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25,課金誘導妖精ゴールドさん


「アタシが一体、何をしたって言うのよ……!」


 金髪の幼女が、息を切らして走る。その首には、戒めるような黄金の首輪。

 身に纏っていた白いドレスのスカートが裂けるのも気にせず、大きく足を振り上げて、必死に走る。

 村中を覆う黄金の輝きから逃れるように、裏路地の奥へ、奥へ……。


「何か幼女になっているし、奴隷もみんないなくなっているし、ログアウトもできないし! 何なのよ、イケメンカイザーって!? イケメン革命!? ふざけんな、たかがゲームキャラが何を一丁前に……!」

「傲慢だなァ!! 蔑称とは言え、肩書に【王】を冠するだけはあンぜ!!」

「ッ!!」


 金髪幼女の前に勢い良く舞い降りたイケメンの影。

 更に金髪幼女を取り囲むように、影が二つ追加。


 合計三人のイケメンが、金髪幼女を追い詰めた。


「無駄、無駄無駄無駄ァ!! 俺たち【三獣士】の【回収】から逃れる事なンざ不可能なンだよォ!!」


 ひときわ大きな影が荒々しく吠える。


「うちらは貧乏人の匂いに敏感なんスよ……臭う、臭う、ドブ以下ッ、ってね。でも追いかけるの面倒臭いんでそろそろ諦めて欲しいッス……」


 気怠そうに揺れている影が溜息を吐く。


「課金はセクシーなんだ。みんなセクシーになろう。まずはお家賃まで、次はお給料まで、果ては借金できるだけ。優しく、しかし残酷に搾り取る……それが私たち。それもまたセクシー」


 セクシーな影が頭の後ろで手を組んで右足を少しだけ前に出しキレッキレなアブドミナル・アンド・サイのポーズを取る。


「……ッ……要するに、アタシと相性最悪って訳ね!」


 金髪幼女は歯噛みする。


 やはり金なのか、と。


 金が無いから、不都合ばかりが降りかかる。

 金があれば、と、何度、嘆いてきただろう。

 金があればこの手で受け止められたものを、幾度、掴み損ねてきたのだろう。


 現実はクソだから、虚構の世界に逃げたのに。

 だのに……この世界まで、持たざる者の無力さを叩き付けてくるのか。


「一攫千金のチャンスがふいになって、憂さ晴らしのためにログインしたってのに……どうしてこんな事ばっかり……!!」

「感謝しろよォ、バガボンドが。俺たちが救済してやるってンだ、その貧乏が染み着いたクソゴミ魂をなァ!!」

「恐がる事は無いッスよ。ただ道具になってもらうだけなんスから」

「世界の負債を有効活用……エコロジィ、ああ、実にセックスィな響きだ!! それだけでエレクトォ!!」

「ふざけんな……!」


 小さな拳を握りしめると、金髪幼女は瞳に闘志を宿して吠えた。


勇者アタシの力を、見せてやるわ!! 具体的には――逃げ足と言う形でねッ!!」



   ◆



 晴れやかな青空の下、草原に挟まれた道の上。

 風の如く駆けるペガサスの背に揺られながら、ステータス画面を確認してみる。

 ワシを抱っこする形で騎乗していたフレアも、共に画面を覗き込んだ。


「アリスちゃん、相変わらず経験値が入っていないね?」


 フレアの言葉に、ワシは「……むぅ」と唸りながら頷くしかない。


 キャパーナ・アクレイジ……事実上このゲーム内で最強とまで謳われておるらしい暴龍を討ち破ったにも関わらず、グリンピースの時と同様、ワシのレベルとやらは一切上昇しておらぬ。相変わらず一と〇ばかり……。


 フレアはプレイヤーレベル五〇〇から一気に二〇〇〇まで上がり、ここまでくれば弱い方の強化イケメンとなら普通に戦えると意気込んでおった。グリンピースもイケメンレベルなるものが九七〇〇から九九九九まで上がりカンスト? とやらになったと言っておったか。


 フレアとグリンピースが強くなったのは喜ばしい事じゃが……ワシは? ねぇ、ワシは?

 一体いつまで、フレアたちばかりを前線に立たせ、後ろでスコップを振り回すだけなのじゃ……?


 そんな悶々とした気持ちでおると、突然ペガサスの速度が落ち、止まった。


「む? どうしたグリンピースよ? まだ道の真ん中のようじゃが……?」


 周囲を見る限り、目的地の集落とやらについた様子は無いが……。

 もしやキュウリ服に包まれたグリンピースの背の向こう、ワシの低い視界では見えぬ前方に何かあるのか?

 どうやらそのようじゃな。ワシと違ってグリンピースの肩越しに前方が見えているらしいフレアも、呆然と固まっておる。「なにあれ……」と言いたげな表情じゃ。


 気になるのう。

 フレアの腕を解き、グリンピースの背をよじよじと登って前方を確認してみよう。


「んしょ、んしょ、っと……何じゃ、あの金ぴかの壁は……」


 遥か前方に見えたのは、陽光を受けてやかましく輝く黄金の壁。距離からしておそらく街ひとつは覆えるほどの規模じゃな。無駄に凝った装飾に、巨大な門まで……大国の王城を囲うそれじゃと言われても納得できるのう。いや、それにしたって目に喧しいが……。


「砦の道すがらにあるのは、いたって普通の集落だけ……と言う話ではなかったのか?」

「そのはずなんだぜ……あんなもん、俺は知らないんだぜ……」

「うん。ボクも、それなりにイケバナについては知っているつもりだけど……西にあんなのがあるなんて聞いたこと無いよ?」


 謎の黄金の壁……これは……。


「触らぬ邪神に何とやらじゃ。迂回した方が良さげじゃのう」

「それはトンデモないですねぇ! 少しで良いので立ち寄っていただきたいでございますです!!」

「む?」


 突如、聞き慣れぬ声が降って来た。

 妙に張りの良い男の声色、見上げてみると……。


「ち、小さいおじさん?」

「あれは……課金誘導妖精ゴールドさんだね」

「ええ、はい。いかにもでございますです!」


 フレアの言葉を肯定したのは、蝶に似た羽を使ってひらひらと宙を舞う小さなおじさん。

 イケメン工房のおじさんと同様、渋みのあるイケメンじゃな。黄金のタキシードがよく似合っておる。体躯の小ささと虫の羽を持つという特徴からして、まさしく妖精族の者か。フレアもグリンピースも身構える様子が無いし、エヌピーシーの類なのじゃろう。


「ふむふぅむ、ですねぇ」


 ゴールドさんは見事に蓄えた髭を指で撫でながら、ワシの目線の高さまでゆっくりと下降してきた。そして、ワシと、ワシがよじ登っておるグリンピースを交互に見て、何を思ったか小さく拍手を始める。


「ほほう。ダーゼット卿と契約しているのはこちらのミニマム・レディの方でしたか。プレイヤーレベルが一にも関わらず、イケバナでも屈指のつよイケメンである卿を従えておられるとは……業界で言う所の『おもしれー女』でございますですねぇ。感服いたしますです。これはこれは、是が非とも我が拠点へお招きしたいですねぇ!」

「拠点じゃと?」

「あなた様が邪神の何かに例えようとした、あの黄金の壁の内にある村でございますです」

「待て、だぜ。あそこにあるのは、おまえの村だって言うんだぜ?」


 グリンピースが訝しむようにゴールドさんを睨む。


「おまえが村を持っているだなんて、聞いた事が無いんだぜ。おまえはそもそも、世界中どこにでも神出鬼没、プレイヤーに課金を促すためだけに生きている妖精のはずだぜ」


 つまり、本来であればゴールドさんには拠点と言う概念など無いはずじゃ、と。


「ダーゼット卿も御存知でしょう? イケメンカイザーの出現により、この世界は一変いたしましたです」


 とほほのほい……と大袈裟に頭を抱えながら、ゴールドさんは続ける。


「私めの喜びとは、プレイヤーの皆さまに気持ち良く、じゃぶじゃぶと課金していただく事……しかし、イケメンカイザー出現により課金システムは停止してしまいましたですねぇ!! イケメンカイザーは課金システム含めこの世界の運営リソースの大半を掌握していますです」


 課金と言えば確か……現実の金銭を使い、ゲームを有利に進められる物資を購入できるシステムじゃったか。以前フレアに説明を受け、そして今はそれが使えなくなっている事も聞いたな。


「アイデンティティの危機を感じ取った私めが行動しないはずも無いのですねぇ!! 至急、私めが秘密裏にプールしていた世界の運営リソースをつぎ込んで、あの村を作ったのですねぇ! その名も!!」


 ゴールドさんがパァン! と両手を叩き合わすと、周囲にキラキラと黄金の鱗粉が舞った。鱗粉はやがて意思を持ったように動き出し、虚空に文字列を形成する。煌びやかな文字列で刻まれた、その名は――


「反イケメン・ゲリラの支援を目的とした超絶豪華絢爛・大型拠点――ゴールデン・ヴィレッジでございますですぅ!!」


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