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45,メテオ悪魔的ワイルドハント。


 ――星戒樹ウグドラ地下、偽・母神胎宮最奥。


「神々が下界の命を弄んだ、代償――」


 ワシの脳裏に「禍々しい」と言う感想が浮かび、そして息がつまった。

 無数のコウモリ羽で飛翔する巨大なタスマニャンデビル――デスメローア・チクシュルウプの周囲に渦巻くドス黒いモヤ……苦しみもがく亡者の手のようにのたうつそれを見ているだけで、心臓を握り潰されるような感覚がする。


 デスメローアの言葉通りであれば……あれを形成しておるのは、神々の道楽――勇者と魔王の殺し合い、その過程で失われた者たちの怨念も含まれる。

 ……ワシの力が及ばず救えなかった・護り切れなかった者たちの無念も、あそこに在る。


 その禍々しさが、その強大さが。

 己の無力を叩き付けられておるようで――むきゅ。


「……何をするのじゃ、勇者」


 いきなりワシの頬を摘まむな。


「なんて顔してんのよ、あんたは。しっかりしなさい」

「…………すまぬ」


 そうじゃ。今は護り切れなかった存在ものを眺めて膝を折っておる場合ではない。

 後悔も感傷も、時と場所を選ばねば怠惰の言い訳になってしまう。


「ふしゃあああああああああああ!!」


 デスメローアが吠え、その長い長い尻尾で禍々しいパワーが滾る!


「デススス、良いパワーなのデス。名付けるなら【堕獄怨念(ダークエンドレス・)凝縮群体ワイルドハント】……長いので大胆に【ダーエワ】とでも略しますデス! このダーエワ・パワーで、ティアママの防御もあっさり貫通デスよ!!」

『ちょ、デスちゃん! いい加減にしないとママ本気で怒るわよ!?』

「ティアママたちはいつも怒ってばかりデスね」

『そりゃあデスちゃんがいつも怒られるような事ばかりしてるからね!?』

「身に覚えが無いのデス!!」


 子供のような言い分でティアママとの会話を打ち切り、デスメローアがその尻尾を振り落とした。

 狙いはまっすぐに眼下、ティアママの声を中継し、ティアママの意思で炎の防御術式を展開する大剣・レーヴァティンと、その柄を握りしめたままダウン中のラフムラハム。

 防御術式を貫き、レーヴァティンを回収せんとする一撃……ラフムラハムにはまったく配慮してなさそうじゃな!


「ありゃあヤバいわね。ちょっかいかけるわよ!」


 ティアママの防御術式ではダーエワ・パワーで強化された尻尾撃を防げない。

 そう判断した勇者が、白銀の大剣・勇者カリバーを振るった。

 ひと振りで勇者に取って都合の良い奇跡を巻き起こすインチキソード。振るわれた軌跡をなぞって白銀の粒子が尾を引く。

 するとラフムラハムの真下で偶然にも奇跡的にピンポイントの地震が発生。下から勢いよく突き上げるような衝撃がラフムラハムとその手に握られたレーヴァティンを吹っ飛ばし、転がす。間一髪、デスメローアの尻尾撃は空を切り、床を砕いて大きなクレーターを刻む!


「デス!?」


 デスメローアが驚きの声を上げる。

 攻撃を外した事への驚きもあるじゃろうが……そこから先の現象への困惑もあるじゃろう。


 吹っ飛ばされたラフムラハムとレーヴァティンが転がった先で更に同じようなピンポイント地震が発生、吹っ飛ばして転がす。転がった先で――と言う具合で奇跡のバーゲンセールを引き起こし……最終的に、ラフムラハムとレーヴァティンはワシらの元まで転がって来た。


「便利じゃな、勇者カリバー」

「まぁ、対象次第ではね。アタシの勇者パワーより上のパワーを持つ奴を対象にすると、途端に何も起きなくなるのよこれ。全盛期のあんたとか手も足も出なかったじゃない」

「ちなみに、デスメローアは……」

「できるなら狙ってる。あれ、全盛期のあんたとタメ張れるんじゃないの?」

「……なるほど、今のが勇者パワーの奇跡デスか。つまりアナタたちもワタシの邪魔をするんデスね?」


 デスメローアの視線が、ワシらに向いた。


「当然」


 問いかけに応えて前に出たのは、ファナン。同時に蒼麟の巨大ドラゴンフォームへと姿を変える。

 アンルヴ、エイリズ、ヨトゥンも続いて前へ。勇者は「やれるだけやってみますか」とつぶやきながら、クリアスは「私にもまだできる事があるならば……!」と水晶ドラゴンへと変身しながら前へ。


「ククミスルーズ! 力を貸してくれなのじゃ!」

「もちろんでございます! 変身チェンジ!!」


 ワシだけでは戦闘に参加どころか補助すらできぬ。

 ククミスコップの力を借りれば、野菜の蔦で多少の支援はできる!


 空中で変身したククミスコップの柄を掴み、構える!


 と、その時――ワシらの背後で、階段を塞いでおった瓦礫の壁が吹き飛んだ。


 粉塵を裂いて現れたのは……金髪ツインテとセーラー服が特徴的なワイルド女装男子半神・アキレイナと、銀色マッシュヘアが特徴的な幼馴染系半神・パーレス!


 ラフムラハムの弟たちを撃破してきたか!


「おうおうおうおう! あンまり遅いから迎えに――なァんか知らねェ面がぞろぞろ増えてンなァ!」

「って言うか、あのデッカい獣以外は神でも御使いでもなくない? 何がどうなってんのこれ……」

「ざっくり説明すると、増えておるのはワシの頼れる仲間たちじゃ! そしてあのデッカいのはデスメローア・チクシュルウプ、今回の騒動の黒幕じゃ! 現状、あやつにレーヴァティンを渡す訳にはいかぬ!!」


 ワシのざっくり説明に、アキレイナは「おう、要はあのデケェのと勝負か! オッケイ!!」と意気揚々、三又槍を構える。パーレスは「デスメローアって確か……ああもう。まぁ良いや。レイナがやる気なら付き合うさ」と弓を構え、光の矢をあてがった。


「むぅ、大集合デス。いっつもみんなしてワタシの邪魔をするデス! もう、ワタシはお外で遊びたいだけなんデスから、酷い事をしないで欲しいデス! みんなイジワルなのデス!!」

「酷い事をしようとしておるのは貴様じゃろうが!」


 さて、どう動くべきか……。

 デスメローアはまだ封印が有効、と言う事は「あやつが封印されておるこの地下空間からの脱出」が最も手っ取り早く穏便じゃが……それを許すほどマヌケとも思えぬな。


 しかし、勇者をして全盛期のワシと互角疑惑のある相手……四天王たちも軽口を叩く気配が無い辺り、正面衝突で捻じ伏せるのは得策でないか……!


『ごめんね、みんな……楽な事ではないのは分かっているけど、お願い! どうにか、デスちゃんのダーエワ・パワーを削って! あのパワーさえどうにかできれば、あとは私がママの意地にかけて言い聞かせてみせるから!!』

「ママの意地ときたか」


 これほどまでに頼り甲斐のある担保も中々無いな。

 倒し切らずとも、消耗さえさせれば勝機あり。


 であれば……!


「持久戦じゃ! 回避優先で攪乱して――」

「フィールド展開デス」


 ――は?


「一瞬で終わらせるデス……【メテオダンス・プラネット=ベリメリ】」



 ――デスメローアのフィールド展開は、宣言通り一瞬じゃった。



 ワシらがダーエワ・パワーの枯渇を狙ってくると言うのを読んで、消耗を抑えるべく展開時間を最低限に設定したのじゃろう。


 それで、充分過ぎた。


 一瞬だけワシらが呑み込まれた世界は、まるで幼子が床に寝そべってクレヨンで落書きしたような世界。明るい色が雑に、無秩序に塗りたくられたぐじゅぐじゅのカオス。天も地も無いおかしな空間。


 そんな世界の四方八方から、破壊的運動エネルギーを纏った巨大岩石が無数に降り注いだ。


 ……何も、できなかった。

 本当に、一瞬の出来事。皆が咄嗟に全力で防御術式を展開する中、ワシは、どうする事もできなかった。


「――」


 ただただ皆の術式が木端微塵に吹き飛ばされるのを見ながら、声を上げる間も無く破壊の衝撃に呑み込まれて――


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