47,愛娘(?)の「だいきらい」は普通に核弾頭。
――偽・母神胎宮、最奥。
デスメローアと対峙するのは、アリスの父・アズドヴァレオスとアリスの母・フライアス!!
「一体ナニモノかと思えば……アリスチャンの発言から察するに、アリスチャンのパパとママ、デスか……! 今のは痛かったデス……痛かったデスよ!! 一〇八魔識【身体復元識】!」
デスメローアの吹き飛ばされた尻尾先端と殴りつけられた頬に、黒いもや――ダーエワ・パワーが集中。一瞬にして、ダメージを受ける前の状態へと復元する!
「再生能力か。ちょうど良いねハニー」
「ええ、そう簡単に死なないのは助かるわねダーリン。だって――」
「「加減が要らない」」
「ちょ、父上、母上――」
多少の加減はしてあげた方が良いのでは――とアリスが言う暇も無く。
フライアスが両手に魔術陣を展開、アズドヴァレオスは脚に筋力を集中して瞬間移動。
「どうやら御使いよりは強力な存在らしいデスが……神じゃないなら神に勝てる道理なんて無いと知ぎゃっ!?」
吠え、尻尾攻撃を放とうとしたデスメローアだったが――フライアスの魔術が発動。
突如デスメローアの周囲に現れた六枚の光板が、デスメローアの喉・両手首・両足首・尻尾の先端に突き刺さる。拘束用の魔術で物理ダメージは無いらしいが、完全に動きを封じている!!
「にゃしゃ!? ちょ、動けないデス!? まじデスかこれメッチャ強力なんデスが!? ヘタな主神が使うのより強くないデスかこれ!?」
「さっき、言っただろう」
デスメローアの眼前に瞬間移動したアズドヴァレオスが、禍々しい筋力粒子発光を纏った右拳を振りかぶる。瞳孔が完全に開き切った、完全殲滅モードの顔である。
「主神級の神よりも、子供を護ろうとする親の方が数百倍は強い!!」
空間に亀裂が走るほどに強烈な保護者パンチが、デスメローアの鼻ッ柱に直撃!!
「げ、ぴゃ……がっ、こんの――【火焔焼壊識】!!」
鼻血を噴きながら仰け反るも、デスメローアはその程度で臆したりはしない!
果敢にアズドヴァレオスを睨み付け、大きく開いた口から赤黒い炎を吐き出した!!
「ふんっ!」
アズドヴァレオスはそれを当然のように殴って掻き消す。
「ええぇ!? 嘘デスよねそんな――ぺぎゃんぬ!?」
驚愕するデスメローアの額に、アズドヴァレオスが肘鉄を振り落とす。
余りに強烈な一撃に、デスメローアを拘束していた光板が砕け散り、その巨体はまさしく隕石の如く超速で落下!! 背中を打ちつける形で巨大なクレーターを刻む!!
「ぎゃ……ぴゃ……」
白眼を剥いて血反吐を零すデスメローア。そんな彼女に向けて、フライアスは容赦無く次の魔術を発動。今度は光の鎖で拘束する! そして拘束されたデスメローアへ、アズドヴァレオスの筋肉技が牙を剥く――もはやこれは、ハメコンボっ!!
フライアスが拘束し、アズドヴァレオスが砕く!!
この夫妻の必殺ルーティーンである!!
忘れてはならない……この夫妻はただの魔人だった頃から、息子を護るために二人だけで数々の勇者に挑み続け、十数年もの間――誰一人として魔王城に到達させなかった実績があるのだ!!
「もげらぁ!?」
ほんの数分前までは押せ押せムードだったはずだのに。
巨大タスマニャンデビルことデスメローアはマヌケな悲鳴を上げてずしゃあああと地面を転がる。
その頭はタンコブだらけで涙目である!!
「ぉご、おごごご……お、おのれなのデス……悪夢、これは悪夢……! ワタシがこんなにも一方的にぎったんぎったんにされてしまうなんて……」
まだ声を出す余力があるのか、と世紀末覇者めいたオーラを放つ夫婦が並んで拳を鳴らしながら迫ってくる!
まぁ、最愛の我が子を傷付けられ完全にキレてはいるが元が元、超絶温厚夫婦。
毛頭、デスメローアの命まで奪う気は無い。
それはデスメローアもなんとなく感じ取っていた。
このままでは確実に、命以外のすべてを持っていかれる――と。
悪夢にもほどがある……どうしてこんな事に――
「悪夢……? デスス! そうデス、悪夢! アリスチャンの親だと言うのなら、アリスチャンが大好きなはずデス!」
「「当然!!」」
「では喰らえデス! 一〇八魔識【虚実混濁識】!!」
瞬間、夫婦は少しだけ目を見開いた。
瞬きすらしていないのに、いつの間にかデスメローアの巨体が消え――そこに立っていたのは、アリス。完全にアリスだ。見た目は当然、匂いも、心拍音の特徴も、僅かな魔力や筋力の性質も……何もかもがアリスでしかないアリスが、デスメローアと入れ替わるように出現した!
「幻術の類ね」
「かなり精巧だが、くだらない」
子供の姿をしていれば攻撃されないと踏んだか。
ああ、実際その通り。だったらさっさと幻術を解除するか、それが無理なら幻術を上塗りしてしまえば良いだけの事。と言う訳でフライアスが右手で解除術式、左手で上書きの幻覚術式を並行展開――
だが、偽物アリスの方が一手、早かった。大きく息を吸って――
「父上も母上も、だいっっきらいなのじゃ!!」
「「グアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!!?!?!????」」
「え?! ちょ、父上と母上がぶっ飛んだーーーーー!?」
余りの出来事に、本物アリスも思わず驚愕の絶叫!!
――幻だと、偽物だと、わかっている。理解している。
それでも………………きっついモンってあるんよ。
血の涙を撒き散らしながら錐もみ回転で吹っ飛び、夫妻は仲良く頭から壁に突き刺さった!!
本物アリスはもう開いた口が塞がらない。
「で、デススス……まさかここまで上手くいくとは思わなかったデス……! って言うかぶっちゃけ効力が予想以上すぎて、ワタシちょっと引いたデス」
権能を解除し、偽物アリスがデスメローアの姿へと戻る。
「お、おのれデスメローア! よくも父上母上を――のじゃ!?」
不意に、アリスへと黒いロープが飛来し、その小さな体を拘束!
黒いモヤことダーエワ・パワーの切れ端を固めたロープだ!
即ちデスメローアによる拘束術!
「ぐぬっ……!」
「おとなしくしていて欲しいデス。ワタシもうアリスチャンとは関わりたくないデス……いやまじで。これ以上に手を出そうものなら、そこのヤベェ二人がすぐに復活しそうな予感がするデス。まじでヤだ。もうその二人を相手したくないデス!!」
「声のトーンがマジじゃな……!」
「あんだけボコンボコンにされたらそうなるデスよ!!」
見てくださいデス! とデスメローアは涙目で自身の頭にできたタンコブタワーを指差す。痛そう。
「とにかく、あの二人がノビている内に……ワタシはレーヴァティンの封印解除を進めるのデス!!」