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34,母子の絆、女装は男子の強化装甲!!


「GAAAAAAAAAAA!!」


 轟くは獅子獣の咆哮!!


「ウルァアアアアアアアアア!!」


 負けじと吠え猛る戦士の雄叫び!!


 ウスムガギルの爪撃とアキレイナの槍撃が衝突する度に火花と紫電を撒き散らす!

 もはや両者の攻撃速度は完全に音を置き去りにしている! 一撃目の衝突音が鳴る頃には互いに五撃目を放っているような回転速度!!


 常人どころか、もはや常神でも目で追えぬハイスピードな打ち合い……何も無い虚空で光が爆ぜ音が散っているような不可思議的光景に見えるだろう! だがこの二柱は不思議攻撃ではなく、純然たる物理攻撃の応酬をしているだけである!!

 

「「!」」


 僅かなズレ。

 アキレイナの槍の穂先と、ウスムガギルの爪先がジャリジャリジャリ!! と火花を散らしながら交差!! 遂に、互いの攻撃が互いに届く!!


 ウスムガギルは首を振り、最も堅牢な鬣の鎧で槍を受けた!!

 アキレイナは丸盾を振り上げ、やや斜めに構えた盾面でウスムガギルの爪を受けた!!


 ここで、互角の応酬をしていた二柱の間にあった【とある差】が浮き彫りになる。


 それは――【防御性能】!!


「GU、GAAAAAAAAAAAAA!!」

「なっ、おぉおぉおおおおおおおおおお!?」


 ウスムガギルの鬣は見事、その堅さとしなやかさを両立した防御力で槍の衝撃を殺し、受け切った!

 だがアキレイナの盾は砕けこそしなかったが、ウスムガギルのパワーを受け流し切れず……!

 ウスムガギルが腕を振り抜いた瞬間、アキレイナは錐もみ回転しながら後方へと吹き飛ばされてしまった!!


 アキレイナの身体がまるでゴム毬のように何度も弾み、壁に衝突――否。

 ギリギリ空中で身を翻したアキレイナが迫る壁面に蹴りを放って衝撃を拡散!

 壁面に巨大クレーターを刻みつけながら跳躍し、無事に着地した。


 体勢を立て直しながら槍をくるくると回す挙動に揺らぎは無い……だが、ダメージはそれなり!

 床をバウンドしていた最中に頭を打ちつけてしまったらしく、アキレイナの額から一筋の流血!


「っはぁ……吹っ飛ばされたのなんざ何時いつぶりだァ!?」


 アキレイナの超圧縮された筋肉ボディは、戦略級術式の直撃にすら耐え得る。

 それを吹っ飛ばした……ウスムガギルのパワー、強烈の極みッ!!


「やンなァ、ライオンの旦那ァ!!」

「貴様もな……だが故に惜しい」

「あン?」

「貴様が今、我が爪に押し負けたのは単に防具の差! そんな腑抜けた姿(・・・・・)でなく、きちんと戦士の装いであったならば……そう思わずにはいられない!!」

「…………はっ。何を言い出すかと思えば」


 額から伝ってきた流血をぺろっと舐め取りつつ、アキレイナは鼻で笑った。


女装こいつが腑抜けた姿だって言いてェのか?」

「当然だ。戦に臨むならば纏うべきは雄々しき鎧! 雄々しき、つまりおとこらしい厳つく無骨な装いだ!! 可憐や華麗を是とするおんなの装いなど場違――」

「旦那は知らねェみてェだな」

「なに?」

「スカートはァ、立派な勝負服ッ!!」


 アキレイナは仁王立ちで胸を張り、堂々と吠える。


「大体なァ、腕っぷしの強さに男らしさも女らしさも無ェんだよ! 確か旦那の母ちゃんだってアホほど強ェ部類の神だろォが!!」

「む……一理!!」


 ウスムガギルの母【創星母神グレイトママン】ティアーマット・イェーミル……ウスムガギルが物心ついた時にはもう星に姿を変えていたため、直にその強さを目にした事は無いが――「まさに母は強し」と古の書物には書かれている!!


「ウチの母ちゃんだってそうさ。股間や服の形で決まる事なんざ何も無ェ。俺の事を決めンのは、俺の意志だ!! だから俺流を教えてやるぜ!! 女装はァ、パワァァァだって事をよォッ!!」


 吠え猛り、アキレイナがズダンッと地面を蹴りつけた!!

 はしる! 加速する! 重い鎧を纏っていては決して実現できない速さ、更にその先へと、突っ走る!!


「なっ、トップスピードが上がっただと……!? くっ……」


 ネコ科の動体視力を持ってしても、反応はギリギリ!

 半ば勘頼りに体を動かし、ウスムガギルはどうにかその突進撃を爪撃で迎え撃った!

 爪撃と槍撃が衝突した刹那、アキレイナはその場でまったく踏ん張ろうとせず、即座に槍を振るってウスムガギルの爪を弾く。そしてそのまま、また疾り出した!!


「女装の身軽さを最大限に活かし、スピードで攪乱か……! だが待て、どう言う事だ!? 何故、何故にどんどん貴様のスピードが上がっている!?」


 アキレイナの性格上、今まで手を抜いていたとは思えない。

 だのに何故、ここに来て更にスピードが上がるのか!?


「言っただろ、女装はパワーだってなァ!! パワーが上がりゃあ、スピードも上がる道理だぜ!!」

「そのパワーアップが疑問なのだが!?」

「この女装は、うちの母ちゃんの趣味だ。俺をもっと可愛くしてェンだとさァ!!」

「…………! 成程、【救済の女神】か!!」


 ――アキレイナの母、女神・チーティスは【救済の女神】である。

 チーティスは多くの神々を救い、また多くの神々に救われてきた逸話がある。

 そうしてかの女神が得た権能は【相互向上性干渉】。

 互いに互いを思い合うほどにパワーが湧いてくるのだ。


 チーティスの寵愛の証である女装は、アキレイナへの想い。

 アキレイナがその女装に向ける愛着と誇りは、チーティスへの想い。


 要するに……マジで女装がバフとなり、アキレイナのパワーを増幅させている!!


「ぐっ……だが、まだだ! まだ反応できる! 勘頼りだが、まだ!!」


 最早、アキレイナの疾走槍撃はウスムガギルの眼でも追えない領域に達した。

 だが、まだだ。とにかく動くものに対して即座に反応して爪を動かせば、まだ凌げる!!


「その強烈なパワーバフ、母、つまり外部からの上乗せと言う事は長時間の全開使用は身体が持つまい!! 貴様の限界まで、我は凌ぎ切ってみせるぞ!! GAAAAAAA!!」


 ウスムガギルが吠え、向かってきた物体を爪で弾く。

 瞬間、そのネコさん瞳孔のお目目を大きく剥いた。


 今、ウスムガギルが爪で弾き飛ばしたのは――丸盾!!


 アキレイナは神速の突進攻撃を仕掛けると見せかけ、盾を投擲していたのだ!!


「スピードに気を取らせて、我の判断力を鈍らせたか!!」


 即座に理解しても、遅い!!

 ウスムガギルはアキレイナの全速突進に対抗するため、全力の全速で爪を振るった。その隙を、アキレイナは見逃さない! ここで見逃すようなら戦神など名乗れない!!


 そしてアキレイナは――伝説の戦神である!!


迅嵐弩槍(アネモスドリィ)戦神衝突(カタストロフ)!!」


 アキレイナ、渾身の突進から放たれる渾身の槍撃!!

 三又の穂先が、ウスムガギルの真下からその喉を突き上げる!!

 一見すれば、悪手! 何せ、ウスムガギルの喉周りは堅牢にもほどがある鬣が最も厚い!!

 槍が通る訳が無い――なら別に、通らなくても良いのさ!!

 そもそも、槍そのものが通らない方が好都合。アキレイナの目的はウスムガギルを戦闘不能にする事なのだから。命まで奪うなど冗談でもノーセンキュー!!


 だから、先ほどのクロスカウンターの時にアキレイナは見極めた。


 ――その鬣になら、俺の全力を叩き込んでも大丈夫そうだなァ!! と。


「GU、A、AAAAaa……」


 穂先こそ鬣に阻まれたが、その衝撃だけは完全に、ウスムガギルの喉から脳天までを撃ち貫いた。

 神速疾走からの神速打突による衝撃が脳まで抜けた――当然、ダメージは甚大っ!!


 ウスムガギルが白眼を剥き、泡を噴きながら膝から崩れ落ちる。

 倒れ込んで来た巨体を、アキレイナはそっと受け止めた。


「ひとまず、俺の勝ちだ」


 糸が切れたように気絶しているウスムガギルをゆっくりと床に寝かせ、先ほど投擲した盾を拾い上げる。そして健闘を称えるように、ニッと微笑んだ。


「事が解決したら、また勝負しようぜ。次も俺が勝つけどな!」


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