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22,舞い踊る巨大キュウリ


 まずは勝ち筋があるか確認じゃな。


「グリンピースよ! ワシらの中で一番火力があるのは貴様じゃ。植物魔術さえ存分に使えれば、勝機はあるか?」

「五分五分にゃあ持ち込めると思っていたんだぜ……だが」


 だが?


「マスターが勝つ気満々過ぎて、負けるイメージが吹っ飛んじまったんだぜ!! 植物魔術さえ使えりゃあ必ず勝つんだぜ!! 約束するんだぜマスター!!」

「頼もしい限りじゃな!!」

「じゃあ、グッピーが植物魔術を使える戦況に持っていくのが勝ち筋だね!!」

「うむ!」


 であれば……。


「フレアよ……その傷付いた体に鞭打つような頼みじゃが、ワシを背負って飛べるか!?」

「もっちもっちだよ!!」


 まったく……その満身創痍で笑顔の即答ときたか!

 魔王に選ばれるという特大の不幸こそあったが、ワシの生涯はいつもいつも周囲に恵まれておるのう……!


「では、頼むのじゃ!」


 グリンピースの腕の内から、フレアの背へ。


「……ッ」


 フレアの背には……まるで、棍棒で撃たれたような痛々しい痕が無数にあった。


「ワシが気絶しておる間に、頑張ってくれたのじゃな……!」

「にひひ、すっごく頑張ったよ! あとで褒めてね!」


 今のワシの筋力では、治療もできぬ。

 それでも、手を添えて、無駄だとしても……労わらせて欲しい。


 ……そして、こんなにも傷付いた小娘の背に、ワシはこれから鞭を打つ。

 ままらないにもほどがある。口の中で、牙の欠ける音がした。


 ……それでもワシは、為さねばならぬ事がある。


「……グリンピースよ、キャパーナはワシを狙っておる! ワシとフレアが陽動をして、奴の意識を貴様から剥ぐ! 貴様は奴の意識が完全に逸れたと確信したタイミングで、罠の無さそうな場所を探して川底を目指せ!」

「陽動って……大丈夫なのかだぜ!?」

「ボクは全然イケるよにゃごふぅ!!」


 さすがに限界じゃったか、フレアが笑顔で血を吐いた。


「これは液体トマトだよ!!」

「無論フレアに無茶はさせぬ! 『考え』があるのじゃ!!」

「そうか、だぜ! マスターがそう言うんなら大丈夫でしかないんだぜ!!」

「ナチュラルに無視されたにゃあ!!」


 では、解散――と合図する前に、筋力でカラフルに加工された水弾が飛んできた。

 フレアは足鎧ヴァーンの爆炎を炸裂させ、グリンピースは手綱を引いてお互いに別方向へと飛ぶ。


「オーッホホホ!! 二手に分かれても無駄ですわァ!! わたくしはもう貴方から全力で目を離さない!! 貴方を全力でむしゃぶり尽くす!! 貴方を全力で堪能する!! 貴方と全力を全力でぶつけあって全力がこの夜空を満たすのですわァァァァ!!!!」


 ……あやつ、あんな壊れたテンションじゃったか?

 ワシが気絶しとる間に何が……まぁ良い。あれだけ猛り狂ってワシに釘付けになってくれるならば、それだけグリンピースもやり易かろう!!


「アリスちゃん、しっかり掴まっててね! どんな飛び方をして欲しいとかリクエストはあるかにゃ!?」

「無理はしない範囲で頼む! 既に無理はさせておるじゃろうがな!」


 すまぬが、少しばかり耐えてくれ!

 抗議は後ですべて受け付ける!


「無理にゃんかしてにゃごふふッこれはトマトォォォ!!」


 血を吐きながらもフレアはぴょんぴょんと軽快に跳び回ってキャパーナの攻撃を躱す。


 マジですまぬ……じゃが安心せい!

 ワシの読み通りなら、【これ】でキャパーナの攻撃の手を緩められる!


 振りかざすは、ワシが唯一持つ武器。

 緑色の子供用スコップ型イケメン武装、ヴィジター・ファムート!

 昼にイケメン工房にてランクアップしてもらったこのスコップには――新たな能力が三つ追加されたのじゃ!!


 まずそのひとつが、何やら工房のおじさんがすっごい驚いていた――


「ヴィジター・ファムート、【遠隔起動】!!」

「え!?」


 フレアもびっくり、と言った様子。

 合成前におじさんも言っておったが、天文学的確率でしか発現しない超希少な能力らしいな。

 ふっ、ワシの日頃の行いも、たまには報われると言う事じゃろう!!


 話によれば、この遠隔起動と言う能力を使うと、地面から離れていても植物魔術を発動できるらしい。


 加えて――


「【品種合成】!!」


 その名の通り、いくつかの野菜の品種を合成し、合成元の野菜それぞれの形質を受け継いだ新たな野菜を生み出す能力!! 現ランクじゃと最大で三種まで混ぜられるそうじゃ。


 最後の仕上げに――


「【超促成栽培】!!」


 これまた名の通り、指定した野菜をものすごい速度で成長させ、成熟させる能力!


「とくと御覧じろ……【水龍神・カッハークの末裔】よ!!」


 発動地点は、キャパーナの足元にある川底!

 生やす品種は、「記録では三階建ての家屋すらも越える事があった」とされる世界最大級の南瓜カボチャ、『アトランテ・ジャイアント』と――シンプルに胡瓜キュウリを品種合成した新種!!

 超促成栽培により――さぁ、刹那に芽吹け!!


 あえて名を付けるならば【アトラス・キュウリ】!!


 キャパーナの足元の水面が連続して弾け飛び、無数の巨大キュウリが浮上する!!


「えぇ!? アリスちゃん、あれキュウリ!? 中身を繰り抜いて家にできそうなのがいっぱい出てきたよ!?」


 うむ……ワシも想像していたよりかなりデカいが……。

 奴には相応のサイズじゃろう!


「フレアよ、【水龍神・カッハークの末裔】……それはキャパーナだけの異称ではないと知っておるか?」

「そうなの?」

「うむ。そう呼ばれる動物が、オリエント大陸におるのじゃ。その動物の名は【カッパ】……オリエント大陸固有種、淡水の水棲生物じゃ」


 最初にカッハークと聞いた時、どこかで聞いた覚えがあると引っかかっておったのじゃ。

 そう……カッハークと言えばカッパの先祖としても信仰されておる神!


 由来は諸説あるらしい。

 ワシが知っておるのは「カッパはかなり知性が高く、個体によっては魔術をも扱う事ができるため、ただの獣ではない=神に寵愛されている=神の血が混ざっている=川の動物なので大河の神カッハークが当てこまれて信仰が形成された」と言うもの。

 オリエント大陸の一部地域には、カッパを水の神として丁重に扱う風習もあると言う。


「そしてカッパは、尋常ならざるほどにキュウリに執着するそうじゃ!」


 であれば、カッパと同じ属性を付与されておるキャパーナもおそらく……!


「なッ……何て全力サイズのキュウリですのォ!? 素敵過ぎるゥ!!」


 キャパーナの視線がワシとフレアから外れ、足元のアトラス・キュウリへと向いた!!


「よし、かかった! 見さらせ、ただ生やすだけで終わりではないぞ!」


 ヴィジター・ファムートは召喚した野菜を操れる……!


「躍れ!」


 指揮棒に見立ててヴィジター・ファムートを振るう。

 ワシの思考を読み取り、アトラス・キュウリたちが動き出した。

 キャパーナを取り囲んで円を描くように、川の水面を切り裂きながら駆けていく!


「なァァァんて活きの良いキュウリ……!? 全力!? そう全力なのですわね!? このキュウリたちも全力でいらっしゃるのですわねぇぇぇぇぇぇ!?」


 巨大なキュウリの群れが円を描いて水上を駆け回り、その円の中心で雄々しいほどに巨大な蛇龍が恍惚とした表情で嬌声にも似た雄叫びと共に悶絶する――ワシがやっておいてなんじゃが……この光景は……。


「邪神を召喚する儀式みたいになってるね」

「それな」


 夢に見そうじゃ。無論、悪夢として。


「おほ、オホホ……ゥオホォ……かの神話に語られる『龍宮城で繰り広げられたタイやヒラメの舞い踊り』……そんなもの何が楽しいものかと鼻で笑った事もありますがァァ……あああああ!! 自身の好物が全力で乱舞する姿がここまで昂るものとはァァァアアアアア!!」


 ゴキゲンそうで何よりじゃな。

 して、グリンピースも準備が整ったらしい。


「――フィールド展開」


 キャパーナを挟んでワシらとは反対側で、大河の水面が大きく弾けた。

 無数の樹木が、水面を裂き広げて侵食していく。


「ッッッッッ!!!?!?!?」


 眼を剥くキャパーナ。


 一方、樹木が噴き出す中心点に立つグリンフィースは不敵に笑って――……何であやつ、全裸になっとるんじゃ? まるで大河の水にまとめて衣類を剥ぎ取られてしまったかのように、グリンピースの濡れた肢体は一糸まとわぬ状態を晒しておった。


「活殺自在無限樹海――【デッドハンズ・フォレスト】」


 いや何かどや顔でカッコつけとるけど、丸出しなんじゃが。


「にゃー!? グッピー前隠して! 文明破壊攻撃で服が全部もっていかれてるーッ!!」

「イケメンの裸に!! 隠す部分なんて無いんだぜ!!」


 いやメンならあるじゃろ。股座の玉と棒が。

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― 新着の感想 ―
[良い点] やっぱカッパ!(笑)
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