48,星纏受肉。甦れ、千年筋肉!!
ま、まずい事になったのじゃ……!
父上と母上はノックアウト……ワシもデスメローアの拘束により動けぬ!
いや、動けた所で感はあるのじゃが……!
「デススス……想定外のアクシデントは起きたデスが……まだ間に合うデス。まだオーデンたちはラグナロク学園で――まぁ、あちらはあちらでワタシが想定していたのとは違う事態のようデスが、とにかく足止めを喰らっているのならヨシ! なのデス!」
デスメローアは時おり自身の頭にできたタンコブを摩りながら、レーヴァティンの封印解除を進めておる……!
奴がレーヴァティンに張り付けた術式陣により、ティアママも何もできない様子……!
このままでは――
「ヴ……オオオオオオオオオオオオオオオ!!」
――!
雄々しい咆哮と共に、蒼い炎が辺りの瓦礫や土砂を氷結させ、砕き散らす!!
今の咆哮、この絶対零度の蒼炎――竜王・ファナンか!
ファナンだけではない、キラキラと舞い踊るダイアモンド・ダストの中、皆が次々に起き上がっていく。
四天王、クリアス、勇者、ククミスルーズ、アキレイナにパーレスも!
「貴様ら! 無事……では無さそうじゃが、もう立って大丈夫なのか!?」
「「「「魔王様が望むならば!!」」」」
「勇者が魔王より先に倒れる訳、無いでしょうが!!」
「応よォ! 油断して意識を持ってかれたがァ、もォ平気だァ!!」
「レイナが平気なら僕だってイケるさ」
「ホーウ! クゥはぶっちゃけビックリして気絶していただけでダメージは喰らってないので!!」
頼もしい返事を返す皆に続き、クリアスもこくりと頷いてみせた。
米王・エイリズがパンパンと手を叩くと、炊き立て御米の香りが真空刃となり、ワシを拘束しておったダーエワ・パワーを切断。
「アッちゃんさまは、どうか我らにエールと言う力をばくださいませぇ」
「うむ!」
先ほどから他力本願ばかりで申し訳無いが、これも幼女の戦い方。
ワシの声援が少しでも皆のパワーになると言うのなら、ワシはただひたすら応援の言葉を――っておい待て。またデスメローアがワシの姿に――
「みんな、だいっきらいなのじゃ!!」
「「「「「「「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!!?!?!????」」」」」」」
四天王とクリアスと勇者とククミスルーズがぶっ飛んだァーーーー!?
そしてわざとなのかと疑いたくなるように父上母上らと並んで皆綺麗に頭から壁に刺さったァーーーー!?
「……やっといてナンなのデスが、アリスチャン関係者には引くほど効きますデスねこれ」
「いや本当にな!? 何じゃそれ!? ワシ周囲からどんだけ慕われとるのじゃろう!?」
ありがたいはずなんじゃが、ここまで来ると何か恐いのじゃが!?
「がはっ……確かによォ、マブダチに面と向かって大嫌いだって言われンのは堪えるが……!」
「まだ付き合いが浅いからかな……僕たちはギリギリ戦えるさ!」
アキレイナ! パーレス!
「ああ、アナタたちは半神とは言え神なので、対策余裕デス」
「あァ!? 何だこの赤黒い根っこみてェなのはってグアアアアアアアアアア!?!?!??」
「ちょ、僕のレイナに何をグアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!?!?!???」
アキレイナ!? パーレス!?
ダメじゃ、ニ柱とも何か赤黒い根っこに絡め取られて頭から壁に叩き付けられそのまま刺さってしまった!!
「のじゃ!?」
そしてワシもまたダーエワ・パワーに捕まった!
これフリダシに戻ったなぁ!?
いやむしろ皆の復帰が絶望的な分、悪化したか!?
「無駄無駄無駄……無駄なのデス。そろそろ作業に集中させてもらうデスよ」
まずい……本格的にまずい!
もうタンコブにも構わず、デスメローアがレーヴァティンの封印解除に集中し始めてしまった!
くぅ……この期に及んで、ワシには打つ手が無い……!
どれだけ状況が動き、時間が経てども、幼女のこの身では誰かの力をアテにするしか……!
じゃが、これ以上に誰の助力が望める……!?
もう何かもう皆アホみたいなやられ方で壁に突っ込んでしまったのじゃぞ!?
いや何かワシが原因みたいなモンじゃからアホと言うのもアレなんじゃけどもさぁ!!
「そうじゃ……デスメローア! ワシは貴様に訊きたい事があったのじゃ!」
「…………………………」
くっ……ダメじゃ!
あやつ、耳に赤黒い何かを詰めて完全にワシの声を遮っておる!
意地でもこれ以上ワシと関わらぬと言う意志表示か!
どんだけワシの両親を恐れておるのじゃこやつ……いや、まぁ、妥当かアレ。
しかしこれもう詰んでおらぬかなぁ!?
何かワシあれじゃね、よく詰むね!?
イケバナの時も何じゃかよく「もうどうしようも無くない!?」ってなっておったしね!
つまりアレじゃ! 今までにワシは何度も「詰んだーー!!」って状況を切り抜けてきた訳じゃ!!
今回もどうにかなるはず!
どうにかなれ!!
どうにかしたい!!
「……ア、リス……」
「!」
足元から聞こえた掠れ声――
「ラフムラハム!」
デスメローアに騙されていた事を知って呆然自失となり、その後デスメローアのフィールドに巻き込まれて意識を失っておったボンバーヘッドの泥神、ラフムラハム! 意識が戻ったのか!
じゃが、明らかに満身創痍……ワシの元へ這いずって来ただけでもかなり苦しそうじゃ……!
「貴様、あまり無茶をするな……!」
「……アリス……おれが、何の神か……覚えているか……?」
「こんな時に何を……? た、確か泥の神、じゃよな?」
「正確には……【海底の泥】……だ……」
そ、そうか……いや、それが何じゃと?
そんな息も絶え絶えになって伝えに来る事じゃし、何か意図があるのじゃろうが……サッパリわからぬ。
「……今、ホンモノ母さんはレーヴァティンと言う口を塞がれている状態だけど……ホンモノ母さんの意思自体はまだここに在る……なんとなく分かるんだ……親子の絆、なのかな……まんまとニセモノ母さんに騙されたおれがそんなモノを語って良いのか分からないけど……それでも確かに感じるんだ、ホンモノ母さんの意思的なパワーがここに在るのを……! そして、その意思的なパワーがおれに可能性を示してくれた……!」
力無く震える手で、ラフムラハムがワシの小さなお手々を掴んだ。
まさに瀕死か……その手にはまったく湿り気が無い。完全に渇き切っておった。
「知っているかアリス……ホンモノ母さんが星になった時――その肉は土になって大地を、その血は海水になって海を創ったんだ……そしておれは【海底の泥】……つまり、海水と土が、おれの神性だ。この星の海水と土は――」
ティアーマットの血と肉……!
「つまり――筋肉か!」
「そして気付いているか……! キミには筋肉神プロテイオンの加護がある……!」
……ああ、イケバナ騒動の後にフレアが言っておったな。
加護と言うか呪いの類じゃとワシ的には思うが。
「筋肉を司る神の庇護下に在るキミが、おれの、母神の筋肉を示す神パワーを譲り受ける事で、あるいは!!」
喋っておるだけでも苦しいじゃろうに、ラフムラハムはカサカサに渇いた両手でワシのお手々を握ると、額を摺り寄せ――振り絞るような声で叫んだ。
「都合の良い話だってのは分かってる……全部、愚かなおれが招いた事態、悪い意味での自業自得だ。分かってる……でも、お願いだ……おれの母さんを――護ってくれ!!」
そんな事、言われるまでも無い。
「当たり前じゃ!」
瞬間、ラフムラハムの手を伝って、ワシの中に熱い何かが流れ込み――偽・母神胎宮が、大きく揺れた。
胎宮地下の泥たちが、ラフムラハムの意志に呼応して唸りを上げておるのじゃ。
そしてそこに在るパワーが、ワシへと注がれる。
『アリスちゃん……ごめんね。貴方に任せるような形になってしまって』
注がれるパワーと共に、ティアママの声が筋肉細胞を伝ってワシの脳へと直で語り掛けてきた。
――問題無い。ワシとて、誰かを応援するだけの己にもうウンザリしておった所じゃ。
「――っ、デス!?」
ワシへ無関心を貫こうとしておったデスメローアも、さすがに無視ができなくなったらしい。耳の詰め物を抜き取り、大きく見開いた眼でワシを見る。
「……ふむ。容姿は、変わらぬか」
奇妙な感覚、じゃな。
しかしまぁ、似たような状態はかつてイケメン・ニルヴァーナで体感した。
どこもかしこもぷにぷにとした幼女ボディに――確かな筋力が巡る!
感じるぞ、大地が如く屈強なパワー。
感じるぞ、海原が如く壮大なパワー。
そして、どこからか鼻腔を満たす潮の香り……これが、ティアママ由来の筋力!!
「のじゃい!」
ワシを縛りつけておったダーエワ・パワーを筋力波で吹き飛ばし、確かめるべく拳を握りしめる。
ああ、懐かしいぞ……全身を駆け巡る筋力の熱!
固めた拳の指先まで疾走し、肉体を奮わせるエネルギーのパワー!!
「この筋肉、確かに受け取ったのじゃ」
さぁ、デスメローアよ……貴様の企み、ここで止めさせてもらうぞ!!
○●天界豆知識●○
◆星纏筋肉グレイト☆アリスちゃん◆
母神が星へと変生した時、その肉は土として大地に、その血は水として海になった。
であれば、【海底の泥】とは何か――そう、筋肉!!
と言う訳で海底の泥神の権能を媒介し、創星母神の筋力を受信できるようになったアリスがこちらになります。
本来であれば受信する筋力に合わせてその肉体の筋肉も発達するのだが、かつてフーレイアが筋肉神プロテイオンに根回ししてアリスに授けた呪……加護により、アリスの肉体は筋肉の発達を拒絶。
こうして幼女のまま母神の筋力を操るグレイト☆アリスちゃんが誕生した!!