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24,ネモフィラ畑に全裸のイケメン


「勝ったぁ~~~~……」


 にゃふぅ……と気の緩みが全面に出た息を吐き、フレアがその場に尻もちを突いた。


「すまなかったな、フレア……無茶をさせた」

「むぅ、アリスちゃん! それは違うんじゃないかな!?」


 ぬぅ……? 何じゃ、頬を膨らませて両手をバッテンにして。

 何が違うと……。


「まずは褒めて欲しいにゃあ!!」

「ああ、そう言う……うむ、よくぞ頑張ってくれた。ありがとう」


 フレアが差し出して来た赤い頭を「よしよし」と撫でる。

 ……すると、全裸のグリンピースがすぅ……と静かにそして流れるような所作でワシの傍らに跪き、緑色の頭を差し出してきた。


「あぁ、うむ。貴様もよく頑張ってくれた。ありがとう」


 二人の奮戦のおかげで勝利を得た。褒めよと言うのなら惜しまず褒めよう。

 じゃが……何故二人とも、こんな幼女姿のワシに頭を撫でさせるのじゃ……?

 なんじゃこの状況……ネモフィラ畑の中心でボロボロのお姉さんと全裸のイケメンの頭を撫ぜる幼女て。いやまぁワシ実はジジィなんじゃけども。


「「あぁ~~……癒されるぅ……」」


 何かハモった。

 ペガサスに乗って避難する時の意思疎通と言い、実はもう既にだいぶ仲良しじゃろ貴様ら。


「ひひんぬ」


 あ、ペガサスが戻って来た。

 どうやらグリンピースがフィールド展開をしておる間、適当に距離を取っておったようじゃな。


 こちらを見るペガサスの目は「その謎の儀式が終わったらニンジンを召喚してな」と言っておるようじゃった。うむ、貴様も頑張ってくれたからな。たくさん出すぞ。


「あ~~~……そう言えばアリスちゃんさぁ。さっきは緊急時だったから詳しくは訊かなかったけど、何かすごい筋力の塊を放出してたのよね?」

「あ~~~……そういや、キャパーナのどてっ腹を豪快に撃ち抜いてたんだぜ。ありゃあ一体、どういうタネだぜ?」

「む……アレか。アレは……」


 さて、どう話したものか。


 ワシって実は現実では魔王で~、今は封印されとるけど筋力ハイパー系なんじゃよね☆


 ……なんぞと、素直に話す訳にもいかんしなぁ。


 グリンピースはともかく。

 フレアはもしかしたら、魔族に対して負の感情を抱いておる……なんて可能性も有り得る。

 ワシの管轄にある魔族は人間に非道を働いてはおらんが、人間は野山の魔獣たちもひっくるめて魔族と認識しておるからのう。して、人間界隈の魔獣被害による死者はそう少なくないとも聞く。


 今ここで魔族の親玉じゃとバレるのは……デメリットは有り得ても、メリットは有り得ぬじゃろう。

 ここまできてフレアとは仲違いしたくない。しかして、嘘を吐くのも心苦しい。


 ……よし。

 ひとまず、誤魔化す方向でいこう。


「さぁな……ワシにもよくわからぬのじゃ。バグ、と言う奴ではないかのう?」


 嘘は言っておらんぞ。

 実際、何故あそこで筋力の二割が一瞬だけ戻ったのか、ワシにもよくわからぬ。そして、ワシは「イケメンを倒してもレベルが上がらない」と言うバグを抱えておる。もしかしたら何かがバグって、幼女化弱体の呪縛が緩んだのでは? と言う考察はそう的外れでもあるまい?


 そんな言い訳を頭の中で並べていたその時、


「よもや、キャパーナ殿の助力を得ても勝ち難いとは……」

「貴様は……」


 戦闘の途中でどこかへ飛んで行ったベジタロウ――って、何で貴様まで全裸になっとるんじゃ。武器である鍬も失くしておるようじゃし。

 呆れた目をしておると、フレアとグリンピースが勢いよく立ち上がり、二人してワシを庇うように前へ出た。


「どうしてイケメンって全裸でも前を隠さないのかにゃあ……」

「ベジタロウ……おまえも大河に落ちて文明破壊の餌食になったんだぜ?」

「敵味方の識別など無し……それもまたキャパーナ殿らしいでござろう」

「確かにな、だぜ」

「……どうでも良いけどさ。二人とも一旦、前を隠さにゃい?」


 ああ、うん。それワシも思った。


「さて……ここは潔く負けを認め、腹を切るべきなのでござろうが……」

「どうしてボクを無視するのかにゃあ!? 今のボク絶対に正論の塊だよに!?」


 騒ぐフレアを一瞥いちべつすらせず、ベジタロウは静かに腰を落として構えを取った。


「生憎様。裸一貫ゆえ、自刃する得物に持ち合わせが無いのでござる。介錯をばお頼み候」

「何が介錯だぜ……やる気マンマンじゃあねぇかだぜ」


 ベジタロウの目には、相変わらず冷静な敵意があった。

 キャパーナが戦闘不能になり、武器を失った上でも戦意喪失には至らぬか……東洋のサムライはウワサ通りらしいな。


「無論、イケメン同士の気遣いでござる。グリフ殿はお優しい。無抵抗な拙者の首を奪るのは抵抗がござろう? ……まぁ、万に一つ程度、天が味方する事を期待してはいるでござるがな」

「はっ、もっともらしい方便だぜ……本当、良い根性していやがるんだぜ」


 グリンピースは一笑だけ返し、追い払うように軽く手を振った。


「裸ですごまれたって気が抜けるだけなんだぜ。それにおまえの首なんて要らないんだぜ」

「……何?」

「ほれ、おとなしくキャパーナを連れて服を着に帰るんだな、だぜ」

「服が必要なのはグッピーも一緒だけどに?」


 グリンピースは「茶々を入れるなだぜ」とフレアの額を指で叩く。

 フレアは「あてっ」と短い声をあげて大袈裟に額を押さえた。

 その緊張感の無いやり取りを見て、ベジタロウが怪訝そうに片眉を上げる。


「頓狂な……拙者を見逃す、と?」

「何だよ、だぜ。そんなに俺にぶちのめされたいんだぜ?」

「否。そんな趣味はござらん……しかし、おかしいでござろう? そちらは、少しでも戦力の増強を図りたい状況のはず。それだのに、目前でまさに丸裸のイケメンを逃がす……?」

「それでもだぜ。それがマスターの方針だぜ」


 その言葉に、ベジタロウがワシの方を見た。

 ふむ、理解不能と言うか、驚きに目を丸めておると言った感じじゃな。冷静沈着なサムライですらそんな顔をしてしまう話、と言う事じゃろう。


 じゃがグリンピースの言う通り「それでも」じゃ。


「避けられる戦闘は極力避け、戦わざるを得ぬとしても……必要以上に相手を傷付けるような真似はせぬ。イケメンを倒して、下僕や武装に変えるなど……ワシは嫌じゃ」


 故に、勝敗が決し、相手から戦う力を奪えたのならばそれで充分。トドメまでは刺さぬ。


「嫌、ときたでござるか……感傷の如何いかんで戦略的効率を度外視するなぞ、驚天動地と言わざるを得ぬほどに甘っちょろい考えでござるな……まぁ、幼女相応でござろうが」

「……無理難題に挑んでおる自覚はある」


 そのせいで、グリンピースとフレアに苦労をかけておる事も承知じゃ。

 申し訳無いとは思う……それでも、そうしてやり遂げねば意味が無いのじゃ。

 文句のひとつも無く手を貸してくれる二人には、いくら感謝してもし足りぬ。


 あと、ワシはジジィじゃ。


「その顔……どうやら、正気かつ本気のようでござるな。なるほど。それ故にグリフ殿は攻略ほだされてしまったでござるか。得心はいったでござる……しかして、その甘さを必ずや悔いる事になるでござるよ」


 言いながら、ベジタロウはキャパーナの元へ。肩を貸す形で、キャパーナを担ぎあげる。


「潔さの欠片も無い、恥晒しめがと罵られようと……拙者は革命を諦めぬでござる。この世界の改変を修復なぞ、絶対にさせぬでござる」


 ……じゃろうな。

 イケメンカイザーの打倒、即ちこの世界(イケバナ)の改変の修復……それはイケメンたちに取って「一方的にプレイヤーたちに虐げられる日々」へ戻る事を意味する。


「ワシとて、この世界をただ元に戻すだけではダメじゃとわかっておる」

「……ほう?」

「グリンピースと約束した。プレイヤーを虐げずとも、イケメンたちの憎悪や憤怒を晴らす方法を考えると」


 改めて口にしてみても、無理難題じゃと思う。

 じゃが、それでも足掻かねばなるまい。


 ワシは、すべての悲劇を拒絶すると決めたのじゃから。


「今はまだ、何の手立ても思い浮かばぬ」


 それでも精一杯、考えてみて。

 ひとつだけ、とりあえず「やるべき事」は考えた。


「故にワシは、どうしてもイケメンカイザーの元へ辿り着きたい」


 ワシは、ゲームの世界を余りに知らなすぎる。

 この世界のシステムに縛られるイケメンを救う術など、微塵も想像すらできぬ。


 じゃが、


「イケメンカイザーは、この世界のシステムを歪めて、イケメンたちを定められた運命から解き放ったのじゃろう? であれば……カイザーは知っておるはずじゃ。この世界のシステムを『イケメンとプレイヤーのどちらにも害の無い設計に作り変える』手段を」


 グリンピースから得た情報によれば、プレイヤー狩りはイケメンカイザー発案ではあるものの、実行はイケメンたちの意志によって決定されたと言う。つまり、場合によっては実行されなかった可能性もある。


 未だ断片的な情報すら得られぬイケメンカイザーの【目的】じゃが……その成就に関して「プレイヤー狩りは必須事項ではない」と言う事じゃ。


 であれば……交渉の目はあるやも知れぬ。


「まずはそこからじゃと思う」


 プレイヤーを虐げる必要が無く。

 イケメンが虐げられる事も無い。


 まずはそんな状況を作らねば、グリンピースとの約束を果たすなぞ夢のまた夢じゃろう。

 新たな憎しみが生まれる循環を断たねば、過去の憎しみを清算する事などできるはずがない。


 この世界の異常を直し、ログアウトができるようにする。

 それは何も、完全に元のイケバナに戻す事と同義ではないはずじゃ。


「少なくとも、貴様らイケメンが物のように消費されるような世界の再来だけは、意地でも防いでみせるのじゃ」


 まだ、ゴールへ至る道筋は見えぬ。

 しかし、それがひとまずの中継地点であるはずじゃ。


「……理屈としては、わからないでもないでござる」


 ベジタロウは小さく頷いたが、目の色が納得には程遠い。


「しかし、その手段が実在し、そして実現する保証なぞどこにも無し。『現状ではいくら考えてもどうしようもないから、進む道の先に都合の良い展開がある事を願い、問題を保留している』と言う風にしか聞こえぬでござるな」

「……ああ、そうじゃな。まさしくその通りじゃ」


 ぐうの音も出んほどに、ごもっともな指摘じゃ。

 今ワシが話したのは「何の答えも無い状態で走り続けるよりは」と、ひとまずで出した結論でしかない。


 到底、妙案じゃと絶賛されるはずもないと、充分に理解して――


「なるほどだぜ! さすがマスターだぜ! ナイスアイデアだぜ!!」

「アリスちゃんすごい! アリすご! ナイスアイデアだよ!!」

「……………………」


 やめてくれベジタロウ。

 そんな怪しい新興宗教の教祖を見るような目でワシを見てくれるな。

 こやつらはちょっと幼女こどもに甘いだけなんじゃ。


「……まぁ、良いでござる。拙者のする事は変わらない。次こそは、その甘っちょろい考えも漠然とした目標も何もかもを諸共すべて耕して、イケメン理想郷しゃんぐりらの肥やしにしてみせよう……首を洗って、待っていろでござる」


 そう言い残し、全裸のベジタロウは去って行った。



   ◆



 ――翌朝。

 巨大キャベツの葉でこさえた即席テントにて休息を取り終え、ワシらは再度、砦を目指す事にした。


「はいはーい! 出発前にボクから提案があります! 砦の手前にある西の集落で新しい服を調達したいです!」

「うむ、ワシも賛成じゃ」


 フレアの服は胸元がはだけないように裂け目の端と端を結んでおるが、所詮は応急処置。派手に動いたら乳房がこぼれてしまいそうになっておる。年頃の小娘には気になるじゃろう。

 グリンピースには一応、ほどよいサイズのキュウリを召喚し、中身をスコップでせっせと繰り抜き五体を通す穴を空けて着せて――と言うか被せてみたが……こんな珍奇な姿で連れ回すのは気が引ける。


 道すがらで衣類を調達できるなら調達すべきじゃろう。


「ん~? 俺は別に必要無いと思うんだぜ?」


 何で貴様はその恰好で満足気なんじゃ……キュウリの妖精みたいになっておるぞ。


「これは、マスターの愛がこもった最高の一着なんだぜ!! ダーゼット家の一張羅にするんだぜ!!」

「……って、言ってるけど。その辺どーなの? アリスちゃん」

「そんなものをこめた覚えはない。良い大人ならばちゃんとした服を着ろ」

「マスター!?」


 さぁ、アホな事を言ってないで、気を取り直して行くぞ。


 目指すはイケメン奴隷王の砦――の手前にある集落じゃ。

「悪龍令嬢打倒編」読了ありがとうございました!

幕間を挟み、次次回より「ゴールデン・ヴィレッジ騒乱編」となります。



悪龍令嬢キャパーナを討ち破り、いよいよ奴隷王の砦の間近に迫ったアリスたち。

その前に現れたのは、超絶巨大な黄金の壁だった。

壁の向こうには課金誘導妖精ゴールドさんが築いた反イケメン・ゲリラ支援拠点――【ゴールデン・ヴィレッジ】が!!

ゴールドさんに誘われゴールデン・ヴィレッジの支援を受ける事になったアリスたちだったが……アリスはここで、予想外の人物と再会を果たす――!


キラキラした黄金の陰に渦巻く陰謀!

紹介される課金三獣士!

無力なふんわり毛玉と成り果ててしまったフレアとグリンピース!

唐突に現れる太陽と闇のイケメン!

召喚されし悪魔令嬢レディ・ダークネス

股間を締め上げる黒い鎖……!

そして炸裂するは魔王チョップ!!

色々起こり過ぎて忙しい!


乞うご期待!

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― 新着の感想 ―
[良い点] 熱い展開のはずなのに絵面が酷すぎるwww
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