込んでおったか!


「さぁ皆様! 課金誘導妖精の眷属――課金三獣士を紹介いたしますです!!」

「課金三獣士!?」

「まずはこの男! 旬を逃しそうな愚者を救済する、キャッチコピーは『何度でもあると思うな、復刻』……その名もキカンゲティ!!」


 ゴールドさんが最初に指し示したのは、イヌ耳を生やした半開眼の青年。気怠そうに機関銃を肩に担いで、今まさに欠伸を噛み殺しておった。


「ウッス……うちがキカンゲティ、ッス。主に期間限定開催のイベントや衣装ガチャのセールスを担当しているッス。でもセールストークは苦手なんで機関銃マシンガンをぶっ放す方向でやらせてもらってるッス。よろしくッス」


 キカンゲティなる犬耳お兄さん……臀部の犬尻尾がだらりと垂れて微動だにせんな。完全なる無気力系ワンコじゃ……。


「続いてこの男! 回す悦びを覚えさせるために豪華景品の用意に余念無し!! 大好きなのはヒマワリの種……コプンガッチ!!」

「おうよォ!! そいつァ俺の事だァ!!」


 威勢よく吠えたのは、ネズミ耳を生やした大男。武器なのか、自身の体躯よりも大きな鋼鉄の車輪を傍らに置いておる。


「テメェらはガチャを回す、俺は滑車を回す! 対象のレアアイテムを見事にコンプリートしやがったラッキークレイジーにゃあ、一生かけても食いきれねぇだけのヒマワリの種をくれてやらァ!! せいぜい頑張れやァ!!」


 ワシ、御米しか食えぬしなぁ……。


「最後は、おおセクシー!! ハニーなんて優しい表現では収まらない魅惑のトラップ!! 初心者から課金への抵抗感を削ぎ取り沼へと誘い込む……えちえちお兄さん・ビギナエル!!」


 うわッ……なんじゃあの男。爬虫類っぽい鱗で局部だけは覆われておるが、ほぼ全裸の変態じゃ。

 キレたサイドチェスト――悪くない筋肉ではあるが……服……。


「ふふッ、初めてのキミに素敵な体験をさせてア・ゲ・ル……具体的に言うと、初心者応援セール。一回だけ購入できるお得なビギナー専用スタートダッシュセット――つまり、セクシーセットの広告だよ……セクシー」


 ヘビのような舌をちろりと出して、ビギナエルとか言う変態がこっち見た。やたらねっとりした視線で……あまりこういう酷い事は言いたくないのじゃが……キモいな。筋肉は良いのじゃが……。


「こやつらが、課金三獣士……」


 三獣士……名と容姿から察するに、獣の形質を持つ三人のイケメンたちか。どうせならもう少し獣に寄せても良かったのでは……とか余所事を考えておる場合ではないな。

 後方にはゴールドさんとパニプゥ、前方には三獣士――挟まれた!!

 幸い横合いに路地裏道はあるが……犬耳の気怠そうな三銃士、キカンゲティなるものが銃火器を持っておるのが厄介! 路地裏に逃げ込もうとすれば十中八九、そこを狙い撃ちにされるじゃろう……!


「深刻そうな顔をするのは早いんだぜマスター!」


 ワシの懸念を笑い飛ばすように、グリンピースが声を張る。


「ふんわりするのは『あらゆる攻撃』――つまり、『攻撃だけ』なんだぜ!!」


 グリンピースの足元を中心に、地面から無数の草木が噴き出した!

 ふんわりした毛玉ではない――そうか、攻撃ではなくただ植物を召喚しただけか!

 グリンピースの植物魔術の腕は超逸級。その術から生まれる植物の強度は、並の盾より頑強じゃろう。


「なるほど、グッピーの植物を目くらましを兼ねた防壁にして逃げるんだね!」

「そう言う事なんだぜ!!」

「あー、面倒くさい事しないで欲しいッス……!」


 キカンゲティが慌てて機関銃を構え、発砲するが、グリンピースが召喚した植物がすべて弾く。

 よし、今の内に横合いの路地裏へ駆け込――


「甘ェ!! ヒマワリの種よりもォ!!」


 ネズミ耳の大男――コプンガッチが吠えると同時に、傍らに置いておった巨大な鋼鉄車輪を掴み上げた。相当な重量のある車輪なのじゃろう、持ち上げたコプンガッチの腕がムキッと力みに膨れる。


「いくら堅かろうが植物なンざ、地面ごと抉り取ってポイってすンだよォ!!」


 コプンガッチが鋼鉄車輪の中心に腕を差し込むと、鋼鉄車輪が膨大な魔力と筋力を帯び始めた。大技を撃つつもりか!?


「喰らってハッピーになりやがれ! ハムハム滑車回転奥義――【ランランリュー】!!」


 コプンガッチの腕に嵌められた鋼鉄車輪が超速回転し始め、周囲の空気が奴を中心に逆巻く。おそらく風の魔術――それも竜巻か、嵐を起こす規模のもの! いくら堅い植物でも、凄まじい強風で根っこから抜き取られてはどうしようもない!


 じゃが、ギリギリ間に合った。

 コプンガッチが放った猛烈な竜巻が植物の壁に到達する前に、ワシらは路地裏に逃げ込んで――


「関係無ェ!! 建物も基礎ごと抉り取ってポイってすンだよォ!!」


 ――冗談じゃと言って欲しかった。


 コプンガッチが体ごと捻って鋼鉄車輪を振るうと、竜巻が植物をむしり取りながら移動。軌道上にあるすべてを薙ぎ払いながら、竜巻が来る。ワシらが逃げ込んだ路地裏を形成する黄金の建物も、すべて噛み砕いて、ワシらを呑み込まんと。


 まぁ、そこまでなら「トンデモない威力じゃな!?」で済んだ。

 ワシが今、嘘じゃろいちょっと待てマジでと叫びたいのは――


「ッ、マスター!?」

「アリスちゃん!?」


 ……ああ、幼女の体よ。ワシは今までに何度も、この小さな体を呪った。無力に成り果てた肉体に歯噛みした。そして今、これまでのどの瞬間より、ワシはこの幼女ボディを憎く思う。


 端的に言って、ワシの幼女ボディは軽過ぎた。

 迫る竜巻の余波に煽られて、ふわりと浮き上がってしまうほどに。


 グリンピースとフレアが手を伸ばすのが見えた。

 フレアの指先はかすりもしなかったが、グリンピースの手はワシに届いた。しかし、その手は滑らかな毛並みの毛玉。グリンピースに指は無く、ワシの指は毛玉の滑らかさに翻弄され、するりと抜ける。


 要するに、じゃ。



 ワシは竜巻に煽られて、空高く舞い上げられてしまった。

☆★イケメン豆知識★☆


◆ヒマワリの種◆

超・レアアイテム。

効果は体力・魔力・筋力が全回復に加えて状態異常の全解除に加えて長時間の攻撃力上昇に加えて長時間の防御力上昇に加えて長時間の各種属性攻撃耐性上昇に加えて血流促進に加えて腰痛改善に加えて防御力無視攻撃によるダメージをゼロにするのに加えて肩こりも治るのに加えて場合によっては恋人ができるし大手企業への就職が決まる事もある。

コンプガチャ以外では入手できる数が極少数であるため、使い所に悩む。

そのため、「レアアイテムを取っておき過ぎて中々使えないと言うゲームあるある」を「ヒマワリの種シンドローム」と呼ぶプレイヤーがいる。

味については、てびちの骨髄とアーモンドを足して「何か違うな……」ってなるような味がするかも知れないらしいとウワサになっていると言う話をどこかで聞いた事があったと思う。

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