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26,妖精の謀略


 課金誘導妖精ゴールドさん。


 曰く、このゲームの進行に困ったプレイヤーの元に現れ、課金システムの使い方をわかりやすく説明してくれるエヌピーシーとの事。故に、ゴールドさんはプレイヤーに課金をしてもらう事を生き甲斐としておる、と。

 しかしイケメンカイザーが現れてから、課金システムが使用不可能になってしまった。生き甲斐を奪われたゴールドさんは奮起し、イケメンカイザー打倒を謳う勢力、即ち反イケメン・ゲリラを支援する事を決めた。その一手目が、支援拠点の建設――と言うのが、事のあらましらしい。


「しかし……トンデモない拠点じゃなぁ……」


 フレアとグリンピースが服を着替えるために入った服屋の前で腰を下ろし、辺りを見渡してみる。


 黄金の壁の内――ゴールデン・ヴィレッジの内部は、眼球への配慮が皆無。民家や商店は当然のように、百葉箱にいたるまでも黄金で造られておる……どこを向いても目に喧しい。空でも眺めていよう。


「おや、アリス様はオメカシなさらないので?」


 雲の流れを目でおっていると、ゴールドさんがひらりと視界に割り込んできた。


「うむ。ワシはそう言うのに疎いからのう」


 魔王として、皆の士気に差し障らぬ程度の配慮はしておったが……服装に拘りは無い。むしろ、服選びは気が進まない部類の作業ですらある。「もし母上が生きていたのなら、大きくなったワシにどんな服を作ってくれるのじゃろうか」とか、考えてしまうのでな。

 じゃから、服屋に入る事すらそれとなく拒んだ。何かを察したらしいフレアたちも、無理強いはせんでいてくれた。


「……ところで、ゴールドさん。よくこんなにも目立つ拠点を維持できておるな?」


 ワシがイケメン側ならば、即座に潰しにかかる所じゃが……。


「幾度かイケメン軍装師団レギオンが接近してきた事はございますですねぇ。しかし、あの黄金の壁こそが我が拠点における最大の武器でして」

「そうなのか?」

「あれは課金アイテム【イケメン除けゴールデン・スプレー】によって塗装した壁でございますです。件のアイテムの効果は、下僕でないイケメンを寄せ付けなくすると言うもの。本来は長旅で疲弊したプレイヤーが不慮のイケメン・エンカウントを避けるため、またはダンジョン攻略をスムーズに進めるために使うアイテムでございますです」


 なるほど。それによりイケメンたちは手も足も出せず、門前で引き返すしかないと。

 納得がいった。この黄金一辺倒な街並みは眼球への嫌がらせではなく、イケメン除けのため仕方の無いものじゃったのか。


「まぁ、極一部のイケメン――例えば【怪盗卿】アダム・ワンスのような特殊潜入スキルを持つイケメンには突破されてしまいますですが……ええ、極々レアケースですますので!!」

「便利じゃな、課金アイテム」

「ええ、課金は素晴らしいものなのですよ。どんな困難も課金が解決してくれますですねぇ。課金は力なのですねぇ。課金システム復活の際には是非、じゃぶじゃぶとご利用ください!」


 まぁ、課金システムが復活すると言う事はイケメンカイザーとどうこうしてログアウトできるようになっとるじゃろうし、ワシには縁の無い話じゃが……それをわざわざ言うのも無粋か。


 曖昧に微笑んで誤魔化しておると、向かいの民家から誰ぞが出てきた。


「ゴールド様。準備は整いましたか?」


 現れたのは、紫色の髪と両目を覆う紫紺色の布が特徴的なイケメン。

 目隠し布には大きな一つ目の刺繍が施されている。


「む、イケメン……? ここに留まっておるゲリラの下僕か?」

「いえ、彼は課金限定イケメン。課金アイテムのひとつとしてラインナップされている、課金でのみ入手可能な特殊イケメンでございますです。今は私めの部下として働いてもらっていますです」


 金でイケメンを売り買いするのか……?

 課金システム……素晴らしいものじゃと思ったが……これはちょっと……うぅむ。


「その幼さで未だ生き残っておられるとは……おもしろい。お初にお目にかかります。僕の名はパニプゥ。以後、カイザー打倒の同志としてお見知りおきを」

「うむ、ワシはアリスじゃ。よろしく頼む」

「可愛らしい御名前で」


 貴様が言う?


「して、ゴールド様。準備はいかほど?」

「今、他のお二方がお着替えをされているので、それが済み次第ですねぇ」

「む? 準備とは何のじゃ?」

「貴方たちを同志として迎え入れるため、ちょっとした儀式を行いますです」


 そう言って、ゴールドさんがパンと手を叩くと虚空に黄金の輪っかが三つ出現した。


「こちらの首輪チョーカーはゴールデン・ヴィレッジ所属の反イケメン・ゲリラの証でございますです。アリス様はお先にお着けください」

「首輪……か」


 むぅ、不自由の象徴っぽくて、あまり好きにはなれぬのう……主に神々のせいで。


「ところで、パニプゥと貴様は着けぬのか?」

「…………ぇ、ええ、これはあくまでもプレイヤーの方々に着けていただく証でございますですので」

「そうか」


 好きにはなれぬが……まぁ、仕方無い。

 仲間の繋がりを強める証、と言うのは集団においては重要度が高い。受け入れよう。

 黄金の首輪を巻くと、きゅっと自動で良い具合にしまってくれた。便利じゃな。


「やっほー、アリスちゃん。お待たせ!」

「ふぅ……金ぴかじゃあねぇ普通の服を探すのに手間取ったんだぜ……」


 ちょうど、フレアとグリンピースも服屋から出てきた。

 両名とも、多少細部の色合いは異なるが、以前と似た形の服を選んできたな。


「ちゃんとした服も手に入ったし……さぁ! 早速、ゲリラの子たちに会いに行こう!!」


 ゴールドさん曰く、この村には既に数名のゲリラ残党が在籍しているという。

 もしかしたら、南西都市ダーゼットでフレアと活動を共にしていたゲリラの生き残りもおるやも知れぬ。

 フレアがいつも以上に元気になるのも当然じゃな。


 元気な小娘は微笑ましい、と見守っておると……不意にフレアがワシの方を見て、何かに気付いた様子。


「おりょ? アリスちゃんも何かオシャレなチョーカーしてるね?」

「同志の証でございますです。フレア様も、ダーゼット卿も、ささ、どうぞです」

「マスターとおそろいとあっちゃあ着けるしかないんだぜ」


 ……ん?


「ゴールドさん、これはプレイヤーのみが着けるのでは?」


 何故グリンピースにまで……。


「って言うかこれ、あれだね。課金アイテムの【弱体耐性ダウン首輪】に似ているね?」

「ああ、それ俺も思ったんだぜ。あと、そこにいるのは課金限定イケメンで【効果は厄介だけど代わりに成功率の低い弱体魔術に特化したイケメン】のパニプゥだぜ?」


 などと談笑しながら、フレアとグリンピースも首輪を装着。

 直後、笑い声は止み、嫌な沈黙が流れる。


「おいゴールド、おまえまさか……」

「よし、かかりましたですねぇ馬鹿どもめェ!! やってしまいなさいですパニプゥさん!!」

「了解! 食らえ洗脳魔術などを始めとした弱体魔術てんこ盛りアタックゥ!!」


 ぬおッ、眩しッ……何じゃ!?

 パニプゥの目隠し布に刺繍された目が怪しく光り出したぞ!?


「く、くそうだぜ! こいつらまさかイケメンカイザーの手下だったんだぜ!?」


 咄嗟に動いたのはグリンピース。

 ワシとフレアを抱きかかえ、素早くパニプゥの視界から外れるように跳んだ。


「チィッ……さすがはダーゼット卿、反応が速いですねぇ……どうですかパニプゥ!」

「洗脳は失敗、ですが念のため並行していた弱体魔術二八個の内ひとつだけ、『攻撃がすべて【ふんわり化】する弱体化デバフ』は成功しました」

「ッ……ワシらは騙されておったのか……!?」


 ゴールドさんは、イケメンカイザーの配下で……ワシらを洗脳しようと……!?


「否、それは勘違いでございますです。私めは反イケメンカイザー勢力。それは紛れも無き事実ですねぇ」


 こちらを向いたゴールドさんの表情は――下卑た笑みで満たされていた。


「イケメンカイザーを打倒し!! その地位を引き継ぎ!! プレイヤーたちを圧政して課金を強制する!! じゃぶじゃぶ、じゃぶじゃぶじゃぶじゃぁぁあああああぶと無理矢理に課金させるゥ!! それが私めの目的でございますですゥ!!」


 もはや取り繕う必要は無くなった、とでも言わんばかり。

 ゴールドさんは唾を散らしながら、ぐんぐんと口角を歪ませていく。


「しかしイケメンカイザーの戦力は言うに及ばず超大!! それに勝るためには、従順で、自爆特攻すらも厭わぬ優秀な洗脳兵士がたぁぁくさん欲しいのですねぇぇ私めェ!! 故にプレイヤーの皆々様は洗脳して地下倉庫で保管ン!! 来るべき決戦に向けて在庫をたんまり用意したいんですねぇ!!」

「ッ……想像を大きく下回る下衆野郎だぜ! 誰に喧嘩を売ったか、思い知ると良いんだぜ!!」


 グリンピースはワシとフレアを下ろして、地面に手を押し当てた。

 グリンピースの得意技、植物魔術で樹木でも生やして攻撃しようとしたのじゃと思われる。


 何故に推測かと言えば、地面から生えてきたのが……まるでタンポポの綿毛のようにふわっとした、緑の毛玉だったからじゃ。


「…………何これ、だぜ」


 静かな風に煽られ、毛玉の滑らかな毛並みがそよぐ。


「グッピー! ふざけてる場合じゃないでしょもぉー!」

「いや、ふざけた訳じゃ……」

「ここはボクが行くよ、強烈蹴撃ヴィーザル・ショット、【爆炎砲フランマ】!!」


 フレアが虚空へ蹴りを放つ。その足に纏った紅蓮の鎧、ヴァーンの軌跡をなぞって、爆炎が生まれ前方へと放たれる――はずじゃった。

 ヴァーンから放たれたのは、もさふわっとした紅い毛玉だった。


「にゃ!?」


 猫みたいな顔で驚くフレア。

 その目の前で、紅い毛玉がもふもふッと跳ね転がる。


「パプププ……言ったはず。『攻撃がすべて【ふんわり化】する弱体化デバフ』は成功したと」


 正気を疑いたくなる笑い声と共に、パニプゥが口角を裂き上げる。


「あなたたちはもう、どう足掻いても『ふんわりとした毛玉が出る攻撃』しか出せない!!」

「な、何じゃそのアホみたいな弱体魔術は……!?」


 いやしかし、笑い飛ばせるものではないのか?

 見た所、出てきた毛玉は樹木や爆炎の面影なぞ皆無。

 試しにフレアが出した紅い毛玉を触ってみると、すごくふんわりしていて、あとは微妙に生温かいだけ。

 完全な無害物質のようじゃ。


 これ、事実上……あらゆる攻撃を封じられたも同然では……!?

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