19,水害龍神VS爆裂女神
「強烈蹴撃――【爆墜斧】!!」
超爆速大回転踵落とし、からの天まで炎柱が到達するほどの超火力爆撃!!
星明かりの夜空が朱色に染まる!!
かつてグリンフィースに放った一撃よりも威力が上がっている。
何故かと言えば、グリンフィース撃破によりフレアのレベルが猛烈上昇、合わせて踵落としの威力に関わる筋力値も向上しているためだ!!
だが――
「オォーッホッホッホッホ!!」
ゴキゲンな蛇龍の笑い声、その衝撃だけで爆炎の柱が四散!!
「ッ……これでもダメかにゃ……!」
フレアは眉を顰めながら、爆撃に乗ってキャパーナから距離を取る。
キャパーナの鱗には焦げひとつ無い!!
なお、ベジタロウはさすがにちょっとダメージを受けている!!
「グリフ殿を攻略して多少はやるようになったでござるか……!」
「あら、限界でしたら、そこらで浮きながら観戦していてもよろしくてよ!!」
「なんのこれしき。魔術による支援はできずとも、イケメン武士の矜持にかけて――僅かな露払い程度はこなしてみせるでござる」
「あなたも全力ですわね!! 良いですわ良いですわ最高に上昇気分ですわァァ!! この戦場は全力で満ちている!! もっともっともっともっともっとォォォ!! 世界が壊れてしまうくらい全力をぶつけ合うべきですわァァァァ!!」
キャパーナが蛇龍の巨体を大きくうねらせる。
その動きに合わせて、大河の水が大きく逆巻き始めた!!
「術式筋力加工ィィ……【天裂苛矛】ッ!!」
天をも裂くような、巨大な水槍。
文明――人工物、即ちあらゆる防具を問答無用で粉砕する水を、圧倒的筋力で加工した破壊の権化たるひと振り!!
「んにゃッ!? ちょ、大き過ぎない!?」
「全力ですものォォォォオオオオオオオオオ!!」
キャパーナが尾を振るい、それを合図に巨大水槍を射出する!!
「ヴァーン!! 頑張ってぇぇぇぇ!!」
承の知!! と応えるように、足鎧の足裏から爆炎がジェット噴射!!
ギリのギリだが、フレアは巨の大な水の槍の回の避に成の功した――が、
「時間差起動――【雨炸禍矛】」
天へと昇っていた巨大水槍が、爆ぜた。
「なッ……!?」
巨大水槍は勢いを失った無数の水滴となり、重力に手繰られて降り注ぐ――水槍の豪雨と化した!!
一発一発のサイズはせいぜい掌大。
威力は大したものではないだろう――だが!
そのすべてが「文明=人工物を問答無用で粉砕する水滴」である!!
足鎧に一滴でも当たってしまったら――
「にゃわああああああ!? えげつな過ぎないこれ!?」
「全力ですものォォォオォオオオオオオオーホッホッホッホォオオオオオ!!」
「んにぃ……! だったらボクたちだって全力だぁぁぁ!!」
フレアは歯を食いしばり、足に筋力を集中!!
「強烈蹴撃、【爆天幕】!!」
フレアが全力全霊、大振りの蹴りを放つ!!
紅蓮の超高密度エネルギーが噴出され、横三日月の残像を刻む。
そしてその紅蓮の三日月から、猛烈な爆炎が噴き出して天を覆う!!
「まだまだァァァ!! んにゃんにゃんにゃんにゃんにぃぃぃぃぃいいああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」
爆炎の天幕を、重ねる!
まだ重ねる!!
まだまだ重ねる!!!
もっともっと重ねる!!!!
魔術によって生み出されていたとしても、システム上で爆炎は炎として判定される!
つまり扱いとしては自然物であり、文明破壊の特殊効果の対象外!!
火力さえ足りれば防げる!!
だが、炎属性の魔術は水属性に不利!!
小さな雨粒と言えど、すべてを蒸散させる事はできなかった!!
「ッ……!!」
躱しきれない、そう判断したフレアは背を丸めた。
降り注ぐ雨粒に対して、自身の体の陰に足鎧を隠した!!
「がッッ……!?」
フレアの背中を撃つ、激しい衝撃。
とてもじゃないが、雨粒程度の水滴が当たっただけとは思えない。
まるで、一滴一滴が棍棒で打つような威力!!
無数に分散されたとは言え、キャパーナが一撃に込めている筋力はそれほどに猛烈と言う事だ!!
加えてダメージと同時に、フレアの服の背布やストールの一部が弾け飛ぶ!!
文明破壊!!
「ぎ、ぅ……痛ッたいし、エッチだにゃぁもう!!」
はだけそうになった胸元を押さえつつ軽口を叩くフレアだが、その表情は苦悶に歪む。口の端からは一筋の血も垂れていた……! しかして、瞳には未だ褪せぬ闘志……!!
それがキャパーナをゾクゾクさせた!!
「おほっ、オホホ、オーッホッホッホッホハハハハハハァァァ!! たまりませんわたまりませんわたまりませんわァァァ!! 全力ですのね全力ですもの全力ですわ全力の全力が全力でオホホホホホホ!!!!」
キャパーナ、竜巻でも起こさんばかりの勢いでぐるぐると旋回!!
「ぬお!? ちょ、キャパーナ殿ぉ……!?」
ベジタロウは振り落とされぬよう、キャパーナの鱗に全力でしがみつく!!
その些細な全力の気配もまた、キャパーナを興奮させた!!
「……げッ……」
さすがのフレアも、にゃあと鳴く元気が失せる。
キャパーナの周囲に先ほどの巨大水槍が、軽く数えただけでも一〇本以上構築されたのだ。
「この数をこさえるのはァァ……わたくしでも、キッツゥゥいンンン……でもでもでもでも全力の全力が全力で全力の向こう側へ到達するために全力を尽くすならば!! これくらいの全力は当然の全力ですわよねェェェェェ!!!!!」
「あ、あははは……ほんとに、えげつな過ぎにゃい……?」
「全力を越えた全力、ですものぉ……☆」
先の発言通り、この数の巨大水槍を形成・維持するのはかなりキツいのだろう。
キャパーナの全身、鱗が嫌な軋みを上げ、半開きの口からは唾液が垂れ落ちる。
しかし、キャパーナの目はまるで、至上の快楽に打ち振るえる乙女のようにとろんと蕩けていた。
「そ・れ・にぃ……貴方の真の全力を引き出すにわァ……! わたくしも全力を越えた全力を出すべきだと当然の判断したまでですわァァ!!」
「……ッ……!?」
「あらぁ……まさか、このわたくしを欺けるとでも思っていますの?」
驚愕に目を見開いたフレアを見て、キャパーナの口角が更に裂けていく。
「貴方は確かに『現状、出せる限りの全力を尽くしている』……わたくしにはわかりますわァ……そして『現状では絶対に出せない系の全力』を隠している事もわかるのですわァァァ!! わたくしの!! 全力センサーに!! ビンビンビビンとキていますのォォォ!!」
「全力センサーって何……!?」
「全力のセンサーですわァ!!」
キャパーナが叫びと共に吐き散らした唾液すら、大河に落ちて無数の巨大水槍に取り込まれていく。
「うぅ……そんな訳のわからないものに看破されるとか……オッディの呪縛もアテにならないにゃ……! いや、あっちのセンサーがイカれてるだけかもだけどさ……!」
フレアの頬を汗が伝う。理由はどうあれ、キャパーナは勘付いている!!
フレアが隠している【ある力】の存在に!!
「もちろん、わかっています、わかっていますわァ!! 貴方の意思でその力を自由に使えるならばきっともっと早い段階で使用している! だって貴方からは基本的に出し惜しみをしないタイプの――つまり何事も全力で臨む素敵存在の匂いがしますもの!!」
「そ、そんな事まで……!」
「つまり貴方の全力とは、何者かによって縛られた力ァ……ならば、貴方の生存本能に全力を出させるまで!! まずはその何者かの縛りを打ち砕くほどの全力を、貴方から引き出すゥ!!」
「滅茶苦茶を言ってくれるにゃあ……!」
「ただの全力ですわァ!!」
キャパーナの全力への執着は、明らかに常軌を逸している。
例え奇跡的にあの無数の巨大水槍をしのげても……フレアがキャパーナの言う「真の全力」を見せるまで、きっと今以上の全力を越えた全力をぶつけてくるだろう……!
「ヴァーン! ちょっと焦げ付いちゃうかもだけど……出力アップ!!」
合の点!! と応えて、足鎧からかつてないほどに濃い紅色の爆炎が噴き出す!!
フレア自身の身すらジリジリと焦がしてしまう、安全稼働領域を完全に逸脱した限界超過出力!!
決して長くはもたない……長期戦を捨て、短期決戦を狙う構え!!
「おほォ……良いですわねぇ。全力が、すごくびんびんにッ……これよりももっと全力があるだなんて……貴方はまるで二重底の宝箱ですわぁ……」
ウットリするようにつぶやいて、キャパーナは尾を振りかぶる。
「さぁ、待っていてくださいまし!! 全力の全力を全力で越えた全力の全力を全力でぶつけて!! 貴方の真の全力を全力で引き出してさしあげますわァァァ!!」
◆
「ッ、ヤバいんだぜ……!!」
キャパーナがフレアに集中してくれているおかげで、グリンフィースには少しだけ余裕ができていた。
しかし、自動操縦らしいカラフル水弾が行く手を阻み、戦線離脱はできない。
そもそも、できたとしても離脱するつもりはない。
「あんなタマ蹴りゲリラでも、見捨てて逃げるなんざできる訳がないんだぜ……!!」
イケメンの矜持が、グリンフィースの脳を回させる!
この状況をどうにかして打破する方法は無いか、と!!
「今の内に川に飛び込んで底を目指すか……だぜ!? いや、ダメだぜ……そんな事を想定していない龍血ラリ女じゃあないんだぜ!!」
戦闘に関して、キャパーナの抜け目の無さは侮れない!
おそらく川に入ろうとすれば、カラフル水弾がそこを狙い撃ちにする自動稼働術式を設定しているか、水面に罠を張っている……!
「くっ……もう樹海フィールド展開用のパワー溜めは終わっているのに……歯がゆいなんて次元じゃあないんだぜ……!!」
考える、考える、考える――だが、どれも無理だ。
非情な結論ばかりが積み重なっていく。
「まだだぜ……圧倒的窮地でもマスターは最後まで足掻いたんだぜ!! だから俺はマスターに負けたんだぜ!! マスターの下僕になった俺が……決して足掻く事をやめない強さを思い知っている俺がッ、ここで投げ出して良い道理なんて無いんだぜ……!!」
グリンフィースは小脇に抱えた幼女を見る。
この小さな幼女は、絶望の中でも考え、足掻き続け、そして奇跡の大逆転勝利を掴んでみせた。
この幼女に仕える者として、思考を止める訳にはいかない。
……だが、じわじわと。
グリンフィースの中で万策が尽きようとしていた。
「クソ……クソクソクソだぜ!! 俺は一体、どうすれば良いんだぜ!? こんな時……どうすれば……教えてくれだぜ、マスター……!!」
叫んですぐに、グリンフィースは首を横に振った!
いくら頼りになるからって、意識の無い幼女にすがるなど……!
「こうなりゃあイチかバチかだぜ……!!」
幼女の体を手綱にくくり付けて、川に飛び込もう。
そう決意してグリンフィースが幼女に手綱を近づけた、その時。
「……? だぜ……?」
幼女の小さな体から、何かが滲み出してくるのを感じた。
それは――
「こいつは……筋圧だぜ……!?」