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41,☆母神の声☆


 ……本当、もう何か渇いた笑いが零れるほどに一方的。

 電光石火の制圧劇じゃったな。さすがじゃとしか言えぬ。

 クリアスも、フクロウに戻ったククミスルーズも唖然としておるわ。


 やがて、勇者が気絶中のラフムラハムの後ろ首を引っ掴んで引きずりながらこちらへ戻って来た。その周囲に人型へ戻ったファナンを始め四天王たちも集う。


「どうよ? これで満足でしょ」

「うむ。恐れ入った、さすがの一言じゃよ……お疲れ様。本当に、ありがとうなのじゃ」


 ワシの言葉に満足したか、勇者は「にひひ」と少女時代から変わらぬ素敵な笑みを浮かべ、四天王らも「当然の働きをしたまでです」と素っ気なく口にしつつ、その表情は綻んでおった。


「ってか、落ち着いたんなら状況を説明して欲しいんだけど?」


 ぺいっとラフムラハムを放り投げ、しゃがみ込んだ勇者がワシの頬をむにっと掴む。やめれ。


「あんた、天界こっちには学園に通うために来たんでしょ? 何でこんな古代遺跡みたいな所で獰猛な神とバトルしてる訳?」

「話せば少々長くなるのじゃが……」

「短くまとめなさい」


 マジか貴様。


「あのね。大雑把で良いのよ。この後、他の神もシバきに行くべきか、それともあんたを連れて帰るだけで済ませて良いのかって判断をするための材料が欲しいだけだから」

「神をシバくって貴様なぁ……」

「ゆ、勇者とは好戦的な御方なのですね……」

「あ? 何よこの雑草色のフクロウ。首を五四〇度回転させるわよ?」

「フクロウでもモゲる角度!!」


 勇者ひぇえ、とククミスルーズがワシの陰に隠れた。


「余り脅してやるな。で、大雑把に……か」


 頬をむにり続ける勇者の手をぺちぺちしてやめさせつつ、要求に応えるべく今までの経緯を脳内で簡略化する。


「簡単に言ってしまえば、その通っておった学園での催しに『世界を滅ぼせるレベルの剣』が賞品として設定されており、そやつはそれを悪用しようとした神じゃ。その悪事を遂行するための人質として、ワシはこの場所へ連れて来られた……と言う感じじゃのう」

「……あんた、『世界を滅ぼしかねないレベルの悪事を企んで幼女を誘拐したド畜生』を助けたがってた訳?」

「ま、まぁ……そうなるのう」


 言い方よ。


 呆れたわ……と半目で見下ろしてくる勇者に、何の反論もできぬ。

 フレア直伝のてへぺろで誤魔化せるじゃろうか。


「ぐ、ぁ……」

「!」


 不意に、ラフムラハムが呻いた。意識が戻ったらしい。

 記憶が混濁しておるらしく、しばらく現状を把握できない様子で辺りをキョロキョロ。

 まぁ、ヨトゥンの豪打がモロに脳天直撃じゃったもんな。記憶も飛ぶじゃろう。


 そんなラフムラハムの前にファナンが立つ。


「くれぐれも妙な動きをするなよ。貴様の命があるのは我らが魔王様の慈悲だと理解しろ」


 口から蒼炎を零しながら、ファナンが低く唸るように言った。

 マジでヘタな動きはしてくれるなよラフムラハム……そやつは割と気軽に氷漬けにしてくるぞ。


 やがて、ラフムラハムはすべてを思い出したらしい。


「……そうか、おれは負――が!?」


 ラフムラハムがどこか安堵したように俯いた瞬間、その周囲で赤黒い光がバヂッと迸った。


「ラフムラハム!?」

「づ、ぁ、母さん……も、もう、おれは負――あ、あああああああああ!!」


 様子がおかしい、そう勘付いたのじゃろう。

 その場にいた全員が臨戦態勢、特に近くにいたファナンはその手に蒼炎を灯し、爪撃でラフムラハムの周囲に纏わりつく赤黒い光を斬り払おうとした。


一〇八魔識(イヴル・ゴエティア)瞬換変位識(ヴァティン・ガルプ)】」


 どこかで聞いたような少女の声が響き――ラフムラハムの姿が、消えた……!?

 いや、違う、移動した! 赤黒い光の柱の前……そこに突き立てられたレーヴァティンの元へ転送され……って、おい、待て……レーヴァティンの様子もおかしいぞ。


 最初に見た時より……レーヴァティンの刃が噴く炎の量が明らかに増えておる。

 まさか――ワシらがラフムラハムと揉めておる間に、封印の解除が進められておったのか!?


 じゃとしたら、まずい!?


「ぐ、ああああ、ああぁ、母さん……うぅ、ああああ、これで、あいつらと、戦えって言うのか……そんな、事、ああ、ああああああああああああああああああああ……!!」


 躊躇うラフムラハムを鞭打つように、赤黒い光の迸りが吠える。

 痛みに震える手つきで、ラフムラハムはレーヴァティンの柄を取った。


「ラフムラハム!」

「ああ、ぅあああああ……もう、呼ばないでくれ……そんな、心配するような声で……おれは、おれはそんな、優しくしてもらえる権利なんて……無いんだ……ごめん……ごめん、よ……」


 ボロボロと涙を流しながら、ラフムラハムがレーヴァティンを引き抜く。

 ただそれだけで放たれた熱波が、ファナンが創り出した氷の世界を一瞬にして溶かし尽くして母神胎宮を元の状態へと戻す。


「何ですか、あれはぁ……我らがファナンさんの氷を溶かすとかぁ、いくら天界の物品にしてもマッチ棒って事はありませんよねぇ?」

「冗談を言っている場合ではないでしょう米王。察するに、あれが魔王様の仰られていた『世界を滅ぼせるレベルの剣』ですわよ」


 アンルヴの推測通りじゃ。

 まずいな……あの様子じゃと、まだ完全解放と言う訳では無さそうじゃが……。

 それでも脅威的な武装である事には間違い無い。


「ぅぐ……ぅぅうう……ううううう……」

「火力に注意しつつ、再度制圧する!」

「合点承知だゴルァ!!」


 ファナンとヨトゥンが先陣を切り、勇者&四天王が再びラフムラハムとの戦闘を開始しようとした。


 ――その時。


『やめなさぁーーーーーーーーーーーい!!』


 びりびりと世界が振動しておると錯覚するほどに、とんでもない大声が響き渡った。

 剣を振り上げかけていたラフムラハムも、飛び掛かろうとしておった勇者と四天王たちもびくぅっと急停止する。


「のじゃ!? はぁ!?」


 何じゃ今の声!?

 まるで、聞かん坊のやんちゃ小僧を叱りつける母のような……!?


『まったくもう。やぁっと直接、声を出せるようになったわ。デスちゃんに封印を解かれかけてるのはヤバみの極みだけど、おかげさま! 不幸中の幸いとか怪我の巧妙ってやつだわね!!』


 声の出所は……まさか、レーヴァティン?

 いや、レーヴァティンから噴き上がる、炎?


 ――かの宝剣は『原初はじまりの頃、星を満たしていた火』を凝縮して鋳造された代物ですので。

 ――ティアーマットさまの声は『火と雷に変わった』と言われております。


 ……まさか、この声は。


『よぉく聞いて欲しいわね、我が子々孫々たち。私はティアーマット・イェーミル! 貴方たちの、圧倒的ママンなのだ~!! 愛を込めてティアママって呼んでね。きゃは☆』


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